第30話 襲撃
第30話
その日は、当たり前にやってきた。
商業ギルドの正門前には多くの魔人が詰めかけ、警備として門の向かいに並ぶ冒険者を睨み、大声で叫んでいた。
「魔人排斥を進めるギルドへ鉄槌を!!」
「ふざけるなー!!!」
「差別だ!!ギルドは自らの利益の為に、魔人を排除しようとしている!」
街行く人達は畏れを感じながらも、どこか物珍しそうに遠巻きに眺めていた。
魔人の中から、一人の男が歩き出す。
「ギルドマスター!!いるんだろ!?」
ブルーンだ。鉄門に手をかけ、柵の隙間から大声を張り上げる。
「こっちにゃあ証人もいるんだ!お前らがあらぬ噂で俺達魔人を排除しようと手を回していたのは分かってる!!」
柵から手を離し、両手を挙げた。
「こっちは丸腰だぁ。"平和的に"話をしようじゃあねえか!」
(ククク。ここらでドンカラスが手配した冒険者が出てくるはずだ……)
ブルーンが隣に立つ部下に目配せをすると、部下は震えながら叫び声をあげた。
「う、うおお!!やれるもんなら、や、やや……やってみろやぁあ!!」
(さぁ!斬るでも射るでも良いぞ……!!)
「……」
「さ、さぁ!!かかってこいや!!」
「……」
何も、起きない。
「う……うぅ、う、ブクブク……」
震えていた部下は、いつ斬られるとも分からぬ状況に耐えかね、失禁して倒れる。
(ど、どういう……!?)
そのとき、冒険者たちが門に近づく。
錠に手をかけ、ゆっくりと門が開いた。
「え……」
「どうぞ、ギルドマスターがお待ちです」
(ど、どういうことだ!?)
ブルーンは立ち止まり、頭をフル回転させる。
冒険者たちを見る。皆、焦る様子も無く淡々と並んでいる。
「……入られないのですか?」
「……いや、入る。入るに、決まってる」
むしろ、チャンスだ。
ギルドに入ることが出来れば、あとはどうにでもなる。
(ギルドマスターを殺しさえすれば、あとから理由付けなんていくらでも……)
ブルーンに追従するように、困惑した魔人たちもギルドへと入っていく。
中には誰もおらず、乾いた空気が充満している。
隣を並び歩く冒険者が案内する。
「奥へどうぞ」
◆
通されたのは、冒険者ギルドの鍛錬場。
「よく、来てくれました」
奥には白い仮面を被ったギルドマスターと、老いた騎士が一人。
「く、ククク。まさか俺たちなんかと話し合いの場を設けてくれるたぁ、懐の深いギルドマスターさんだ」
「こちらも、是非お会いしたいと思っていました」
ブルーンが近づく。ポケットに入れた指を鳴らしながら、ゆっくりと。
「まぁ、良い。話ってのは他でもねえ。今回の件だが……」
十分に近づいたブルーンは、ポケットから出した掌をギルドマスターへ向けた。
「お前には、死んでもらうってことだ!!」
「二等級風魔法 クウフウリン!!」
手首から魔力が集まり、掌へ。そして指先を通して、五つの風刃を放った。
合わせるように部下たちも両手を伸ばして魔法を放つ。
火球、雷槍、雹弾……
あらゆる"暴力"が、ギルドマスターへ向かい放たれる。
それを見て、隣に立つ老騎士が一歩前に出た。
「ククク!!ジジイ一人で何になるってんだ!!」
ブルーンの風刃は風を断つ音すらも置き去りにした。
魔法の衝撃で砕けた石壁が崩れ、鍛錬場全体に灰色の粉塵が広がる。
熱風で巻き上げられた煙は視界を覆う。
部屋ではパラパラと天井から瓦礫が落ちる音だけが響く。
(殺った……!!)
ブルーンがそう確信した瞬間。
ドォン――ッ!!
重い何かが地面へ叩きつけられる音。
煙が揺れる。
ゆっくりと、巨大な影が浮かび上がっていった。
そこにはギルドマスターの前に立つ老騎士。
仁王立ちで、巨大な盾を前面に構えていた。
「は……?」
盾も、鎧も。その顔にも。
あれだけの量の魔法を食らいながら、老騎士は笑った。
「ジジイ一人にかすり傷すら、つけられんのか?」
「な……っ!?」
咄嗟にブルーンは後ろを振り返る。
その視線が黒い外套を身に纏う男を捉える。
「オボロ!!やれ!!いまこそお前の力を――」
視界の端で、閃光が奔る。
聖王国の紋章が刻まれた真っ白なマント。長い金髪。
突然現れた男の剣に、気づけばオボロは胸を貫かれていた。
「はぁ………っ!?」
『失礼。コイツは私の獲物だ』
どよめきが広がる。
その姿を見た魔人たちは皆、足がすくみ声が震える。
「嘘……だろ」
「なぁ、アレって!!?」
ブルーンもまた、開いた口が塞がらないまま。
「お、お前は……」
勇者。
魔皇国では最悪の存在、魔人の天敵として恐れられる悪魔。
「ど、どういうことだ!!?なぜ、お前がウラムなんかに介入してくる!!」
「これは侵略行為だ!そうだな!!?
連合国が黙って……」
『自分の状況を見たまえよ』
ギルドに乗り込み、集団で襲う。
ギルドマスターがウラムを聖王国に売り、救援を依頼したのだとしたら――
ブルーンの背中に冷たい汗が滴る。
『ただまぁ……安心してくれ。私の用事はコイツだけだ。君たちの諍いには介入しないでおこう』
そう言って勇者は倒れたオボロを担ぎ上げる。
「あとは好きにやるが良い。ギルドマスターも、後の手筈は頼むぞ」
そのまま、爆ぜた黒煙の中へ姿を消した




