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同棲の朝


 翌朝、目が覚めると、健太は白いベッドに寝ていた。京子が用意してくれた客室用のベッドだ。シーツが新品の匂いがした。


 着替えも用意されていた。白いTシャツと、グレーのショートパンツに下着も。下着を手に取った瞬間、佳奈は顔が熱くなる。


「……これ、履くのか」


 履いた。フィットした。胸も、サポートされた。鏡を見ると、昨日よりもなんだか現実感がある。


 キッチンには京子がいて、エプロンを着けて卵を焼いていた。


「おはよう。コーヒー飲む?」


「おはようございます。飲みます」


「ミルクと砂糖は?」


「ブラックで」


「元男だね」


「……失礼します」


「あはは、ごめんごめん」


 京子は照れ隠しのように笑った。二十六歳。健太より五つ上。でも、背は健太より少し低い。


 テーブルに並んだ朝食。卵焼き、味噌汁、ご飯、納豆、海苔。和食だった。


「昨日は雑炊だったけど、今日はちゃんとした朝食。私は朝ちゃんと食べる派だから」


「ありがとうございます」


 食べている間、京子は何も言わなかった。健太も黙っていた。でも、沈黙が苦じゃない。不思議と、安心できた。


 朝食を食べ終わると、京子がこちらを見て言った。


「今日、服買いに行こう。そのパーカー、可愛いけどサイズが合ってない」


「お金、ないんです」


「私が出すって言ったでしょ」


「でも——」


「借りていいよ。いつか返してくれたら。返せなくてもいいけど」


 健太は黙った。恩を感じていた。でも、同時に、何かが引っかかっていた。なぜ、この人は見知らぬ人にここまでしてくれるんだろう。


 お店に着くと、京子は手際が良かった。健太の体を見て、サイズを瞬時に判断する。色を選ぶ。シルエットを想像する。


「これ着てみて」


 試着室で、鏡に映る自分を見るたびに、健太はまだ違和感を感じた。でも、京子が選んだ服は、その違和感を少しずつ薄くしていく。


 白いブラウスに、ネイビーのスカート。シンプルな組み合わせなのに、健太が着ると、何かが変わった。


「——綺麗だ」


 京子が試着室の外で呟いた。健太はレーザーのカーテン越しに、京子の足を見た。今日の靴はローファーだった。


「これでいい?」


「うん。あと三着」


「三着?」


「秋冬用も必要でしょ。あと、部屋着も。下着もあと数セット。靴も。カバンも——」


「ちょっと待ってください。そんな——」


「秋元さん」


 京子は初めて健太を名前で呼んだ。フルネームではなく、ただ「秋元さん」と。


「あなた、今、何も持ってないんでしょ。全部置いてきたんでしょ。前の部屋に」


 健太は黙った。その通りだった。逃げるように出てきたから。変わり果てた体を隠すために、何も持たずに飛び出したから。


「だったら、最初から揃えないと。生活できないよ」


 その声は優しかった。でも、どこか悲しそうだった。


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