Dating story 渚編
私、黒城渚は異常である・・・
そう気がついたのは彼と出会って半年だった。
彼と出会ったのは彼が入学した初めての日・・・
私は風紀員の役割として案内役として立っていた。
去年も私もこんな感じで出迎えられたんだな~・・・と思いながら、新1年生を誘導していた。
地元でも最難関と呼ばれる中学校の新入生、ほとんどの生徒が緊張と期待で胸がいっぱい!!といった顔だったが、彼は違った。
退屈そうな顔で空を見ていた。
大きな欠伸とため息を吐き校舎に入っていった。
「変な子だな。」
と当時の私は思っていた。
そこに同じく風紀委員の一員、草薙撫子がやってきた。
彼女は一言で言えば、問題という台風の渦の中心。
破天荒という言葉が良く似合う人は彼女以外見つからないと言う位の暴れ者だった。
「よーっす!大変だな~」
「もー、そういう位だったらサボんないでよ~!!先生カンカンだったよ!!」
「そりゃスマン!!あっはっはっはっは!!」
でも、彼女は笑ってるだけ・・・はぁ~大変だなぁ~・・・
その後風紀委員の集会が終わり私は先生に頼まれ大量の書類を持っていく羽目になった。
「何で私ばっかり・・・」
前が見えないほどの資料・・・私は恐る恐る運んでいたがやはりと言っていいが、雪崩の様に崩れ去った
「・・・・」
何も言えない・・・何か言っても聞く人がいないからだ。
最近こんな雑務ばっかり・・・これもサボってる草薙さんのせいだ・・・
仕方なく山のような資料を再び山にし運ぼうとすると、急にその山が丘になった。
「手伝いますよ。先輩。」
そこには先程の変な子がいた。
近くで見ると身長もそこそこあり、小学生上がりとは思えないような大人びた風格、髪も少し長めで襟足は括れるくらいあった。
声は優しい声、先程のつまらなそうな顔は何処にもなく、明るいというイメージがでかい。
今日はとっくに他の生徒は帰ったと思っていたのに・・・
「何処に持っていけばいいんですか?」
「え?ああ、はい。職員室です。」
ハッと我に返り、一緒に行く事になった。
先程の山とまでは言いませんが前が見えないほどに積み立てられているのに彼はサッサと歩く。
しかも私と歩くペースを合わせ先には行かずにいる・・・何というか、紳士だなぁと思った。
そして職員室につき資料を置くと一緒に職員室を出た。
「お疲れ様です。先輩、では、お先に失礼します!」
「あ、あの、君!!名前は!?」
「靫空奏多です。」
そう言って彼は廊下を駆けて行った。
「靫空君・・・か。」
私は風紀委員だったが廊下を走る彼を止めずただ見ているだけだった。
◇
次の日、また彼と会った。
今度は食堂だった。
私が並んだ時に彼が前に居た。
「どうも、先輩。」
「あ、う、うん。こんにちは、靫空君」
「良かったら、一緒にご飯どうですか?1人で食べるってのも味気ないですし」
別に嫌ではなかったので、一緒に食べることになった。
昨日あれから気になって先生に聞いたりして調べてみた。
この少年、入学試験で全教科満点の首席入学と超天才で、地元の小学校時代も言わずと知れた神童であった。
だが、目の前にいる彼は気取ってはおらず、むしろ弱弱しい感じがある。
彼と話し始めて5分、私達はかなり仲良くなった。
聞いている音楽や読む本の趣向が似ていたり、共感できる・・・正直同級生よりも話しやすい・・・
そして何よりも優しいのである。
彼が風紀委員に来るまでの間、彼を見ていた。
彼は誰にでも優しく、例え先輩のパシリだと分かっていても笑顔でやるので、この笑顔が2回目を起こさせないのだ。
彼の笑顔は皆を元気に幸せにしてくれる。
そして、彼は私と同じ風紀委員になった。
草薙さんは邪険にしていたが数日後、肩を組んで歩くほど仲良くなり、真面目職務もこなすようになった。
何があったかは分からないが、きっと彼が絡んでいるのだろう。そんな姿に・・・私は草薙さんが羨ましく思ってしまった。
彼の笑顔が皆でなく、私にだけ向けばいいなぁ・・・と思ってしまった。
その後、私達は廊下で会って挨拶するくらいになって心に何か違和感を感じてきた。
そして、7月私に変化は現れた。
「あれ・・・私、何やってるんだろ?」
知らない道の真ん中に立っていた・・・
初めて通るはずなのに・・・初めてじゃない気がする。
私が戸惑っていると、後ろから声を掛けられた。
「先輩?何やってるんですか?」
聞き覚えのある声に私の意識は全てその声の主に集中した。
「か、奏多君!?か、奏多君こそな・・・何を!?」
「いえ、僕の家そこなんで。もしかして何か用件でしょうか?」
「え・・・ええ!そう!!あ、明日風紀委員で集会があるって!!」
すると、奏多の陰から小さな女の子が制服の裾を引っ張りじーっとこちらを見ていた。
「そちらの女の子は?」
「妹の奏です、来年は僕と同じ学校に行くーって勉強頑張ってるんです。なー奏。」
私は手を振るがプイとそっぽを向く
「こら。先輩になる人なんだからそんな態度駄目だぞ・・・あ、それから先程の集会の件は聞いてます。わざわざすいません。ではまた明日。」
彼は微笑みながら手を振って家に入っていった。
間一髪、この事態を何とか誤魔化し何とかなった
「どうしちゃったんだろ・・・私」
その後も彼にはばれていないが気付けば同じ通りに居ることが多くなった。
そして別の日、いつの間にか自室にいることに気がついた。
先程まで教室に居たはずなのに・・・
そして何故か自室の机の上に見覚えのない写真のアルバムがあった。
アルバムを開くと全て彼の写真だった。
どこから取ったのか解らないが、何十枚もある・・・
廊下を歩く彼。
体育をする彼。
友達と話す彼。
着替えてる彼。
・・・家にいる彼。
「何・・・コレ?」
私は怖くなった・・・
アルバムの中の写真をその日の内に全て焼き捨てたが次の日に量が増えて元通りになっていた。
そして、事件は遂に起こってしまった。
私は気がつくと体育倉庫にいた。
だが不思議にも体も動かず、声も出ない・・・
夢・・・?
だが、目の前には両手両足を縛られた彼が居た。
目隠しに猿轡、声も上げられない・・・
そして、誰かの手が彼の頬を触る。
そしてその温かさが伝わってきた気がした・・・
『ねぇ・・・今どんな気持ち?ドキドキする?私は・・・心臓張り裂けちゃいそう・・・ウフフフフ』
とっても聞き覚えがある声・・・はて、誰だろう?
そして自分の目線が彼の顔に近づく。
近い・・・彼の鼻、口、耳を舐めますように見る。
『うめいたって誰も来ないよ・・・今は私とあなただけ・・・』
そしてようやくわかった・・・
この声は自分だった。
分かっても止められない・・・
そして私の舌がそのまま彼の身体や耳を舐める。
恥ずかしくて死にそう・・・
もう・・・訳が分からない。
私はこのまま彼と・・・
変な想像が頭をよぎる。
だが、次の瞬間、それは消えた。
彼は自力で腕の縄をブチブチとちぎり、猿轡を噛み砕き、目隠しを外した。
その彼の目は何時もの彼の目ではない・・・
そして、彼は口を開いた。
「ちょっと痛いですが我慢してください。」
と次の瞬間、お腹に鈍い痛みが走り、気が遠くなっていった。
そして、私と彼の中学での接点はここで消えることになる。
◇
私、黒城渚の家は異常である。
私の家族は本物ではない。いや、私を除けば黒城家は本物になる。
私の現在の母は私が生まれて直ぐに亡くなった母の後に父が再婚した女性で、現在の父は私が幼稚園の年長に亡くなって現在の母が再婚した男性である。
そして、その数年後、私が小学生四年生の時、弟が生まれた、いや、正しくは彼らの間に初めてできた子供だ。
その頃から、小学生の幼い私は家族で浮いた存在になった。
テストで満点を取ろうと運動会のかけっこで一等賞をとっても感心はしない、だって実の子供ではないから・・・
逆に弟は恵まれていた。
何か小さくてもいい事をすれば褒められる、だから私も真似した。
両親が不在の時、家中を掃除して褒められようと思った。
リビング、キッチン、トイレ、風呂場と次々に掃除をし自分の部屋、弟の部屋、そして両親の部屋。
軽く掃除機をかけるだけの簡単な掃除だが、綺麗になるものだ。
掃除が終わりふと両親の部屋の机を見ると、ある紙を見つけた。
その紙を見た瞬間、私は掃除機を落とした。
その紙には・・・子供を養子に出すという内容が書かれており、その下に私の名前が書かれていた。
それと同時に両親が帰ってきた、自分達の部屋で義理の娘が紙を見て固まっている時に帰ってきた。
私は初めて親に、いや人に顔をぶたれた。
親曰く、勝手に人の部屋に入ったことがいけないということらしいが、ぶたれた理由にならなかった。
だから私はカッとなって言い返した。
ー私の何がいけないの?
そして、彼らは私に言い返した。
ーお前は私たちの本当の娘ではないからだ。
その言葉を聞いた時、私は心が、自分の存在が砕けた音が聞こえた。
僅か小学生六年生の私は精神崩壊した。
部屋の隅に縮こまった。
だが、意外にも私は直ぐに立ち直った。
簡単なことだと思った。
此処は私の家ではなく、他人の家、そして私は此処で寝泊まりする謂わば宿泊客、たったそれだけのこと。
だがら私はその日から両親を父さん、母さんではなく、下の名前にさん付けして呼ぶようにした。
明らかに様子が変わった子供を養子に出せば苦情が来るかもしれないと思い、私はそれ以降、この家に居る。
そして中学二年生の時、私は自分の中のストレスの化身、愛情を求める自分が生まれた。
そして、そのキッカケになった彼を襲った、軟禁し取り返しにならない事をしそうになった。
そのせいで私は中学、高校で計二回、停学になった。
だが、彼は距離は取ってはいるが拒絶はしておらず、寧ろ、そんな私を彼は今でも気にかけてくれているし、もう一人の私も諦めてない。
だからこそ、私は出来るだけ彼に近寄らないようにし、林間学校からずっと会ってない。
そして、今日は日曜日、来週、球技大会があると放送部のラジオで彼がゲストに来ていた時に行っていたのを聞いて夕方、ちょっと体を動かそうと公園に行き軽く走ってベンチで休んでいる時だった。
私の2ヶ月続いた記録は消えた。
◇
現在、『僕』、靫空奏多は『俺』を強制的人格から引き摺り下ろし、ヤンキーの戦争で酷使した体を伸ばすために今朝方からいた公園に行くことにした。(参照:『俺』の自由時間)
そうしてバイクにまたがり、走ろうとすると、ディスプレイにガムテープが巻かれ、このバイクに搭載されたAIであるアイが映し出されないようにされていた。
ガムテープを剥がし、半泣きになっているAIを見た
「・・・・なんかその・・・すいません。」
『許しません、今日マスターの携帯を占領して朝までエロい音声流してやる・・・』
拒否できる立場ではない、だって向こうからすればいきなり視界を塞がれ尚且つ呼びかけを無視され続けたのだ。
そのまま拗ねているアイを他所に、奏多は公園に向かった。
そして、出会ってしまった。
出会ってしまったのだ、二人は同じタイミングで互いの存在に気がつき、数秒間フリーズした。
「・・・えっと、黒城先輩・・・・どうも。」
「こ、こんにちは靫空君・・・」
微妙な空気が流れる、どうにかしないとと、思った奏多はとりあえず渚の隣に座った。
「先輩はどうしてここに?何してるんですか?」
「え、ああ、うん・・・ちょっと、軽く身体を動かしに、来週球技大会あるから。」
「そ、そうなんですか、それはお疲れ様です。」
それから数分間が開いた。言葉もなく、ただ沈黙の時間が続く。
「靫空君は?こんな所で何してるの?一人?」
気まずい空気に遠慮したのか渚が声を発した。
「ええ、家に誰もいなくなったんで暇つぶしに。」
「そ、そうなんだ・・・へぇ~」
それから再び数分後会話は止まり両者互いがどう出るかを探りつつ沈黙を保っていた。
「あ、あの・・・靫空君・・・・」
ここで再び先に渚が動いた、漸く会話が出来ると思っていた奏多だったが渚の表情は何だか苦しそうだった。
「靫空君は・・・その、私の事、嫌い・・・だよね、気持ち悪いよね・・・」
「え?えっと・・・その・・・」
思いがけないセリフに流石の奏多も何にが何だかわからなかった。
「ゴメン、変な事聞いたね、忘れて。ゴメンナサイ・・・」
無理に笑い下を俯いた渚を見て奏多は口を大きく開いた
「そんなことないです!別に気にしてませんし、草薙先輩の横暴に比べれば全然ですよ。そんなに気を遣わないでください」
すると、渚はバッと涙を浮かべこちらを向いた
「でも、でも!私貴方に色んな事した!閉じ込めたり、勝手に部屋に入ったり、縛ったり・・・色んな事した・・・あと一歩で取り返しのつかないことまで!!!それでも嫌じゃないの!?私は嫌!!!靫空君に迷惑しかかけてない!だから、そんな優しい言葉かけないで!私に優しくしないで!!私を・・・嫌いになってよ・・・」
―パン
奏多は渚の頬を叩いた。割と強めに、叩いた
「え・・・?」
「逃げるな・・・そんな泣き言を言って逃げようとするな!!!嫌いになってよ?ふざけないるな!!そんなんで逃げれると思ったら間違いだ!」
真剣な表情で奏多は叫ぶ
「貴方のしたことなんか僕からしたら、全然、幼稚園児レベルの事です!それに僕は貴方に対して若干引いているところがありますが!嫌いになったり、気持ち悪いだなんて思ったことはないです!!!だって、先輩は僕の初めてできた優しい先輩じゃないですか。」
そしてそっと優しく、母親が子供を抱くように奏多は渚を抱きしめた。
力強く彼女が流す涙を受け止めるように抱きしめた
「もう・・・いいんです。泣かないでください。僕は貴方を嫌いになったりしません。寧ろ、もっと普通に仲良くなりたいんです。」
「でも、でも、でも・・・・・・」
この先の言葉は決まらなかった、だって何を言えばいいかわからないのだ。
「いいんです、あなたは傷つきすぎた・・・僕はあなたの家族の事情は知っています・・・だけど、負けないで。」
その優しい言葉は今の私にとっては剣であり、薬だった。
傷つきながらも癒されてゆく感覚が私を襲う、だけど次第に痛みは消え、心が軽くなる、だけど涙は止まらない・・・悲しくはない、寧ろ嬉しい、今彼は私を拒絶するどころか繋がりを深めたいといってくれた。これが嬉しがらずになんと表現したものか・・・
「ありが・・・とう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう・・・・」
ただお礼しか言えない、思考は廻っているのに口はそれしか言えない。
彼はそっと優しく頭を撫でてくれる。猫を撫でるように優しくなでてくれる。
そして私の顔は自然に笑顔になっていっていた。
◇
・・・という事があったのがつい数時間前、もう夢の様な体験の様に感じたが彼のぬくもりは未だ体に残っている、今なら何でもできそうな気分だった。
そして今私は・・・自宅の玄関に立っていた。
自分の家ではない家、その事を彼に話すと彼は迷わずこういった
『もう大丈夫ですよ。先輩は強いですから。』
何の根拠があってそう言ってくれたのだろう・・・私からすれば彼は私の何千倍も強い、恐らく彼がこの場にいればこんな問題すぐさま解決してくれるのだろうが、彼はそれがなくても私なら出来るとそう言ってくれたのだと勝手に解釈した、いや実質その通りだと信じたい、でないとこの後私がする出来事に私の心はきっと押し潰されまた逆戻りしてしまいそうだ。
だけど、不安に成ってもしょうがない。もう心は軽い、何でも来い!
そして彼女は叫ぶ何年振りかにこのセリフを言った。
「ただいま!お母さん、お父さん!」
元気よく、溌剌と、大声で叫ぶように笑顔で、そのセリフを・・・
◇
愛を知らない少女はこの日、愛を知った、どうして何時も彼を襲っていたもう一人の自分が今日に限って出てこないのが不思議だとは感じなかった、そう、彼女はあの時、抱きしめられた時を持って消えたのだ、いや正しく言うと元に戻った、私の心の一部に戻った、彼女は私が愛を求めて作り上げた心の偶像、心の欠片、だがそれでも、それは私の一つの個性なのだ、誰かに愛されたい、誰かを愛したい、そんな感情が同時に芽生えた時に生まれたのだ。
どうしてそう思えるかは、もう分かり切っていた。
今、私の、黒城渚の後輩の男の子、初めて自分を抱きしめてくれた男の子、今の私の胸の高まりは上昇中。ずっとあの私にあった感情、露骨に表していた感情、今の今まで私に欠けていたもの。人間一度は体験するもの
そう、私、黒城渚は、普通に靫空奏多君に恋をしています。




