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屋上へ参ります

折り目正しく重ねた手に加えて

これまた丁寧なお辞儀と共に

彼女は「閉」のボタンを押下


ヘイ


彼女と私

二人を乗せたエレベーターが

快適な速度で上昇を始める


(足元までガラス張りの窓

 梁が階をまたぐ度

 黒い影が二人に当たる)


「あちらに見えますのは、退屈な世界。遥か遠くまで広がっております」


バスガイドをしていたこともある

受付をしていたこともある

手慣れたものだ


「きっと導きたい性分なのです」



とうにデパートの屋上は通り過ぎた

向こうに見えるのは水平線

朝日が生まれる過程を鮮やかに


「どれくらいで着きますか」

「すいません。はっきりとは申しあげられません」

「では少しお話しませんか」

「勤務中ですのでお断り致します。申し訳ありません」



紫の空に浮かぶ鱗雲

その間を静かに通過する

もう見える訳もないデパートを探して

それから何度も話しかけたことで


(私たちにはそれしかなかったのだから)


彼女は少しずつ答えてくれるようになった


「耳が変です」

「唾を飲むと良いですよ」


「今、何を考えていますか?」

「明日は久しぶりのお休みなので、どこへ行こうかと」


「ところで私たちはどこに向かっていますか?」

「屋上でございます」



日本列島が指で挟める程度になった頃

朝日は太陽となり

スペクトルも須らく去り


「地元はどこですか?」

「函館です。今年もやりますね、ライジング…サン」

「一度だけ行ったことあります」

「私は毎年向こうの知り合いと行っています」


彼女の髪が伸びてきたので切り揃えた

私は代えの下着を鞄から出すと、何度目かの着替を始めた


「そろそろ酸素がなくなりますので息をしないでください」

「上手くできるでしょうか?」

「すぐに慣れますよ」



「ひとつお願いがあります。一度休憩を取らせていただきたく、その際は交代して頂いてもよろしいですか」

「どれくらい休まれますか?」

「はっきりとは分かりません。朝は苦手なもので」


膝を抱えて小さくまるまった姿

私は代わりにボタンの前で両手を重ねて笑顔を作る

上手くできているだろうか


まだ薄目を開けてこちらを見ていた彼女が微笑んでいる


「いつかは起きてくれますか?」

「任せてください」



星明りだけが彼女の寝顔を映し出す


(いつに着くのか、もう少ししつこく聞いておけばよかった)


うつらうつらと

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