緋色の初陣3
「解錠」
アルカの声と共に宙に深紅の匣が舞い、太陽の光を集める。
オルワ、周囲を囲む兵士が一同に宙に舞う匣に視線をやった。
その時である。
「炎蜥蜴〈サラマンダー〉の息吹!」
深紅の匣が太陽も眩しく煌めき、周囲5飛をその光りで覆い尽くした。
竜の咆哮が平野全体に木霊し、深紅の匣からまるで竜の息吹を如く巨大な炎のが一直線に放たれた。
炎は、数多くの燐の兵士を一瞬にしてその肉体を燃やし尽くし。横幅2飛に渡るまで
地面を抉った。
オルワ、含め周囲の奇跡的に炎から免れた兵士はあまりの威力に腰を抜かして口をあんぐりだらしなく開いている。
「道は開いたぞ!走れオルワ!」
「お、おう」
敵の大将首への道筋にすっぽりと空洞が出来ている。
炎が抉った地面が大将首への道しるべとなっている。
兵士達が慌ててアルカ達を追うが、アルカの駆ける速さは尋常じゃない。
人間離れしていてまさに風をきるようである。
地を蹴る。
宙で敵の大将の顔がはっきりと見えた。
老練と思っていたが以外に若かった。
だが、そんな事もう関係ない。
大将の首、まっすぐに閃光が走る。
同時、アルカが地に降り立ち、太刀を鞘におさめる。
どさっと何かが地に落ちた鈍い音がした。
「将軍様!」
アルカは地に落ちている槍を手に取り首級を矛先に突き刺し天高く掲げる。
「我、敵将!討ち取ったり!」
そこからすぐにメミド軍が突撃し、司令塔を失った燐の軍が瓦解するのは速かった。
★
自軍の兵が敵の残存兵を追いかけ回している。
殆どの残存兵が中央軍に吸収された。
「大手柄じゃないかアルカ!」
肩を力強く叩かれ思わず前のめりになる。
「これぐらい対した事ない。〈ラタトスク〉になるにはこれぐらいで喜んでいるようでは駄目だ」
手柄を上げたというのに顔色一つ変えないアルカを見てオルワは言った。
「気取るなよ、喜べる時に喜んでおけ。それにしてもお前あんなのどうやって手に入れたんだ?」
「幻匣の事か?」
「幻匣なんてそう簡単に手に入るもんじゃないだろう」
「昔、友人に貰った。困った時には迷わず使えって」
「貰ったってお前…そう簡単に貰えるような代物じゃ…」
オルワの言葉を掻き消すように凄まじい爆発音が中央の方で鳴り響いた。
「な、何だ?」
爆発音に続いて稲光が起こり、戦場を蒼白い光りが覆う。
閉じた瞼を開くと戦場の中央に巨大な身の丈15欣(1欣=1メートル)もあろう強靭な岩の皮膚に覆われた岩巨人〈ゴーレム〉が突如姿を現し耳を覆いたくなる程の雄叫びを上げる。
「ジンだ!」
(燐の軍に召喚士〈サマナー〉がいるのか?まずい…戦況が変わる)
サマナーとは、ジンという魔物を使役する力を有した者でその数はある理由により極端に少ない。
しかし、サマナーの力は強大でその力が強ければ強いほど複数のジンを同時に使役したり、また位の高いジンを使役する事が出来る。
優秀なサマナーが一人いるだけで戦況が優劣が変わる事も少なくはない。
ゴーレムは、巨体に比べて米粒ほどしかない小さな翠色の瞳を光らせ大木のように太く長い右腕を振り上げる。
「おい、アルカ!まずいんじゃないのか?あんな化け物をまともに相手じゃ、幾ら精鋭揃いの朱雀隊でもひとたまりもないぞ」
ゴーレムを召喚したサマナーがジンの近くにいるはずだ。
尚かつ数が少なく貴重なサマナーは、燐の兵士により総大将を囲う守備に近いくらいの規模の固い守りに守られているはず。
なら、自ずとと居場所は分かる。
いた!
ここから約10飛ほどの場所である。
敵片の総大将が陣取る場所からそう離れていない場所に剣堅牢な守備をする隊が見える。
彼処にサマナーがいる。
しかし、今回は先のような無茶なやり方は出来ない。
中央の軍勢は、二万は越えている上、守備もはるかに堅牢である。
あの中に斬り込めば今度こそ間違いなく蜂の巣にされる事は目に見えている。
「やばいぞ!アルカ!」
オルワはゴーレムの方を指さし叫ぶ。
ゴレームの巨大な右腕が振り下ろされようとしている。
黎の中央軍はそれを避けようと隊列を崩し、皆我れ先にと後ろに下がろうとしている。
雷鳴の如く轟音が鳴り響くと同時に地が激しく振動する。
ゴーレムの右腕が地面に叩きつけられ、衝撃波までも生んだ。
砂煙がアルカ達の所まで巻き起こり目を開いていられないほどである。
中央軍は隊列を崩し逃げ惑う。
幾ら、朱雀隊でもあんな化け物に対抗しうる術は持たない。
隊列を見出し混乱状態に陥る中央軍を、燐軍が急襲する。
燐軍が完全に黎軍の包囲を崩し肉薄している。
「おいおい。まずいぞ…このままじゃ負けちまう」
オルワは目の前の光景に唖然としている。
アルカが配属されたこのメミド軍のメミド将軍もどう指示を出したらいいか分かっていない状態だろう。
指示が一切飛んでこない。
ただこの場に全員がなす術無く見守っているという感じだ。
(初陣で敗戦なんて洒落にならないし、幸先が悪すぎる。どうすればいい…どうすれば)
「おい!アルカ!」
ゴーレムに目掛けて戦場を駆ける一筋の蒼い閃光が見える。
閃光は、凄まじい速さで戦場を駆け蒼い光りを残光として残し、燐の兵士の死体を後に残していく。
何が起こっているか理解出来なかった。
彗星が駆けているという例えが1番分かりやすいだろう。
閃光は、突如、天に昇りゴーレムの目の高さまで昇るとぱっと閃光が弾けその中から黒髪の長髪の男が姿を現す。
男はおそろしいほど長い(刀身だけで約2欣ぐたいだろうか。)太刀を凄まじい速さで抜刀し宙を一閃する。
斬撃が蒼い光りを帯びてゴーレムと衝突した。
★
「どうなってんだ?」
アルカは自分の目の前の光景を疑った。
ゴーレムが太古の氷塊の如く厚い氷で体全体を覆われているからである。
あの長髪の男が蒼白い閃光を放ってからゴーレムの身体の動きが次第に鈍くなり、
しばらくするとゴーレムの巨体を氷が覆いつくした。
その凍結したゴーレムの頭の上に、長髪の男が眼下を見おろすようにその長い髪を風に靡かせ見下ろしている。
「あれって…」
オルワが覚えがありそうな含みがある言い方する。
「知ってるのか?」
「実際に見た事はないけど話に聞いた人物像と一致してる」
あんな化け物を一瞬にして氷漬けにしてしまう男。
ゴーレムより遥かに化け物じみた力を持っている。
一体どうすればそんな事が可能なのか?
「カイン・ジュリス」
「カイン・ジュリスだと」
名前を聞いて驚愕した。
カイン・ジュリス…その名を知らないはずはない。
彼はアルカ達が所属する〈四獣〉朱雀隊の総大将であり国の英雄でもある。
そして今はこの遠征軍を指揮する総大将でもある。
あれがカイン将軍。
ラタトスクを目指すなら必ず越えなければならない壁。
アルカはゴーレムの頭上に悠然と立つカインを見据える。
(上のはあんな奴がいるのか)
物怖じしてはいない。むしろ心が燃えたぎっている。
同じく〈四獣〉の玄武、白虎、青龍の隊の総大将は同格の力もしかするとそれ以上の力を持っているかもしれない。
では、それを凌ぐ武神ラタトスクの力とは一体…
想像しただけでも鳥肌が立つ。
「越えてやる」
アルカの決意の呟きがまるで聞こえたかのようにカインがゴーレムの頭上で微笑し、ゴーレムの頭を蹴るように跳んだ。
すると、カインが均衡を守る重しだったのかゴーレムがバランスを崩し後方に倒れていく。
後方に敵の軍が固まっていて更には、当初の目的であるナラシンハの堅牢な城壁がある。
ゴーレムの巨体が城壁の上に倒れ、破壊音と共に城壁が音を立てて崩れて行く。
その隙を突くように、朱雀隊が隊列を瞬時に立て直し、散開する燐軍に突っ込む。
そこからナラシンハを制圧するのにそう時間はかからなかった。
切り札的存在であったゴーレムを崩された燐軍の兵士の士気は下がり切っていた。
左翼軍、中央軍、右翼軍がたたみ掛けるように燐の中央軍に突撃すると燐軍を圧倒的なまでに蹂躙した。
そして、3明後(1明=1時間)
ナラシンハは、カイン・ジュリス率いる制圧軍によって完全に制圧された。
★
ナラシンハ内 黎軍臨時駐屯地
「この馬鹿者共の首を刎ねろ!」
アルカ、オルワは四人の兵士達に乱暴に腕を掴まれ石畳の上に無理矢理に座るように押さえつけられた。
「ふざけるな!離せ」
アルカは抗おうとしたが首元に槍の矛先を突きつけられた。
憎悪の感情をありったけこめて目の前のメミド将軍を睨みつける。
「俺達が何したって言うんだよ」
メミド将軍は、顔を熟れたトマトのように赤く火照らせ、声を震わせている。
「貴様等がした事は立派な軍規違反だ。指令もなしに新兵ごときが勝手な行動しおって!貴様等の勝手な行動で軍全体が危険に晒させれる可能性もあったのだぞ」
メミド将軍は、唾を四方八方に飛ばしながら激昂している。
「でも俺達は燐の将軍の首を取った。それにあのまま全軍で突撃していれば確実に潰されてた」
「何を言うか!我らの軍が圧倒していた。あと一歩でこの私が、この手で手柄を上げれたというのに!貴様等が余計な事をしよったからに…」
(駄目だ。こいつは…戦下手な上に器も小さい。)
メミド将軍がこれほどにまで激昂している理由は、軍規違反とは口実で本当は自分があげるはずであった手柄をどこぞの新兵に横取りされ悔しい。と言った所だろう。
(この将軍の下につく兵士達も気の毒だ)
オルワも同じような事を思っていたみたいで、アルカと視線を合わし呆れ顔をしている。
「あのままの戦を続けていれば間違いなく多くの兵が死んでいた。無能な大将のせいでだ。俺達はそれを何千もの仲間の命を救ったんだ。逆にあんたに感謝されたいぐらいさ」
アルカは無能で哀れな貴族上がりの将軍に軽蔑の意を込めて鼻で嗤って見せた。
メミド将軍の顔色がこれ以上はないだろうと言うぐらい赤く染まり、右頬の筋肉が一定間隔でピクついている。
「貴様!!!この場で処断してくれる!!」
メミド将軍は天にまで届くかと思う程の怒号を上げ、剣を鞘から抜いた。
が。副官らしき男がさっと間に割って入る。
「お待ち下さい!メミド将軍」
「ならぬ、ユヒトよ!!そこをどけ!私の手でこの生意気な小僧を処断しなければ気がしまぬ」
「なりません!」
ユヒトと呼ばれた副官らしき男は、無能なメミドに仕えているとは思えなほどの聡明な顔つきをしている。
「なぜだ!?」
「この者達は朱雀隊の者です。どんな理由があろうと朱雀隊の承諾を無いまま処断すれば後々厄介な事になります。確かにこの者達は軍規を乱しました。しかし、この者達が単独で首級を上げ勝利の流れをこちらに導いたのも事実であります。
将軍の心中お察し致しますがここはどうか冷静に」
「う…」
朱雀隊という言葉にたじろぐメミド将軍。
確かに、朱雀隊が持つ他の軍を比べ物にならない権限を知っていれば彼が怯むのは無理がない。
それを理解しているからこそアルカはこれほどまでに強気な態度に出られるのだ。
「俺達は確かに新兵だけど腐っても朱雀隊の兵士だ。人員不足の軍に兵士を貸した上、朱雀隊の許しもなしに兵士二人の首を刎ねたと、なれば朱雀隊と黙ってはいないだろうな。あんた将軍の座から引きずり降ろされるよ」
アルカの言葉にあれほどまで赤く染まっていたメミド将軍の顔色が今度は蒼ざめて行く。
「君達は黙っていろ!!口を開けばこの私が君達の首を刎ねる!」
ユヒトが突然発した怒気にアルカとオルワは思わずぎょっとなった。
「しかし…許しがたい」
「お気持ちは分かります。しかし、ここはもう一度冷静に…どうか。」
「それぐらいにしておけ」
突如、別の声がし二人の男と一人の女性が姿を見せた。
一人は、左の頬に古い刀傷があり、鷲のように鼻が高く不適な笑みを浮かべている
もう一人は、手には恐ろしく長い長刀に女のようにしなやかで長く艶のある髪、その下に隠れる顔は、女性的で瞳の色は深海のように蒼い。美青年という響きがぴったりであり長く美しい黒髪の影響もあってか妖艶さを感じる。
そして、その男の後ろに影のように存在感を消し佇む女性。
瞳は先の男と同じ深海の蒼で長い髪も瞳の色に合わせるように蒼い。顔は黒い仮面で覆われている為、確認できない。
純白のハンジュ(女性の着物みたいなもの)を身に纏っている為、人間離れした蒼い髪がより一層目立って見える。
アルカ、オルワは二人同時に唾を飲んだ。
言葉を発した男。
それは、長刀に長い黒髪の男
これほど長い長刀を持つ者は他にはいない。
先の戦でゴーレムを一撃で仕留めた朱雀隊総大将カイン・ジュリスである。
そのカインを含めた三人がメミド将軍の横に並んだ。
紅と漆黒の鎧を纏っているカインは女性的で華奢な体つきをしているのにも関わらずカインが放つ存在感は凄まじい。
全て萎縮させる存在感を放ち、針の穴ほどの隙も見当たらない。
おそらく千人いや一万人束になったもこの人には傷一つ与える事は出来ないだろうそんな気さえする。
剣術や槍術、何でもそうあるが才能ある者は、戦うより以前に相手の気である程度の実力は測る事が出来る。
アルカは、それが幼少の頃から出来ていたし、実際、剣術において人並み外れた天稟を持っている。
だからこそ分かる。
この人には勝てない…
強いとかいう次元じゃない。
化け物だ。
知らず内に額から冷や汗が流れ出してきている。
相手の存在感に対して完全に心が萎縮してしまっている。
「メミド…その者達を離してもらおう」
女のような顔には不釣り合いの渋く深みのある声でカインは言った。
「しかし、この者達は一介の兵にも関わらず独断で動き…」
言葉につまるメミド将軍。
どうやらメミド将軍も完全に萎縮してしまっているようだ。
「何だ?」
顔色、声色共に変えずカインは尋ねる。
「それは…」
「この者達が戦の流れをこちらに引き寄せたのは事実。こやつ等が首を取らなければ貴様の軍は敵の策に嵌められ壊滅を余儀なくされていただろうな」
淡々と語るカインは一見、無感情に見えるが蒼色の瞳は相手に有無言わせないほどの威圧を放っていた。
「う…」
あれほど喚き散らしていたメミド将軍もカイン将軍の前ではぐうの音も出ないようである。
「さて」
カインの瞳がアルカを捉えた。
ぎょと身が引き締まる。
「お主等、我が隊のものであるな。新兵か?名はなんと言う」
「ハル・オルワです!お目にかかれて光栄ですカイン大将軍」
と我先にオルワが言う。
オルワの瞳は子供のようにキラキラと輝いている。
「貴様は?」
「ユナ・アルカ」
「首級を上げたのはお前だな」
カインは何かを探るようにアルカを見つめる。
「はい」
アルカは簡潔に答えた。
暫く二人の間に沈黙が流れる。
その間、アルカはカインとお互いを品定めするように視線をぶつけあっていた。
すると初めてカインの表情が和らいだ。
「気にいった、ユナと言ったな。何が欲しい?」
カインの突然の質問をアルカは理解出来なかった。
「褒美をくれてやると言っている」
「アルカ凄いぞ」
オルワが興奮気味に耳元で呟いた。
「金か?」
「俺はそのあなたの刀と地位が欲しい」
迷う事なくアルカは言った。
その言葉に辺りの空気は一瞬にして凍りつく。
「お、おい。アルカ…正気か?」
口をわなわなと震わせるオルワ。
メミド将軍、ユヒトも目を丸くし驚いている。
「あの、カインしょ、大将軍。すいません。こいつカイン将軍を目の前にして緊張してしまってるみたいで。ほら、お前も謝れ!」
必死に場を取り繕うとするオルワを気にする事なくアルカは言った。
「それ以外にはいらない」
殺伐とした空気が辺りを漂う。
静寂が辺りを包む。
突如、その静寂を破るようにカインが大声で笑った。
「面白い、面白いぞ。小僧!ますます気にいった。だが、この刀はやれないな」
カインは新しい玩具を見つけた幼児のような生き生きとした表情をしている。
「どうしてですか?」
「仮にこの刀を貴様に譲った所でこの刀を貴様は扱う事はできまい。武器という物は自分に一番合う形の物を選ばなければ意味がない。それは貴様とて理解しているだろう」
「はい」
「その太刀も悪くないと見える。私のこの長刀を求めるよりもその愛用の太刀を大事にしろ。貴様にはそれが合っている。そして、私のこの地位を望むならまずは自分の力でここまで上がって来い。その時は、貴様の要望通りこの地位を貴様にくれてやろう」
「本当ですか?」
「ああ。貴様が死なずにここまで上がってくる事が出来たらな」
カインは嘘を言っていない。
根拠はないが直感的にそうアルカは感じた。
まるで朱雀隊総大将という地位に何の思い入れもないと言いたげである。
「その言葉忘れないで下さい」
「ああ、覚えておこう」
アルカとカイン二人のやり取りに周囲の皆が呆気にとられている。
「メミド将軍!」
「は!」
カインに名を呼ばれたメミド将軍は、はっと我に返り敬礼の形を取る。
「この者達を解放してもらおう。この者達が独断で動いた事に対しては私がそれなりの責任を取る。しかし、お主も武人なら分かるだろう?才のある若者を潰してしまう事こそ罪であると」
「はい。カイン大将軍のお言葉のままに」
「礼を言う。お前達二人は本隊に合流しろ。朱雀隊は王都ラングルに帰還する。
ウルド将軍、メミド将軍はナラシンハにこのまま駐屯し警備にあたれ。この場の指揮はウルド将軍に委任する」
左頬の刀傷のある男、ウルド将軍は僅かに笑みを浮かべ敬礼をする。
「大将軍。ナラシンハの民はいかほどに?」
とウルド将軍は両手を商人のように擦り合わせ尋ねる。
アルカは理由はないがこの男が嫌いだと思った。
何かを企んでいるような嫌らしい笑みに死んだ魚のような光りのない瞳。
腹の底では何を企んでいるか分かったもんじゃない。
本当にこの男にせっかく落としたナラシンハの警備を任せてよいものなのか。
「好きにしろ」
「は!」
カインの言葉に頭を下げるウルド将軍。
しかし、その隠れた表情は口が裂けるほど笑みを浮かべていた。




