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第十七話

「なんだか……良い場面でござるなあ勇者殿!」

「ああ。本当にそうだな」

 微笑む二人に対して、ミリシアだけが不満げであった。

「面白くないのう。これではまたタダ働きでないか」

「おっと悪いな。こんなトコロ見せつけちまって。でも、アンタらには感謝してるぜ。誘拐なんつーやり方が強引なのは気に食わねえけどよ」

「ふん。感謝するのであれば、出すべきものを出して欲しいがのう」

「ははは、今更身代金を要求するつもりか? 面白え冗談だ」

 ミリシアからしたら冗談でもなんでもないのだが、軽く流されてしまう。

「しかし、こんな馬鹿げた事をアンタらはいつもしてるのか? アタシ以外の一級市民はプライドだとか体面を気にするかはな、冗談で済ませてくれないって事の方が多いだろ?」

「はい! 博愛銀行の支店長殿はおおいに怒っておりました!」

「あそこにもちょっかいを出したのかよ? もしかして、手数料が引き下げられたって件はアンタらが関わってんのか?」

「そうです! ここにいる勇者殿が市民の怒りの代弁者として立ち上がったのです!」

『余計な事を言うでない! こやつも博愛銀行の男と同じ一級市民なのじゃぞ!』

 うっかり口を滑らしたシァンに対し、ミリシアからの念話が飛ぶ。だが、時すでに遅く、

「ほほぅつまりアンタら……」

 ユイの目に鋭い光が宿った。

「いけすかない一級市民を懲らしめる、いわば義賊ってやつだな!」

「ギゾク……?」

 頭の中で疑問符が浮かんだ様子のヒイロの肩を叩き、ユイが解説をする。

「悪い奴を懲らしめたり、弱者を助ける存在ってことだよ! カッケェじゃねえかよ! 惚れるぜ!」

「勘違いしないでくれ、俺たちは……」

とんでもない誤解だ、とヒイロは彼女の勘違いを訂正しようとしたが、

「よくぞ分かったのう。我らはこの腐った超大国ヒノクニを立て直す一心で活動しておるのじゃ!」

「妖狐、お前なにを!」

 そんな嘘八百を口にするミリシアに抗議をしようとするも、彼女からの念話が届く。

『今は勘違いさせておけ。誤解が解け警察にでも駆け込まれたら、困るのはこちらじゃぞ』

「確かにそうですね!」

『返事をするのにわざわざ声を出すでない! 不審に思われるぞ!』

 言われてみれば、結果だけみると自分達はユイとミミの仲を取り持ったと捉えられている以上、ここでわざわざ自分にとって不利な証言をする必要もないだろう。

 それにミリシアの告げた超大国ヒノクニを立て直す、という表現はヒイロの行動原理をうまく言い表しているように感じたのだ。

「やっぱりそうなのかよアンタら! くぅ〜三級市民にもなかなか骨のある奴らがいるんだな!」

「うむ。……と言う事で、そろそろ我らもお暇しようぞ。この国を建て直すための計画を練らねばならぬからな」

 適当に話を切り上げ、この場を去ろうとしたミリシアをユイが呼び止める。

「待て。そんなアンタらを見込んでだな、見つけ出して欲しい奴がいるんだよ」

「断るぞよ。我らは忙しいのでな、皆のもの帰ろうぞ」

「仕方ねえな。それならアタシは今日の件と、博愛銀行の件を警察に通報しちまっても構わないんだぜ?」

「……別に話を聞かぬと言ったわけではないわ。ただ今日のところは忙しいと言うだけでのう。それに頼み事をしたいのであれば、それなりの対価が必要という事は理解しておるか?」

 脅しに近いユイの発言を受け、流石のミリシアも態度を軟化させざるをえない。そんな状況でもちゃっかり代金をせしめようとするのか、彼女らしいと言えようか。

「金なら払うぜ。それこそアイツを殺してくれるんだったら、アタシはいくらでも出すつもりだ」

 ユイの口から出た物騒な言葉に、思わずヒイロが問い返す。

「殺すとは、あなたらしからぬ言葉だな。その人物は一体どのような人間なのでしょうか?」

「アンタらの知っての通りアタシの娘、ココアは数年前にこの世を去った。アタシみたいな女手一人で育てたってのに、本当に気が効く優しい子だったんだ……」

 そう告げるユイは、楽しかった記憶を噛み締めるように微笑んでいた。

「だが、そんな娘は呆気なく死んだ。アタシと二人で道を歩いてたところに、暴走する車が突っ込んできて……アタシは背中に傷を負うくらいで済んだが、娘は、車体と、壁の間に挟まれて……!」

 穏やかだった彼女の目から、涙が流れる。微笑んでいた口元も硬く食いしばるように閉じられていた。

「警察の取り調べによると、車の運転手は直前に違法薬物を摂取していたらしい。その薬物は数年前から今も一級市民の間で流行っているようでな、話を聞くとソイツらはみんな、同じ人間からその薬を買い取ったと証言してるんだ」

 話し続けるユイの身体は震えていた。もちろんこれは、寒さのせいなんかではない。

「今でもあの時の光景を夢に見るんだ。娘の悲鳴が頭の中からこびり付いて消えないんだよ。テレカメラで薬物使用者が逮捕されたニュースを見るたびに、こうしている間も娘を殺した薬物を売り捌いているやつがいるって現実に吐き気を催すんだ」

「理解した。ようするにユイさんの依頼は自分達に薬物を販売するやつを見つけ出し、もう二度と薬物を売れぬようにして欲しいという事でしょうか?」

「ああ。薬を買った奴も許せねえが、それを売っている奴はもっと許せねえ。二度とこの国で娘のような被害者を生まないためなら、アタシは何でも協力するぜ」

 ヒイロの問いに豪快に笑うユイだが、その目には強い意志が宿っている。シァンは彼女の依頼にノリノリな様子だ。残る問題はミリシアの返事次第といったところだったが、

「良かろう。その依頼、受けてやろうぞ」

 拍子抜けなまでに、彼女はユイの頼み事を請け負うのであった。


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