再開 姫と騎士5【嫉妬】
大変お待たせいたしました!ですので、今回は長めに書きました、これにて再会編は終了です!!
今朝、とある住宅街のある2階建ての立派な一軒家に住む二人の兄妹の内、兄、靫空奏多の方は生きてきた中でトップ10に入る位の絶好調な気分で朝5時から掃除、洗濯、弁当の用意、朝食の下ごしらえをこなし、時刻が7時を回ったところで鼻歌を交じらせ2階への階段をトントンと駆け上がる。
そして妹、靫空奏のいる寝室にそ~っと入ると、寝ている妹のベッドに近づく。
奏は凄まじく寝相が悪い、今日は腰をクの字に曲げ顔面を枕に埋めながらスースーと寝息を立てていた。
そして、ごろんと寝返りをうつと、枕との圧で付いたのか顔が真っ赤になっていた。
だが、その顔はどんな夢を見ているのか幸せそうな顔だった。
「・・・んにゃ、待って~カルボナーラ~」
昨日はハンバーグの精を見たと言っていたが、今日はカルボナーラの精とでも脳内で追いかけっこでもしてるんだろうか?
だが非常にもこの少年は、妹の掛け布団をめくりカーテンと窓を全開にし、妹が完全に意識を覚醒させる前に布団から降ろし、布団と掛け布団、枕をベランダに干し2度寝をさせぬように予め寝具を奪っておいた。
「お、お兄ちゃん・・・?ふぁぁぁぁ・・・え、きゃぁぁぁぁ!!」
奏多は寝ぼけている奏を肩で担ぎ、奏の言葉が聞こえないのか、奏多はリビングの奏の椅子に奏を座らせると、奏多はおおよそ2人前という量ではない山盛りの料理が運ばれてきた。
「え・・・お兄ちゃん?朝ごはん・・・だよね?」
「ん?ああ、そうだけど。」
と山盛りの麦ごはんを茶碗に盛り、具たっぷりの豚汁を注ぎ、これでもかという量の鶏肉の香草焼き、ジャーマンポテト&ラクレットチーズ、ミルクラッシー、朝のメニューとしてはかなりきつい・・・というかどこぞのスポーツマン一家でもここまでは食べないだろう
そんな顔になっていたのか、奏多は奏の顔をみて少ししょんぼりしながら
「あ、すまん。もしかして、苦手だったか?なら、他の者作り直すよ」
と料理を取り下げようとした瞬間、奏は凄まじいスピードで料理を取り皿にとった
「いやいやいやいや!!美味しそ~いっただきます!!!」
と鶏肉を口に咥えながら、ジャガイモにチーズをつける奏を見た奏多はとてもうれしそうに料理をテーブルに置いた。
(まぁ、実際美味しいわけだから特に不満はあるわけではないのだが・・・)
と芋を口の中で租借しながら今朝上機嫌な兄の様子を見ていると、玄関の扉が開く音が聞こえ、リビングに隣人の幼馴染、轟加奈がやってきた。
「おはよーっす。」
ソファにスクールバックを置き食卓の席に着いた
「ああ、おはよう、轟。そういえば今日からだったな・・・確か3週間だったっけ?」
「うん、うちの親今回はイタリアだって、奏多にチーズお土産に買って帰るって。」
「それは有り難いな、イタリアのチーズは美味しいからね」
と普通の感想を交えながら、加奈の分のご飯、味噌汁、取り皿を出すと、朝ご飯の内容に特に驚きもせず、パクついた
「・・・あのさ、奏多、昨日の大丈夫だった?」
「昨日の?ああ、頭の事?うん、ちょっとふらついてたけどもう大丈夫!」
「あ、それもあるけど・・・あの、昨日さ皆が奏多に冷たい態度とってさ・・・それを・・・見ぬふりして、頭うった時も駆け寄れることが出来なかったし・・・その・・・ゴメン。」
それを聞いていた何も知らなかった奏は昨日兄がかなりやせ我慢していたことが分かり怒りに似た感情が兄にそんな態度をとった人間に向けられた。
「ん、ああ・・・別に良いさ、今回の件は誤解があるし、何より僕自身の優柔不断さが招いた問題だ。だから轟が気負いする必要はないさ。君と僕の仲だ、偶にはこういうのもありだ。」
と加奈の肩をポンポンと叩き何食わぬ顔で朝食の席に着き鶏肉にかみつく奏多を見て加奈もホッとしながら縁了なく食事にあり付けた。
そして20分後、食事は終わり案の定余ってしまった朝食をタッパに入れる奏多をよそに加奈は鞄を持ち家を出た。なんでも、来週は全国大会の予選だそうでバイクで楽をして学校に行きたくないらしい。
加奈が家を出てしばらくして、奏が奏多の元へとやってきた。
「ねぇ、お兄ちゃんさっきの話ってホント?」
「さっきのって?」
「お兄ちゃんが・・・その、あの人のせいで友達から・・・その、虐め紛いみたいなことされてるって。」
「ああ、その事か、ハハハハ、奏は心配性だな」
「笑い事じゃないよ!!私・・・本気で心配して・・・」
と涙を浮かべる奏を奏多ソッと抱き寄せた。
「我が校に虐めはありません!逆にお兄ちゃんがたかだか虐めごときで怯むと思うか?」
と奏の頭をくしゃくしゃと撫でニット笑った
「だから、心配しなくてもいいさ。まぁ、ちょっとエスカレートしたら自分で止めさせれるし、って・・・ほら、そんな話してる時間無いぞ、ほら用意してきな。」
と奏の背中をポンポンと叩くと、奏は2階へと上がっていった。
「・・・心配されたか。まだまだだな」
とふっと笑いスクールバッグと弁当を持つと戸締りを確認し奏が用意をして降りてくるまでに、本日4回目の睡眠を行っている飼い猫に朝ご飯を用意し、奏多は外にあるバイクのエンジンを掛けた。
その2分後、奏が家から出てきたので何時もの通りヘルメットをかぶせ、初夏の生ぬるい風を切りながら通学路を走った。
学校前あたりへ来ると、昨日と同じくリムジンが校門前に停まっており、奏多の姿が見えるとそれと同時に車のドアがガチャリと開いた。
「どうも、御機嫌ようダーリン。」
「はい、おはようございます。」
とそっけない返事を返し、奏多はレッドカーペットが引かれる前にバイクを校門へ潜らせた。
「奏、先に行っててくれるか?お兄ちゃんちょっと大事な話があるから。」
と向かってくるレイラを見ながら奏に言うと、奏はそそくさと校舎へと行ってしまった。
「あら、妹さん行ってしまったの?まぁ二人きりで話したいことがあったから好都合ですけど。」
「奇遇ですね、実は僕もなんです。」
「あら、ホントに奇遇ですこと、ではどちらからお話ししましょう」
「そこはレディファーストで・・・」
と調子に乗って紳士的な行為をここでしたことを僕は凄まじく後悔した。
「あら、紳士ですわね、さすがダーリン。」
「さっさと話を続けてください、で?何です?」
と鞄からケータイを取り出し奏多の前にとある画像を出した
「・・・なっ!?」
何とそこには乙姉妹とその姉妹の家に泊めてもらうと言って帰ってこなかった佐々木紅葉が映っていた。
3人ともぐっすり寝てしまっている様子だが、格好は完全に戦闘服だった。つまり・・・潜入して捕まった、という事だ
「このお三方、昨日私の假宿に潜入し盗みを働こうとした下手人です、確かダーリンの妹分と居候でしたわよね・・・」
とレイラは不気味にニヤリと笑う。
奏多は一気に劣勢となってしまった
「現在、この3人は私の假宿の地下牢に放りこんでいます、ですが・・・このまま警察に引き渡しても良し、餓死させるのも良し、人身売買の商品にしてしまうのも良し・・・ですが、ダーリンの行動次第で、この3人を助けてあげても構いませんよ。」
最悪の展開だった・・・あの3馬鹿のせいで強制バッドエンドになりそうだ。
「・・・何が目的ですか?」
「まぁ、まぁ、落ち着いてください。こちらも平和的な解決を望んでいます。それでは、まず、私の館に来てください、時間は今日の20時、座標は・・・こちらに」
と一枚の紙を渡してきた。
「・・・分かった、だが、それまであいつらに一切手を出さないでください。」
すると、意外そうな顔でレイラがこちらを見てきた
「やっぱり、変わられてしまったのですね・・・昔の貴方はもっと冷酷で・・・」
「・・・知った様な事を・・・言わないでください!!3人の無事を約束してください!!」
レイラの言葉をかき消すように奏多は怒りにも似た声を発する
「分かりました・・・それで?貴方は私に何の御用で?」
「・・・何でもない、もう、どうでもよくなった・・・」
奏多は荷物を獲ると今朝からあった覇気と元気がどこかに行ってしまったかのように奏多はトボトボと校舎へ入っていった。
教室へ入ると、昨日よりは奏多への目線が減ってはいたが、やはり奏多が教室へと入ってくるとヒソヒソ話が飛び交った。
だが、奏多はそんな事を気にする余裕はなく自分の為に動いた為捕まっている3人の安否を心配していた。
「か、奏多?大丈夫?顔怖いよ・・・」
と今朝との様子が変わった奏多に気づいた加奈が奏多に話しかけた。
「そ、そう?ごめん、ちょっと考え事してた」
ハッと我に返って普通に接しようとしたが、それと同時に教室にレイラが入ってきたことにより、奏多の顔色は一層悪くなった。
レイラは隣の席に座ると、奏多は席を立ちあがり、廊下を走って行った。
奏多は屋上へとたどり着くと屋上のベンチへと腰を置いた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
疲れる距離では無いのに、息切れが激しい、心臓がバクバクと鳴っているのが解る・・・
「どうすれば・・・どうすればいいんだ・・・」
今夜彼女の屋敷へと招かれ、その際警備網を掻い潜り3人を救出する・・・言うのは簡単だが、恐らく不可能に近いだろう。
紅葉はともかく、侵入調査に置いては一流の腕を持つあのⅢとⅣが呆気なくやられたというのが全く考えられないのだ、恐らく、1人か2人ほどの強者がいる・・・それを人質が居る状態で戦うのは・・・
と頭を痛めていると、いつの間にか奏多の周りには知らない男子生徒数名に囲まれていた。
「おい、靫空、色んな女子振っておいて、最近お姫様の彼女が出来たんだってなぁ、羨ましいこったで」
「ああ、ホントにいい気なもんだよなぁ、振られた側の事を全く気にしないでなぁ」
様々な噂が交差する中、こういう類、『自分が好きな女を振った男子にやり返しに来た』みたいなシチュエーションが来ることは奏多は前もってある程度予想していたが、今奏多に目の前の問題より、捕らわれた3人と自身のこと以外考えられなかった。
「すいません、少し一人にして下さい、謝罪は後でしますので・・・」
考えなしにも程があった、今の彼らに今のセリフは火に油を注ぐ行為そのものだった。
「ふざけんなぁ!!!」
男子生徒の拳が奏多の顔面を貫いた
奏多はコンクリートの地面へと倒れ、ゆっくりと立ち上がる
「後で謝るだと・・・ふざけんなぁ!!そんなもんで許されるわけねぇだろ!!」
そしてその後は集団でのリンチだった
奏多は抵抗する気配を一切見せず、殴られている最中にもかかわらず、奏多は3人の事を考えていた。
痛みはない、こんな一般人のパンチやキックなど屁でもない・・・なので奏多の顔はケロッとしており、そんな様子をみた男子生徒は罵声を放つ、どれもこれも、妬み、嫉み、正直聞くに値しない・・・
「お前みたいに、誰も好きになった事のねぇやつが・・・何時までも調子に乗ってんじゃねぇ!!」
もう何発殴られたかはわからないが、奏多はその言葉に関してだけはピクリと反応した
「誰も・・・好きになったことがない?」
―そんな事はない、僕は皆が大好きだ、クラスメイト、生徒会のメンバー、風紀委員のメンバー、そして奏、皆の事が大切だから、その中にいるⅢ、Ⅳ、紅葉を助けるために、今必死になってるのに・・・何も知らないくせに、何も知らないくせに!!
その言葉に反応したことを確認した男子生徒はそのワードを交えながら奏多に罵声を浴びせる。
すると、頭の中に声が響く、聞き覚えのある声だ。
『諦めろ、あの3人はもう助からん。』
「うるさい、黙れ」
「ああ?何か行ったかてめぇ!」
腕を蹴られた。
『あの3人の自業自得だ』
目の前にいる男たちの声ではない、なのに一番ハッキリと聞こえる
「うるさい・・・」
「こいつ、殴られ過ぎて頭イッったんじゃねぇのか?」
顔を殴られた。
『助けに行けば、間違いなく殺されるぞ、お前も・・・あの3人も』
「うるさい・・・」
頭を抱え蹲る奏多を男子生徒たちは見下ろしながらケータイを取り出した。
「学校のスターがおかしくなったってこの動画出したら女子ドン引きだろうな、ハハハハ」
髪を掴まれ写真を撮られた
『だから・・・もう・・・諦めろ』
頭に響く声と笑い声が重なりぐちゃぐちゃになる、気持ち悪い・・・黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ
「うるせぇって・・・言ってんだろ!!!!」
と怒りと恐怖が入り混じった拳が屋上のコンクリートの壁にめり込み、その拳にからは血が垂れていた。
そしてその目は先程までの優しい男の目ではなく、表現しようのないただの恐怖の塊となっていた。
男子生徒たちはケータイを地面に落としめり込んだ拳とへこんだ壁を見て一目散に逃げだした。
手がぶるぶると震え、空が黒くなる、恐らく黒風白雨だろう、風も強まり、雷も鳴り始めた、血の滴る拳が雨でぽつぽつと濡れてきた。
だが、奏多はスッと立ち上がり地面に落ちているケータイを全て踏み壊し、ベンチに座るとその場を動かず、雨脚が強まる中その場に座り続けた。
1時間目、2時間目、3時間目、4時間目・・・そして放課後、奏多は授業どころか教室にも戻っておらず、流石に皆心配になってきたのか奏多の席にチラチラと視線を送っていた。
一方、2年A組の何時ものメンバーは
「・・・靫空君、何処行っちゃんだろ?」
「やっぱり、何か脅されてて・・・」
と一同はちらりとケータイをいじりながらいつもの様になっている笑顔のレイラを見た。
「でも、今朝凄く上機嫌で、元気溌剌って感じだったのに・・・」
と加奈の言葉に皆再び首を傾げる。
「というか、捜査しようと提案した大前君は?」
「ああ、先生に聞いたら、病魔に侵され、その上、身の中からマグマの如き・・・」
「要するに風邪か・・・」
月夜の言葉を打ち消し一同は話を戻す
「とりあえず、奏多探して、事情を・・・」
と奏多を探そうと廊下へ出たとき、廊下の端からびしょびしょになった一人の生徒が歩いてやってきた
何時もの爽やかさは一切ない、暗くて、じめじめとして見ているだけで元気がなくなりそうだ
「・・・奏多?どうしたの?って、どうしたのボロボロじゃん!?」
リンチされた為制服はボロボロ、顔は数か所血が滲んでおり、拳から滴る血が一番痛々しかった。
「もしかして、喧嘩?」
だが、奏多は何も答えない
「ねぇ、何とか言ってよ!」
奏多は何も答えず、自身の鞄を持ち教室を出た
奏多が教室を出て教室は一気に騒がしくなった
「なぁ、おれ噂で聞いたんだけど、3年の先輩たちが靫空に一方的に蛸殴りにしたって・・・」
クラスメイトの男子を聞き一同はその男子の近くへと集まった。
「なんで、靫空くんが先輩に殴られないといけないわけ!?おかしいじゃない」
「何でも、部活先輩によると、奏多に振られた女子の中にその女子の事が好きだったって類の先輩たちが集まって奏多をやっつけるって聞いたって。」
「そんなの、逆恨みもはなただしいじゃない・・・で、その先輩たちは?」
「それがさ、その部活の先輩からさっき連絡が来たんだけど、全員無傷だって、でも皆怯えて何にも話さないんだとよ、しかも悪い事にその話、草薙先輩の耳に入って今、多分3年の教室大荒れだぜ」
それを聞いた瞬間、一同は急いで3年生の教室へと向かった、そして案の定、机と椅子が数脚ひっくり返り、撫子は数人の男子を踏みつけそのうちの一人の襟元を掴んでいた
「おい、てめぇら、質問してんだ、何か言えよ・・・何があったんだ?あぁ!?」
だが奏多を襲った男子は怯えて縮こまっていた。
「もう一発殴らねぇとわかんねぇのか!?」
と殴ろうとした瞬間、渚、飛鳥、曙が割って入り、それに乗じて一同も撫子を抑えた
「離せ!離せよ!!」
凄まじい怪力で女子数人を振りほどこうとするが皆必死になって止めた
「落ち着いて!慌てずに話を聞きましょう、ね、草薙ちゃん!!」
と飛鳥の一声を聞いてしばらくするとようやく落ち着いた。
「で?貴方達、靫空君に暴力を振るったってホント?」
男子生徒は首を縦に振る
「やっぱりか!てめぇら・・・」
と撫子が獲って掛かろうとするのを飛鳥は手で遮り冷静に止めた
「じゃあ、逆に貴方達は何かされた?」
男子生徒は首を振る。
そして、1人が口を開いた
「・・・屋上に、行く・・あいつを・・・見て、おっかけて、殴って・・・そしたら・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と頭を抱えはじめ、叫び始めた
「・・・行きましょう、屋上に」
と3年も加わった一同は急ぎ屋上へと向かった。
だが、3年の教室で怯えている数名の男子の対応に困っているその教室のクラスメイトの前に彼女は現れた
「御機嫌よう、御先輩の皆様、宜しければその方々を保健室にでも運びましょうか?」
と指を鳴らし数名の黒服が現れるとヒョイヒョイと男子生徒を担ぎ上げ直ぐにどこかへと行ってしまった
「では・・・」
とペコリと頭を下げレイラもその場から姿を消した・・・怪しげな笑い顔と共に・・・。
そして、同時刻、屋上に着いた面々は雨が晴れ、まだ濡れているその場を探索した。
すぐにも、男子生徒が落としたケータイを発見した。・・・がどれも画面が割れ、水没しているようだった。
「あ、一機だけ生きてる、ん?動画?」
ロックのかかってないケータイの画面はひびが入りその上ノイズもかかり音もはっきりしていないが画面には動画が映っていた。
『・・・いつ、お・・・く・・・・ん・・・・の?』
『う・・・い。」
『学・・の・・・が・・・ったら・・・・・ろうなぁ・・・・ハハハハ』
『・・・・せぇって、・・・・・ろ!!!!』
とその直後何かが壊れる音とともに、最後にノイズ越しに映った何かを最後に録画はそこで停止していた。
そして、その音の正体はすぐに分かった、がそれよりも気になったのはその後だった
「な、なんだ・・・これ・・・・壁が・・・」
それは奏多が開けた穴の他に数か所壁が凹んでいる箇所があった
◇
その頃、奏多はとっくに家へと着き、夕食の準備を済ませ、リビングのソファに寝ころんでいた。
「・・・どうすれば・・・・いいんだ?」
紙に書いてあった予定時刻は8時・・・それまでに心を決めて戦わないと・・・計画を練って、3人を・・・
「どうしたんじゃ?いきなり帰って来ては、ため息を吐きながら挽肉と野菜を捏ねて、今こうしてソファでため息しかついていないのじゃが・・・何かあったのか?」
と猫神兼飼い猫のソナタが横たわる奏多の頭に乗った。
のんきに話しかけてくるこの猫に自分の苦悩が分かっていないなので、少しイラッとしたが事の経緯を話すと呆れた様子で口を開いた。
「いやいや、お前さん、頭固すぎじゃろう、何で場所が分かってる敵地に真正面から行こうとする阿呆がどこにおるのじゃ、しかも指定された時間に行こうとするなんて、ホントに・・・馬鹿か?」
猫に馬鹿にされた・・・しかも、現在頭を悩ませていることをキッパリと馬鹿にされた。
奏多の耳元で何かが砕ける音がした。
「僕なんかが言っても、直ぐに捕まって・・・だから、入念に・・・」
再び呆れたようにフンと奏多の頭を肉球でもにゅっと叩く
「それは、相手方の守りがしっかりしておるお主が来る夜の場合じゃろ?なら、今なら夜ほどの警戒網でもなかろう」
本当にその通りだった、普段通りの思考が働かずにこの飼い猫が居なければ前が見えていないイボイノシシの様に突進するだけで終わってしまっただろう・・・
自分の焦った際の思考の働かなさがなんともあほらしい・・・一体学校での落ち込み様は何だったんだろう?
奏多は洗面所に立ち、顔をバシャバシャと洗った。
奏多は顔を見るとぷっと笑ってしまった
「ハハハ、顔、強張ってるじゃん・・・気持ち悪い」
とニヤリと笑い、時計を見る、時刻は4時・・・約束の時間まで約4時間・・・奏多は部屋に戻り新発明の工作道具と、ハンドガン、リボルバー、サバイバルナイフ、手榴弾5発、弾丸それぞれ20発を装備した。
「じゃあ、行ってくる、夕飯までには戻る」
「そうか、なら儂の夕飯にエビフライ追加でな、無論、車海老」
この猫は・・・
「・・・了解。」
と財布の中から一万円札を数枚取り出し、ポケットにしまうと、レイラ宅に向かうべくバイクを走らせた。
バイクに目標の座標を打ち込むと、バイクに搭載された美少女AI(自称)ことアイは心配そうな表情で
運転する奏多のナビゲートをしていた。
『マスター・・・大丈夫ですか?心拍数が凄まじく乱れていますが・・・』
「・・・うん、実はちょっと緊張してるのかな?」
『何で疑問形何ですか?」
「さぁ?あんまり感じたことの無い感覚だから・・・慣れないんだよ」
『それは・・・恐怖という物ではないでしょうか?』
意外な回答だが、確かに的を射ていた。
「・・・恐怖か、今まで生きてきた人生の中で無縁に近い感情だな」
それは、嬉しいようで悲しかった。
「じゃあ、アイはもし僕から信号があったら正面から突入して大暴れしてくれ、事の経緯はさっき僕のケータイから盗み聞きしてたろ?」
『・・・ばれてました?』
「お前がケータイにいる時ケータイが熱くなるんだよ。で?分かったか?」
『ロジャー!!』
「・・・それはSPDの挨拶だ」
とちょっと危ない発言を残し、奏多はフッと笑った、その時には既に心臓の鼓動はゆっくりと安定していた。
家から出て20分が経ったところで、奏多は山の上にある大きな屋敷があるのを見つけた。
「あれか・・・アイ、裏からあそこに行くルートを出してくれ。」
『はい、此処から先を200メートルほど走り、裏の山道から上がってくるしかないですね、とりあえず停止サインを出すまでその道を突っ切って下さい』
「監視カメラは?」
『そのルートには電気が通っておらず、監視カメラを設置するのは不可能です。』
なるほど、恐らく3人もそのルートを使ったのだろう・・・
「分かった、ここからは時間との勝負だ・・・」
奏多はハンドルを思いっきりひねり坂道を駆けて行った。
屋敷まで800 700 600 500 400 300・・・そして200メートル地点でストップサインが出た。
『ここから先からは徒歩でお願いします、私のサーチャーで確認したところ、100メートル先から監視カメラエリアになってくるので要注意を・・・』
「ありがと、じゃあ、ここで見つからないよう待機、見つかったら全速力で屋敷に突っ込め」
『了解・・・あ、あと・・・その、マスター・・・』
「何だい?」
『ご武運を・・・』
奏多はバイクの画面にコクリと頷き、足を走らせた。
奏多は森の真上に木に登り、木から木へと忍者の様に移動していく、監視カメラは木の中部から上部に掛けて設置され、警護対象となるものへと続く道を見張る、ならばそれが行き届いていない木の真上を移動すればよいのだ。簡単に言うが、それには強靭かつ柔軟で耐久力のある凄まじい脚力が必須となってくる。
屋敷まであと70メートル、木の頂上から身を潜め屋敷近辺を見ると、屋敷の周りには誰もいなかった。
「よし、ここで、新兵器の登場っと」
と奏多はベルトに装着していたボール状の機械を屋敷の屋根に向かって投げた。
ボールは屋敷の真上でドローンの様な飛行物体に変形し、屋根にくっついた。
そして、小型の電子機器を取り出すと、その画面には立体的な屋敷の構造、屋敷にいる人間の居場所が赤い点が映し出されていた。
「3階には0、2階には2人、1階に4人、地下に4人・・・」
なら3階から侵入するまでだ。
続いて奏多は腕に小型装置を付けると、その装置のボタンを押した。
ランプが青色に変わり両脇の木に向かってその機械を向けると、シュバっと糸の様なものが発射された。
これぞ、Ⅳが使っていた強靭な糸とコミックヒーローの蜘蛛男の技術を勝手に結集させた真似して作ってはいけないウェーブシューターだ。
その糸がしっかりしていることを確認し、奏多は後ろに反動をつけ、弾丸の様に屋敷の屋根へと飛び乗った。
そして屋根を静かに歩き、侵入できる箇所を探すと、屋根の一部に真新しい修理した箇所があった。
「なるほど・・・ここから侵入したわけか・・・で、捕まったと・・・」
屋上を確認するが、監視カメラはない・・・となると
「なるほど、屋根裏か・・・意表をつく泥棒対策は万全か・・・」
ならば、大騒ぎにはなるが、カメラを止める手段は1つ
奏多はキョロキョロと屋敷の周りを見渡すと、屋敷の発電機を発見した、こういう山の上の屋敷にはこういうのがあるのだ。
そして、奏多は所持している手榴弾を投げた。
手榴弾は吸い込まれるように発電機の真上に落下し、数秒後大爆発を起こした。
そして、奏多はそれと同時に屋根を突き破り屋敷へと潜入した。
予備電源に切り替わる前に急ぎ、地下一階へと行かなければならない、恐らくそれまでには10分15分は掛かる、本当に時間との勝負だ。
幸いなことに今日は空は雲で空が暗くなっていた為、屋根裏から3階へと降りたとき屋敷の中は肉眼では見えにくいほど暗くなっていた。
そこで、新発明第2号、暗視グラス
暗視ゴーグルよりコンパクトに改良し、サーモグラフィーの機能も搭載されている優れものだ。
屋根上に取りつけたドローンからの情報を確認すると、屋敷の中の人間は半分以下となっており、現状1階に1人、地下に4人と、護衛は2人しかいないようだった、これはチャンスだった。
奏多は物音を立てずに、素早く移動し、一階へとたどり着いた。
地下への入り口の前に一人・・・背丈は2メートルはある大男のボディーガードだった。
奏多は持っていたハンドガンの球を一発親指で弾き、大男のおでこに命中させた。
暗闇の中の襲撃に男は通信機らしきものを取り出そうとした瞬間、奏多は男の顎目がけ、鋭い一撃をお見舞いした。
気絶したことを確認し、奏多は地下へと急ぐ。
地下は1階よりも暗く暗視ゴーグルがなければ危なかっただろう。
全方位を警戒しながら奏多は歩を進める。すると、前方に1人、同じ背丈ほどの人間の姿を確認した。
奏多は先程と同じ手でハンドガンの球を相手の体の部位に目がけ指で発射した。
そして、あっけなく、最後の砦も倒し、奏多は暗視ゴーグルで3人の姿を発見した。
「おい、おい!大丈夫か?」
だが、3人ともぐったりしていて反応がない・・・
「眠らされているのか・・・仕方がない、無理やり起こすしか」
と檻の鍵を素早くピッキングし、檻の扉を開けた。
だが、次の瞬間、地下の通気口から白いガスが噴出された。
「なっ!?しま・・・っ・・・」
慌てて息を止め口と鼻を覆ったが、結構最初に勢いよく吸い込んでしまった。
「わ、な、か・・・・」
奏多は凄まじい眠気に襲われ、自身の足にナイフを突き刺し意識を覚醒させようとしたが、もうナイフを握る力も残っていなかった。
朦朧とする意識の中で、身体が引きずられているのが解る・・・
―引きずるなよ・・・あっ、階段痛い・・・
ボーっとする意識はいつの間にか完全に真っ暗となっていた。
そして、次に目が覚めると、そこは輝くシャンデリアが見下ろす食卓の場だった。
左に捕まっている3人が並んで椅子に座らされており
正面にはこの屋敷の主、レイラ姫がニコニコと微笑みながらこちらを見ていた。
「・・・今何時?」
「6時30分です、1時間ほど寝ていらしたんですよ。」
とぽーっとする頭で会話をし、数秒が経過して、自身の目的と現在置かれている状況を理解した。
そして、気がつくと手と足は木製の椅子に手錠でガッチリ固定されていた。
ちょうど同じタイミングで目が覚めた3人もその様子だった。
「あら、御3方もお目覚めのようですよダーリン」
「ふぇ・・・?って!?あれ!お兄ちゃん!?何でここにいるの?」
こちらの気も知らずに驚いた様子でこちらに吠えるので、正直自由ならぶん殴ってやるところだった。
「どっかの、阿呆な3人が捕まったせいで、僕も捕まったんだよ・・・」
はぁと苛立ちを交えたため息を見せる様子を見た3人はしょぼんとしてしまった。
「あの扉は特殊な鍵で施錠しているので、ピッキングで開けると仕掛けが作動する仕組みになっているのです。」
―あーなるほど・・・そういうわけか。
納得するのは早かった
「それで、僕らはこれからどうなるんです?」
と奏多はレイラを睨みつける
「フフフ、どうしましょうかねぇ?ま、とりあえず夕食にしましょう」
とテーブルには高級和食が次々と運ばれてきた。
「すみませんが今日はもう夕食の準備を済ませてるんで、食事は要りません」
というか、両手使えないのにどうやって食べろと言うのか・・・ああ、なるほど犬食いしろと・・・とことん舐めてやがる・・・
チラッと隣を見ると捕えられていた3人はよだれを垂らしながら料理に目が釘付になっており、もう顔が料理に着きそうなくらい屈んでいた
もう、解放されたらこいつらの頭思いっきりぶん殴ってやろう。
「あら、そうですか、ではここからはお話ししましょう」
とナイフで幽庵焼きを食べながら目の色が変わった。
「ツヴァイ、私の元に来てください、私は貴方が欲しい」
「嫌です、僕は誰の下にもつかない」
きっぱりと言ってやった。
「では、私の伴侶になって頂けませんか?」
「嫌です、僕は誰にも恋しない」
断言したやった。
そして、今度は奏多から口を開いた
「何で僕なんですか?」
すると、ふふっと笑った
「・・・332」
いきなり数字を唱える
「何の数字か分かりますか?」
「・・・さぁ」
「私が今まで、誘拐、暗殺されかけた回数です」
要するに17、18年の人生の中で332回誘拐されかけ、殺されかけた・・・という事か・・・・だが、それが僕が欲しいという理由にならない
「ですから、私はまたあなたに守ってほしいのです・・・」
その衝撃的な発言に奏多はよろっとなった
「332回も守ってくれている部下がいるのに?」
「はい。」
「それは何でまた・・・」
「あの事件以来、我が国は世界有数の軍事国家兼世界で3番目で資産を多く有する国となり、他の国や組織から狙われることが多くなったのです。そして、貴方が私の護衛をして下さった10年前の日々はとても安心し、貴方という存在から守られていると感じれました、あの後も私は貴方を雇おうと組織に接触しましたが貴方は消えていました、ですから、その腹いせに我が国が資金源の一部だったあの組織とは一切手を切り、私は自身の力と財力にモノを言わせ、貴方を発見したというわけです。」
「・・・・へ?」
「なっ!?」
「・・・マジか?」
「拙者たちの・・・苦労は・・・?」
そう、全くの無駄な行為であった、元はと言えば乙姉妹からの噂が不安を拡大させ、そして、気の早い3人の小娘が行動をし、結果的に無駄な救出劇を行い無惨に捕まってしまった。
「お前らなんか放っておけばよかった!!あぁ、クソ、F〇CK!!!」
心からの言葉だった、ただ単に3人の優しさと早とちりが原因でこうなった為、奏多は瞬間的に精神が多少幼児化していた。
『すいませんでした』
席に固定されたまま頭を下げる3人の姿を見て、奏多はハァとため息をつき、目線をレイラに戻した。
「君が僕を頼ってくれてる事はよく解りました・・・でも、今僕は守らないといけない人がいるんだ・・・すいません、僕は帰ります」
真剣な目でレイラを見つめる、レイラはその目を見るとクスッと笑った。
「いいですね、今のあなたの目、迷いのない綺麗で純粋な目、昔の貴方もいいけど、今のあなたもいいですね」
すると、スクッと立ち上がり指をパチンと鳴らすと部屋の隅からバトラーが一人現れた。
「では、この楓を倒して堂々と玄関からお帰り下さい、負けたら、貴方は私と結婚してもらいます。」
勝つしかハッピーエンドがない・・・ならば、勝つのみだ
「お兄ちゃん、気をつけて!そいつただ者じゃないよ!!」
解っているさ、理解しているとも、何故なら目が覚めてからずーっと感じていた自身に対する敵意はこのバトラーから発せられているからだ。
「では、手足の枷を解きましょう。」
「いえ、大丈夫です。」
と奏多の手首はゴキンと外れた、否外した。
そして蛇の様にクネッと手枷から手を解放し、足枷も足首を、いや正しくは腓骨と距骨の間を外し同様に自由となった、一歩間違えれば靭帯も危ない
「痛みはあるのか?」と聞かれたのならば答えは「yes」だ。
だが、もう慣れている、常人なら顔を歪め下手すれば叫んでしまうレベルの痛みだがもう、慣れてしまっている。
手首と足首をはめてゴキゴキと手首と足首を調節する、うんハマった。
武器は1つ、己の肉体のみ、それは向こうも同じ・・・だが、正直、肉弾戦は得意ではない。
だが、互いに構え、間合を取る。もうすでに勝負は始まっている。
相手方は拳法の様な構え方だが、見たところ中国拳法らしい・・・
肉弾戦において、負けるのは大体最初に動いた方・・・というのがルーツだが、実はそうではない、先制で勝てる人間というのは2種類ある、1種類の人間、その人間の一発目は【様子見】という事が多い、要するに相手方の実力を知るのだ、尚それを行うのは本当の実力者のみだ。そして、負けるのはカウンター技術を持っている人間に成す術もなくやられる人間、要するに未熟者だ。
そして、もう一方の人間は一撃で終わらせる、所謂【百発百中の一撃必殺】を持っている人間だ。
因みに人間の急所というのは50は軽く超えている、天道 蟀谷 顎 喉仏 乳様突起 鳥兎 天倒 眼窩 独鈷 霞 人中 頬車 頸中 簾泉 松風 下昆 村雨 天突 秘中 早打 活殺 雁下鳩尾 金的 これだけ挙げてもまだ半分くらいだ、それほど人間の身体とは脆く神秘的だ。
そして対峙している神代楓は・・・後者の人間だった。
彼女の掌底は、奏多の予測を上回る一撃は、見事に奏多の胸の中心を捉えていた。
肉体が回転する、横に、扇風機の羽の様に、廻る、回る、周る。
そして肋骨が軋む、折れる、砕ける、呼吸が出来なくなった。
「っは―・・・かっ・・・ガハッ!!」
壁に叩きつけられ、息もまともに出来ない、心臓は逸れているが肺は潰れている、呼吸困難と口からの出血がその証拠だ。
だが、奏多は直ぐに立ち上がった。
高速回復・・・無理やり細胞を刺激し人間が人生の内に動く細胞の回数を強制的に加速させる・・・人間の外の技だ。
それによって粉砕した肋骨と、肺はある程度再生していた。
だがダメージが凄い、もう2,3発あれを撃ち込まれれば間違いなく死ぬ。
一方、奏多が立ち上がってくるのが分かってたようにすかさず2発目を叩きこもうとしてきた。
だが、奏多は辛うじて避け、掌底で突き出た腕を掴み、すかさず背面で楓の腰に乗る。
そしてもう一方の腕を掴み、足を引っかけ、後ろに凭れかかる
この技の名は【OLAP】先日、愛猫に食らったマッハパルバライザーを調べている内にこの技を使っている空想上の仮面男が使っていた脱出不可能の技だ。
ギチギチと筋繊維が悲鳴をあげ、骨が軋む、漫画ではこの技を喰らっていた相手の腕は取れるか、ウルトラ怪獣のグドンのようにプランプランになっていた。
だが、脱出不可能の技は意外にも簡単に外された。
固定してある足のクラッチを外され、逆に足のクラッチを掛けられ掴んでいた手首は何時しか掴まれている手首になっていた。
そして一瞬にして奏多は地面へと叩きつけられ、腹を踏まれた
「この程度か・・・この程度でお嬢様に気に入られてたのか・・・」
顔を蹴られ、首を掴まれ持ち上げられた。
「貴様さえ・・・貴様さえいなければ・・・」
なぜ初対面の人間にこうも恨まられなければいけないのか・・・もう解らなかった。
◇
ここで、とあるお姫様に使える執事の一族について語ろう、その一族は初代国王から使える執事で幼少期から執事たるすべての要素を身に着け己が主を守るために人生を捧げてきた。
だが、10年前の城での事件の際その一族は何の役にも立たなかった。
幼くとも一族の任を受けた執事は城では爆発に巻き込まれ戦線離脱、そして、王女が目の前で捕まっているのを見ているだけで何もできなかった、だが、それを救ったのは数週間前に入ってきた見習いの執事だった。
彼は自分と同じ位の年でありながら自分より倍以上はある大人を遊び相手の様に扱っていた。
その執事はその日より死ぬような鍛錬をこなし、姫に降り注ぐ魔の手をことごとく払いのけた・・・が姫の目には自分は映っていなかった、その目にはあの少年が映っていた。
私は・・・嫉妬した。
お嬢様からの愛を・・・信頼を・・・独り占めしている少年に嫉妬した。
そして、今その少年は私の足元にいる、血を吐きながら私に屈服している。
そうだ、トドメを刺そう・・・
と執事は少年の首に手を掛けた。
ここで少し力を籠めれば、直ぐに殺せる
だが、少年の目は死んでおらず、手首を掴み解こうとする。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
と雄たけびをあげ首を掴んだまま地面に身体を押し付け引きずりながら部屋中を駆け巡った。
だが、その途中、奏多は手を振りほどき、執事の脇腹に一撃をいれた
「ぐっ・・・」
流石に効いたのか顔を歪め体勢を立て直していた。
「はぁ、はぁ、君は・・・何でそんなに焦っている?」
と奏多の言葉を聞いた楓はピタッと止まった
-焦っている?・・・私が?
その隙に奏多は距離を取り、幾分かの体力回復を図った
だが、ダメージの量は圧倒的に奏多が上、いくら体力と回復力があった所で体がいう事を利かなくなったらそこで終わりだ。
だから、奏多は次に全てを懸ける・・・
それを読み取った楓も最初に見せた構えを取り奏多の命を取りに来た。
互いに動かない、緊迫する状況下・・・そして、暴れたせいでぐちゃぐちゃになったテーブルから皿が一枚落ちた、静寂の中に響く食器の破壊音が合図となり、凄まじいスピード同士がぶつかり合った。
楓の一撃は奏多の心臓目がけ放たれる、だが、奏多はそれを読んでいたかのように右に少し逸れる、そして楓の一撃は奏多の左腕を破壊した。
だが、そこまでだった、中国拳法、太極拳を扱う楓は捻じる攻撃で相手の内部を破壊する・・・先程は体の中心を攻撃したことで攻撃箇所が回転刃の芯となり奏多は吹っ飛んだが、今度は腕一本、思うほど回転せず、奏多はほぼ0距離の位置から動かずに思い切り右腕を天に突きあげた。
見事なアッパーだった。
全身全霊を込めたアッパーは楓の肉体を浮かせ、勢いよく吹っ飛ばした。
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・か、勝った・・・・」
とヨロヨロと膝をつき、楓の方を向くと、何と楓は立ち上がった。
あれほどの一撃を喰らったのだ脳は揺れ立つことすらままならないのに・・・楓は立っていた。
だが、楓は気絶していた。理由は分からない、執念、プライド、思いが、この執事を立ち上がらせたのか・・・分からないが、執事は立ったまま気絶していた。
奏多はホッと安心の息を吐き、ヨロヨロとした足で椅子に座った
「では、約束通り帰ります・・・でも、恋人はむりでも、友達になりましょう。」
と何かを言われる前に奏多は3人の拘束を解き、屋敷を後にした。
レイラはスクッと立ち上がり気絶している楓の元に向かった。
「お疲れ様です、楓・・・よく頑張りました、流石私の、ワルキューレ」
と立ったままの楓を寝かせ、レイラは電話を掛けた。
「私です、ええ、結果は・・・負けです、ですので予定していた事を実行してください。」
と簡単に何かを命じ、レイラは楓を膝に乗せた。
すると、楓は目を覚まし、涙を流した
「すいません・・・負けてしまいました・・・・」
レイラはソっと頭を撫でる
「良いのです、ちょっと私も今回は無茶が過ぎました、段階を飛ばしてでの愛なんて、何の意味もありません。」
「そう・・・ですか」
「出来ればね、私は貴方に戦って欲しくない・・・一族の宿命とは言え、女の子なんだから・・・」
ソット頭を撫で続け、レイラは楓を慰め続けた・・・楓はここで初めて主からの愛を貰った、嫌初めから貰っていた、くだらない個人の嫉妬のせいで、気に掛けてくれていたお嬢様のご好意を幾度と気付かぬうちに・・・いや、気がついてはいたのだろうが不意にしてしまったのだ・・・恐らくあの男は私との戦いの中、その事に気がつきあの様なセリフを吐いたのだ。
「完敗です・・・」
涙を流しながら楓の意識は真っ暗な闇へと向かって行った。
◇
一方奏多は、外で待機していたバイクを発見し、サイドカーを出し全員を乗せ自動操縦でまずは乙姉妹の家へ向かった。
その間で壊れた左腕は動くまでに治ったが、痛みが引かない、本当に痛い。
乙姉妹を別れ際に左手で思い切り拳骨をいれ、奏多は家へと戻った。
そして、家へ着くと、家の前に黒服の男が一人立っていた。
「お待ちしておりました」
と黒服はバイクを降りた奏多と紅葉の前へとやってきた。
「これを・・・私はこれで」
と黒い封筒を手渡され、奏多はそれを開くと偉い達筆な英語が書いてありそこにはこう書かれていた
「ツヴァイへ
これを読んでいるという事はきっとあなたは勝っているのでしょう、残念です、そこで、勝った副賞として、私が転校して経った2日分の記憶を学校の皆様の記憶から消すという事です、既に今日あなたを襲った不敬な輩共の記憶は消しておきましたわが国では最新の医療も携わり、記憶の消去もその一環として技術的に可能としました。そこで、もしよろしければ明日から始まる私の2回目の転校日、ご迷惑をお掛けした私をどうか友人として迎えてください、どうぞよろしくお願いします レイラ 」
「何から何まで何だか読まれてるって感じだ、しかも、処理も凄い・・・」
「では、我々の記憶だけは残り、他の皆にはこの2日間の記憶は無くなると・・・」
「うん、有り難い話だ、僕の印象が悪いままだと正直メンタルが持ちそうにない」
家のドアをガチャリと開け、リビングに入るとリビングのソファで気持ちよさそうに奏と加奈がスースーと寝息を立てて寝ていた。
時刻は7時45分、【夕食までに帰る】クリア・・・だが、海老は買い忘れた。
◇
それからの事は簡単に説明しよう。
あのあと、直ぐに着替え、何事も無かったの如く僕と紅葉さんは晩御飯の用意をした、そして起きた2人にレイラの名前を出してもキョトンとした様子だったので記憶は消えていた。
そして後日、クラスの席はレイラが来る前に戻っており、案の定、レイラは転校生としてやってきた・・・が、その後ろには2日前にはいなかった女子が控えていた
「神代 楓だ、レイラお嬢様の付き人だ。よろしく」
そして、奏多の目の前に来ると、手を差し出した
「これからよろしくお願いします、奏多さん」
「はい、こちらこそ、レイラさん」
と手を掴み、握手をした。
その様子を見たクラスメイト達はどよどよとし始めたが、奏多の知人ということで皆納得したのだった。
次回予告:悪夢は周期ごとに訪れる、主に怠け者についてくる。
次回「私のお兄ちゃんは完璧すぎる」 悪夢再び お楽しみに




