幕間 オワリの四騎士①
幕間 オワリの四騎士①
その日は、どことなく天気が悪かった。
潮風が吹き荒れるタイシーランド。
喧騒と怒号、酒臭さに満ちた港町を、三人の騎士が歩いていた。
「だからよォ……!なんで、テメェらまで付いて来るんだよ!!」
先頭を歩く男――リンドウが、苛立ったように振り返る。
長い黒髪を無造作に結び、片手をポケットへ突っ込んだまま歩く姿は、騎士というよりも喧嘩屋。
「え〜?だってリンドウ、絶対揉め事起こすじゃん〜」
間延びした声で答えたのはダリア。
癖のある赤髪で、眠たげな垂れ目をした巨人族の女騎士。
のんびりとした足取りのまま欠伸を噛み殺す。
「放っとけば牢屋か、良くて指名手配だな」
低い声で続けたのは、整えた短い青髪で眼鏡をかけた騎士ブランカ。
長い双剣を背負ったまま、淡々と歩いている。
「誰がそんなことになるか!!」
「なる」「なるね〜ww」
「テメェらなァ!!」
港へ怒鳴り声が響く。
「そもそも、船を見つける等と簡単に言っていたが。アテはあるのか?」
「あー?そんなもん、騎士様がお願いするんだ。誰だって貸してくれんだろ」
「そう簡単に行くかなぁ〜」
「ま、オレ様に任せとけよ。次期団長だぞオレァ」
「でたでた〜」
「戯言だ。言わせておけ」
「お前らまじでブッコロスぞ」
だが現実は、リンドウが吠えるほど甘くはなかった。
「駄目だな」
「貸せるわけねーだろ」
「オワリの騎士?帰れ帰れ」
船を借りようにも、そもそも話すら聞いてもらえない。
勇者によるオワリ壊滅は既に各地へ広まっていた。
「クソが……」
リンドウは苛立ったまま壁を蹴り飛ばした。
「まぁまぁ〜」
「落ち着け。壁を蹴っても船は出んぞ」
「んなこと分かってんだよ!!」
「借りるどころか金払って乗せるって話すら出ねえ。どうなってんだ……」
「ま、聖王国絡みを恐れ、誰も関わりたがらないのだろうな」
「ここは連合国だぞ!?」
そのときだった。
「――あれぇ?」
聞き覚えのある女の声。
三人が振り返る。
港の通路。
鋭く金色に光る眼。ニヤニヤと覗く八重歯が妙に鬱陶しい。
キンシャチだった。
「なにしてんだこんなところで」
「キンシャチ……!」
「あんだけ大口叩いといて、プラプラと……」
「チッ」
「それに『背中を任せて斬られるわけには〜』とか言っときながら、保護者まで引き連れちゃって」
「あー、もうキレた。お前まじでいい加減にしろや」
「は?やんの?リンドウ"お坊ちゃん"っ」
リンドウの拳が赤く光る。
「お前はマジで殺す」
「ちょっとリンドウ〜」
「ハァ。やはりこうなるか」
「良いのかなぁー、団長の指示を無視して喧嘩なんかしちゃって」
キンシャチはニヤリと笑う。
「テメェが売った喧嘩だろーがっ――」
「キンシャチ。アテが見つかったのか?」
ブランカに聞かれたキンシャチは黒髪を揺らし、ニヤリと笑う。
「まさか真面目に探してたの?」
「当たり前だろうが」
「船を借りるなんて、そんな簡単に行くわけないし。かったるいじゃん」
キンシャチは担ぐ長槍に手をかける。
「奪っちまえば良いのさ」
「「「は?」」」
ダリアとブランカは唖然として、言葉に詰まる。
(あ〜あ)
(いつかはやると思っていたが……堕ちたなキンシャチ)
「お前……罪を犯すのか」
リンドウの頬が引き攣る。
固まる三人を見てキンシャチはケラケラ笑う。
「違う違う!逆だよ逆。」
槍を肩へ担ぎ直しながら、満面の笑みで言い放った。
「船持ってる奴をぶっ飛ばして、正当に奪っちまおうZE★」
沈黙。
リンドウは深い溜息を吐く。
「お前は脳筋ゴリラだけど、強盗だけはしないと思ってたのに……」
「今のうちに縄で縛って連合国軍にでも引き渡した方が良いな」
「だから違うって。海賊だよ海賊!」
「海賊ゥ……?」
「この街の人も困ってるって聞いたしさ。騎士として見過ごせないでしょ。悪人だし」
「ついでに戦利品として船貰おう」
「理屈が雑すぎる……」
ブランカが頭を押さえる。
だがキンシャチは気にした様子もない。
「ま、来なよ」
ニヤリ。
「もう目星はつけてる。せっかくなら、強い奴とやりたいだろ?」
◆
数時間後。
タイシーランド沖――海賊島。
黒い岩山に囲まれた入江には、無数の海賊船が停泊していた。 砲台。見張り櫓。武装した海賊達。
そこは完全な賊の根城。
「……で?」
リンドウが額へ青筋を浮かべる。
「どうするつもりなんだ?」
「パッと見でも百人以上いるね〜。中には魔人っぽいのもいるし〜」
「お前らが正面で敵の気を引いてるうちに、俺とダリアで船を一隻奪うというのはどうだ」
「それじゃ盗みと変わんねえ気が……」
「ん〜?何言ってんの?」
キンシャチは岩陰から海賊達を覗き込みながら笑った。
「私ら騎士だよ?アイツら悪人だよ?正々堂々、正面から壊滅させようよ」
「馬鹿言ってんら帰るぞテメェ!!」
その瞬間。
『侵入者だーー!!』
リンドウの声に気づいた海賊たちが、騒ぎ始めた。
「あらら〜。リンドウのせいで見つかったね〜」
「やれやれ。本当に手のかかる奴だな」
「キンシャチのせいだろ!」
バキィンッ!!!
言い合う間に、キンシャチが長槍を放り投げ見張り台ごと海賊を吹き飛ばした。
「これが一番早いって」
そう言ってキンシャチは駆け出した。
敵地中央へと、一直線に。
『敵襲ゥゥゥ!!!』
怒号。
砲声。
銃火。
海賊達が一斉に武器を抜く。
「楽しくなってきたね〜」
「ったく、しょうがねえなあ!!」
キンシャチに負けまいと駆け出すリンドウを抑え、ブランカが呟く。
「いや……ここはキンシャチに任せて、俺たちは直接頭を叩くのはどうだろう」
「はぁ?そんなのつまんねぇ――」
「雑魚を狩るより、頭を獲った方が……上ではないか?」
リンドウは一瞬考えた後、ニヤリと笑った。
◆
『侵入者だァァァ!!』
怒号が、海賊島へ響き渡る。
いくつもある見張り櫓の鐘がガンガンと鳴り響く。
砲台へ火が灯り、武装した海賊たちが一斉に武器を抜いた。
「来た来たァ!!」
投擲した槍を拾い上げ、中心へ。
キンシャチが、真っ先に飛び込んでいく。
すぐさま長槍が唸った。
ブォンッ!!
『ぎゃあああああッ!!』
横薙ぎ一閃。
海賊の男が三人まとめて吹き飛ぶ。
「遅いなァ!!」
ドゴォッ!!
槍を軸に身体ごと回転し、魔導砲台そのものを蹴り砕いた。
爆ぜた木片が宙へ舞う。
「えっぐ〜」
「相変わらずの脳ゴリだな……」
「まぁ、キンシャチが注目を集めているうちに我々もさっさと行こう。頭をやれば終わりだ」
前線はキンシャチに任せ、裏へと駆けていく三人。
その姿を横目で確認してから、キンシャチは更に叫ぶ。
「オラァ!!たった一人相手にビビってんのか!まとめてかかってこんかーーい!!」
『こ、殺せェ!!』
銃火。
魔法。
怒号。
あらゆる攻撃と視線が一人に集まるが、キンシャチは止まらない。
むしろ笑っていた。
「ハーハハハ!!良いねぇ!!」
槍が突き出されるたび、海賊が吹き飛ぶ。
目を見張る怪力。速度。膂力。
何よりも――
「二等級水魔法 マリンライン!」
「三等級火魔法 ブレイブフレア!」
火と水。異なる二つの魔法を、左右の手で同時に操り、敵を蹂躙する。
周囲を水圧で流し込む。
正面から火炎で押し焼く。
「まだまだぁ!」
キンシャチは笑いながら槍を握り直した。
次の瞬間、莫大な魔力が奔りだす。
ザァァァ――ッ
足元の海水が、意思を持つように渦を巻いた。
激流は空中へ巻き上がり、巨大な蛇のようにうねりながら幾重もの“水路”を形成していく。
『うおっ!?』
『な、なんだこりゃ!?』
海賊たちが目を見開く。
その中心でキンシャチは獰猛に笑った。
「行くよォ!!」
次の瞬間。
ドンッ
爆発的な水圧が、キンシャチの身体を射出。
ザバァァァッ
水の上を“泳ぐ”。
否。
弾丸のような速度で、水路そのものを滑走していた。
「あっはははは!!」
濁流。 白波。 飛び散る水飛沫。
そして――槍。
火属性魔法によって灼熱化した槍身は、赤を通り越し、ついには真白に発光していた。
ジュゥゥゥ……
超高熱によって海水が蒸発し、周囲へ白い蒸気が噴き上がる。
『み、見えねェ!?』
海賊の背後。真横。頭上。
水路を駆けるたび、キンシャチの姿が飛沫の向こうへ掻き消える。
「遅い遅いッ!!」
ブォンッ
熱槍一閃。
『ぎゃああああ!?』
灼熱の矛先が鎧ごと海賊を焼き裂き、そのまま吹き飛ばした。
槍を振り抜きながら、キンシャチはさらに別の水路へ跳ぶ。
ザァァァッ
激流そのものが海賊たちを呑み込み、一箇所へ押し流していく。
『うわァ!?』
『た、助け――』
足を取られた雑兵たちは、為す術もなく密集した。
次の瞬間。
キンシャチが水路の頂点へ跳び上がり、空中で槍を構えた。
轟ッ――
真白に灼けた一槍が、天上から一直線に突き降ろされた。
「まとめて消し飛びなァ!!」
ドゴォォォォンッ
灼熱と激流が激突し、超高圧の水蒸気爆発が巻き起こる。
『ぎゃああああああ!?』
海賊たちがまとめて吹き飛んだ。
あまりの衝撃に岩壁が砕け、海面が爆ぜ、入江そのものが揺れる。
キンシャチは、その中心へ槍を担いだまま着地した。
「やっぱり、正面からぶっ潰した方が早いな!」
『に、逃げろ!化物だぁぁあ!!!』
海賊たちは散り散りに逃げ惑う。 とうに戦意など失われていた。




