名前
一週間が経った。
健太は、少しずつ新しい体に慣れ始めていた。
慣れるというのは、違和感が消えるという意味ではなく、違和感と一緒に生きていく方法を覚えてきたのだ。
「あなた、料理できたの?」
「男の時に覚えました。一人暮らしだったから」
「じゃあ、任せた」
京子は、任せた。全部。それが、京子の信頼の示し方なのだと、健太はすぐに学んだ。
京子の家事当番は、健太が担当することになった。洗濯、掃除、夕飯。朝食は京子が作る。昼食はそれぞれ。
ある夜、カレーを作っていると、京子が仕事部屋から出てきた。
「いい匂い」
「あと十分くらいです」
「うん」
京子はカウンターに座って、健太が料理するのを見ていた。無言で。でも、それが苦じゃなかった。
「ねえ」
「はい」
「秋元さんって、下の名前は?」
「健太、です」
「今は?」
健太は菜箸を止めた。今は。その二文字が、胸に刺さった。
「……分からないです」
「じゃあ、決めようか」
「え」
「あなたの名前。秋元健太だったけど、今のあなたに合う名前」
健太は少し考えた。京子の隣で、新しい名前を考える。それは、妙に心地よかった。
「佳奈」
「かナ?」
「佳いことが続くように。奈は、どうだろう。響きがいいかなって」
「秋元佳奈」
京子が口にした名前は、佳奈の胸に温かく落ちた。
「いい名前だね」
「ありがとうございます」
カレーを食べている間、京子は「佳奈ちゃん」と呼んだ。
なんだか自分が肯定されたように感じて、佳奈は嬉しくなった。




