屋上へ参ります
折り目正しく重ねた手に加えて
これまた丁寧なお辞儀と共に
彼女は「閉」のボタンを押下
ヘイ
彼女と私
二人を乗せたエレベーターが
快適な速度で上昇を始める
(足元までガラス張りの窓
梁が階をまたぐ度
黒い影が二人に当たる)
「あちらに見えますのは、退屈な世界。遥か遠くまで広がっております」
バスガイドをしていたこともある
受付をしていたこともある
手慣れたものだ
「きっと導きたい性分なのです」
◇
とうにデパートの屋上は通り過ぎた
向こうに見えるのは水平線
朝日が生まれる過程を鮮やかに
「どれくらいで着きますか」
「すいません。はっきりとは申しあげられません」
「では少しお話しませんか」
「勤務中ですのでお断り致します。申し訳ありません」
◇
紫の空に浮かぶ鱗雲
その間を静かに通過する
もう見える訳もないデパートを探して
それから何度も話しかけたことで
(私たちにはそれしかなかったのだから)
彼女は少しずつ答えてくれるようになった
「耳が変です」
「唾を飲むと良いですよ」
「今、何を考えていますか?」
「明日は久しぶりのお休みなので、どこへ行こうかと」
「ところで私たちはどこに向かっていますか?」
「屋上でございます」
◇
日本列島が指で挟める程度になった頃
朝日は太陽となり
スペクトルも須らく去り
「地元はどこですか?」
「函館です。今年もやりますね、ライジング…サン」
「一度だけ行ったことあります」
「私は毎年向こうの知り合いと行っています」
彼女の髪が伸びてきたので切り揃えた
私は代えの下着を鞄から出すと、何度目かの着替を始めた
「そろそろ酸素がなくなりますので息をしないでください」
「上手くできるでしょうか?」
「すぐに慣れますよ」
◇
「ひとつお願いがあります。一度休憩を取らせていただきたく、その際は交代して頂いてもよろしいですか」
「どれくらい休まれますか?」
「はっきりとは分かりません。朝は苦手なもので」
膝を抱えて小さくまるまった姿
私は代わりにボタンの前で両手を重ねて笑顔を作る
上手くできているだろうか
まだ薄目を開けてこちらを見ていた彼女が微笑んでいる
「いつかは起きてくれますか?」
「任せてください」
◇
星明りだけが彼女の寝顔を映し出す
(いつに着くのか、もう少ししつこく聞いておけばよかった)
うつらうつらと




