第32話 種火②
第32話
ブーグーファミリーのギルド襲撃から数日後。
ギルドは、多くの職人たちで溢れ、ガヤガヤと騒がしかった。
白と黒の大理石は一つずつ丁寧に剥がされていき、廊下に敷かれた絨毯は丸められ外へ運ばれる。
受付嬢たちはおぼつかない手つきで書類を整理していく。
掲示板に貼られていた依頼は一度全て剥がされていた。
多くの人が、忙しなく話し合いながら動き周る。
そして最上階。
豪奢な絨毯も、壁に飾られた高級絵画も無く、荷運びをする男たちの汗の匂いに包まれている。
ギルド職員たちが、その様子を眺めながら話す。
「なんだか寂しくなっちまうな」
「どうも、今回の件で被害を被った者たちへ賠償をしてくれるらしい」
「そのために、売れるもんは売っちまうんだとよ」
窓を開け、扉を開け放ち。
心地よい風が館内を通り抜ける。
◆
ギルドマスターの部屋
「えぇ!!?」
コデマリオのよく通る声が響いた。
「エキナちゃん……ギルドマスター辞めるの!?」
ギルドマスター、エキナはいつもの悪戯な笑みを浮かべながら答える。
「はい。今回の件、やっぱり私にも責任がありますから」
「ブーグーファミリーと、カッコウを追い出すためとはいえ、魔人排斥運動を進めて、罪の無い魔人たちにも大変な被害を与えてしまいました」
小さく目を伏せる。だが、すぐに笑顔を向けてきた。
「これからはただの宿屋の看板娘です!」
「自分で言うかね……」
エキナの横に座るハートが口を開く。
「まあ〜、ギルドマスターどころかギルド自体を分解させるとは……大胆な判断だな」
「はい。これがギルドマスターである私の、最後の仕事です!」
エキナは指を三本立てる
「商業ギルド、生産ギルド。そして冒険者ギルド」
「それぞれを独立したウラム管轄ギルドとして設置し直します」
「そうなると……どう変わるんだ?」
コデマリオは頭にハテナを浮かべながら聞く。
「ようは……権力の分散だな」
「はい。高すぎる地位、強すぎる権力は、今回のように欲を暴走させてしまいます」
「カッコウも、ブルーンも。……そして、私自身も。権力に呑まれ、溺れてしまいました」
「ふむ……」
「ドンカラスは理事解任。カッコウも、ブーグーファミリーと共にサーキス国防軍へ引き渡された」
グラジオラスは静かに話す。
「空いた席も多い」
「そうなんです。だから、ハートさんには商業ギルド長、そしてチグリジアさんにはウグイス団と兼任で冒険者ギルド長をお願いしました」
「チグリジアさん……?」
「チグリくんのお父さんだよ」
「あぁ!あの人か」
「あとはヒグラシさんに生産ギルド長をお願いしたかったのですが……断られてしまって」
ハートはからかうように軽口をたたく。
「いそがしいのはむり〜ってな」
「はい。次の候補が決まるまでは、生産ギルド長は空位です」
「大変そうだな〜」
呟くコデマリオを、エキナは真っ直ぐと見つめ、小さく笑う。
「他人事ではありませんよ?コデマリオさん」
「へ?」
「コデマリオさんには、ウラムギルド監査役に就いてもらうことが決まってます」
「は?かんさ?」
「はい!外部からのご意見番として、ギルド運営に携わってもらいます」
「ま、待て待て!勝手に決められても、俺は……」
「儂が許可した」
グラジオラスが静かに告げる。
「え!?」
「お主にはここに残ってもらい、ウラムと儂らとの橋渡しにもなってもらいたい」
「姫様も、お主に任せると言っておる」
「そんな……って、団長!姫って言ったら……!!」
焦るコデマリオを見て、エキナは微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
「へ?」
「もう、全て伺いました」
「あぁ。お前らはオワリを取り戻すために動いてるんだってな」
ハートも笑う。
「今回、私たちはアナタ方に救われました。今度は私たちが、全面的に協力する番でしょう」
「エキナさん、ハートさん」
「それに……約束、でもありますから」
エキナは小声で呟く。
「え?」
「いえ!こっちの話です!」
「なんだよ!もう内緒話は懲り懲りだって〜!」
「お前が理解せんだけじゃろ!」
嘆くコデマリオに、グラジオラスが喝を入れる。
部屋は笑い声で包まれた。
(ここまで含めて……掌の上なのかのう)
窓から差し込む光。その足元へ伸びる影を見つめながら、グラジオラスは静かに目を細めた。
★
「のう……退屈ではないのか?」
「これもまた、鍛錬だ」
ただ無心で水に浮かぶトバリとスグリを、ほとりで見つめるヨル。
「あっ……」
一つずつ積み上げていた石が、小さく崩れる。
「はぁ〜、明日にはもうこの街を出るのじゃろ?最後に街を歩くとか……」
「必要なことは全て済んでいる」
「そういうことではなくてのう……。スグリからも何か言うてやってくれ」
「あ……はい。トバリ様この足をボゴボゴボポポ……」
「す、スグリーー!?」
話しながら沈んでいくスグリ。
「しかし……なんかよくわからんがコデマリオがこの街に残るそうじゃな」
「あぁ。アイツも裏で、頑張っていたからな」
「うむ。ただの色狂いじゃと言うてしまって、悪いことをしたのう」
「いや、それも間違ってはないから良いさ」
「まぁ、この街もなかなか気に入ったのじゃ!」
「将来オワリを取り戻した後、この街もヨルのものになるだろう」
「そうなのか?それはよいな!」
「あぁ」
街の喧騒は遠く、そよ風が木々を揺らす。
オワリを取り戻すまで。ヨルの旅はまだまだ続く。
「ゴポゴポポ………」
『オワリのトバリ』を読んでくださり、本当にありがとうございます
ヨルやトバリたちの旅を、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです
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