第四章 ツバサとユイ
夏になった頃、ミコが言った。
「ツバサとユイが、話をしている」
「二人が?」
「研究機関に、ユイが来たことがあって。私が紹介した。向こうの都市国家出身のユイが、アエクスの障害者への制度の話をツバサに聞いた」
「どんな話をしたか」
「向こうの制度では、障害を持つ人間へのクラス保護の仕組みがある。でも——クラス保護があることで、かえってそのクラスから出られなくなる構造が生まれている、とユイが言った」
「クラス保護が、閉じた領域を作る」
「ツバサはそれを聞いて——アエクスでも似たことがある、と言ったらしい。制度が保護していることで、その層から外に出ようとする個体への評価の軸が、整備されていない」
「保護が、評価の枠を狭める」
「そう。制度が良かれと思ってしていることが、別の閉じた領域を作ることがある——という話を、二人でしていた」
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その話を、レンはソラに伝えた。
「ツバサとユイの話だ。制度の保護が、閉じた領域を作ることがある」
「聞いていました」
「左下と右上の閉じた領域の話を考えていたとき、同じことが障害を持つ人間の領域にも起きているかもしれない」
「どういう形で、ですか」
「五歳中間査定を考えるとき、障害を持つ子どもの親は、どう判断するだろう、と思った。カリキュラムの選択が、健常な子どもとは異なる制約の中にある。中間査定で外の目が入るとき、その子の素体スコアの成長可能性を、どう評価するか。障害があることで、評価の軸が健常者と同じであるべきか、違うべきか」
「難しい問いですね」
「同じ軸で評価することが、平等かもしれない。でも——同じ軸で評価することが、障害を持つ子どもにとって見えにくい部分を作るかもしれない。向こうの保護クラスと、構造が似ている」
「中間査定の設計が、その問いを引き受けなければいけない」
「そうだ。五歳中間査定を作るなら——障害を持つ子どもへの評価軸を、どう設計するかが、その中に含まれなければいけない。抜け落としてはいけない」
「ツバサさんとユイさんの話が、中間査定の設計に繋がってきた」
「繋がってきた。直接の繋がりではない。でも——見えてきた問いが、別の見えていなかったものを照らした」




