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刹那刀 黎の地に立つ

トウレイを出発して十日後…


アルカ達一行は、東の渓谷にさしかかっていた。

眼下には清流が流れ、アルカの後につくように三台の荷馬車それを守護するように1百人余りの傭兵達が前後中央にいる。


ギルドの依頼の中でもこれほど大所帯の編成を組む依頼は少ない。

しかも今回、アルカを含め九聖竜が三人招集されている。


きな臭い…


「おい、刹那刀」


思考に耽るアルカに声がかかる。


馬を寄せてくる青年が一人。


綺麗に刈り上げられた坊主頭。

太陽の光を反射する程である。

白馬に乗りその手には長い棍。


九聖竜の一人。

棍竜王棍使いのタシムである。

太い眉に人を食ったような笑みを浮かべている。



気さくであるが気に隙はない。


気は常に張りつめている。


優れて武人の証拠である。


柔軟かつ堅牢の気を放っている。


「何だ?」

アルカはぶっきらぼうに答えた。


長時間、馬に乗っている為尻が痛む。

しかも、荷馬車の警護という事でだらだらと歩を進めなければならない。


それが余計に苛立ちを募らせる。

思いっきり駆けてやりたい。

この十日の間に何度思った事か。



「そう苛々するな。なあ、今回の件お前はどう見る?」


「どうってあの荷馬車の中身の事を言ってるのか」


「そうだ。これまで厳重な警護を引き大金をはたいても黎に運び込まなければならない品物。匂わないか?」


「そんなのお前だけじゃない。ここにいる全員が思っているだろう」


「違う、そう言う意味じゃない。何だか臭いんだよ」


タシムは鼻を犬のようにぴくつかせた。


確かに。


あの荷馬車からは何か異様な臭いがする。


鼻を覆いたくなるほどではないが、不快な臭いが漂っている。


あの荷馬車の中身がろくでもない品物なのは容易に想像がつく。


しかし、あの荷馬車の中身の事などどうでもいい。


あの荷馬車の中身が何であろうと無事に黎に送り届ける事が任務なのである。


荷馬車を黎の地まで送り届けさえすれば再び黎の地に立つ事が出来る。


二年振りに黎の地に…


父と母はユミルは元気だろうか。


故郷に何度想いを馳せた事か。


もうすぐだ。

もうすぐ黎に…


突然、何処からか殺気を感じた。


「おい、刹那刀」


タシムも殺気に気づいたようで眼光が鋭くなる。


(何処からだ)


殺気を探るが辺りに何者の影も見えない。


「アルカ」

メミド、ユヒトが険しい表情で馬を寄せる。

二人も気づいている。


この二人の感覚は二年前と比べ遥かに鋭くなっている。

常に依頼で死地に送りこまれていたせいか、二年前と別人のように強くなっている。



「ここは渓谷。眼前に敵の姿はない。だとすれば上だ!」


アルカは天を仰いだ。


頭上の崖から複数の人影が見える。


「うわ」

隊列の中から叫び声が上がる。


巨大な岩が三つ隊列目掛け落ちてくる。


それに続くように縄で身体を縛った賊共が岸壁を伝うように何百という数が降りてくる。

その数は、この隊列の数を越えていて上には、まだ人影がちらついている。


「ユヒト、メミド、タシム。ここを頼む」


「頼むってどういう意味だ?」


タシムは驚き暴れ回る馬をなだめる。


「俺は上の奴等を殺る」


アルカは素早い身のこなしで馬から降り、膝を折り力を蓄える。

すると、白い粒子がアルカの足下から渦を巻き刀を持つその手にも粒子が宿る。


「おい、刹那刀それは」


「今は説明している暇はない」


アルカが地を蹴った。


矢のような速さで天を飛び剣を抜く。


眼前に巨岩が迫る。


白い閃光が走り巨岩を真っ二つに切り裂く。


二つに砕かれた巨岩は眼下の遥か下に見える川に落ちていく。


あと二つ。


アルカは岩壁を蹴る。


岩壁がアルカの足形にめりこむ。


白い粒子を纏った刀でもう一つの岩を斬る。


宙で身体を捻る。


「まずい」

もう一つの岩が隊列に迫っている。


巨岩が隊列に突っ込む。


そう思った矢先、巨岩が真っ二つに割れ眼下に落ちて行く。




岩を砕いたのは後方を警護していた鳥王のロシムであった。


顔に一筋の傷があるロシムの鋭い視線がアルカに向けられた。

両手に持つ羽のように沿った刃が太い双剣はまさに翼のようである。


双翼刀の刃先を天に向けた。


「いけ」

そう言っている。


「ふっ」

アルカはロシムを一瞥し岩壁を蹴った。


太陽まで届いてしまいそうな跳躍を見せると崖へと降り立つと100人を越える

賊が待ち構えていた。


皆、その身は瘦せこけ衣服は古びていて裂けた服を着ているのもほとんどである。


岩壁を迫り上ってきたアルカに対して驚きはしているが

その目は皆血走り餓えた獣のようにぎらついた輝きを見せている。


対した気を放つ者はいない。

食いぶちをなくした者どもが集まり賊と化しただけの連中だろう。


この程度の賊の集団なら燐にはごまんといる。


見る限り、中心となって指揮をとっている者をいないようだ。


この峡谷を通る商人などを相手に強奪などを行っているのだろう。


ギルドの依頼でこの程度の賊は嫌という程相手にしてきた。


「やれやれ」


思わず声になる。


賊という者は幾ら弾圧しようが国が病んでいる限り、賊という存在がなくなる事はない。

彼らだって元は農民、兵士、商人なのである。

国に巣食う人の数だけ賊が生まれる可能性がある。


治癒するには国が平定するしかないのだ。


だが、今の黎や燐ではそれが出来ない。


いたちごっこを続けるしかない、現状にある。


崖の下からは、剣と剣がぶつかり合う音、人の叫び声、交戦の模様が耳に入ってくる。


「やめておけ。この隊はギルドからの要請で傭兵達で編成されたものだ。お前らみたいな剣の扱いもまともに知らない半端者共が勝てる相手じゃない」


とは言ったが相手はまともな飯にありつけず餓えた者どもだ。


説得出来る相手じゃない。


「殺せ」

一人が掛け声を上げると100人余りの賊が一気にアルカ目掛けて流れこんで来た。


「俺は忠告したぞ」


アルカはため息を吐き刀を抜く。


両脚に白い粒子が集まり渦を捲く。


アルカが消えた。


白い閃光が縫うように賊の間を駆ける。



悲鳴と共に骨が砕けるような鈍い音が駆ける閃光の後を追うように次々とあがる。


「うぎゃ」

「うわ」



一瞬の事であった。


呼吸として

三つ。


三呼吸の間にそこにいた全ての賊が地面に倒れ込み苦悶の声を上げていた。


「痛い」

「痛いよ」

「助けて」


その表情は皆、苦痛に歪み中には涙を流しているものもいる。


アルカが風を切り裂く音と共に賊達の背後に姿を見せた。


刀の空を斬るように払う。


刀身には一滴の血もついていない。


「峰打ちだ、命までは取りはしない。骨は砕いたがな。この先、生きるも死ぬもお前等しだいだ。後は勝手にしろ」


下が静かになった。


片付いたか。


アルカは刀を鞘に収め腕や足を抑えながら呻く賊に目もくれず縫い歩き、

崖から躊躇する事なく飛び降りた。



★


それから五日、行軍を続け峡谷を抜け、平野を抜け一行は比較的、舗装された道へと出た。


五日の間、二度程賊に行軍を妨げられたが一人の傭兵も欠ける事なく蹴散らした。



「なあ、刹那刀」

タシムが馬を寄せる。


この道はどうやら商人が比較的よく通る道らしく商人が率いるキャラバンが行き交っている。

それでも、アルカ達の隊の規模がずば抜けて大規模でキャラバンを率いる商人が

アルカ達の隊に驚き目を丸くしている。



商人達の視線を気にする様子もなくタシムは続けた。

「そろそろ聞いていいか?」


「何だ?」


「剣を抜いた時、お前の身体にまとわりつくあの白く光るものは何だ」

タシムの表情は真剣そのものである。


「分からない」

アルカはそっけなく答える。


「噓をつくな。お前の意志に光りが反応していたように見えたぞ」


「本当だ。俺にも分からない」


事実だった。

二年前、カインと対峙した時以来自分の意志によって白い謎の粒子が操れるようになった。

それは気のように

自分の身体の強化したい部位に集約する。

仮に拳に粒子を集約させるとその拳は岩石をも砕くほどの力を持つ。


身体の部位だけではなく剣先などにも集約でき、白い気を纏った刃は鉄をも斬る。


しかし、この力が覚醒してから二年経過した今でもこの力の事は謎のままである。


この力が何だか自分の何かを蝕んでいる気がして使用する事は控えているが。


自分でも気味悪いのが正直な所である。


メミドとユヒトもアルカの力の事を知っているが

二人はこの力を持ったアルカの事を気味悪がることなく接してくれている。


メミドは、カインとよく似た力だろうと言っていたが

カインの力が何なのかも分からないので今はこの力の事はあまり深く考えないようにしている。



「分からないってお前な!」


「前を見ろ」

メミドが助け舟を出すように二人の間に割って入って来た。



彼の視線の先には黎と燐の国境に位置する山と山の間に設けられた関所が小さく見える。


メミドがアルカに片目を瞑り合図を送る。


彼の機転の良さに思わず口元が緩む。



ユヒトは兄のようでありメミドは父のようであった。

この二年で三人の絆は強固なものとなりアルカにとって二人は無くてはならない存在となっていた。

オルワの死で心が崩れそうになったアルカを支えてくれたのもこの二人である。


関所が近づく。

と共に鼓動が早くなる。


母国がすぐそこに。



「戻ってきたな。アルカ」

ユヒトが白い歯を見せ笑みを浮かべる。


「ああ」



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