緋色の初陣2
「何ぼけっとしてんだ!死にたいのか」
肩で息をしながら1人の少年が近づいてくる。
「オルワ」
オルワは今回共に初陣を迎える事になった同期のようなものである。
彼の得物である青龍刀は、どす黒い血で本来の光沢を失っている。
「何人殺した?」
頬についた血を拭いオルワが尋ねる。
「数えたくもない、何人雑魚を斬ろうが戦況は変わらない。こんなジリ貧じゃ無駄に疲弊するだけだ」
「その通りだ」
話の腰を折るように五人の兵士がアルカ達を囲むように距離を詰めてくる。
敵の兵士の一人が背に掲げる旗には燐と刻まれている。
「黎の狗が…昔年の恨みここで晴らしてやる」
しゅーしゅーと荒い息を吐き距離を縮めてくる。
その瞳は、憎悪に塗れ赤く充血している。
黎に侵略を繰り返されている燐の民は、黎の民に対しての恨みは相当なものだろう。
アルカ自身、燐の民に対して恨みはない。
だが、ここで大人しく殺されてやる訳にも行かない。
志の為にも。
勝負は一瞬で片がついた。
まるで舞を踊ってくかのような華麗な身のこなしで二人の兵士が同時に突き出した槍先をオルワが躱し二人の首を飛ばす。
オルワに三人の兵士の意識が向いた隙を突き間合いに入る。
時すでに遅く、アルカは一太刀で三人の首を同時に飛ばして見せた。
「さすがだな。アルカ」
「・・・」
「どうしたアルカ?」
「お前この戦況をどう見る?」
「どう見るって均衡は保っているものの悪くないと思う。いやむしろ押しているだろ」
アルカは緋色の手甲にこびりついた血を拭い、戦場全体を見渡すかのように目を細めた。
「俺は違うと思う。あちらの大将はそれほど優れてはいない、だが老練だな。それなりに場数を踏んでいる」
「どういう意味だよ?」
「あちらは俺達が疲弊しきった所を一気に叩くつもりだ。あまりにもこちらが攻めた時、あっけなく向こうの陣形が崩れていると思わないか?」
「そう言われれば確かに」
「一方で、こちらに攻めてくる時は、苛烈な攻撃する。一気に畳み掛けるのかと思うとその勢いが嘘かのように一瞬にして退却する。それを何度もくり返す。そして、俺達の軍が疲弊していく」
「なるほど」
「そして、疲弊し切った所を誘い込む。後方から何処かに隠れているだろう遊撃隊が現れ、囲い込み一気に叩く。俺達の隊は総崩れって訳だ」
「おっかねー」
オルワが肩をがたがたと震わせる。
「だがよ、こちらの大将もそんな事分かり切ってるんじゃないのか。あえて誘いに乗ってるって場合も」
「ないな」
即答した。
「見てみろよあの馬鹿面」
アルカ達の約4飛(1飛=100メートル)
先には、左軍を任されている将軍メミド将軍が数多の騎馬兵に守られている。
その騎馬兵の中央に派手な豪華なとても戦争しに来たとは思えない鎧を身につけて騎乗している姿が見れる。
鎧兜の下にあるその表情は、高慢気質で嫌らしい笑みを浮かべている。
「駄目だな。ありゃ」
「あの〈四獣〉の朱雀隊に配属されたのに何であんな馬鹿の下につかないと行けないんだ」
アルカは吐き捨てるように言った。
「仕方ない。中央の朱雀隊の本隊は充分な数がいる。俺達は朱雀隊に配属されたって言っても新兵だし人出のいない所に回せられるさ」
事実、中央軍、右軍は、苛烈な衝突が何度も行われいて、
優勢だと聞いている。
遅れを取っているのはメミド将軍が率いる左軍だけで、遅れを取るばかりか敵の策にまんまと嵌められかけている。
「だけどあんな無能な奴の下で初陣なんてな」
「確かにな、家柄だけで出世した奴だって聞いた。だけどどうする?」
「何がだ?」
「上官が使えないなら俺達どうすんだ?黙って従ってる死を待つのか?」
「まさか!俺等だけで大将首を取るんだ」
狙うは大将首。
8飛程先に、一際大きく目立つ燐の旗が掲げられいる。
そして、その先に見えるのは燐の城郭であるナラシンハ。
城郭を守る高く堅牢な石造りの壁、鉄製の巨大な門。
あの城郭を落とすことが今回の遠征の目的でもある。
ナラシンハを制圧する事ができれば燐の首都バラクを攻める為の重要な足がかりになる。
「その言葉待ってたぜ」
心なしかオルワは何だか楽しそうである。
「どっちが先に首を取るか勝負だ」
「上等だ」
「死ぬなよオルワ」
「お前もな」
「行くぞ」
アルカとオルワは雄叫びを上げ単騎で敵陣に正面から突っ込んだ。
★
メミドは馬上で内心ほくそ笑んでいた。
どこからどう見ても敵陣は疲弊し、こちらの軍の勢いにのまれている。
幾度か攻められていたはものの、自軍の守備を崩すせず軍を引いていく。
そして、今が敵陣を崩す絶好の機会である。
敵は、退がる所まで下がっていこちらの出方を伺っている。
(どうやら私が1番乗りのようだ)
メミドは、横目で蔑むように、朱雀隊で構成されている中央軍を見た。
中央軍は、敵方の中央の軍と苛烈な衝突を繰り広げている。
(何が朱雀隊だ。対した事ないではないか…〈四獣〉かなんだかしらんが王室直属の部隊だからって図に乗りおって!このメミド様が貴様らに戦というものを見せてやるわ)
大きく糞まずい空気を肺一杯に吸い込む。
「全軍!突…」
「メミド様!あれを」
副官のサルフが割り込むように叫んだ。
「何じゃ!」
この場で斬り捨ててやりたいくらいの苛立ちを抑えサルフが指刺す方向に視線を送る。
「何じゃあれは」
視線の先には、あろうことか二人の少年兵が単身で敵陣の方に突っ込んでいく。
身につけてるのは緋色の鎧。
朱雀隊のものである。
対峙するのは、七千。
それを単身2二人で。
★
先頭の兵が慌てて、盾と長槍を構え前に突き出す。
敵方が慌てるのも無理はない、まさかたった二人の兵士が単独で突出してくるとは夢にも思わないからだ。
敵方だけではない、自軍もそうである。
いきなり上官の指令もなし、名もなき少年兵二人が敵陣に突っこんでいくのだ。
少々混乱が起こっているに違いない。
だが、今はそれでいい。
あのままメミド率いる八千の軍が敵陣に突撃していれば敵方の策に嵌り総崩れを起こしてした。
そうなればアルカ、オルワも自軍と共に心中していた事になる。
「跳べ!オルワ」
アルカとオルワは地を蹴り高く跳躍する。
眼下には、彼らを串刺しにしようと兵士達が天に長槍の矛先を向けている。
二人は共に、宙で宙返りをして見せ、少し開けた場所に着地すると同時に太刀を抜き間髪入れず3連撃で三人の兵士を斬る。
「ここまで無茶するって事は何かあるんだろ?」
オルワと背中合わせになる。
周囲には何千という兵士が彼らを中心に円になるような形で囲んでいる。
「ここでお前と心中は嫌だぜ」
「ああ、それは俺もだ」
アルカは何かを探すように周囲を探る。
(見えた!)
3飛程先に大きく目立つ燐の旗。
「見てろよ」
アルカは腰もとの巾着袋から一つの赤く四角い小さな匣を取り出した。
その特殊な匣にオルワの視線が思わず釘付けになる。
「アルカ…お前それって」
アルカは答えずただ小さく頷いて見せた。




