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第20話 最後の手紙

第20話


「あ、オボロくん!」

いつも通り荷物を酒場に運び終えたあと、大通りで声をかけられる。

振り返ると、お世話になっている宿屋の受付嬢が笑顔で手を振っていた。

「どうも……え〜と」

「もう!エキナだよ!!」

頬を広げて、怒った素振りを見せてくる。

「ああ、すみませんエキナさん」

「オボロくんこの町に来て一カ月くらい経つんだからさ!いい加減覚えてよね」

「ははは……」

「笑って誤魔化さないの!」

ピシャリとおでこを叩かれる。

余裕で避けれたが、あえて受けて痛がる素振り。

「いたぁ〜……」

「そんな強く叩いてないでしょっ!」


『おい!トバ……じゃなくて、オボロ!何油売っとるんじゃ!!』


一際大きい声が、大通りを貫く。

声の主は、凄んだ顔のヨル。

「あらら、"お姉ちゃん"に見つかっちゃったね」

そう言ってエキナは駆けていく。

「お主……儂に仕事をさせておきながら自分はおなごと乳繰り合うなど」

「ま、まあまあ"ユル姉さん"。ここは大通りだし、落ち着きなよ」

「ならん!だいたい儂というものがありながら……」


あれからヨルはユル。そして拙者はオボロと名乗り、姉弟という名目でこの街に滞在している。


"仲間を、待ちながら"



■■■■■■■■■■


森を抜け、草原を抜け、荒山を駆け上がる。

空が白んでもまだ、とにかく殺意の無い方へ駆け続ける。

姫を背中に乗せて。

挿絵(By みてみん)


「ヨル姫、追手はもう無いぞ」

「うぅ……父上、ローレル……」

襟を強く掴み、ずっと背中で泣きじゃくるヨル。

絶え間なく流れるヨルの涙が、衣を越えて背中を熱く濡らす。

「姫……とりあえず、行こう」

「行くって、どこへ……?」

ローレルに渡された袋から、1枚の紙を取り出す。

「これは……?」

「手紙だな。姫宛だが、すまん。先に読んだ」

「バカタレ!……でも良い。こういう状況じゃからな」


手紙は急いで書いたのだろう。粗い字で書かれていた。


『ヨルへ

西へ走れ。連合国との国境沿いにある、ウラムという町へ行け。


そこで遠征に向かっていた騎士団長グラジオラスと合流するように。

後のことは奴に任せる


ハナマサの生き様を、忘れるな』


「短く、後悔や恨みの言葉一つ無く。

手紙でも……厳しいのう。


なんとも、父上らしい」

「……そうだな」

「む、2枚あるぞ」

「あぁ。それは俺宛らしい」


『トバリ

むしろ気をつけるべきはお主だ。

闇の魔人が復活したということが、聖王国にバレてしまった。

これから聖王国は血眼になってお主を追いかけるだろう。

心して、ヨルを守るように』


「ハハ、カハハ……!なんとも父らしいのう」

ヨルは涙で濡れた頬を上げ、小さく笑う。

「お主の方が危ないというのに、私から離れろというでもなく。守れとな」

「そう……だな」


「頼むぞ。トバリ」

「姫……それが姫の命令とあらば、どこまでも」

「カハハハ……」

乾いた笑い声が、谷に響く。


「なあ、トバリ」

「なんだ?」

「私は父上の言うように、ハナマサの生き様とやらを生きねばならんのだろうか?」

「……それは、姫が決めること」

「そう言うよな……。なら、私がもう死にたいと言ったら?」

顔は見えない。だがどんな表情をしているかは、おおよそ見当がつく。

「それだけは。その命令だけは聞けないな。拙者が生きている限り、姫は死なせない」

しばしの沈黙。

そして襟を掴む手が、強く、固く握られる。

「分かっている。私は……いや、儂は死なぬ。オワリを取り戻すぞ」

「御意」

「そして父上の仇をとる。ハナマサの生き様を、覇道を行くのじゃ」

「……任せろ」

やはり、姫は姫だな。拙者の仕える人に間違いはない。

「む?笑っとらんか!?」

「笑ってない」

「笑っておるだろ!顔を見せろ!」

「危ない……落ちるぞ」

「あわわはわ!」


■■■■■■■■



「おい!開けるぞ!」

ヨルが部屋を荒々しくノックする。だが、部屋から音は返ってこない。

「ほう、儂を無視するとは良い度胸じゃな!」


「……ハイ」


……少し待つと、今にも消えそうな、微かな返事が聞こえてくる。

「姫……今はそっとしといたほうが」

「もう十分そっとしたじゃろ!それよりグラジオラスが来たときにこんな調子じゃ……もっと可哀想なことになるわ!」


バタンと扉を開く。

ベッドの上。窓から差し込む光が影を差し、一人の男を照らす。


「……ハイ」


見る影もなくやせ細り。自慢の大声は消え入りそうなさえずりにしか聞こえない。

コデマリオは、焦点の合わない目でゆっくりとこちらを向いた。

「スミマセン、もう、行きますから……」

コデマリオは、ベッドから片足をおろすが、そこからまた体が震え始める。

「うぅ……う、う」


「……」

「……」


「ま、まあよい。あんまり、無理はするな。ね、寝ておけ」

「……スミマセン」

そう言ってコデマリオは大粒の涙を流し始める。


……バタン


ヨルはゆっくりと扉を閉めた。

「……どうするのじゃ?」

「どうすると……言われてもな」


コデマリオはヨルたちがこの街にきた数日遅れて、命からがらこの街へ逃げてきた。


どうやらローレルが自分たちを拾う前に、城にいた騎士やメイドにはこの街に逃げるよう指示をしていたらしい。


到着したとき、コデマリオは憔悴しきっていた。


目の前で勇者に蹂躙される仲間たち。騎士、メイド関わらず響き渡る悲鳴。

だが、何よりも彼の心を抉ったのは

誰よりも尊敬し、憧れていたユーガオの裏切りという事実だった。


「そっと、するしかないだろうな」

「そうじゃな……」



行く道は、覇道。

そして姫に仕える闇の影。


何重にも重なる螺旋の運命が廻り始めた。

まだ、誰にも知られぬまま。

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