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第十一話

 女騎士シァンは、数あるヒイロのパーティーメンバーの中で、最も古くから彼と交友があった人物といえよう。

 魔王ミリシアが復活を果たすたびに、ダイタニアの民は勇者ヒイロの活躍を切望した。しかし、彼の傍を固めるパーティーメンバーは常に変動をしていたのである。つまり、それだけの人間が勇者の隣に立つ事を望み、そしてその夢が破られてきたと言う事だ。メンバーの選出は王族の手によるスカウトや剣術大会の結果などを踏まえた総合的な判断で決定をされる。ゆえに勇者パーティーに入るためには腕っぷしの強さを大会などで示す必要があったのだが、

「な、なぜで御座る! 拙者は本当に騎士学校に通う者で御座る! 今日の剣術大会にだって出場する権利があるはず!」

 のちにダイタニアのトップの騎士団である『聖炎騎士団』の団長にまで上り詰めるシァンだが、そこまでの道のりでは辛酸を舐める事が多かったと言う。彼女の小柄な体格を理由に大会出場を断られる事も少なく無かった。

「騎士って言われても、しょせんはお飾りの仕事だろう? しかも君みたいな可愛い子が大会に出てケガでもされると、怒られるのは主催者である俺たちなんだからさ。悪いけど今日のところは帰ってくれるか」

「そんな、拙者と同い年の子だって参加しているではありませんか! どうかお考え直し下さい!」

「同い年たって、あの子は男だしなあ。ま、せいぜいケガしない程度に騎士団ごっこを頑張りな」

「嫌で御座る! 拙者も勇者殿のようにかっこいい騎士になりたいんで御座る!」

 結局剣術大会への出場も果たせ無かったシァンは失意の中、街を歩いていると、

「わ! もしかしなくても本物の勇者殿で御座いますか!?」

 偶然初めての魔王ミリシア打倒を終え、街を訪れていたヒイロと出会った。

「いかにもそうだが、あなた?」

「拙者は騎士学校に通う騎士見習い、シァンで御座る! 本日は勇者殿にお会いできて光栄で御座いまする!」

「騎士学校……俺もかつて通っていたな。戦う相手がいなくなってしまったので、すぐに退学してしまったが」

「はい! 頭脳明晰、向かう所敵なしな活躍だった事は聞き及んでいるで御座る!」

「おかしい……勉強はまるでダメだった記憶があるが。誰かが都合よく事実を歪めているな」

 ぶつぶつとなにやら独り言を言い出したヒイロを前にし、シァンはある質問を投げかけることにした。

「あのあの、勇者殿! お聞きしたい事があるで御座る!」

「勉強の事以外なら聞こう。あと一般教養とかも無理だ」

「拙者には勇者殿のように優れた見た目や才能を持っておりませぬ。そんな自分でも騎士になる事は出来るで御座ろうか?」

「優れた見た目や才能……?」

 シァンは、なぜ自分の発言をヒイロが気まずそうに繰り返すのかが分からなかったがとりあえず黙って置くことにした。

「見た目は分からんが俺には才能なんてなかったな」

「嘘で御座る! 勇者殿は生まれてすぐに二本足で立ち、湖を割ったなどの武勇伝を数多くお聞きします!」

「なんだその嘘まみれの情報は……まあ良い。俺から言えるのは人間、才能とまではいかぬものの得意な事の一つや二つあるものだ。あとはその得意を他人にどう見せるかが重要なのだ。あなた、居眠りをした経験は?」

「授業中によくして、先生からよく怒られるで御座る!」

「もしかすると、それすらもあなたの才能の一つかも知れません。あとはそれをどう見せるかが肝要です。学校一大きいイビキをかくだとか、寝息で十メートル先についた火を消せるだとか」

「分かるようでよく分からんで御座る!」

「……そうか、俺には誰かにものを教える才能はないようだ」

 例えば、とシァンは具体的な案をもって尋ねた。

「拙者は騎士になりたいです。しかし、女は弱いからと剣術大会に出場すら出来ないで御座る。拙者はどうすれば良いで御座るか?」

「その程度なら簡単だ。口で言って分からぬのなら、自分が強いと言う証拠を示すまで」

 ヒイロの言葉に思わずシァンは前のめりになる。

「ですからそれが難しいと……!」

「そうだろうか? 仮にここで自分を倒せたとすれば、あなたの名声はすぐに広まるはず。もしくは街の外に出て強力な魔物を狩れば良い」

「魔物なんて……そんなのに負けたら自分は死んでしまうで御座る!」

「ならばあなたはずっと弱者のレッテルを貼られ続けるだろう。それに刃を潰した剣を使うとは言えど、剣術大会でも命を落とす可能性がある」

 自分の想定外の回答にシァンは言葉を失う。ヒイロはそんな彼女の気持ちを汲み取ったかのように微笑み、

「努力はかならず叶う。なんて事は言えないが、己の才能を信じて努力する事は非常に重要だ。自分の隠れた才能がいつ発芽するかなど、誰にも予測できないのだからな。己の限界を決めるのは、いつも自分自身なのだ」

 そう告げるのであった。

「さっきも言ったが、戦いの場は何も剣術大会のみではないはず。弱い魔物から慣らしていけば、いずれ人々の噂になるほどの大物を狩れる日が来るやも知れないだろう。それでは、良い一日を」

「あ、ありがとうございます! 拙者もいつか勇者殿と同じパーティーになれるよう、頑張るで御座る!」

 シァンは去り際に声をかけたものの、正直ヒイロからはこの時、軽くあしらわれるか『楽しみにしているよ』と夢にも思っていないセリフが返ってくると踏んでいたのだが、

「その日が来ない事を俺は祈っている」

「え?」

「魔王との戦いは時に熾烈を極める。本当ならば仲間など連れず、俺一人で魔王を倒す事が出来るのが最善なのだ。だからこそ、俺はいつも心から祈っているんだ。

自分の弱さのせいで他の仲間が傷ついたりしないように、とな」

 そう言って今度こそ勇者ヒイロは立ち去っていった。

「『その日が来ない事を祈ってる』で御座るか……自分よりも先に他者の安全を気にするとは、なんと誠実なお方で御座ろう! うむ、やはり自分はもっともっと強くなってあの方に背中を預けてもらうような騎士になるで御座るよー!」

 そんな彼女は宣言通り、後の勇者パーティーの一員となるのだから、事実シァンにも眠れる才能というものが存在していたというのは間違いがないであろう。


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