第26話 ダンジョン探索
第26話
「ねぇ……なんか最近、ベッタリ過ぎじゃない?」
宿屋の一階。食堂とロビーを兼ねた広間で、エキナが声をかけてくる。
そこにいたのは、トバリ。そしてトバリに肩車されたヨル。
「……何、してるの?」
「修練に行くところだ」
「は……?」
「〜♪」
ヨルはトバリの肩の上で鼻歌を歌っている。
「いやなに、拙者は魔力操作がまだまだ上手くなくてな。魔力に頼らず、やはり今は肉体の鍛錬を……」
「そういうことじゃなくて!」
「ん?」
「ここ最近、ずっと一緒だよね……姉弟仲良いのは分かるけど……」
「儂の命令じゃ!」
「命令には逆らえん」
「命令……?」
「し、仕事辞めさせられたって聞いたけど、他の仕事は?お金……大丈夫なの?」
「それなら問題ない。そこそこ貯まっている」
「らしいのじゃ!」
「……ねえ、暇ならお仕事、紹介してあげるからさ」
「ありがたい話だが、今は魔人を雇うのはリスクじゃないか?」
「え、いや……そうだけど……」
「こうして世話になっているのに、これ以上迷惑はかけられない。気持ちだけ受け取っておこう」
「それに、仕事のアテはついている。心配無用」
そう言ってヨルを担いだまま宿屋から出ていくトバリの背中を見て、エキナは何とも言えない気持ちになる。
「う〜ん……」
◆
「おおぉ!早い!早いのじゃ!」
宿屋から出る。
周囲の視線すら置き去りにする速さで、街の外まで駆け抜ける。
「どこまで連れて行ってくれるんじゃ?」
「今日はおもしろそうな魔獣の発見報告が掲示板に載っていてな。ダンジョンに潜る」
「ほほう、ダンジョンとな。オワリには無かったのう」
「オワリのダンジョンは騎士団があらかた発見し尽くしたらしいからな」
そう言ってるうちに、山の中腹にさしかかる。
そこにあるのは小さな洞穴。
そして微かな魔素の気配。
「魔獣もオワリじゃ滅多に見られないが、ここは多い。ここからは慎重に進むぞ」
「うむ……」
少し進むと、すぐ壁が立ち塞がった。
「おろ?なんじゃ、行き止まりじゃ」
「いや……コイツが目的だ」
そう言ってトバリは目を細める。
次の瞬間。
――ドゴッ!!
鈍い音と共に、トバリの踵が岩壁へめり込んだ。
「お、おい!?」
ヨルが目を見開く。
だが、砕けたはずの岩壁から赤黒い液体が飛び散った。
岩そのものが、大きく脈打つ。
「ギィイイイイッ!!」
岩壁が悲鳴を上げた。
ボコボコと表面が崩れ落ち、灰色の擬岩色だった皮膚が剥がれていく。
現れたのは、洞穴を塞ぐほど巨大な魔獣。
岩肌と見紛うゴツゴツした体皮。
異様に長い舌。
左右別々に動く濁った眼球が、不気味にヨルとトバリを捉えた。
「コイツは"フェイカース"というらしくてな、体皮の色を変えて様々なものに擬態するらしい」
「凄いのじゃ……!」
感嘆するヨルをよそ目に、フェイカースが舌を伸ばす。
だが、その瞬間にはもうトバリの姿は無かった。
「ギ――?」
低く沈み込む。
次の瞬間、地を滑るような踏み込み。
黒い影が、フェイカースの懐へと潜り込む。
ズバンッ!!
遅れて、巨体の首元から血飛沫が噴き出した。
「ギェッ……!!」
暴れようとした前脚を、今度は足刀で叩き折る。
体勢を崩したところへ、短刀が眼球へ深々と突き刺さった。
巨体が地鳴りのような音を立て、崩れ落ちる。
「お、おぉ……なんか、凄いのう」
フェイカースがいなくなり、洞穴は奥へと続く道が現れる。
フェイカースの死体から素材を手早く剥ぎ取り、トバリは立ち上がる。
「あと何体か狩りたい。行くぞ」
「魔力は使わんつもりか?」
「あぁ。また魔力が暴走してしまっても敵わんしな」
「それもそうじゃな」
そう言って、二人は奥へと進んでいく。
◆
洞穴の奥は、外から見た以上に広かった。
天井からは細い魔水石が無数に垂れ下がり、岩肌の隙間からは青白い発光苔が微かに光を放っている。
足元には浅い地下水が流れ、歩く度にぴちゃん、ぴちゃんと不気味な反響音が響く。
だが、ただの洞穴ではない。
空気そのものに、濃い魔素が混ざっている。
息を吸うだけで肌が粟立ち、時折、奥の暗闇から獣の唸り声が聞こえてきた。
歩いていると、暗闇の中からフェイカースが飛び出す。
「ギェエエ……!」
「遅い」
振り向きもしない。
手刀で一閃。
次の瞬間には、首が地面を転がっていた。
今度は天井。
粘液を垂らしながら巨大な百足が落下してくる。
だがトバリは避けない。
踏み込み、壁を蹴る。
空中で回転しながら蹴りを百足の腹部へ突き立て、そのまま地面へ叩き落とした。
「シャアアア!!」
着地と同時に首を捻り切る。
「次」
「おおぉ……」
そうして奥へ奥へと進む。
何体か魔獣や獣を見つけては、主要な素材を剥ぎ取る単純作業の繰り返し。
「何だか一辺倒で退屈になってきたのう。もう帰らんか?」
「……もう少しだ。ダンジョンにはだいたい主と呼ばれる魔獣がいるはず」
「主?」
「あぁ。主の素材はより品質が良い。金にもなるし、なにより作りたい物もある」
「ふぁ〜……手早く済ませるのじゃ」
「……それなら、少し待っててくれ」
「え?」
そう言って、トバリは消えた。
走る音も、追う背中も無く。
「え!え!?トバリ!!わ、儂を置いていくなぁあ!」
ヨルの叫び声が、洞穴にこだまする。
「あわわわ……どうしよ、暗いのじゃ」
そう言って手のひらに炎が灯る。
炎で照らされた壁に、びっしりと隙間なく蠢く巨大な蜘蛛がいた。
「ゑ……?ぎ、ギニャアアアァ!!!」
刹那の、爆炎。
洞穴全体を一瞬にして燃やし尽くす業炎がヨルの手のひらから吹き荒れる。
「ひ、ひいいいい!」
質量のある炎を撒き散らし、蜘蛛もろとも壁を崩壊させていく。
「何してる」
「ひゃああ!!」
ヨルの襟元を掴み上げ、慣れた手つきで背負うトバリが、炎の隙間を縫って洞穴を出た。
「自分もろとも蒸し焼きにするつもりか」
「だ……だって、トバリが置いていくから……」
「やれやれ」
呆れたように息を吐く。
だが、その口元は僅かに緩んでいた。
「……や、やれやれじゃないわ!!!こんのバカタスが!!」
パチーーーン!
帰ってから、赤く腫れた頬をエキナに笑われたのは言うまでもない。
『オワリのトバリ』を読んでくださり、本当にありがとうございます
ヨルやトバリたちの旅を、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです
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