第十三話
「途中、認識阻害魔法が解けた時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな」
数日後、ヒイロらは作戦の成功を記念して、居酒屋へ来ていた。
「ちっとも良くないわ。時間がかかった割に金も得られなかったのでな。それに……」
タダ働きとなった事で不機嫌な様子のミリシアは、正面に座るヒイロの隣の席へ目を向ける。
「何故、シァンまでもがおるのだ。余と勇者との作戦とは無関係だろうに」
「朝起きたら勇者殿が出かけようとしていたので、着いてきたのであります!」
「なに? お主らは今同棲しておるのか?」
ミリシアの視線を正面から受け止め、ヒイロは応える。
「住む家がないというのだからしかたないだろう」
「押し入れの中を使わせてもらっております! この超大国ヒノクニについても教えてもらえていますので一石二鳥でありますね!」
「おぉう。まぁ双方が納得しているならば良い。だが金もないお主が人を養える余裕があるのかえ?」
「次のバイトは探している。それに俺とシァンで二馬力、つまり家賃も食費も半分で済むという事でむしろお得といえよう」
「だがそう易々と仕事が見つかるとは限るまい。そこで、よ」
現金の札束を二つおき、ミリシアは告げる。
「ヒイロよ。この金でまた余の仕事を受けてみたいとは思わぬか? これは前金、上手くいけばこれの何倍もの稼ぎを……」
ミリシアのセリフをヒイロが手で制する。
「先日の銀行強盗については俺が手伝いをする意味があったが、ただの犯罪行為に手を貸す理由はない」
「その通り! 勇者殿は誇り高き人であります! ご自分の利益のためだけに他人の金を盗むなんて真似、いたしません!」
「やかましい。お主らはどの道、次も余のために働くことは決まっておるのだ」
そう断言したミリシアは三日月のような笑みを作る。
「勇者、そして騎士シァンよ。今度は身代金目的の誘拐をするぞ」
◯
ヒイロ達がそんな話をしている一方、博愛銀行の支店長、財前は人生最悪な時を迎えようとしていた。
彼が居るのはTokyork内にいくつかある自宅の一つだ。高級マンションのワンフロアを丸ごと借りている財前は真っ昼間にも関わらず、ソファーに座りテレカメラに流れる番組を見ながら酒を煽っていた。
『労働は国民の義務! 税金は必ず納める! リトルシスターとの約束だお!』
番組途中に流れたリトルシスターからのメッセージを眺める彼の足元に転がっているのは、どれも酒瓶も希少なものばかりで、眼下の街に住む下級市民では一生かかってもお目にかかれない代物だろう。
だが、そんな何不自由無いはずの彼の生活が、あの出来事を境に覆されようとしていた。
「あの鼻くそ共め! あいつらさえ来なければ、これからも私の磐石の地位は変わらなかったというのに!」
ヒイロ達によって強引に手数料が引き下げられたことで、もともと右肩下がりだった博愛銀行の経済状況が更に加速。また市民の口座から横領した金を補填する必要があるため、財前グループの経済状況は火の車になりつつあった。
「何が魔法だあいつらめ……あの時はああ言ったが、誰が警察に自首などしてやるか! そうだ、逆にこちらが警察に通報してやればいいんだ! そうだそうだ! あんな危険な奴らがこの国にいて良いはずがない! ふふふ、私だってこのまま終わる訳はない。今回は苦汁を飲まされたが、この逆境から何としてでも復活してみせるさ。何せ私は神だからな」
その前にアルコールで鈍った頭を冷やそうと、財前はソファーから立ちあがろうとするも、それは叶わなかった。
「がはっ……!」
酒の影響ではない。座っている彼の胸に銃弾で撃たれたような穴が出来ていたのだ。
(なんだ……これは!)
そう言葉にしようとするも財前の口端からは血が溢れてくるばかり。どこの誰が見ても明らかな致命傷であった。
視線をあたりに向けると、見知らぬ人物が部屋に立っていた。無論、財前が招いた客ではない。もしそうなら、この惨劇を前にして悲鳴の一つもあげずにいられないだろう。
しかし、侵入者の場合は場合は何重にも張り巡らされた警報装置が作動するはずなのだが、その兆候もみられない。
(そんな事はありえない! ここはマンションの三十階! 入り口は一つだけなのに……)
手足が冷たくなっていく中、財前が最後に思ったのは、この襲撃者の正体が誰かということだ。
ソファーから崩れ落ち、床に倒れ伏す。傷跡を見るに、やはり自分は拳銃か何かで撃たれたのだと確信する。
こんな真似が出来るのは、あのヒイロとかいうやつらを除けば一人しかいない。
「……まさかあなたは、『リトルシスター』様?」
それな彼の遺言となった。財前の予想の一つは当たっていた、想像通り襲撃者は拳銃を所持しており、その銃弾が眉間を貫くことで彼の命を奪うこととなったのである。
襲撃者が立ち去る直前、つけっぱなしであったテレカメラでは超大国ヒノクニの偉大なる指導者からのメッセージが流れていた。
映像に映る超大統領は十代の女の子のような姿をしているが、彼女を肉眼で見た事がある人間はこの世にいないとされている。超大国ヒノクニを治める彼女は日々多忙ながらも、市民から妹のように愛される存在として、君臨し続けるのだ。
『可愛らしい妹があなたを見ています!(Little sister is watching you!)』
そんなキャッチコピーがいつまでもテレカメラに映し出されていた。




