第六章 ナナセの言葉
冬になった。
ナナセからメッセージが来た。
「五歳中間査定の骨格が、制度設計局で正式に議論テーブルに上がりました。十一歳インターンも、来年度の検討事項になりました。報告したくて」
レンはそれを読んで、少しの間、動かなかった。
ソラに話した。
「制度設計局が、正式に動き始めた」
「聞こえていました」
「感想が、うまく出てこない」
「どんな感じですか」
「大きい感じではない。静かな感じだ。v1が世に出たときも、こんな感じだったかもしれない。何かが変わった、というより——何かが始まった、という感じ」
「始まったことが、いつ終わるかは、まだわからない」
「わからない。でも——五歳の査定を受ける子どもが、いつかいる。十一歳でインターンに出る個体が、いつかいる。そのとき、乖離マップがどう見えているかは、まだわからない」
「でも——その問いを、今のあなたが持っている」
「持っている」
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ナナセにメッセージを返した。
「報告をありがとうございます。一つ聞いていいですか」
「どうぞ」
「五歳中間査定の設計に、障害を持つ子どもへの評価軸を含めることは、検討されていますか」
少しして、返事が来た。
「入れます。ツバサ・ミウラさんに、設計への参加を打診する予定でいます。乖離マップのv16で、その問いの形が最初に見えたと思っています。あなたのデータが、そこに繋がっています」
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その夜、ミコに話した。
「五歳中間査定の設計に、ツバサが入ることになるかもしれない」
「連絡来た」とミコは言った。「ツバサから。どうすれば良いかって、少し迷ってた」
「ツバサはどう言ってたか」
「やりたい、とは言ってた。でも——自分の経験が、制度の設計に役立つかどうかわからない、って」
「役立つかどうかはわからない、は、俺がいつも言っていることだ」
「そうだね」とミコは言った。少し笑った。「私がそれを言ったら、ツバサが笑ってた。あなたから感染したって」
「感染」
「あなたの問いの立て方が、まわりに移っていく。ソラもそう言ってた。私も、気づかないうちに似た言い方をすることがある」
レンは少しの間、黙った。
「それが——地図の外に出た問いだ、ということかもしれない」
「地図が、人間を作る」
「地図が、作る人間の外に出て——別の人間の地図になる。その人間が、また別の問いを作る。止まらない輪が、具体的な制度の設計になっていく」
「すごいことだと思う」とミコは言った。
「ソラが言う言葉だ」
「あなたは何て言うの」
レンは少し考えた。
「まだ先がある、と思う」
「まだ先がある」ミコは繰り返した。「止まっていないうちは」
「そう」




