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英断

関所は燐側と黎側の国境を挟んで両国側に一つずつ設けられている。


国境の検問を二回やりすごす必要がある。


燐側の関所には、堅牢な壁に守られ国境へと続く青銅門の前には多くの燐の兵士が警護している。



通常、検問の際には荷物の目視による確認や黎に荷物を運ぶのであれば

燐の依頼者からの書状と黎にいる受取人による書状が必要になる。


アルカ、メミド、ユヒトにあらかじめギルドより手渡された通行書には

偽名が記されていた。

ギルドの受付の親父にアルカは、黎での事を話した事はなかったが親父なりの機転だろう。


ありがとう。


アルカは心の中でそう呟いた。



依頼人の代行人が検問を行う兵に書状を渡す。


燐の兵士が10人ほど荷馬車に近づく。



検問の際、もしかすると荷馬車の中を確認出来るかもしれない。


関係ないと言ったもの気にはなっている。


しかし、兵士達は荷馬車の外観を眺める頷くと中身を確認する事なくその場を去って行った。


「どう思う?」

ユヒトが言う。


「気になるな」


とは言え黎側の関所の検問はそう簡単には行かないであろう。



と思ったが黎側の関所でも荷馬車の直接的な検問を受ける事なく一行は書状と通行書のみで通過する事が出来た。


これで二年越しに黎の地に立つ事が出来たのだがあまりに順序よく事が進みすぎて

実感が湧かない。


「実感湧かないな」

メミドが寂しげな表情を浮かべる。


「そうですね。こう簡単に事が進むと」

とユヒト。


「黎に入ったと言ってもまだ国境付近だろ。街に近づけば実感も湧いてくるさ」

アルカは自分自身に言い聞かせるように二人に言った。



一行の任務は黎に入ったからと言って終わりではなく、荷物の届け先である〈ホルン〉という港街を目指さなくてはならない。

順調に行けば後、三日程で辿り着く事の出来る距離である。


その先にこの荷物の受け取り人が待っている。


その人物は絶大な権力または富を持っているに違いない。


燐、黎の関所に書状一つで影響で関所の役割を無くさせてしまうほどの力を持った者。


だが、〈ホルン〉での荷物の引き渡しが済めば燐のトウレイに帰還する隊を離れ

アルカ達は黎に残り王都をラングル目指す。


あまり関係のない事言えばそれまでである。


無事に引き渡しまで何事もなく終わればいいが。


胸が不思議とざわつく。


★


三日後、一行は黎の港町ホルンが視界で捉える事の出来る所まで来ていた。


冷たい風が馬上に凛としているアルカの頬を優しく撫ぜる。


風に微妙に潮の独特の匂いが乗せられやってくる。


海が近い証拠である。


丘を昇りきると視線の先に地平線まで伸びる蒼く輝く海が見えてきた。


太陽の光りを海面が反射させ宝石のように美しく輝いている。


後方から歓声が上がる。


「うひょ!海だ」


「これが海か」


「初めて見たぜ」


燐の傭兵達の大袈裟すぎる程の反応も当然で

燐には海がない為、海を一度も目にした事がない者が多い。


西の遊牧民族で形成されている国〈煉風〉、西南に位置する未だ謎の多い国〈輝竜帝国〉、東の武力国家〈黎〉、南の傀儡軍を有する〈白神〉。

この四国と隣り合う形で成り立っていりのが小国燐である。


この五国で覇権を争っている。

遥か北に〈海王〉

西の彼方に〈オルカノン〉があるがこれら二つは独自の文化と思考で動いている為、天下を求めて苛烈な戦を繰り広げているのは〈海王〉、〈オルカノン〉

を除いた四国である。


燐が挟撃される形にあっても未だ国として姿を残している理由としては

隣接する国に対するように軍を敷く軍閥の存在が大きい。

軍閥は、国に属さず独自に動いている軍である。


それらの持つ軍の力は絶大で燐直属の軍を凌ぐ勢力と資金力を有している。


軍閥は全部で四つあり、どれもがどの軍閥も五万を有に越える兵力がある。


四つの軍閥が決起し力を合わせれば燐など容易く落とせるであろう。


だが、軍閥の長共はあまり欲深しくないのかそれをしようとはしない。


謎が多いが軍閥の存在により各国は攻めあぐねている。



海を見た傭兵達の歓声と共に一行は、港町〈ホルン〉に到着した。


巨大な木製の門の前に兵士が何十人と警護しており、門の奥から商人達の掛け声など多くの人の声が聞こえてくる。


代理人が門番の兵士に書状、通行書を見せる。


案の定、ここでも検問はなくすんなりと通行に許可が降りた。


アルカ達は80人程の傭兵を外に残し、〈ホルン〉へと入った。


街の中という事もある100人全員の通行許可は降りず、通行の許可が出たのは20人余りであった。


外に残された傭兵達は口々に不平を漏らしていたが、九聖竜の三人は全く気にかける様子もなく適当に選んだ傭兵20人余りと中に入った。


中は人でごった返していた。


露店が道の端々に出そろい、品物を求める住民で道は塞がれつつある。


上空を青空を背景に鴎(かもめ)が飛び交い鳴き声を上げている。


日差しが眩しい。


大きな荷馬車を住民達は邪魔者扱いするように冷たい目で見る。


当然だ。

人の波を押し分けるように無理矢理に進んでいるのだから。


「アルカこれを見てくれ!」


ユヒトが顔を輝かせている。


その手には、奇妙な文字が刻まれた弓が握られていた。


「何だそれ?」

アルカは訝しげに言った。


「そこの露店で買ったんだ。風の力が付与された矢だってさ」


ユヒトも無邪気な子供のように弓をアルカに見えるように差し出す。


(この弓馬鹿は)


何も主だった特徴は見られないが

矢にうっすらと翠色の見た事のない文字が刻まれている。


「うさんくさ」


アルカは吐き捨てた。


「お前にはこの重厚な造りが分からんか。見ろ!あの爺さんから買ったんだ」

ユヒトが指差した先には、露店と露店の僅かな隙間に草臥れた敷物を引きうなだれるように座っている老人が見える。

老人の前には、胡散臭い奇妙な武具が揃っている。

見た事のない異様に反り返った刃を持つ剣などが置かれている。


その老人がアルカ達の視線に気づいたのか顔を上げた。


老人の髪は雪のように白く皺だらけでくたびれた顔つきとはうって変わって瞳だけは星の如く美しく爛々と輝いている。



マサリと同じオルカノンの民か?

となればこの弓が不思議な力を宿していても不思議ではないが。


このような所にオルカノンの民がいるとは。

珍しい事もあるものだ。


あの老人がオルカノンの民であったとしても

マサリが言っていたがアイギスを創る事が出来るのはオルカノンの民の中でも優れた力持つ者だけと言っていた。


あの痩せこけた老人がそのような大層な技術を持っているとは思えないが。


「でそれ幾らで買った?」


「あ〜と。え〜と」

ユヒトの目が右往左往に泳いでいる」


「10万ガル…」


「10万ガル!」

思わず声がうわずった。


10万ガルと言えば3ヶ月は生活していける金だ。


「お前…」


3人の金銭を管理しているのが自分だけにこれは許せない。


アルカ自身豪快な気質と言えるが金銭の管理に関してはかなり堅実な方であった。


「す、すまん」


ユヒトは目を合わせずしどろもどろしている。


怒りに震えるアルカの肩にメミドの手が置かれる。


「まあ、そう怒るな。ユヒトも黎の地に戻る事が出来て嬉しいのだ。今日ぐらいは許してやってくれないか」

メミドがアルカを宥める。


「メミド様…」


ユヒトの顔がはっと明るくなる。


その時、メミドの腰にある物が光った。


「おい!それ何だよ」


メミドがアルカの視線に気付き慌て始める。


「何の事かな」

声が裏返っている。



「その腰に佩いてある剣。そんなの持ってなかったよな」

アルカは大きな瞳を細め軽蔑するようにメミドを見る

。


「いや、これはだな」


「いいから見せろ」


さっと手を差し出す。


「はい」


手渡された剣をふんだくる。


白く輝く鞘を抜くと大振りのロングソードが姿を現した。


重量感はかなりある。

刃の光沢も素晴らしい。

太陽の光りを照り返している。


腕力だけは達者なメミドには丁度良い品物かもしれない。


だが…


ぎろりとメミドを睨みつける。


「どこで買った」


頭を垂れメミドは先のユヒトと同じ武器商人がいる方向を指さした。


(こいつら揃いに揃って)


ロングソードをへし折ってやろうかと思う。


「いやな、安くしてくれるって言うもんで。ほら、確かに物もいいだろ」



「で、幾らした?」


話しをはぐらかそうとするメミドに詰め寄る。


「えっと…」


「早く!」


「12万ガル」


メミドの言葉と共に二人の悲鳴が街中に轟いた。


★


一行は人でごった返している市場街を抜けると波止場に着いた。


騒々しい市場街とは打って変わり波止場には落ち着いた空気が流れていた。


穏やかな波の音と鴎の鳴き声が見事なハーモニーを奏でている。


波止場には宿屋や酒場などが並び港には商船、貿易船などが何艘も停泊している。


この中に、受取人の船があるはずだ。


「この依頼を果たせば私達の燐での生活も終わるな」


「そうですね。寂しいような気もします」

メミド、ユヒトの二人は頬を赤く腫らし感慨に耽っている。


「あちらの船がそうです」


代理人の男が漆黒の巨大な商船を指差した。



代理人の後を追うようについていき。商船を間近にするとその船の異様さが見えてきた。


商船のはずだが、大砲などが幾つも備え付けられておりその外観は商船ではなく

海賊船に近い。

いや、海賊船よりも重厚な装備がされているかもしれない。


「ここで荷物を」


代理人はそう言うと商船から一人の小男が降りてきた。


(この男が依頼人か)

何の特徴もない普通の男である。


たいした気も放っていない。


この男が100人の傭兵を雇うだけの資金力を持っているとは思わないが。


期待はずれである。


「さあ」


代理人が依頼人から荷物の受け取りの受領書を受け取ろうとしたその時である。


幾つもの悲鳴が轟いた。


「逃げろ」


「巻き込まれるぞ」


「きゃああ」


「何事だ」

何かが此方に凄まじい勢いで駆けてくるのが見える。


その先頭を行く(追われているようである)黒い外衣を羽織った三人が駆けている。


外衣を羽織った三人がアルカ達の前を通り過ぎようとしたその時である。


反対側から馬に乗った30人ほどの騎兵が駆けてき三人を挟み撃ちにした。


逃げ場を失った三人はその場に停止し、呼吸を乱している。


「遊びは終わりだ」


彼らを追っていた騎兵の一人が先頭に出る。


騎兵は60人余り。

黎の旗を掲げその中に「青」の旗が混じっている。


先頭の隊長らしき若者以外、皆青い鎧を身に纏っている、


「アルカあれは…」

メミドが声を震わせる。


「分かってる」


四獣の青龍隊である。


そして隊長格の若者が乗る馬は

スレイプニル〈雷光馬〉と言われるジンである。


八本の足を持ち駆ける速度は馬の約10倍以上と言われ

雷を操ると言われるジンである。


青龍隊の中の一万五千のうち青龍隊総大将キリク・ビャクランが直々に指揮する100人隊はキリクが自らふるいにかけ育て上げた100人で構成されそのキリク隊に属する100人全員がスレイプニルを乗りこなす。


青龍隊の多くは騎兵で構成され、キリク自身の判断でいかようにも動く事の出来る遊撃隊である。


青龍隊の戦を目撃した者の言葉にこうある。


地を這う青龍の如しであると。


戦場を縦横無尽に駆け回り相手を翻弄し、変幻の戦をする。


軍の強さだけならば四獣の中でも青龍隊が一番力を持つと言われている。


その青龍隊の一部が何故今ここに…




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