表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/56

第31話 城壁のグラジオラス

第31話


勇者がオボロを連れ去ったあと、鍛錬場は静まり返っていた。

最初に口を開いたのは、ギルドマスター。

「投降してください。そうすれば、命までは奪いません」

「あなた方に加担していたカッコウも、既に取り押さえています」


ブーグーファミリーの面々は困惑し、どうすれば良いのか分からず固まっていた。

「な……なんなんだ?カッコウさんまで……?どうなって――」

「勇者が、ギルドに付いたってのか?」

「逃げたほうが……!」


「うるせええ!!!」

ブルーンが、雄叫びに近い叫びをあげた。


「……っ」

後ろで狼狽える部下を横目で睨む。

「勇者の狙いはオボロだけだったんだ。なら俺達がやることは変わらねえ!!」

「で、でも……」

ブルーンは指を交差させる。そのとき、鍛錬場の入口がバラバラに切り裂かれ崩落した。

「カッコウが捕まってるなら、尚更だ」


もう一度、指を振りギルドマスターへ向ける。

「ここからは逃げることは許さねえ……ギルドマスターを殺れ。そうすりゃ、俺等が正義だ」


「……う」

「ウオオオおお!!!!」


静寂は入口の壁と共に切り裂かれ、魔人たちは雄叫びをあげた。


「止まる気は無さそうですね」

呟くギルドマスターに、グラジオラスが問いかける。

「もう、奴らは止まれませんよ。今一度、覚悟をお聞かせ願えますかな?」


「えぇ、勿論です。奴らを……ウラムに巣食う害虫たちを、根絶やしにすることが、亡くなった父の願いでした」

そう言って、ギルドマスターは――エキナは自らの仮面を取り、左手を挙げた。


「ギルドマスターとして通達します。ブーグーファミリーを、殲滅させるのです!」


白髭が、微かに持ち上がる。

「承った」


グラジオラスは魔人たちの正面へと、躍り出た。

「"城壁"のグラジオラス。出陣いたす!!」


そう言ってグラジオラスは大盾を静かに持ち上げる。

ただそれだけの動作のはずなのに、鍛錬場の空気そのものが沈んだ。


「四等級火魔法ァ!!」

「雷槍!!」

「殺せぇええ!!」

無数の魔法が放たれる。

火球。雷。そして振り注ぐ風刃。

それら全てが、真正面からグラジオラスへ殺到した。


――だが。グラジオラスは一歩も退かない。


ドゴォンッ!!

轟音。


巨大な盾へ直撃した魔法が弾け、爆炎と雷光が周囲を飲み込む。

しかし次の瞬間、爆煙の中から重い足音が響いた。

ズシン。 ズシン。

「な、なんで……」

「効いてねぇ……!?」

煙を突き破り、グラジオラスが現れる。

鎧は薄く煤け、盾には無数の細傷。 だが、その歩みは微塵も止まっていなかった。


「……軽い。軽いのう」

次の瞬間。

グラジオラスが盾を横薙ぎに振るった。

「フンッ!」

ゴッッ――!!

空気が爆ぜる。

先頭にいた魔人たちの身体がまとめて吹き飛び、壁へ叩きつけられる。骨の砕ける音と血飛沫。

そして、悲鳴。

「ぐぎゃぁああ!!」

「オェェェ……!!」


「こんの……バケモンがァ!!」

一人の魔人が背後へ回り込み、掌を突き出し火球が三連で放たれる。

だが。

グラジオラスは振り返りもしない。

ガギィン!!

全ての火球が、分厚い肩当てに弾かれる。

「な――!?ただの鎧で、防げるはずが……」

「ぬっ!」

そのままグラジオラスは後方へ盾を突き出した。

鈍い衝突音。

尖った盾先が魔人の胴を貫き、そのまま壁へ縫い止める。

「ごっ……ぁ……」

「戦場で背を取った程度で、勝った気になるな小僧」

盾を引き抜くと、血が勢いよく噴き出す。

「う、うわぁあああ!!」

魔人たちの足が止まる。

誰も前へ出られない。

それでも、グラジオラスは止まらなかった。


ドォン!!

床が砕ける。

巨体とは思えぬ速度で踏み込み、そのまま盾を前面へ構え突進。

「どけぇええええいッ!!!」

まるで城門そのものが突っ込んでくるようだった。

正面にいた魔人たちがまとめて宙を舞う。 壁。 柱。 床。

あらゆる場所へ叩きつけられ、鍛錬場は絶叫に染まった。


「やべぇ……やべえよあのジジイ!」

「もう、やってらんねえよ!!」


一人、窓を突き破り鍛錬場から逃げ出す。

それを見た他の魔人たちも、次々に逃げ出していく。


「オイてめぇら!!逃げるな!!撃ち続けろ!!!オイ!!逃げたら殺すぞォオ!!」

ブルーンが激昂するも、声は届かない。


グラジオラスが一瞬だけギルドマスターの方へ振り返る。

「外には……?」

「はい。既に、()()()()です」

「良かろう」


視線を戻す。

向けられるのは、もちろんブルーン。

「さて、残すはお主だけじゃ」

「グギギ……グッ」


「一応、もう一度だけ聞いておこうかのう。投降するのなら、命は奪わん」

髭を撫で、悪戯に笑う。

「手足切断ってところで、どうじゃっ?」


ブルーンは大粒の汗を袖で拭い、睨みつけた。

「ククク……クク、舐めるな、舐めるなよ。俺はあの魔皇国天蓋衆で百人将にまで登り詰めた男だぞ」

「ほう?天蓋衆とは。また物騒な名じゃのう」

「舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるなヨォオオオ!!!!」


ブルーンは右手を伸ばし、掌から生み出された風の刃が球状に収縮していく。

「固有風魔法 風刃無爪フウジンムソウ!!」

グラジオラスは半身になり、大盾を下から跳ね上げるように振るう。


ガァンッ!!


圧縮された空気の塊が盾へ激突した瞬間。 軌道を逸らされ、そのまま天井へと弾き飛ばされた。

遅れて、鍛錬場の天井へ無数の斬撃痕が走る。


「なんで、なんで盾如きで防げるんだ?オカシイだろ……その盾、魔道具か!?」


「フッ。お主ら魔人とくれば、何かあれば魔法だの魔力だの……ヌルいのう」

「なんだと……ッ」

「人間族にも、お主らに対抗出来る力はあるのじゃ」

そう言って、グラジオラスは大盾をゆっくりと持ち上げる。

「知ってはおるじゃろう。あまり向こうの言い方で呼びたくないが――聖王国では()()と呼ばれる力」

持ち上げられた大盾が薄い黄金色に輝き始めた。


「せ、聖技だと……!?」


「百人将ほどの武人ならば、敬意を払ってやらねばな」

「クソ……クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!!……ニ等級風魔法ォォオ」

魔力がブルーンの手首を搔き切りながら集まっていく。あふれる血が混ざる、真っ赤な五つの風刃が指先を通り抜ける。

「クウフウリンンンン!!!!」

「儂の全力で迎えてやろう」

挿絵(By みてみん)


起盾流きじんりゅう奥義 護鏡レ國(オオクニノマモリテ)!!」

グラジオラスは輝く盾で身を覆い、猪の如き突進を繰り出す。

風刃は盾へ触れた瞬間、弾け飛ぶように軌道を反転させた。


「なっ……反、射――」

次の瞬間。

跳ね返った五つの風刃が、ブルーン自身の身体を切り裂いた。

血飛沫。

胸。 肩。 腹。 太腿。

自ら放った斬撃によって肉が裂ける。

「がっ――」

体勢が崩れる。


そこへ。


「終いじゃ」

黄金に輝く大盾が、真正面から激突した。


ドゴォォォンッ!!!


骨が砕ける音。

ブルーンの巨体が、砲弾のように鍛錬場の壁へ叩き込まれた。


グラジオラスは無言で大盾を眺める。

「ふむ……儂の大盾に傷を付けるとは」

「百人将の名に偽り無し……じゃな」



「おとなしくしろ!!」

「一人も逃がすな!!」


ギルド本部の門前では、既に構えていたウグイス団が、逃げ出した魔人たちを取り押さえていた。

その様子を、ギルドの屋上から見下ろす二つの影。


白いマントを羽織った勇者と、黒い外套と仮面で身を包むオボロ。

ウグイス団の活躍を見ながら、最初に勇者が口を開く。

「傷は無いか?」

オボロの胸に突き刺さる剣は、黒い靄となって消えていく。

「は、はい……あの、私はうまく……やれてたでしょうか」

オボロが腰を低くして問う。

「あぁ。素晴らしい潜入、そして擬態だったな。スグリ」

名前を呼ばれた瞬間、スグリは慌てたように仮面を外す。

顔を真っ赤にし、俯く。

「そんな……恐縮です。()()()()

呼ばれて勇者はゆっくりと額へ手を添える。


――ズルリ。

金の髪が、まるで溶け落ちるように黒へ染まった。

整った顔立ちも微かに歪み、 黄金の瞳が静かな灰色へ沈んでいく。


そこには聖王国の勇者ではなく、 黒衣を纏う一人の忍が立っていた。

「事実だ」

トバリは静かに口を開いた。

「スグリが潜入し、奴らの情報を掴むと共にギルド襲撃まで扇動したからこそ……」

トバリは微かに、だが確かに笑う。

「ギルドマスターにも大きな恩を売れたからな」


笑うトバリの横顔を見て、スグリの心は妖しく躍る。

スグリは無意識に、跪いていた。

「私はトバリ様に……ついていきます」

「ん?あぁ……共にヨル姫を、天下へと導くぞ」


スグリ自身、この感情に名前を付けられない。


命を救われ、両親の仇を討った英雄への恩義か。

全てを掌の上で転がす、圧倒的な強者への畏怖か。

……スグリにも流れる、魔人の血によるものなのか。


(生涯を……トバリ様へ……)


スグリは目を逸らせない。

黒衣を翻す、その背を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ