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幕間

幕間

挿絵(By みてみん)

「もっとはやくじゃ〜!」

「ヨル様!訓練が始まってしまうので降りてください!」

きゃははと笑うヨル。ローレルの背中に乗り、襟をしっかりと握る。


「おっ、またローレルの奴遊んでやってんのか」

「ばっか、ありゃ遊んでるんじゃなくて遊ばれてるんだよ」

「ちげえねえな」

他の騎士たちは既に鎧に着替え、訓練場へ歩いていた。

「おいローレル!訓練の時間始まんぞ!」

「お前最年少なんだから、遅刻したら鎧磨きなー」


「なにをしておるか!うごけ!!」

「ちょ!見てないで助け……ヨル様ッ襟を引っ張られると……息…がっ」

「キャハハハ!」


ローレル、21歳。

この日、彼は近衛騎士になる。



「ヨルはお主に懐いておるようじゃな〜」

「え……えぇ、まぁ。元気なご様子で……」

アサヒは組んでいた腕を緩める。

「ふっ、魔力が共鳴しておるのかもしれんな」

「共鳴……ですか?」


「そうじゃ。特に炎の魔力は"延焼"と"融合"の特性を持っておる」

「……お主はヨルにとって、延焼しやすいんじゃろ!」

ガハハハと笑うアサヒ。

「笑い事じゃないんですが……」

途端、アサヒが真顔になりローレルを見つめた。

「まあ、よい。そんなことより……」

「最近、流れておる噂を、知っとるか?」

「……」

「ユウヒのことじゃ」

「……聞いて、おります」

「オワリを追放してから3年。どこぞで野垂れ死んだかと思っていたが……」


「どうやら、冒険者となっていると聞きました」

「うむ……」

「追いますか……?」

アサヒは一瞬考える素振りを見せ、笑った。

「よい。奴は炎をもう持っておらぬ。遅かれ早かれ……じゃ」

「はい……」


私には、分かる。

普段のアサヒ様であれば、ほんの些細な危険も許さない。見逃すなんて、あり得ない。

(結局、殺したく……ないんだろう)


「むしろヨルのことじゃ」

「ユウヒが生きてる限り、ヨルの炎を奪おうとするやもしれぬ」

「そうですね。もちろん、オワリに侵入させないように我々騎士団が――」

「それにのう!ヨル自身、魔力を暴走させる可能性もあるしのう」


「は、はぁ……」


「ヨルが大きくなって、力を使いこなせるようになるまで。見守る存在が必要じゃ」


アサヒがひらりと手を挙げる。

すると脇で見守っていた数人のメイドが、何かを運んできた。

「受け取れい」

「?」

ずっしりと大きい木箱を空ける。

青い家紋のついた鎧と、騎士のマント。


「これは……近衛騎士の?」

「うむ。お主にはヨルを見守る役を与えよう。光栄に思えよ」

「え、ええ!?私が?近衛……」

そのとき、アサヒの目がギラリと光る。

「なんじゃ……まさか不服か?」

圧。

アサヒ様のいつもの手口。こうなってしまえば、何を言おうと覆すことは無い。

「いえ……有難く……拝命します」

「ガハハハ!そう重く考えるな!ヨルが大きくなるまでじゃ」

「大きくとは……ちなみにおいくつまで」

「そうじゃな。ヨルが力を制御できるようになるまでじゃな」

「は、はい……」

青の家紋がキラリと光る。まるで自分を、嘲笑うかのように。

「他に任せたければ任せてもよいぞ」

「……ただし、ヨルが認めると思うならな」



数拍、戸惑う自分を見て、アサヒが呟く。

「まぁ……お主が騎士団から離れたくない理由も理解しているつもりじゃ」

「グラジオラスには、儂から言っておく。お主の師事を認めるようにとな」

「えっ……団長にですか!」

グラジオラス団長。オワリで名を知らぬ者はいない。

先々代……アサヒ様の祖父の代から前線で戦い続ける、伝説の老騎士。


「うむ。それなら良いじゃろ。細かい仕事はユーガオから聞くがよい」

「わかりました。謹んで、お受けします」


身を包むのは、近衛の騎士鎧。

どちらかといえば……大規模な戦闘というよりは決闘、個人戦や室内戦を想定した細身の造り。

 

(近衛騎士……自分に務まるのだろうか)



その日のうちに、拝命の儀は行われた。

ヨルが座り、その正面で剣を立てる。

「――姫様の近衛騎士として、この身を捧げましょう」

「なんじゃー、なんかやってくれるのか?」

「ええ、これからヨル様が大きくなられるまで。私がヨル様を守ります」


一瞬、間を置いて、ヨルは言い放つ。


「べつにいつもとかわらんではないか!」

つまらなそうに足をなげだしながら。

「こらヨル!しゃんと座らんか!」


「いつもと……?ぷっ!」


その様子が、どこか可笑しくて笑いそうになる。

「そうですね……特に、今までと変わりませんね」


生まれてからずっと、見守ってきた。

お転婆で、ワガママ。だけど根には優しさと強さを持っている。


自分はとっくに、この子の近衛騎士だったのだ。

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