冬の朝
同棲が始まった。正式に。
秋が深くなって、冬が来た。東京の冬は乾燥していて、京子の部屋の加湿器が毎日回っていた。
佳奈は、少しずつ新しい自分を受け入れていた。完全じゃない。鏡を見るたびに、まだ違和感はある。でも、その違和感を、京子が埋めてくれる。
「佳奈ちゃん、今日のポーズ、寝転がってくれる?」
「はい」
仕事部屋で、佳奈はラグマットの上に寝転がった。天井の白さが目に入った。京子のペンの音が聞こえた。
「目、閉じていいよ」
目を閉じた。暗い中に、ペンの音だけが響いた。サラサラという音。
京子の呼吸。窓の外の風の音。
「——佳奈ちゃん」
「はい」
「私ね佳奈ちゃんのこと綺麗だって言ったでしょ」
「はい」
「あれ嘘なの」
佳奈は目を開けた。京子が机から立ち上がって佳奈の方に歩いてきた。ラグマットの端に腰を下ろした。
「嘘?」
「うん。綺麗じゃないの」
「——」
「綺麗すぎるの。私の絵じゃ追いつかないくらい」
佳奈は体を起こした。京子の顔が近かった。
「京子さん」
「何」
「私、京子さんに会えてよかったです」
「——私も」
「TS病になってよかったなんて変ですけど」
「変じゃないよ」
「変ですよ。男だった自分が女になってよかったなんて」
「でもそうでしょ?」
京子は佳奈の手を取った。ペンダコのある指が佳奈の指に絡んだ。
「もし佳奈ちゃんがその病気にならなかったら私たち出会ってなかった」
「……はい」
「出会ってなかったら私はずっと寂しかったままだった」
「私もです」
「だから変じゃないよ。よかったんだよ」
冬の朝の光が窓から差し込んだ。白い光が二人を照らした。
京子は佳奈の頬に手を添えた。そしてゆっくりと顔を近づけた。
唇が触れた。柔らかい感触。京子の唇は乾いていた。冬のせいかもしれない。それとも緊張のせいかもしれない。
佳奈は目を閉じた。京子の匂いがした。インクの匂いと、シャンプーの匂いと、少しだけ甘い匂い。
「——好きだよ」
京子が言った。唇が離れた後で。
「私もです」
佳奈が言った。まだ慣れない声で。でも確かに自分の声で。




