第27話 交錯する
第27話
朧忍が習得する奥義は二つに大別できる。
"龍音"と"月門"。
そしてリンネこそ、朧忍の基礎であり、基本の忍法。
「リンネの真髄は隠れ、謀り、欺く……」
トバリは木と一体になりながら話す。
「朧忍が学んでいく過程だ」
「なるほど……です」
「鍛錬中は、返事も必要ない」
「……っ」
「そのリンネを修了した者に、ツミウチ……即ち"殺陣"を伝える」
「隠・謀・欺・殺……この心得を修めた者が、上忍。そして頭領候補となる」
「……」
今度は深く、頷く。
「頷く必要も無い。動けば、気配が伝わる」
トバリは葉から滴る水でゆっくりと口内を湿らせる。
「今はただ、木と一体となり隠の術を得ることのみ」
「……!」
「だから頷く必要は無いぞ」
「……っ」
「このリンネに魔力を応用しようとしたが……暴走してしまった。あれでは忍失格だ」
バタバタと羽ばたく鳥が、腕の上に降り立ち羽を休ませる。
「……鳥に枝と認めてもらえたな。凄いぞ」
「………////」
バサバサッ
「……!」
微かに動いた瞬間、鳥が驚いたように飛び去っていく。
「……まだまだ、だな」
「……」
微かに、空が白んでくる。
陽の光と合わせるように、地面へと降り立つトバリ。
「新しい忍装束。大きさは……ちょうどいいか?」
「……」
伺うように、小さく頷いた。
「そうか。……とある魔獣の素材でしつらえたものだ。魔力を流せば、色や質感を変え擬態することが出来る」
「もうすぐ暗器もいくつか完成する。出来上がったら、渡そう」
「……!」
そう言って、トバリは目線を街の方へと向ける。
「それじゃ、今日もまた頼むぞ」
「……」
頷くと同時に、トバリは消える。
地面を蹴る動作も、音もなく。
◆
その日は、ギルドが騒がしかった。
「おい!カッコウさん来てるのか?」
「あぁ……ギルドマスターの部屋に怒鳴り込んで行ったって……」
「ついに直接対決かぁ」
ギルドマスターの部屋
「あのなぁ!こっちは分かってんだよ!」
声を張り上げるのは、副ギルドマスター"カッコウ"。
「だから、何のことか分かりませんと……」
「ギルド主導で魔人排斥なんて進めやがって!こんなこと分かれば、こっちだって黙ってねえぞ!?」
「……ハァ」
「良いか。仮にお前らが主導じゃなかったとしても、だ!!なおさらギルド主導でこのくだらねえ空気を鎮圧しろや!」
「それは」
「それはもこれはも、ねえんだよ!ウチは商業ギルドだ!市場全体の利益が損なわれる事態なら、解決を進める!当たり前のことだろうがよ!」
「まあまぁ、カッコウさん」
「うるせえハート!たかが薬屋如きが、口を出してくんじゃねえ!」
「……なんだって?」
「お前んとこの一番のお得意様は誰だ?ウグイス団が居ねえ今、戦闘や警護を担ってんのはブーグーファミリーだぞ!」
「そのブーグーファミリーについての対応はどうなっているんですか?再三注意をしている件も……」
「今、その話は関係ねえっ!!」
カッコウは声を荒げ、肩で息をする。
部屋は熱気に包まれていた。
「……一週間だ。その間にギルド主導で魔人排斥を辞めさせろ。良いか?お前らがやってることは差別だ!卑怯で、姑息!」
「お言葉ですが」
ギルドマスターが口を開く。
「それだけ言うのなら、アナタがやれば良いでしょう。仮にも副ギルドマスター、なんですから」
「なんだとぉ……!!?」
「そもそも、です。勇者がこの街に来るかもしれないという噂、アナタならばご存知でしょう?」
「う……」
「そんな中、ギルド主導で魔人を積極的に囲い込むようなことをすれば、聖王国からどう見られるか」
「オワリ領から出ていく魔人を集め、戦闘の準備を進めていると見られる可能性だってゼロでは無い」
「ぐ……ぐぎぎ」
「どうしてもやりたいというのなら、カッコウさん個人でやってください。我々はギルドとして、その判断に従うことは出来ません」
「テメェらどの口が……!ここはウラムだ!!サーキス領とオワリ領の中間都市!」
「聖王国なんざ、関係ねえだろうが!!」
「オワリが聖王国と同盟を結んだ以上、関係ないでは済まないのです」
「ぐぅ!」
「ほらカッコウさん。分かったら出ていきな!!仲良しのブーグーファミリーにでも頼れば良いだろ!」
「貴様ら……その言葉忘れるなよ」
そう吐き捨てて、カッコウは部屋から出る。
全身から怒りを滲ませ、静かなギルドを足音で揺らしながら。
カッコウが出ていき、静かになった部屋でハートが呟く。
「マスター……どうしますか。ああは言ったものの、このままではブーグーファミリーとの全面戦争もあり得ます」
「そう、ですね」
「いざ戦闘となれば、魔法を使う魔人たちとやり合うのは得策では無いですよ……」
「冒険者ギルドや、傭兵団を探してみましょう。念のため……ですが」
そう言って、ギルドマスターは立ち上がる。
「こうなることは……ある程度予想出来ていたことです。むしろ今こそ、カッコウを叩くチャンスと捉えましょう」
そう言って出ていくギルドマスターを見送り、ハートは頭を抱える。
「……こんな大事なときに、ドンカラスはどこへ行ったんだ」
◆
色街。ブーグーファミリーのアジト
「来たぜ来たぜ」
「アニキ……?」
「カッコウの旦那からお許しが出たぜえ。お前ら、暴れる準備を始めろ」
「え……?」
「え、じゃねえよ!ギルドに乗り込むんだよ」
「ま、まじすか?」
「あぁ。ギルド主導で魔人排斥を進めてるって話について抗議だ」
「なるほど……」
「ギルドを追い詰める証拠はあるんだよな?ドンカラスさんよ」
そう言うと、奥に座っていたドンカラスはニッコリと笑い頷く。
「あァ……キッチリと、な」
「クックック……それに、だ。最高の話がある」
ブルーンは部下たちを一通り眺める。
「ウグイス団は遠征先で壊滅したらしいぜ」
「え!?」「まじかよ!」
部屋にざわめきが広がる。
「ククク……こりゃギルドマスターから聞いた話だ。まず間違いねえだろ」
「間違いねえ」
ドンカラスが深く頷く。
「よし、よしよし!ツキが俺にまわってきたな……そんで〜……あ、お前でいいや」
そう言ってブルーンは一人の部下を指さす。
「え?」
「お前、ギルドの冒険者に斬られてくれや」
「え、は?」
「は、じゃねえよ!」
ブルーンが指を鳴らす。その瞬間、部下の頬が切られ、血が滴る。
「ぐあっ!?」
「今すぐここで、俺に刻まれるより良いだろが。お前が斬られたら、開始の合図だ。報復としてギルドをぶち壊す」
他の部下が駆け寄り、傷の手当をする。
「ぐうう……痛えよぉ」
「安心しろ。死にはしねえよ」
「ククク……そしたらこっちのもんだ。ウラムを、この街を!魔人が支配する街にしてやろうや。なあ?」
「は、はい……」
「アニキ、いつ行きますか?」
「勇者様が来るってんなら、早いほうが良い。旦那に伝えてこい。一週間後……いや、三日後だ」
そう言ってブルーンは振り返る。
「オボロさんや。アンタの力、頼りにしてるぜぇ」
「……」
「ククク……俺達がウラムを支配する。やはり魔人は弱肉強食。強いやつが上に立つ。当たり前だよなあ!」
ブルーンは両手を挙げる。
そして、ドンカラスが拍手をした。
つられるように、周りの部下たちも拍手をする。
色街の喧騒に彩られ、重く苦しい、拍手が鳴った。
『オワリのトバリ』を読んでくださり、本当にありがとうございます
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