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モデル
三日目の夜、健太は初めてモデルになった。
京子の仕事部屋は、リビングとは別の部屋にあった。窓が大きく、机が二つある。一台はデジタル用のPC、もう一台はアナログ用の作業台。壁には絵が何枚も貼ってある。
「あの椅子に座って」
京子が指したのは、無地の木の椅子だった。背景は白い壁。
「どう座れば——」
健太は初めてのことで、どうすればいいのか分からず、京子に聞こうとする。
しかし彼女が聞くよりも早くに返答が返ってきた。
「楽に座って。足を組んでもいいし」
健太は座って足を組んだ。スカートが少し持ち上がって慌てて直そうとしたら、京子が「そのまま」と言った。
京子はペンを持った。アナログだった。紙に向かう背中は、さっきまでの優しい京子ではなく、まるで別人のように感じる。
「目、こっちに向けて」
健太は京子を見た。京子の目が、健太の目の中を覗き込んでいた。
「——動かないで」
その声は震えていた。京子が震えている。健太はそれが何なのか分からなかった。
三十分ほどして、京子が「休憩」と言った。描いた絵は健太に見せなかった。
「どうですか」
「——まだ途中」
それだけ言って、京子はキッチンに向かった。水を飲んでいる背中が小さく見える。
健太はその背中を見て思った。この人は、何を描いているんだろうかと。




