第十四話
居酒屋の席にてミリシアの提案を聞いたヒイロは呆れながらも尋ねた。
「つまり、今度は俺に身代金目的の誘拐をしろと、お前は言うのだな?」
ダイタニアにおいても貴族の子供をターゲットにした誘拐事件は多発していたので、不勉強なヒイロであっても、ミリシアの言わんとしている事は理解できた。
「一級市民だからといって、その金を奪って良い理由にはならぬだろう」
「さすがは勇者殿、誇り高き考えをお持ちで!」
ぱちぱちぱち、と隣の席に座って拍手をするのはシァンだ。
「相変わらずよのう。だがな、その金が真っ当な方法で得られたものでないとすればどうする?」
「なに?」
「勇者よ。お主はこの世界で起きた先の大戦についてはどのくらい理解しておる?
「五十年ほど前に大きな戦争があった事は知っているが、それが誘拐をする理由にどう繋がる?」
「まあ聞け。その戦争で超大国ヒノクニはアメリカ大陸を手中に収めた。勝因はいくつかあったが、人工知能を搭載した無人兵器達の投入が決め手だったと伝えられておる」
歴史には疎いものの、無人兵器たちの活躍についてはヒイロも思い当たる節がある。超大国ヒノクニは他国と比べてドローンなどの無人機の発達が早いと言われており、実際それが国民の仕事の大半を奪ってしまった原因の一つとされているからだ。
「特に人工筋肉を用いた二足歩行兵器は絶大な戦果を上げ、開発元のアクタ電気は元々小さな家電製造メーカーでしかなかったが、戦争による特需により大きくシェアを伸ばしたのだ」
「アクタ電気! 聞いたことあるであります! 拙者が博愛銀行で首に付けられていた爆弾にそんな文字が書いてありました!」
「今回、我らが身代金目的の誘拐を働くのはそこの会長、芥ユイじゃ。戦争という人の生き血を吸って稼いだ金じゃ。奪い取るにも良心は痛むまい」
「むむむ、確かに! 勇者殿、話を聞く限りその者は相当な悪党でございまするな! この計画、いかが──」
「いいや、俺はやめておく」
シァンによる援軍も甲斐なく、ミリシアの提案は却下された。
「確かにお前のいう通り、アクタ電気の製品によって大量の人命が失われたのは事実だろう。しかし、戦争さえ無ければアクタ電気が兵器を作る事がなかったのもまた事実なはずだ。兵器製造が罪だと言うのであれば、魔王であるお前を倒すために魔物の命を奪った俺もまた悪という事になる」
「ったく、お主は本当に堅苦しいやつよのう。嘘でも良いから、正義のためと言っていればいいものを」
「ですがそう言ったところが勇者殿の美徳かと思います! ダイタニアでも剣や杖で人を傷つけられることはありますが、責任は作り手にあらず! 武器をどう使うかは使い手次第!」
「そういうことだ。分かったなら話は終わりだ。お引き取りを願おうか、妖狐よ」
「ほう。ならばこれを聞いても気持ちは変わらぬか?」
愉悦そうにミリシアが取り出すのは彼女の魔法、『読める図書館』だ。
「アクタ電気は今も超大国ヒノクニでの兵器製造に携わっておる。だが奴らはそれに加え、影で三級市民を対象にして人体実験を行っておるという噂があってのう」
「本当なのか……?」
超大国ヒノクニにおいても、人体を使用した実験は硬く禁じられており、たとえ対象が三級市民であろうが法のもとに罰せられる。
「少なくともそのような噂が流れているのと、既に何人もの人間がアクタ電気内で身体の一部を機械に変えられておる。と言ってもこの『読める図書館』があってこそ得られる情報であるゆえ、アクタ電気にとって秘中の秘であるはずだがの」
「そこまでの悪事ならば、誘拐などしている場合ではなく、警察へ通報すべきではないか?」
もっともなヒイロの意見に、ミリシアは首を振る。
「魔法を知らぬ者に対し、どのように説明すると言うのじゃ? それにさっきも言ったが、アクタ電気は現在も国の兵器製造に携わり、超大国ヒノクニに大きく貢献しておる。まともに取り合ってくれるかどうか」
「最悪、事件そのものが揉み消される可能性があるということか」
だからといって自分達が芥ユイの子供を誘拐して構わない道理は無いと思うヒイロだったが、
(自分の大切なものを奪われる痛みを知る、というのも重要かもな)
金銭の目的ではなく、ユイの改心を促すと言う意味合いなら、自分が加担する理由にもなると考えるのであった。
(それに、俺の目の届かぬところで妖狐が暗躍するような状況は避けたいしな)
「分かった。後ろ髪は引かれるが、やってみるとしよう。ただし条件は二つ、一つは作戦の内容は全て俺が決めること。二つ目はターゲットである芥ユイのお子さんには傷一つつけないということ」
「余は金さえ手に入れば構わぬ、好きにせよ」
「拙者も! 勇者殿のお仕事を手伝わせてください!」
ミリシア、シァンの二名の許可を得られたので、具体的な作戦については、ヒイロの部屋で話し合うこととなった。




