6.アリューマ・インタビュー(ヴィオレッタとシャノンの場合)
「ごきげんよう、ヴィオレッタさま」
「ごきげんよう、アリューマ」
次は辺境伯に嫁ぐ伯爵令嬢のヴィオレッタ様ね。婚約者のシャノン様は何処にいったのかしら。
「ヴィオレッタさまのこんやくしゃのシャノンさまは、どのような人なのですか?」
「シャノンは、とても優しい人ですよ。明るく元気で、いつもわたしを励ましてくれる、優しい人なの」
ヴィオレッタ様の目元は優しく、心から婚約者の事を想っているのが伝わってくるわ。
あれ、でもヴィオレッタ様とシャノン様は侯爵夫人がわざわざ呼んだから、何かしら不仲のはずなのだけれど。
「まあ、そうなのですね」
「ええ。わたくし、どうしても心が沈み込んでしまう日があるの。いつもお茶会では表情に出さないようにしているのですけれど。笑っていても心が落ち込んでいる時に、シャノンは気がついてくれる人なの」
「まあ、シャノンさまは、ヴィオレッタさまを、きにかけてくれているのですね」
「ええ。週に1回手紙もくれて。手紙の中でも、たくさん元気づけようとしてくれているの」
ほんのりと頬を染めて、嬉しそうにヴィオレッタ様が微笑んでいる。
「いっしょにおでかけしたり、するのですか?」
「そうね、えっと、わたくしたちは普段は王都で学園に通っているのだけれど、観劇に行ったり、植物園に行ったり」
「まあ、そうなのですね。さいきんは、どこにデートにいかれたんですか」
ヴィオレッタ様の顔が少しだけ強張っているわ。どうしたのかしら?
「最近は、出かけていなくて。その、1年ぐらい前から」
「そうなのですか」
「手紙は今まで通りに届くのだけれど⋯一年前からシャノンの様子がおかしいの⋯話しかけてもすぐに会話を打ち切るし、本人は何でも無いって言うけど、仕草とか、言葉とか、なんだか違うの⋯聞いても教えてくれなくて。浮気も疑ったんだけど、学園にちゃんと通っていて、遊んでいるわけでもないみたいで。どっちかって言うとものすごく勉強しているみたい。だけど、なんか、シャノンがシャノンじゃないみたいなの」
「うーん、ヴィオレッタさまは、シャノンさまがわからなくなってしまったのですか?」
「ええ、わたくし、今シャノンが何を考えているのか、全く解らないの」
「では、シャノンさまにききにいきましょう!」
「えっ」
「わからないのなら、きけばいいとおもいます。おしえてくれないなら、ききかたをかえて、いっぱいきけば、いつかつたわるかもしれません」
「でも」
「シャノンさまは、いまどこにいらっしゃいますか?」
「えっと、靴擦れが痛いので休憩室に」
「きゅうけいしつに、あんないしてください」
会場で飲み物のサーブをしていたうちの侍従にアリューマが声をかけた。
急いでヴィオレッタ様のお母様に視線を向ける。ちょうどこっちに歩き出してきたところだった。
「ごきげんよう。ヴィオレッタ様、屋敷に入るのでしたらわたくし達も一緒に行ってもよろしいかしら」
「もちろんです」
わたくしと、ヴィオレッタ様の母である伯爵夫人も共にシャノン様のいる休憩室に向かった。
屋敷に戻る為に庭園を歩いていると、男の子が言い争っている声が聞こえてきた。
「えっ」
ヴィオレッタ様が走り出した。
「ヴィオレッタ?!」
あわてて皆で追いかける。
「おかあさま、まってー」
条件反射でわたくしも走り出そうとしましたが、アリューマの声に振り返り、急いでアリューマを抱っこして走り出す。5才なので結構重いわ。
庭園の道をそれた先、二人の男の子が言い争っているわ。
「だから、あと3ヶ月待ってくれよ。後もうちょっとで土壌改良の方法をまとめられるんだ」
「うー、せめて、放課後だけでもヴィオレッタと過ごさせてよ」
「バレたらどうするんだよ、親父に大目玉食らうぞ」
「そうだけど」
「そもそもお前が1年って言ったんじゃないか」
「そうだけど⋯もっと早く治療法と医者が見つかったんだ」
「気持ちはわかるけど、流石に学校と放課後で入れ替わったらバレるって。今でもめっちゃジト目で見られるんだからな」
「俺達を見分けるなんて⋯いやぁ⋯愛かな?」
「のろけんな、馬鹿」
1人はフードを被っている。もう1人はガーデンパーティにふさわしい礼服。そして、どちらも同じ顔だった。
「シャノン!」
ヴィオレッタ様が全力で走り、そのままフードを被った方に思いっきり抱きつく。
「ヴィオレッタ?!」
抱きついたまま号泣するヴィオレッタ様。
「これは、はぁ、はぁ、どういうことかしら⋯?」
夫人が息を切らせながら、二人に問いかける。
「あ、義母様、これは、その」
「あーあ⋯俺の学園生活⋯」
フードの方は伯爵夫人を義母様と呼び、礼服の方は自分の学園生活を心配している。
「どういう事か、説明しなさい」
号泣して目を赤くしているヴィオレッタ様。
困った表情でごめんと繰り返すフードを被ったシャノン様
そして諦めたように申し訳なさそうな顔をしているシャノン様とそっくりな礼服の男の子。
「その、申し訳ございません。僕と、姉のアキレアのせいです」
「そう、詳しく教えてちょうだい」
「はじまりは、3年前。姉のアキレアが剣の道に進みたかったこと、従兄弟のラグラスが辺境の砦への入隊より農業の研究がしたかったこと。それと去年から俺が学校より外国へ行きたいという希望が合致したのがきっかけでした」
「ええっと、どういうことかしら?」
「姉上は剣の道に進みたかったのですが、父上が反対しまして。冒険者になる!と出ていくところを俺が止めていました。
そのうち、従兄弟のラグラスが騎士になるために砦に行くことになって、騎士になりたくないってうちに愚痴りに来たんです。
そしたら姉上が『わたしと代われ』って言ってきて。
辺境の砦なら、姉上の顔を知っている人とかいないし、武功を挙げて父上を説得するって聞かなくて。
姉上を止めるのにも限界を感じていましたし、このまま出ていって冒険者になるよりは、騎士になったほうがいいと思い、入れ替わりを見逃しました」
「まあ」
「ラグラスは剣が苦手でどちらかというと植物の研究が好きなんです。姉上と入れ替わった1年間、農家に入り込んで農業を学んでいました。そこで俺が学園に行く年になったとき、もっと農業の本が読みたいと首都についてきたんです。首都のタウンハウスでは、ラグラスが侍従に変装して、こっそり学校で借りた本を読ませてやっていました」
「まあ」
「1年間、ヴィオレッタと楽しく学校に通っていたんですけど、ヴィオレッタの弟であるハランの病状が良くならないのが気になって。俺、出来る事をやりたくて。
国外では医療技術が違った方向に進んでいると聞いて、そこならハランの治療法もあるんじゃないかと思って。
父上にも探してほしいとハランの診断書を渡していますが、父上は辺境伯という立場で私事で国外に頻繁に文を出す事ができません。
だから、俺が身分を隠して探しに行きたかったんです」
「そんな、ハランのために⋯」
伯爵夫人とヴィオレッタ様が目に涙を浮かべている。
そうよね、息子が病気で治らないなんて、苦しいわよね⋯息子はうるさいぐらい元気いっぱいだけれど、もしぐったりして泣きそうな顔で『ははうえ』と呼ばれたら、泣くわ。
あらやだ、わたくしまで泣けてきたわ。
年をとると涙もろくなるわね。
「なぜ、なぜわたくしに黙って行ってしまったのですか⋯ずっと、シャノンがシャノンじゃないって、もしかして、⋯殺されて入れ替わられたんじゃないかって、ずっと不安で⋯」
「ごめん、そんなに思い詰めると思っていなかった。ハランの事で苦しい思いしている君の負担になりたくなかったんだ。
忙しいって言って会わなければバレないと思っていたんだ。本当にごめん」
「シャノンの馬鹿⋯!」
「ごめんね、ヴィオレッタ⋯」
でも、入れ替わっていたって、結構不味いわね。
いくら従兄弟とはいえ、生徒ではない人間が学園に出入りして、それをシャノン様が手引きしていたのだもの。表沙汰になれば、シャノン様が停学になり、経歴に傷が付く。
下手をすると、辺境伯の跡取りとして相応しくないとして、ヴィオレッタ様との婚約も解消になる可能性すらある。
「アリューマ、いいこと、シャノン様は旅なんて出ていないし、ちゃんと学校に通っていたのよ。
そっけなかったり、忙しかったのは、ラグラス様が国外で調べた治療法の報告書を確認したり、シャノン様自身も国内の植物にハラン様の病の薬になりそうな薬草がないか調べていて余裕がなかったからよ。いい?嘘も方便よ」
伯爵夫人とシャノン、ヴィオレッタ、ラグラスがはっとした表情でこっちを見る。
「わかりました、シャノンさまとは、ちょっと、すれちがっただけなのですね」
「そうよ、それでいきましょう。色々聞かれたら、難しくてわからないと言いなさい」
「はい、むずかしくて、くわしくはわからなかったです」
「あなたもいいわね」
「いやはや、何のことでしょう、奥様。はて、最近は耳が遠くなりまして」
はっとした表情で3人が案内をしていた侍従を見る。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、伯爵夫人、アリューマ、そしてあなたも」
ラグラスとシャノンは洋服を入れ替えて会場に戻る事になった。
「そういえば、シャノン様はどうやってうちに入ったの?警備に穴があったのかしら?」
高貴な人もいるんだもの。穴があるなら塞がないといけないわ。
「タウンハウスにラグラスのフリをして帰ったのですが、机に招待状が同伴者用に1通残っていたんです。
追いついてラグラスと代わってもらおうと思っていたんだけど、間に合わなくて。
ラグラスのフリをして忘れ物を届けに来たことにしました。
招待状もあり、他人とは思えないぐらい顔が同じなので通してもらえました」
これはさすがに通すわね。本物の招待状ですし。
「なんでシャノンさまと、ラグラスさまは、おなじかおなんですか?」
「父と母が双子同士なんだよ。父上の弟がラグラスの父親で、母上の姉がラグラスの母親なんだ」
「そっくりなのですか?」
「父上と叔父上、母上と叔母上、それぞれそっくり同じ顔なんだ」
「おなじかお⋯」
アリューマがびっくりして目を丸くしてる。可愛いわ。
そういえば、双子って見たこと無いものね。
会場に戻り、仲睦まじいヴィオレッタ様とシャノン様の姿を見せつけ、仲直りしたことを印象づけた。
「今まで一緒に居られなくてごめん。許してくれるかい?」
「ええ、わたくしの為を想っていたのでしょう?でも、もう隠し事は許しませんよ」
「ああ、もちろんだ、愛しのヴィオレッタ」
砂糖吐きそうだわ。
すごいわね、あれ本心から言っているのが伝わるわ。
さすが隣国まで医者を探すほどの愛情深さがある婚約者だこと。




