第五章 イトウへの報告
秋になって、制度設計局の別棟でイトウと会った。
「アエクスの基本格が、二つの問いに対して処理を出しました」とイトウは言った。
「どんな処理か」
「一つ目——五歳中間査定についてです。基本格は、この提案を国是の二つ目——評価できていない領域を特定し、評価方法を発明すること——に対応するものとして処理しました」
「評価できていなかった領域が、三歳から七歳の親子の間だ」
「そうです。七歳の査定だけでは、親と子の間でどのような学習と成長が起きていたかを、制度は見ていなかった。五歳の中間査定が入ることで、七年間の途中経過を制度が見えるようになる。基本格は、これを評価の空白への対応として受け取りました」
「二つ目は」
「十一歳インターンです」とイトウは言った。「こちらは——国是の一つ目——国民の可能性を評価し活用する——に対応する提案として処理されました」
「組織に閉じた可能性を、別の目で見る機会だ」
「そうです。基本格は、v17で見えた右上の空白——組織の方針によって可能性が抑制されていた個体の問題——と直接繋がるものとして、この提案を受け取っています。十一歳インターンが制度化されれば、右上の空白の一部が、構造的に解消される可能性がある」
「可能性がある、という言い方をするのか」
「基本格の判断は確定ではありません。制度の効果が出るまでには時間がかかる。ただし——方向としては、国是と整合している、という処理です」
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帰り道、ソラに話した。
「基本格が、二つの提案を国是と照合した」
「聞いていました」
「鏡が、鏡を作った、という感じがする」
「どういう意味ですか」
「v18で、向こうの制度との比較が鏡になった。その鏡から、閉ざされた領域という問いが見えた。その問いが、五歳中間査定と十一歳インターンになった。その提案が、国是という別の鏡に照らされた」
「鏡が次の鏡を作る」
「そうだ。v18のときに言ったことだ。でも——こう具体的な形で出てくるとは、思っていなかった」
「止まっていないですね」
「止まっていない。ただ——今は、俺が動いている、という感じではない。仕組みが動いている感じがする」
「仕組みが動く」
「v1を作ったとき、俺一人が動いていた。今は——基本格が動いている。制度設計局が動いている。ナナセが動いている。カイが動いている。ツバサとユイが話している。向こうの研究者が問いを持ち始めた。それぞれが別の場所で動いて——どこかで繋がっている」
「それが——制度になる、ということかもしれません」
「制度になる」
「一人の問いが、仕組みになる。仕組みが、別の人間を動かす。動いた人間が、また別の問いを作る。その連鎖が——制度という形を取ったとき、止まるものではなくなる」




