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第十二話

 時は現在に戻り、ここで双方がどのようなバトルスタイルであるかを語っておかなければならないだろう。

 今のシァンは手にしている武器こそ槍であるが、本来は騎士としてあらゆる武芸を収めた少女だ。もちろん、槍の技術もダイタニアでも五指に入るとされているほど優れているほどだ。彼女は無尽蔵に近いスタミナを惜しげなく使い、矢継ぎ早に攻め立てる攻撃スタイルを好むとされている。

 対するヒイロは聖剣グラムを使った剣術を得意とする男であるため、今のような素手での戦闘はあまり得意としていない。これといった魔法も使えない男なので、普段の戦闘スタイルからかなり離れた戦いになる事が予想できた。

 バトルスタイルは分かったから、二人の間にはどれほどの実力差があるか? そんな事はハナから明示されているといっても過言ではないだろう。

 そもそも勇者とはどのような存在を指すのか。

 剣を握り魔法を行使する者。なるほど正しい解釈であろう。

 しかし、武器を持った戦闘であれば先述の通り、騎士であるシァンも得意とする分野だ。では両者を分つものは一体何か?

「ば、馬鹿な……私の雇った者達が!」

 それは圧倒的な武力だ。元来勇者とは人類では到底打倒し得ない魔王を討つために立ち上がった存在だ。

 つまりいくたびも魔王、ミリシアを打ち倒したヒイロは文字通り人智を遥かに超えた力を持っていると言っても過言ではないのだ。

 武器があろうがなかろうが、世界を救うと誓った者の背に敗北の二文字が刻まれる事は決してないのである。

「勇者殿ー! やっぱりあなた様は初めてお会いした頃と変わらない。優しくて格好良い勇者殿のままだったのですね!」

 地面に叩きつけられた上、敗北者という立場であるはずのシァンは悔しがるはずなのだが、なぜだか彼女は嬉しそうな表情を浮かべていた。

「シァン。そういうお前は初めて出会った頃からは見違えるように変わったな。自信なさげなあの騎士見習いの女子が、こんなにも頼れる騎士になるとは俺も思っていなかったぞ」

 ヒイロもまた昔を思い返し穏やかな笑みを浮かべ、彼女の健闘を讃えた。

「えへへ、お褒めいただきありがとうございます! 拙者がここまで成長できたのも全部勇者殿のお陰で御座る!」

「いいや。お前の成長を見させてもらった分、感謝したいのはこちらの方なのだが、この話はまた今度するとしよう。……さて」

「ひぃ!」

 シァンを始めとした博愛銀行のガードマンを残らず倒してみせたヒイロは、息一つ切らす事なく支店長へ向き直る。

「こうなってしまうのが分かっていたから、あえて誰も傷つけぬ形で強盗を行うとしていたが、予定が崩れてしまった。まだ戦闘を継続するおつもりですが、支店長? 自分でよければいくらでもお相手いたしますが」

「ば、化け物か……!」

 唖然としている男の前で、「思い付いた」と言いたげにヒイロは呟く。

「そうか。最初からこうしておけば良かったのだな。──支店長、提案がある」

「なんだ!?」

「これ以上の戦闘行為は無駄と見える。戦いをやめる条件として、お前が決定した博愛銀行の手数料を以前のものに戻すというのはどうか?」

 ヒイロの提案を支店長は激しく拒否をする。

「そんなこと、出来るはずないだろう! お前のような考えの回らない無学な奴には及びつかないような計算の上で私は手数料の増額を……」

「なぜ出来ないんだ? やはり市民の金を不正に横領しているいう噂が事実という事だろうか」

「う、うるさい! そうだ、こちらも思い付いたぞゴミカスめ、動くんじゃない!」

 支店長は懐からボタンのようなものを取り出した。

「こいつはその女の首に付けられた爆弾の起爆装置だ! 見たところお前たちは顔馴染みのようだしな、少しでも動いたら──」

「やめておいた方がいい」

 そんな脅し文句にも、ヒイロは動じない。

「お前がボタンを押すのを止めることなど、俺にはここから一歩も動けずとも可能だ。それに」

「それに? ……なんだっていうんだこのスカタン! って、あちい!」

 突如としてボタンが火を吹いた事で、支店長はそれを取り落としてしまった。

「コココ、それにその男は一人ではない。余という協力者がおるからのう」

 背後から現れたミリシアに支店長は驚きの声を上げる。

「なんなんだお前ら、今のも魔法なのか!? なんなんだよさっきから!」

「語る義理はないわい。さあて、命が欲しくば我らの要望に応じるが良い」

「実はもう博愛銀行に金がないんだ。だから下級市民共が金を下ろしにうちへ来ても……」

「『財前利夫、三八歳独身』」

 ミリシアの言葉に男は、はっと顔を上げる。

「なぜ私の名前を知っている!?」

「ココ。全てこの書物に書いておるものよ。ふむ、流石は一級市民と言ったところよのう。会社をいくつも経営しておるやり手ではないか。金が無いと言っておるがこれだけの稼ぎがあるのであれば、博愛銀行の赤字を補填出来るのではないかのう?」

「そんな事をしたら私の資産のほぼ全てがなくなってしまうではないか! ただでさえ博愛銀行は一級市民の利用が減っていてギリギリの経営だったのに、このままだと私は二級市民に降格してしまう! 今住んでいるマンションからも出ていかないといけなくなるんだぞ!」

「ならば選べ、銀行の金を横領した罪で刑務所へ入るか。このまま罪を重ね続け市民からの制裁に怯えた毎日を送るか。どちらをとるのもお主の自由ぞ」

 サディスト的な笑みを浮かべるミリシアを見て、財前は観念したように呟く。

「分かった。金は……金はなんとかする。だから命だけは勘弁してくれ……警察にも自首をする」

 こうして博愛銀行の手数料は以前と同じ二百円へと戻り、市民らは自分の貯金を自由に下ろせるようになるのであった。


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