第九話 コデマリオの一日
第九話
■■■■■■■■
今月の給金が出たから、送るわ。
ちゃんと、飯食ってるか?
予定よりも遠征部隊の帰還が遅れているみたいで、まだそっちへ帰れそうにはねえけどよ。
ちゃんと母ちゃんの墓、掃除しとけよ
最近は盗賊とかも増えてきてる。
自警団の活動は大変だと思うけど、俺がいない間は、お前がスズカケの兄ちゃんなんだからよ。頼むな。
コデマリオ
■■■■■■■■
「これ、頼むな!!」
書いた手紙と幾ばくかの銀貨を封で包み、配達人へ渡す。
「この手紙がアスカ村に到着するのは早くて一週間後くらいか?」
早足で去ろうとする配達人の背中に、声をかける。
配達人は立ち止まり、一瞬黙ったあと振り返った。
バツが悪そうな表情を浮かべている。
「どうでしょうか……最近は……その」
「ほら、あまり治安もよくないですし」
先日起きた、盗賊の事件。そしてオワリ領全域の治安悪化。
騎士団の多く……特に主力が不在というのが大きい。
「途中で手紙は行商へ引き継ぐのです」
「そうなのか!?」
「はい。行商はアスカ村まで真っすぐは行きませんから……早くても半月はかかるかと」
「そうか……まぁ。しょうがねえよな」
(最近、こういうことが増えた気がするな)
そんなことを思いながら、去ってゆく配達人を見送るコデマリオ。
「まぁ、大丈夫だろ」
「何が、大丈夫なんだ?」
「うぉ!!?」
突然の声に、驚き飛び上がる。
そこにいたのは、涼しい顔をしたトバリ。
「な、なんだトバリか」
「何だとは何だ」
「べ、別に……!!なんでもねえよ!!んじゃな!」
なんだか、あのガキの件以降。
トバリと上手く話せねえ。
『関係ない。』
未だに、あのときのトバリの発言は許せない。
でも――
ちょっと間違えちまうことなんて、いくらでもある。
年下で生意気。でもまだ見習い。
俺が先輩として、教えてやれば良い話のはずだ。そのはずだ。
だけど、上手く言葉が出てこねえ。
「そうか。ちなみにこれから訓練の時間ではないのか?」
「あ?そうだよ……」
「それなら、そっちじゃなくてこっちでは……?」
「……」
俺が進んでいた方向には、炊事場しかない。
「………便所いきてえんだよ!!」
もう引き返せねえ。
俺は迷わず炊事場へ突き進んだ。
「そうか……手洗も、こっちだと思うのだが」
(トバリの声なんて、聞こえねえ!!)
◆
「よーし、今日の訓練はここまでにしようかあ」
シンビーさんが声をかけてくる。
「うッス!!!」
兜を脱ぐと、涼しい風が頬をなでる。
「なんか肌寒くなってきたッスね!!」
「そうだなぁ。もうすぐクジラ期に入るし、どんどん冷えてくるだろうな」
「……団長たち、帰ってくるの遅くねえスか?」
「……そうだな。連合国まで距離があるとは言え、内容はそこまで時間のかかるものではないはずなんだけどね」
「どうやら、ウルタ山の吊り橋が落ちているらしいぞ」
この穏やかなのに猛々しい声は……
「ユーガオさんっ!!!?」
「うおっ!相変わらずうるさいなコデマリオ!」
ガハハと豪快に笑う姿。
「例の盗賊調査から、帰ってきてたんですね!!」
「あぁ……とは言っても、一時的に。だがな」
「何か分かったんスか!?」
「うむ。……やはり……いや、新参の盗賊団が結成されていたようで、これから壊滅作戦に入るつもりだ」
「そうだったんスね……!それなら俺らも!!」
「いや、主力もいないからな。お前らはここを守れとのことだ」
ユーガオの大きな手が、俺の肩に置かれる。
「お前の力が必要だ。頼むぞ、コデマリオ」
「俺の……?俺で、いいんスか?」
一瞬、言葉に詰まる。
それでも――
身体が震える。その一言で、全身に力が漲る。
「は、ハイッス!!!!!!任せてくださいっ!!!」
胸に手をあて、全力で声を出す。
「そうだ。ヨル様から聞いたのだが……トバリのことも、引っ張ってやってくれ」
「えっ」
「アイツは口数が少ないから誤解されやすいんだろう」
「だからこそ、お前の明るさが必要なんだ」
(ユーガオさん……)
「お、ユーガオ!」
「帰ってきてたんですね」
「調査はどうだったんだ!」
周囲の騎士たちが、ユーガオを見て集まってきた。
心なしか、騎士たちの背筋が伸びている。活気が宿舎に広がる。
なんだか、胸が熱くなった。
(俺も……ユーガオさんみたいな騎士に!)
「だけど、ウルタの吊り橋ってまだ新しくなかったか?」
「落ち方が妙だったらしいな」
「吊り橋を渡れないとなると相当な迂回をしなきゃならないな」
広間の隅で騎士たちが訝しげに呟いていたが、広間の声が重なり騒がしくなった宿舎では届かない。
その姿を、トバリは床を拭く手を動かしながら無言で見つめていた。
(仕方ねえな!!)
「トバリ!!今日飯でも行こうぜ!俺が払ってやるからよ!!」
「ん?別に構わんが」
「行こう」
「うわ!クコウいつの間に!?!」
◆
「なんだって!?!」
店内に、コデマリオの声が響き渡る。
お客さん含め、既に慣れてる店員はコデマリオの声では驚かなくなっていた。
「あのガキ、スグリちゃんって言うのな!!」
「トバリにだけ、懐いてる」
コデマリオが身を乗り出す。
「なんだよ、冷てえこと言っておきながら構ってやってたんだな!!」
「勘違いしちまって……なんか、悪かったな!!」
「勘違い?別に何も気にしてないが……」
「いや、なんでもねえよ!ほら、食え!!」
「最近は、修練にもついてきているし、飯も食うようになった」
「そうか……じゃあスグリちゃんのことはお前に任せるぞ!!」
「他力本願」
「うっせ!!」
なお、仕送りして財布が空っぽだったことを忘れていたコデマリオが、クコウへ頭を下げたのは言うまでもない。




