2歩先の世界
この前ね、そこのパチ屋の前で『2すすめるカード』を拾ったんですよ。
交番に届けようと思ったんですが、一緒にいた友人からね。
「それ…かなり便利だから」って言われちゃって…一旦保留にしました。
そうそう、彼はもうひとつ、こんなことも言ってました。
「いざって時は、案外動揺しちゃうもんだけど」って。
もちろん、僕もね、色々考えてみました。
例えば「あと2歩で目的のファミレスに着ける」って時。
そんな時このカードを使えば、次の回にそれを使えば確実にファミレスに入れるってことですよね。
(「それにしても次の回ってなんのことだろう」と、首をかしげている)
でもね!注意が必要なんです!
もしもこれがあと1歩でファミレスに入れるって場面でうっかり使おうもんなら!
通り過ぎてしまいますよ!
それに、普通にサイコロを振っても6分の1で着けます。
(「サイコロなんて持ち歩いていないけれど」と自嘲する)
いずれにせよ、貴方が想像している以上に、使い所が!難しい!カード!なんです!
(そう言って彼は私にそのカードを貸してくれた)
◇
(それから何日か過ぎたある日、財布には『2すすめるカード』が所在なく入っていた)
いつもの帰り道。
世界は夕焼けに包まれはしたものの、金曜は何故こんなにも遠いのか。
家の近所にある交差点は、赤い車ばかりが走っている。
皆、金曜に向けて速度を上げていく。
しかしそれを妨げたやつがいた!
それは金曜を必要としない野良犬!
そいつ、交差点に飛び出して
「もっと英語を話せるようになりたい!」
「もっと改札をスムーズに通りたい!」というような趣旨のことを、叫んでいるぞ!
そこに、犬には気付いていない様子の赤い車がひとつ!
間違いなく轢く軌道!
間違いなく絶命させる勢いで!
そして何より重要なのは、ここから野良犬の居る場所まで
ちょうど2歩!
ちょうど!2歩!
2!すすめる!カードを!使えば!使え!使っえば…
つか…えば…
しかし私はカードを使わなかった
犬を助けられたとして、次に轢かれるのが誰であるかを想像してしまったためだった
結局、野良犬は轢かれず、暴走した車もそのまま通り過ぎた
私の手の中で汗ばんだカード
そして気づく
まだこれを使うときではない
どんなに大事珍事に巻き込まれたとしても、そう思いながら私は生涯を終える




