第29話 種火①
第29話
コデマリオは廃材の上で正座をしながらトバリに問いかける。
「つまりなんだ、結構前から団長はこの街に到着してたのかよ!」
「あぁ。お前が色街に通い出した辺りからな」
グラジオラスはコデマリオを横目で睨む。
「色街に……?」
「あ、いや……!違うんです!それはトバリからの依頼で、あそこを仕切る賊の調査で……!」
「まぁ、良い。姫からも、話は聞いておる。今回の件が終われば、改めて鍛え直してやるからな」
「ヒィィ……」
青ざめるコデマリオをよそ目に、トバリが口を開く。
「明後日……ブーグーファミリーがギルドへ襲撃を仕掛ける」
「えぇ!?明後日!?!」
「あぁ。お前が調べてくれた通り、副ギルドマスターが奴らの後ろ盾となっているようだな」
グラジオラスが後ろで集まっているウグイス団を見つめる。
「そこまでしてくれたら、彼らには奴らを壊滅させるだけの理由が出来る。そして魔人による脅威が消えれば、排斥を煽る理由も薄れるというわけじゃなあ」
「……すみません、何言ってるのか全然分からないッス」
一呼吸置いて、グラジオラスが答える。
「まずトバリくんの目的は、この街をヨル様の仕切る一つ目の拠点とすることじゃ」
「拠点……」
「将来オワリを取り戻す際に、この街は非常に重要な位置にある」
「はぁ……」
「そのときに備えて、ここを今のうちから掌握しておきたいということじゃ」
グラジオラスはワハハと豪快に笑った。
「儂としては、本来早めに動きたいところじゃったが、トバリくんの考えが実におもしろくてのう」
トバリはゆっくりとコデマリオを見つめる。
「当初は、ギルドとブーグーファミリーを相打ちにさせることも考えた」
「あるいは、魔人排斥を進めるギルドだけを潰し、ブーグーファミリーをこちらで掌握する案もな」
だが――と続ける。
「どうもヨルはギルドマスターのことをえらく気に入ってしまったようでな」
「え?ギルドマスターって誰なんだ?」
「まぁ、それは今どうでもいい」
「えぇ……」
「ギルドは、魔人排斥の口実を保ちながら、実際にはブーグーファミリーとカッコウを邪魔に思っておる」
「逆に奴らは、ギルドを乗っ取りウラムの裏も表も支配する気でいる」
「……そこにトバリくんが"ウグイス団の壊滅"と"勇者来訪"という噂を流すことで、後は奴らが勝手に動き出してくれたのじゃ」
「はぇ〜……」
(やべぇ結局わかんねえ……)
「でも、そんな回りくどいことしなくても……。ウグイス団が帰ってきてから、ギルドと協力してブーグーファミリーを潰せば――」
そのとき、話を聞いていたチグリの父が口を開いた。
「それは出来なかったんだ」
「ブーグーファミリーの頭領であるブルーンは狡猾だ。小さな犯罪を突き詰めても、部下を切り捨てて逃げられていた」
「更に厄介なことに、副ギルドマスターが奴ら側についていることでギルド全体を動員することも難しい」
ウグイス団の兵士たちが、一様に頷く。
「だが今回の件、奴らは大義が自分たちにあると思い込んでいる。うまくいけば、ウラムの表すらも掌握できる好機だと。な」
「で、あればじゃ。今まで影に隠れていた奴らの手先も総動員されるじゃろうて」
「そうか……そこを一気に叩くってことか!!」
グラジオラスはニッコリと微笑んだ。
「そういうことじゃ」
ウグイス団の兵士が口を開く。
「もう一つ、今まで奴らに手を出せなかった最大の理由……それがブルーンの強さだ」
「だが、今回はグラジオラスさんがいる!!魔獣討伐のときも、俺たちはグラジオラスさんがいてくれたから生き残れたんだ!」
「あぁ!これほど心強い援軍は無いぞ!」
ウグイス団の兵士たちは皆声をあげ、剣を掲げ、士気を高める。
トバリは掲げられた剣やウグイス団の鎧を見て、微かに笑った。
「実はもう一つ。お前たちに用意していたものがある」
「「え?」」
しばらく待つと、大量の剣や鎧を積んだ荷車が入ってきた。
降りてきたのは、ヒグラシ。
「ヒグラシちゃん!?」
「あー、おかえり。とりあえずトバリさん。言われていた剣と、鎧」
「あぁ。助かる」
「ど、どういうことだ!?ヒグラシちゃんこんな大量の武器……」
ヒグラシは恍惚とした表情で笑う。
「素敵でしょ?トバリさんがずっと前から注文してくれてたんだ。代金も前払いで、素材まで準備してくれた」
「おかげで私は"もう二カ月近くずっと工房に籠りっきり"さ」
「無理を言ってしまってすまないな」
「いや、最高の時間だったよ。余計なことを何も考えずに鍛冶だけに集中できた」
それに――
「トバリさんには理事会の出席まで代わりにやってもらっちゃって」
「腕が良い鍛冶師が見つかって、本当に良かったよ」
そう言ってトバリは、妖しく微笑んだ。
「すげえ!遠征でオレの鎧ボロボロだったんだよ!」
「俺も俺も!」
「剣欠けててさぁ!」
「あー、代金は後でキッチリ請求するぞ」
「勿論だ!ちゃんと返す!」
荷車を囲み喜ぶウグイス団の兵士たち。
だが、グラジオラスだけは目を細めトバリを流し見た。
(……ここまでの絵を描いたこの少年こそ、げに恐ろしいものじゃ。
此奴を敵には、回したくはないのう)
◆
翌日。
ブーグーファミリーによるギルド出撃まで、あと一日に迫る。
ギルド本部 ギルドマスター室
「ギルドマスター!」
慌ただしく、ドンカラスが入ってくる。
「なんですか、入る時はノックぐらい……」
そう言って扉を見る。
そこには、冷や汗をかくドンカラスと、白いマントを羽織る金髪の男が立っている。
マントには"聖王国の紋章"。
「ま、まさか……」
「勇者様が、来てくださって、あの……」
ドンカラスは震える声で伝えた。
「どうも。ギルドマスター」
「ゆ、勇者……様?」
突然、ドンカラスが地に伏せ頭を床に擦り付ける。
「す、すみませんでした……!!実は、私はギルドを一度裏切りました……!」
「え……は?」
白い仮面で隠されてはいるが、ギルドマスターの困惑は誰の目から見ても明らかだった。
勇者が理事用のイスに座り、ドンカラスを指さす。
「彼はブーグーファミリーについていたようでね。ギルド内の動き、魔人排斥運動、そしてギルド内で機密としていたウグイス団壊滅の噂まで、奴らにペラペラ喋っていたようです」
「な、なんですって……!?ドンカラス!!?それは本当なのですか!!」
「ヒィィ……は、ハイ。金に目が眩み、つい……」
「違うだろう?」
「ひえ?」
「金だけじゃない。君は、ギルドマスターを殺し、自分がギルド内で立場を強めようとしていたのだろう」
「は、ふぁい……!そうでございます」
仮面が微かにズレる。信頼していた理事が裏切り、更に自分を殺そうとしていたという衝撃。
「なんて……こと」
「そういうわけで、明日ブーグーファミリーがここに襲撃に来ます」
「え!?!」
「なぁ?ドンカラスくん」
「は、はい……魔人総出で、アナタを……殺すつもりです」
「ま、待って……何故、そんな話に!ドンカラス……貴方、本当に……!?」
「ですが!」
「……慈悲の心も持ってほしい。彼は自らの罪を悔い、こうして懺悔をしている」
「そ、そうでございます。勇者様に言われ、心を入れ替えました」
「……な、何を、言って、るの?」
「さて、時間も惜しい。ドンカラスくんの処遇は追って連絡をする。あとは二人で話をさせてくれ」
そう言って勇者はドンカラスを見て、扉を指差した。
「は、はい!どうか、御慈悲を勇者様……!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!勝手に話を――」
足早に出ていくドンカラス。
扉が閉まり、室内は重苦しい空気に包まれる。
「さて……こうして二人になれたことだ。良ければ素顔で話しませんか?"お互いに"」
「素顔……?」
白い仮面を指差し、勇者は笑う。
「えぇ。エキナさん」




