二人のオリジン
カイン目の前の光景に驚きを隠せずにいた。
ユナ・アルカが慟哭を上げ声が途切れたかと思うと彼の身体を白く輝く粒子が巻き起こり粒子が龍のように上空に舞い上がる。
粒子は内巻きに巻き起こり全てを飲み込もうとしているようである。
粒子を発生させた当の本人は頭をだらりと下げ表情を見えない、
気を失っているのか。
そう思った矢先、アルカは顔を上げた。
その瞳の焦点は定まっておらず黒い眼が右往左往している。
さらに呼吸は荒く獣のように歯を剥き出し鼻筋に深い皺をいくつも刻んでいる。
(そうか。私を呼んでいたのは貴様だったか)
カインの口元が僅かに緩む。
(あの少年がオリジンだったとは)
脳内にロキの声が反響する。
(私以外のオリジンを目にしたのは初めてだ)
(しかし、今は覚醒したばかりであまりにも未完成。契約したジンもいなければ只の器のみの存在。更には器の力すらまともに制御出来ていない。マスターの足下にも及びません)
ロキが嘲笑うように鼻を鳴らした音が頭に響く。
(残念だ)
(何がです?)
カインの謎の発言にロキは困惑する。
(成長すれば良き戦士になっていただろう。だが、オリジンの力はあまりにも強大だ。生かしておけば必ず私の障害となり立ちふさがる存在となるだろう。もとより生かしておくつもりはなかったがな)
長刀を構え刀身を左手で支え刀身の先アルカに向ける。
深く息を吐くとカインの足下から湧き上がるように蒼い気が現れ、身体全体を覆う。
気は蛇のように軟体にゆらゆらと不思議な動きを見せる。
「うおおおおおおお」
アルカの地を揺らすほどの野太い声が響くとカインの身体に突如異常が現れた。
気の流れが止まり器におさまるロキの苦悶の声が聞こえてくる。
(マスター!これは…)
「どうした!ロキ」
ロキの突然の異変に思わず声が出た。
(あの少年に引き寄せられます)
「何だと」
アルカを覆う白い粒子は、範囲を広げ内巻きの速度を上げている。
まるで小さな竜巻がアルカを中心に巻き起こっているみたいである。
しかし、カイン及び彼の横で腰を抜かしているように驚く彼の三人の仲間は渦に引き寄せられるといった様子は見れない。
「どういう事だ」
(マスター。もう耐えれません)
脳内でロキが苦しげにそう告げると、カインは身体に付与していたセルシウス〈氷鬼姫〉ロキの加護が消失し生身の人間の姿に戻ってしまった。
強制解除され自らの身体から飛び出したロキの手を掴んだ。
ロキは、アルカに引き寄せられるように足は宙を浮いている。
この手を離せばアルカが巻き起こす粒子の渦にロキはのまれてしまう。
「ロキ!この手を離すな」
カインもろとも粒子の渦はのみこもうとしている。
(こいつオリジンじゃない。だとすればこの力は一体)
「くう」
粒子の渦の回転は更に速くなりのみこもうとする力は速さと共鳴して強くなる。
「マスター」
「ロキ」
離してなるものか。
そう思った矢先、渦の回転は極限まで加速する。
と同時にカインの手からロキの手がすり抜けた。
★
(何だこれは?本当にあのアルカなのか)
目の前でまきおこる神がかった光景に腰を抜かしたた呆然と見つめる事しか出来ない。
ユヒト、メミドも同じようにアルカが巻き起こすあの白い粒子の渦をただ呆然と見上げている。
アルカが巻き起こす粒子の渦に飲まれカインの身体から突如現れた蒼い髪をした女がアルカの元まで突風にさらされるように吹き飛んで来た。
「うおおおおお」
アルカは猛々しい雄叫びを上げるとその女の頭を鷲掴みにし頭から地面に叩きつける。
地面が隆起し女は身体をピクつかせやがて気を失ったのか動かなくなり、アルカを取り巻く白い粒子の渦も彼の身体を僅かに覆うほどのものとなった。
「何者だ貴様」
カインの問いに答えずアルカは首を揺らし視界を定める事なく立っている。
「何者だと聞いている!」
カインの怒号に反応したのかアルカの揺れていた首の動きがぴたりと止まり
カインを見据える。
その視点もただカインをまっすぐに見つめている。
カインは言葉を発するのを辞め、アルカと視線をぶつけ合う。
(アルカの奴、正気に戻ったのか)
そんな考えを消し去るかのようにアルカは再び雄叫びを上げて太刀を鞘から引き抜きカインに一直線に向かって行く。
「アルカ!よせ、やめろ」
オルワの声はアルカの耳に届く事なく、アルカはカインに向かっていく。
しかしその駆ける速度が尋常な速さではなく光のようである。
アルカは力任せに太刀を振り下ろし、カインの長刀とはぜ合い赤と青の火花が散る。
共に表情を歪め鍔せり合う。
アルカが朱雀隊総大将と競り合っている。
このような理解不能な状況下でもアルカがカインを競り合っている姿を見て何だか誇らしげな気持ちになる。
だが、カインの実力はやはり化け物じみていた。
押し合いを制し長刀をそのままの勢いで振り払いあの白い粒子に覆われ格段に力が上がったアルカを吹き飛ばした。
土煙を上げ20欣程吹き飛ばされたアルカは、その先で砂塵の中から現れまた向かっていく。
人間離れした速さで閃光の如く一瞬にしてカインとの間合いを詰める。
だが、そうさせまいとカインの横の一閃が放たれる。
アルカは、太刀の腹でその斬撃を受け流すとカインの懐に入った。
カインの表情が身の危険を察知し歪む。
地面すれすれの所からカインの顎先目掛けて太刀を振り上げるが、皮一枚でカインはそれを躱す。
しかし、僅かに体勢を後退させたその隙をアルカは逃さず身体を捻り懐に蹴りを入れる。
入った!
そう思ったがカインは左でアルカの足を掴みその身体ごと引き寄せようとする。
アルカは身体を捻り拘束を振りほどくとその体勢のまま宙でカインの脳天目掛けて蹴りを放つ。
当たった。
鈍い音が確かにした。
だが、命中したのはカインの右肩で彼はとっさに頭への攻撃は躱した。
アルカは、後転し一旦距離をあけた。
なんていう戦いだ。
息をのむ暇もない。
それに驚きなのはアルカがあのカイン将軍と対等にやりあっているという事である。
いやむしろ対等というよりも押しているそんな感じにも見える。
「あの小僧一体どうなっている?」
メミドが愕然としている。
「そんなの俺だって聞きたいよ」
アルカが剣の才能において相当なものを持っている事をオルワは訓練学校時代から気づいていたし見習い兵士時代からアルカは一度も立ち合いでは負けた事がなかった。無論、オルワ自身も何度もアルカに挑んだが今の今まで一度たりとも勝ち越した事はなかった。さらに言うなれば一太刀もアルカに浴びせた事はなかった。
オルワ自身決して弱い訳ではなかった。
アルカという天才の陰に隠れて目立たなかったが彼自身アルカ以外の立ち会いに誰にも負けた事はなかった。
訓練学校においてアルカに出会うまで自分は天才だと過信していた。
しかしながらアルカと出会い彼の才覚を知り、自分の底を知った。
そして、お互い友として力をつけ二人才能を買われ朱雀隊に入隊した。
アルカとは友として好敵手としてずっと共にいた。
誰よりも彼の性格、才能を熟知していたつもりであった。
しかし、アルカがこのような常軌を逸した力を持っているなんてオルワは知らなかった。
(お前は一体どこまで強くなるんだ)
オルワの内心は、妬みなどの邪な感情はなくただそんなアルカを羨み彼にたいして羨望の眼差しを送っていた。
しかし、その反面オルワの表情は何処か悲しげな影を帯びていた。
★
カインとアルカの太刀が激しく何度もぶつかり火花を散らす。
その太刀筋は常人の目で追う事など出来ずただ火花が散っているようにしか見えない。
カインの気分は高揚していた。
笑みが自然と溢れてくる。
ここまで対等に相手とやりあえるのは久しぶりである。
大抵の相手は大口を叩いても一太刀でけりがついてきた。
なのにどうだろう、この少年は。
何度も何度も攻撃を受け流し、更には反撃すら仕掛けてくる。
しかも、この僅かな間に成長している。
太刀筋の切れが格段に上昇している。
オリジンの力が目覚め本人の理性は飛んでいるが本能で向かってきている。
(この才覚恐るべし)
笑みを浮かべながらであるがそう思った。
よもや、計画を覆された事に対しての恨みなどどうでも良くなっていた。
今はこの時を楽しみたい。
この荒削りの強者との死闘を。
★
アルカが押されて来ている。
カインの剣筋が更に速くなる。
アルカも化け物じみているがそれ以上にカインの方が化け物じみていた。
アルカは恐らくあの白い粒子の力で身体能力が格段に上昇しているがカインは生身の人間なのにあの華奢な身体で長刀を信じられないくらいの速度で操る。
剣などでなく鞭のように刀身がしなって見える。
アルカの息が上がり徐々に後退し始めている。
心なしか彼の身体覆う白い粒子の範囲が狭くなっている気がする。
カインの斬撃に太刀を持つ手が跳ね上がる。
「アルカ」
オルワの叫び声と同時に
アルカのがら空きになった脇腹に刃が迫る。
鳥肌が立つ。
(危ない)
しかしアルカは地を蹴り、後退しそれを皮一枚で躱す。
それを見逃さないというように長刀の横一閃。
土煙が上がり、アルカが吹き飛ぶ。
すかさず、アルカの元にオルワは駆ける。
「アルカ無事か」
アルカは脇腹を少し斬られてはいるが無事であった。
脅威的な反射神経で防いだようだ。
「俺が分かるか?しっかりするんだアルカ」
オルワに目もくれず立ち上がるアルカに言う。
「逃げろオルワ」
「え?」
アルカの漆黒の瞳がオルワを捉えている。
その瞳には正気が宿っている。
「お前意識が」
「さっきの一撃でな。意識は微かにあったんだけど身体が勝手にな」
「お前のそれ何なんだよ」
オルワはアルカを取り巻く粒子をさした。
「俺が逆に聞きたいぐらいだ。訳が分からん、でも、力が溢れてきていつもの何倍の動きが出来る」
「勝てるか?」
気味の悪い笑みを浮かべたカインがアルカの帰りを待つようにしてこちらを見ている。
「無理だ」
きっぱりとアルカは言い切る。
「無理って」
「だから逃げろ。時間ぐらいは稼ぐ」
「お前を置いて逃げれないだろ」
「このまま全滅するよりはマシだ」
アルカは真実を述べていた。
彼が弱気な事を言ったをオルワは一度たりとも見た事がなかった。
しかし、今はこうも潔くカインと自らの力量を比較して勝てないと断言した。
実際そうなのだろ。
アルカの表情には疲労の色が見え始めている。
しかし、カインは息を一つも乱していないし、あれほど激しい打ち合いをしたのにも関わらず気味の悪い笑みをのぞいてはその表情は全く変化していない。
まだ余力はおおいにあるのだろう。
「次に全てを賭けるつもりだ。だから、お前はあの仲良し2人組を連れて逃げろ」
ユヒトはメミドを支えるように立ち、こちらに視線を送っている。
「言っておくが俺は死ぬつもりはない。勝てないとはいったがつまり死じゃない。
一矢報いてからお前らの後を追う」
アルカはカインを見据え粒子が太刀の方へと集中する。
「ならそれを見届ける義務が俺にはあるだろ。お前の友として」
「だから先に…」
アルカはそれ以上言わなかった。
オルワはこう言い出したら聞かない事を知っていたからだ。
アルカも相当の頑固であるがオルワもそれにひけを取らない頑固さを有していた。
「お前が倒れたら頼む」
静かに答えたアルカにオルワは黙って頷く。
★
吹っ切れた。
アルカの持つ太刀の刀身に粒子が集約し刀身が白く巨大な刃となる。
光りは闇を照らし邪気を払う聖なる刃のごとしである。
「うおおお」
「来い」
カインが光りの奥でそう口を動かした気がした。
「行くぞ!!!!」
地を蹴る。
白き刃を纏った太刀を地を裂くように縦に振り下ろした。
白き刃とカインの長刀がぶつかり合い白き光りが辺りを覆い尽くし烈風が吹き荒れる。
光りの中で二人のぶつかりあう音だけが響いていた。




