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第十九話

「なあ、こっちは女三人だからってのは分かるが、あっちはヒイロ一人で大丈夫なのか? この辺はどんなやつが潜んでてもおかしくねえ場所なのによ」

「もし何かあったとしても私がいる以上、お母様達にはケガ一つ負わせない自信がございますが、ヒイロ様達は……」

 チームで分かれた直後、ヒイロ達が異世界から来たと言う事情を知らないユイ達が、そう疑問を呈した。

「心配せずとも良い。やつらは戦いにおいて余の知る限りでは、誰かに遅れを取ったことはないぞよ」

「へえ、もしかしてあいつ、元軍人さんだったりすんのか?」

 おおむねそのようなものだが、少し違うなとユイに応えつつ、

「隠し通すのも面倒じゃし、我らの正体について話しておこうかのう。お主ら、もしこことは違う世界が存在すると聞いたら、信じるかえ?」

 ミリシアは簡単に自分たちの素性について二人へ説明した。自分たちがダイタニアという世界から来た事、ヒイロやシァンとはかつて敵対関係であった事などについてだ。

「と、ここまで説明したが、すぐに信じられんじゃろう。じっくりと自分の中で情報整理をして──」

「すっげー! 異世界から来たとか、超かっこいいじゃねえか! ミミもそう思うだろ!」

「正直、まだ半信半疑ですが、もし事実であるとすれば、ミリシア様の人間離れした美しさも納得が出来ます」

「もっともっと異世界の事を聞かせてくれよ! ヒイロやシァンが居たっていう勇者パーティーには他にどんな奴らがいるんだ?」

「想像以上にノリノリじゃのうお主ら」

 と言っても、今後行動を共にするにあたり、ダイタニア関連の知識は得ておいて損はないだろうと言う事で、ミリシアは語り出した。

「うむ。余とヒイロは過去に何度も刃を交えた事があるが、ここではあやつが最後に連れていた勇者パーティーについて説明しようかのう」 

 魔王時代のミリシアは、敵戦力分析のため勇者とその仲間達の情報を逐一集めていたので、旅に同行していなくとも話せる部分が多いのである。

「一人目はやはり勇者ヒイロ・ヨリシロンかのう。余の人類征服計画を何度も邪魔をしてきた男よ。人類の希望、などと大袈裟な異名も持っていたが、余からすればただの剣術馬鹿。魔法の才能はからきしだが、鍛えに鍛えた剣術一つで余の部下どもを倒し、勇者の称号を得よったのよ」

「なるほど、普段からヒイロ様はストイックな雰囲気を放っておりましたが、そういう事情があったのですね」

「陰気なやつって言っても良いんだぞミミ」

「いえ! そのような事、決して思っておりません!」

 思ってそうだのう、と察しつつミリシアは話を続ける。

「お次はさっき元気に走っていったシァン・リッケンバックじゃな。なんでもダイタニア最強の騎士団と言われた『聖炎騎士団』初の女性騎士団長に抜擢されたらしくての。槍術、馬術、水泳術、の他に解除魔法を極めるなど武芸百般を極めた天才と称されていたそうな。攻撃魔法は得意ではないらしかったが、様々な戦闘に使えるスキルを持っておった。とはいえ何度かヒイロと手合わせをしたものの、結局一度も勝ち越す事は出来なかったそうじゃ。だが、もしこの世にヒイロが生まれていなければ、あやつが勇者として余の元を訪れてたと言われる程の実力者よ。無論、誰が相手であろうが余は負けないがのう」

「へえ、つまりそっちの世界にいる最強の二人がいるって事か。まさにドリームチームだなおい」

「それほどの者を集めねばならぬほど余は恐れられていたと言うことぞ、コココ」

 ユイのセリフにミリシアは自慢げに笑った。

「次じゃ。メンバー内ではトップの魔法の使い手、キース・ブリューケル。この男は元々捨て子だったそうじゃが、大魔法使いミンデルに育てられた事で魔法の才能を開花させたらしいの。ミンデルと共に人里から離れた場所に住んでおったが、天命を受けたとやらでパーティーに加わったらしい」

「ミステリアスな雰囲気がありそうなやつだな!」

「ふん、十二歳という歳の割には達観しているところもあったが、所詮は十代のガキよ」

「色んな方がパーティーにいらっしゃったのですね」

「最後は暗殺者の一族にルーツを持つ女、ヒオ・バイバーイじゃな。魔法もスキルもそつなくこなすが、暗殺者とは名ばかりの狂戦士の如きやつじゃった。他のパーティーメンバーは人間はもちろん、たとえモンスター相手でもなるべく命を奪わぬようにしておったが、こやつはそれと真逆。敵対する者はたとえ家族であろうとも皆殺しにしなければ気が済まぬという性格じゃったな」

「おっかないやつだな。ほんとに世界を救おうって言う勇者の仲間なのかソイツ? もしかしたらそいつもTokyorkに来ちまってる可能性があるんだろ?」

 そう身構えるでない、と若干引き気味のユイにミリシアは応える。

「あの女はヒイロを心酔しとったからな。やつがいる限り、ヒオが大暴れをすると言ったことはあるまい。それに我らは偶然こちらの世にやってきたが、到着した時間軸や場所もバラバラじゃからのう。あやつだけはるか未来に飛ばされている可能性もある訳よ。……他に質問はあるか?」

 ミリシアの問いに対し、ミミが挙手した。

「お話にあがっていたスキルと魔法の違いってどのようなものなのでしょうか?」

「魔法はその名の通り、体内の魔力を使う技術じゃな。炎を出したり、余の『ヒール』のような傷を癒すと言った現象のことを指しておる。対してスキルは魔力を使わずとも行使可能な技術よ。代表的な例を挙げると剣術や鍵開けといったものはスキルに該当するのう」

「へえ、それですと武芸百般を極められたシァン様とヒオ様、どちらの方がお強いのでしょうか?」

「それはシァンに軍配が上がるじゃろうな。ヒオは確かに剣術を含むあらゆる武芸をそつなくこなすが、練度が足りんよ」

 気を抜いた様子のミリシアがコココ、と喉を鳴らした直後、足元からハイテンションな女の声が響いた。

「シァンに軍配があがるぅ? ケラケラケラ。それは酷い勘違いよねぇ!」

「痛っ!?」

 突然の事態に声を上げるよりも先、ミリシアの足に針を刺すような痛みが走る。

 地面に視線をやると、硬いはずのコンクリートから生えた手に、ミリシアの足が掴まれているのが見えた。彼女を襲った痛みの正体はその手指から伸びた爪によるものだ。

「これがワタシの一族に伝わるスキルを魔法を組み合わせた技『物質潜行』よ! あのシァンだって使えないとっておきなんだから! で? 聞き覚えのある声がしたと思って見に来たら、どうしてあなたが勇者様と一緒にいるのよぉ!?」

「ちぃ!」

 女の声に応えず、ミリシアは自身の足を掴む手を踏みつけてやろうとしたが、直前で腕が引っ込んでしまう。

「コココ、まさかお主までこちらに来ておったとはな、ヒオ・バイバーイ!」

「穢らわしい口でワタシの名前を呼ばないで? ワタシの名を呼んで良いのは勇者様とその仲間のみ。あなたは違うわ!」

「おい、姿は見えねえが今喋ってるのが例のヒオとか言う暗殺者なのか!?」

 ユイの問いかけに、地中に潜む女が返した。

「ケラケラケラ! その通り! そーそー、いきなりおっ始めちゃいましたが、あなた方はさっさと逃げちゃって構わないわよぉ。用があるのはワタシの知らぬ間に勇者様の隣に居座った、このメス犬だけだからね〜ケラケラケラ!」

「ミリシア様、お怪我の具合は!?」

「かすり傷じゃ。だがやつの爪には魔力を一時的に封じる毒が塗られていたようじゃ、これでは念話も使えぬ。……しかし、この毒はダイタニアでしか自生出来ぬ植物からのみ取れるもののはず」

「こちとら魔王討伐の真っ最中に飛ばされたもんだから、仕事道具は肌身離さず持ち歩いてたに決まってるじゃなーい! お陰でこっちの世界に色んなモノを持ち込めたのよ〜! 例えばぁこういうのとか!」

 ヒオの声に紛れ風切り音がしたかと思えば、

「ぐっ!?」

 ミリシアの背中にボウガンの矢が突き刺さっていた。

「そんな、ミリシア様!」

「さっきのとは違い、今度の毒は苦しいわよ! ちょっと身体に入っただけで、平衡感覚を狂わせる毒なんだから! ほ〜ら、もう立っていられないでしょ〜?」

 どこからか聞こえてくるヒオの声はまるでこの状況を楽しんでいるようだった。事実、ここまで一方的に相手を圧倒しているのだ。彼女にとって現状は戦いですらないのだろう。

「ケラケラケラ! 早速だけど止めを刺してあげちゃおうかしらぁ!」

 いざトドメ、と言わんばかりのヒオに対し、ミリシアを庇うように立つのはミミであった。

「事情は分かりませんが、暴力はおやめなさい!」

「んむ〜? あんた、逃がしてあげるって言ったのに、まだいたの? まさかあんたらも勇者様に好意を!? ぜ、ぜぜぜ絶対に許さない、殺してやる!」

 ヒオの標的がミリシアから自分に切り替わったことを悟ったミミは、背後に控えている自分の母に尋ねた。

「お母様! 私にミリシア様をお守りする命令を下してください!」

「もちろんだ。ミミ、しっかり守ってやりな」

「あ〜嫌よ嫌よ嫌よ! どいつもこいつもワタシの恋路を邪魔しにきて〜!」

「お母様! ここは危険ですからミリシア様と一緒に遠くへ離れていて下さい!」

 そうミミが言い終わった直後、彼女の元へボウガンの矢が飛来するも、それを難なくかわしてみせた。

「この程度なら簡単に避けれますよ!」

「ちょっとなにこの子〜! まるで背中にも目があるみたいじゃない、かくなる上は……!」

 ヒオの悔しがる声がしたかと思うと、ミリシアの時同様、ミミの足が土中から何者かに掴まれた。

「さ〜て掴んだわよ〜! あんたがアタシを怒らせたんだから! 今度のは刺された部分が痒くて痒くて仕方なくなる毒よ〜! 自分の足を掻きむしって惨たらしく死ぬと良いわ!」

 不意打ちによる勝利を確信したヒオが、そのままミミの足首へと容赦なく爪を突き立てるも、

「あれ? もしかしてあなた……何ともないの? あれ?」

 全く無反応なミミの姿に困惑し、何度も爪で刺す。

「異世界からやってたあなたに理解出来るとは思いませんが、私はお母様によって全身を改造されたサイボーグなのです。毒には耐性がありますし、感覚の遮断も出来ます。そして──捕まえました」

 ミミはそんなヒオの手を掴み、

「『電気ショック』」

 以前、シァンに浴びせたものとは比べ物にならない威力の電撃を彼女に喰らわせるのであった。

「あびばばばばばばばばばば!」

「後遺症は残るかもしれませんが、お命までは奪わぬよう手加減はしました。さあ、正体を見せるのです」

「よくやったミミ。先に襲ってきたのはソイツだからな、黒コゲになってたとしてもお前が罪悪感を感じる必要はねえぞ」

 それもそうですが、と言いながらミミがぐったりとして動かないヒオの手首を引っ張る。あっさりと引き抜けた腕に違和感を覚え、よく見てみるとその腕には肘から先が存在していなかったのである。

「そんな!? 私は腕を切断してしまうほど強い電流を流したつもりは──」

「なっ、テメェ何モンだ!?」

 突然の出来事にショックを隠せなかったミミだったが、ユイの声に驚き振り向く。するとそこにはヒオに拘束されたミリシアの姿があった。


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