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第18話 炎の血族④

第18話


そこからは、ただの殺戮。

もはや戦闘ですらなく、金色の髪が揺れるたび。白いマントがはためく度に人が斬り伏せられていく。

『アハッアハアハ!アーーハッハッハ!!!逃げろ逃げろ!!』


騎士、メイド、動物に至るまで。


目についた命を片っ端から滅ぼしていく。

「な、なんでこんなところに……聖王国の兵士がいるんだよ!?侵略――ッ!?」

叫ぶ騎士の鎧を、紙でも裂くように斬り下ろす勇者。


『ガキがッ!聖王国だとか関係ねえ!俺様は勇者だぞ!!』

勇者は大きく口を開く。

『よく聞けカス共ッ!!俺は魔人に支配されていた哀れな国を助けにきたーー!!』


『正義のために立ち上がったんだよ。可哀想な王子の依頼で……だ』

そう言って、ユウヒを見て笑う。

逃げまどうメイドの肩を突き刺す。

「キャアア!!」

剣で体を引き寄せて、メイドの顔を掴み耳元で問う。

『勇者っぽくね?勇者ぽいエピソードだよな?』

メイドは恐怖と痛みで顔が歪み、叫び声をあげる。

『質問に答えろや!!』

肩から首にかけて、両断。


返り血に染まった顔で、こちらを向いた。

『わけわからん儀式は終わったか?』

『……そんで、お前が言ってた闇の魔人はどいつ?』

周囲を見渡す。だが、勇者が暴れまわったことで、城内は瓦礫の山と化している。

先程までヨルとトバリが居たところには、もう誰もいない。


「……逃げられたようだ」

『はぁ!?何やってんだよ!!』


勇者は頭を掻きながら『面倒くせえな』と呟く。



「ローレル!父上は……」

ヨルの声はひどく震え、顔は青ざめていた。


背中にヨル、片手でトバリを抱えて森を駆けるのは、傷だらけのローレル。

「……申し訳、ありません」

「そんな……あの父上が、負けるなど……!」

「アサヒ様は、負けたのではありません!」


「ヨル様を逃がせと命を受け、ご自身にあった殆どの魔力を私にお渡しくださったのです」

「そのおかげで、何とか私は逃げ延び、更に炎の共鳴によりヨル様を見つけることが出来ました」


「私の、ために?」


「はい。アサヒ様は最後までヨル様のことだけを案じておりました」

「私のせいで……私が……母上だけでなく、父上まで殺したのじゃ……!」

「マヒル様のことを……。お聞きに、なったのですね」

重い沈黙が流れる。


「ローレル、もう拙者は大丈夫だ。降ろしてくれ」

そう言って、トバリはローレルの手から降り駆ける。

「トバリくん……?」

「後ろから、異常な速さで殺気が近づいてくる。……恐らく、その勇者ってやつだ」

勇者という言葉を聞き、ヨルは更に震えた。

「本当か?」

「あぁ……ローレル、ヨル姫を頼んだ」


思い起こされるのは、この世界に来る直前の記憶。

半壊した城。昇る黒煙。

姫を逃すため……我が身を捧げる。


殿シンガリは、慣れてる」

そう言って、後ろを振り向いた瞬間。

襟を掴まれ持ち上げられた。

「なっ……え!?」

「姫様、トバリの背中に」

「なんじゃ?」


ローレルが、こちらを見る。真っ直ぐと。

「君のことは、初めて会ったときから疑っていた」

「だが……今はもう信じる。君のことを」


「ローレル……!?」

「ヨル様を頼むぞ」

「何を言ってるんだ。強いお前がヨル様と……!」

「そう、強い私が!!」

ローレルは炎を宿した手をこちらに向ける。

「殿を努めた方が、ヨル様が逃げる時間を稼げる。勇者相手じゃ、君は瞬殺されるだけだ」

そう言って、無理やりトバリの手に袋を持たせて、ローレルはスピードを緩めていく。

「ま、待て!私を放ったらかして勝手に話を進めるな!」

トバリはローレルに、何も言い返せない。

「それに、君はヨル様を守るとアサヒ様に誓っていただろう」

「おい!皆で逃げるのじゃ!もう誰も死ぬでない!」

ヨルはトバリの背中で騒いでいる。だが、ローレルはもうヨルの方を見なかった。

「誓ったのなら最後まで貫け。それが、オワリの騎士だ」


「……。頼んだ」


「まて!ローレル!!ローレル来い!止まるのじゃトバリ!!」

「ヨル姫……最初で最後の、命令違反を許してくれ」

そう言って、トバリはスピードを上げた


ローレルは森に、火を放つ。

森は勢いよく燃え、巨大な炎の壁を作り出す。

一瞬、振り返る。

もう、見えなくなったヨルの背中を心に抱く。


■■■■■■■


「おまえ、なをなのれ!」

「ヨル様、私はローレルですと何度も……」

「くるしゅうないのじゃ!」

「うわっと!危ないですぞヨル様!」

「きゃははは!」


「ローレル、私には兄上がおったのか?」

「え……ええ、どこで、それを?」

「街の者から聞いたのじゃ。だれにでも優しく、勇敢なものであったと」


「……そう、ですね」


「父上に聞いたら、冒険に出たと言っておった!ずるいのじゃ!」

「ははは……ま、まぁどこに行こうと、オワリより良い国はありませんよ」

「それはわかっておる!私の国ぞ!」


■■■■■■■


ぽつり、小さくつぶやいた。

「ヨル様……なんとか、生きて。生き延びてください」


『なんだなんだぁ?うぜえなこれ』


炎の壁の向こう。

軽薄な声が、近づいてくる。

一歩。

それだけで――空気が歪む。

二歩。


炎が、揺れる。

燃え盛るはずの炎が、まるで“押し返される”ように。


三歩目。


ズン、と。

大地が沈んだ。


炎の壁が――割れる。

挿絵(By みてみん)


焼き払われたのではない。

人一人が通れる程度の隙間を、ただ“力”だけでこじ開ける。


そこから、現れる。


金の髪に、白いマント。

そして――


『はぁ……あっちいなクソ』


まるで散歩の途中のような声音。


だが。


その踏み出す足下から、周囲の魔力が“逃げていく”。


濃密だったはずの空間魔素が、存在を拒むように薄れていく。


圧。


ただそこに立っているだけで、周囲の全てが平伏していく。

「自分より格下だ」と、理解させられるように。


『で?』

剣を、肩に担ぐ。

『それで止めれると思ってんなら、もう黙って死んでほしーんだけど』


ローレルは、答えない。

ただ――踏み込む。


地面が焼き払う溶岩となり、木々は内熱する木炭となる。


炎が、爆ぜる。

体の内側から、抑えきれない熱が溢れ出す。


アサヒから託された炎。

借り物などではない。


今この瞬間だけは――


“自分のもの”だ。


「――来い」

握った薙刀が、鳴く。

炎が、刃を飲み込む。

いや――刃自身が、炎に変わる。


『オイオイ勘弁してちょーよ……闇の魔人捕まえるつって国のジジイ達納得させてんだからさあ』


周囲の空気が焼け、

地面が粘り、

視界すら歪む。

その中心で、ローレルは構える。

静かに。


だが確実に、

この場の“核”として。


『……はぁ』


勇者はため息を吐く。

ほんの少しだけ、目が細くなる。


『あー……どおりで坊っちゃんの炎弱かったわけだよ』


剣を、ゆるく振る。

それだけで、空間が鳴る。

『お前が“持って”たんか〜』


その日、地図から一つの森が消える。

砂塵と化し、以降草木が生い茂ることは無かった。

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