幕間
幕間
「もっとはやくじゃ〜!」
「ヨル様!訓練が始まってしまうので降りてください!」
きゃははと笑うヨル。ローレルの背中に乗り、襟をしっかりと握る。
「おっ、またローレルの奴遊んでやってんのか」
「ばっか、ありゃ遊んでるんじゃなくて遊ばれてるんだよ」
「ちげえねえな」
他の騎士たちは既に鎧に着替え、訓練場へ歩いていた。
「おいローレル!訓練の時間始まんぞ!」
「お前最年少なんだから、遅刻したら鎧磨きなー」
「なにをしておるか!うごけ!!」
「ちょ!見てないで助け……ヨル様ッ襟を引っ張られると……息…がっ」
「キャハハハ!」
ローレル、21歳。
この日、彼は近衛騎士になる。
◆
「ヨルはお主に懐いておるようじゃな〜」
「え……えぇ、まぁ。元気なご様子で……」
アサヒは組んでいた腕を緩める。
「ふっ、魔力が共鳴しておるのかもしれんな」
「共鳴……ですか?」
「そうじゃ。特に炎の魔力は"延焼"と"融合"の特性を持っておる」
「……お主はヨルにとって、延焼しやすいんじゃろ!」
ガハハハと笑うアサヒ。
「笑い事じゃないんですが……」
途端、アサヒが真顔になりローレルを見つめた。
「まあ、よい。そんなことより……」
「最近、流れておる噂を、知っとるか?」
「……」
「ユウヒのことじゃ」
「……聞いて、おります」
「オワリを追放してから3年。どこぞで野垂れ死んだかと思っていたが……」
「どうやら、冒険者となっていると聞きました」
「うむ……」
「追いますか……?」
アサヒは一瞬考える素振りを見せ、笑った。
「よい。奴は炎をもう持っておらぬ。遅かれ早かれ……じゃ」
「はい……」
私には、分かる。
普段のアサヒ様であれば、ほんの些細な危険も許さない。見逃すなんて、あり得ない。
(結局、殺したく……ないんだろう)
「むしろヨルのことじゃ」
「ユウヒが生きてる限り、ヨルの炎を奪おうとするやもしれぬ」
「そうですね。もちろん、オワリに侵入させないように我々騎士団が――」
「それにのう!ヨル自身、魔力を暴走させる可能性もあるしのう」
「は、はぁ……」
「ヨルが大きくなって、力を使いこなせるようになるまで。見守る存在が必要じゃ」
アサヒがひらりと手を挙げる。
すると脇で見守っていた数人のメイドが、何かを運んできた。
「受け取れい」
「?」
ずっしりと大きい木箱を空ける。
青い家紋のついた鎧と、騎士のマント。
「これは……近衛騎士の?」
「うむ。お主にはヨルを見守る役を与えよう。光栄に思えよ」
「え、ええ!?私が?近衛……」
そのとき、アサヒの目がギラリと光る。
「なんじゃ……まさか不服か?」
圧。
アサヒ様のいつもの手口。こうなってしまえば、何を言おうと覆すことは無い。
「いえ……有難く……拝命します」
「ガハハハ!そう重く考えるな!ヨルが大きくなるまでじゃ」
「大きくとは……ちなみにおいくつまで」
「そうじゃな。ヨルが力を制御できるようになるまでじゃな」
「は、はい……」
青の家紋がキラリと光る。まるで自分を、嘲笑うかのように。
「他に任せたければ任せてもよいぞ」
「……ただし、ヨルが認めると思うならな」
数拍、戸惑う自分を見て、アサヒが呟く。
「まぁ……お主が騎士団から離れたくない理由も理解しているつもりじゃ」
「グラジオラスには、儂から言っておく。お主の師事を認めるようにとな」
「えっ……団長にですか!」
グラジオラス団長。オワリで名を知らぬ者はいない。
先々代……アサヒ様の祖父の代から前線で戦い続ける、伝説の老騎士。
「うむ。それなら良いじゃろ。細かい仕事はユーガオから聞くがよい」
「わかりました。謹んで、お受けします」
身を包むのは、近衛の騎士鎧。
どちらかといえば……大規模な戦闘というよりは決闘、個人戦や室内戦を想定した細身の造り。
(近衛騎士……自分に務まるのだろうか)
◆
その日のうちに、拝命の儀は行われた。
ヨルが座り、その正面で剣を立てる。
「――姫様の近衛騎士として、この身を捧げましょう」
「なんじゃー、なんかやってくれるのか?」
「ええ、これからヨル様が大きくなられるまで。私がヨル様を守ります」
一瞬、間を置いて、ヨルは言い放つ。
「べつにいつもとかわらんではないか!」
つまらなそうに足をなげだしながら。
「こらヨル!しゃんと座らんか!」
「いつもと……?ぷっ!」
その様子が、どこか可笑しくて笑いそうになる。
「そうですね……特に、今までと変わりませんね」
生まれてからずっと、見守ってきた。
お転婆で、ワガママ。だけど根には優しさと強さを持っている。
自分はとっくに、この子の近衛騎士だったのだ。




