ジャパンでの修行④
時間が経過しついに最終日の一週間目の朝を迎えた。
「ふぅ・・・今日で最後か」
「なんだかあっという間だったのう、我は何か身体が軽い様な気がするぞ」
「へぇ、修行の成果かな」
ヤヒスとリャヒは笑顔で会話を交わしながら荷物を身に着けている。
「皆、良く苦行に耐えた、大したものだ、今日は特別な修行は無い、いつも通り尾根を通り、岩場を抜けて寺の裏に下山するだけだ、だが気を抜くなよ」
仙空は最終日も厳しい顔で全員を見渡した。
そしていつものように尾根を登り降りして岩場の前に差し掛かったところでヴィーシャが声を上げた。
「ねぇ、仙空、何か身体が変なんだけど」
「ぬ、何か体調でも悪いか?それならゆっくりと進むことにするか。
「そうじゃ無いの、身体がぬるいお湯浸かっているような、皮膚の周りにうすい膜があるような感じで、もう何にもへこたれないと言う気がどんどん湧いてくるの」
ヴィーシャの言葉に仙空は少し考えこんだ後で言った。
「成ったな」
「え?」
「ワシら修験者は悟りに近づくためにこのような行をしている、毎日毎日山中を歩き大地に寝ると、身体に変化が起こることがある、お前が言ったように、自分は万能の身体を手にしたような気分になることがある、ワシはそれで三日三晩歩きとおしたことがある、これが悟りに近くなったことなのか何であるかワシにはわからんが、自分では『成る』と呼んでおる」
その話に殆どの者は良くわからないと言う顔をしているが、マサカツはなにか訳知り顔の様子だ。
「ここから先は尾根伝いだ、錫杖がさしてある岩場から降りれば寺の裏に出る、ヴィーシャ、そこまではお前の好きなように進んでみろ」
「じゃあ行くわ!!」
ヴイーシャは仙空の横をすり抜けて尾根をかけ登っている。
「想像以上だな、ワシも後を追うか、他の者は普通に歩いて来るといい、岩場まで尾根を進めばいいからな、先に行く!!」
仙空はその体格からは想像できないほどの俊敏さで駆けてゆく。
「どうする・・・?」
「うむ」
ヤヒスとリャヒが会話していると、そこにフィスが割って入って来た。
「ワシはこの修行に少々物足りなさを感じていたところだ、ドラゴンは無尽蔵の体力があるからな、お先!!」フィスは俊敏にかけ出し先行のヴィーシャ達を追った。
「おーれも!!」
マサカツは小走りで後を付いて行く。
「お、俺も!!」
ヤヒスも後に続いて尾根を駆け上がる。
「む・・・どうするかのう」
リャヒがそう言いうとミードリが答えた。
「今日で最後です、体力を使い切って山を降り、投宿すれば寝るだけです、やってみましょう」
ミードリも小走りに進みその後を残された者が追って行った。
フィスは仙空に早くも追いつき、その横を抜き去って行った。
「お先だわ!!」
「むぅ!?何とすばやく俊敏な、まるでましらのごとし、ワシも速度を上げんとな!!」
「うん?先行がペースを上げたな・・・『成る』とはとどのつまりクライマーズハイ、ドーパミンやエンドルフィンが出ている状況だろうな」
マサカツは一人つぶやきながらペースを上げていった。
彼がペースを上げると後方の者も自然、ペースを上げることとなり結局は全員走ってヴィーシャを追っている。
岩場に差し掛かるとヴィーシャは跳躍で岩を飛び越え、錫杖を支点としてより前により早く滑るように走っていた。
「ぬむぅ・・・錫杖にあんな使い方があるとは・・・一時的な万能性とは言え恐ろしいものよ」
「ははは!!すごいすごい!!どんな動きもできるしすごくスローに感じる!!」
ヴィーシャはしばらく走ると錫杖が刺さった岩場にたどり着いた。
「はっはっはっフゥー、まだ物足りないわね、でもここで皆を待たないと」
次にフィスがヴィーシャの前に跳躍で着地すると笑みをこぼした。
その後に仙空が続き、時間が空いた後にマサカツとヤヒスが並んで走りこんで来た。
「ハァッハァッハアッ・・・ふぅーーーいや走ったな」
「ああ、気持ちいい位だな」
ヤヒスとマサカツは肩を組んで笑い合っている。
それにおっつけ残りのメンバーが走り込んで、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
「よし!降りるぞ!付いてこい!!」
仙空は岩場をかけおりて森林地帯に向かった。
彼はすべるように斜面を行きその後から黄昏パーティー一行が早い順に飛ぶように追ってきている。
やがて寺が見えてきたので仙空は速度を落とし、寺の敷地内に降り立った。
下りと言うこともあってか、後続は次々と合流してきて、最後にミードリとパムが駆けこんで来た。
「うーーーむ、大したものだ、今までにこの修行でここまでの成果を出した者たちはおらぬぞ、皆良くやった!!最終的にほぼ全員が『成り』に近いところまで到達したのだろう、これをもって修行は終了である!!」
仙空はそう言うと錫杖を突き立てジャリンと大きく音を響かせた。
この現象は私が登山をした時に体験した実際の出来事です。
誰もいない深山に入り、17-8キロの荷物を背負い往復20キロを歩いていました。
16-7キロ地点、帰りの行程でのことです。
脚はもつれて、痙攣して何度も転んでも歩くことをやめませんでした。
そうしているうちに、自然と足が走り出し、岩や階段を飛び越えているうちに、腹の底から大声を出して笑いながら走っていました。
何か変だと思い立ち止まると、身体全体がごくぬるいお湯につかっているような感覚がある事に気付きました。
また、皮膚の上にもう一枚皮膚があるような体感があり「今なら何者にも負けない」と言う感覚が沸き上がりました。
ですが挑むべき相手はいません、おむもろに立木にしがみつきメリメリと引き倒しました。
そこで自然と咆哮が上がりました、ですがまだ足りません。
今度は倒木に蹴りかかり半分ほど削り倒しました。
それをやり終えるとまた走ってそのまま駐車場に到達して即座にエンジンを回しました。
すると今度はレバニラ炒めが無性に食べたくなったのです。
「レバニラ炒めーーー!!」
と叫び続けながら運転をして2時間走り通しで帰宅しました。
それ以降の登山ではある程度任意に、その状態に持って行けるようになりました。
人体は不思議です、心技体どれも通常の人間を越えた部分に到達できます。
己の天頂を越えることが少なからずできたことを嬉しく思っています。




