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少女の想い、少年の想い

元の姿に戻っているなんて……。


朱里は、その事実に、これは現実だという確信を得るとともに、絶望をも感じていた。


幸い、言葉は通じているようだが、これから先どうすれば良いのだろう。

やはり、正直に、アルバに全てを話して、協力を仰いだ方が良いのだろうか。


朱里は、葛藤していた。


アルバは、朱里の部屋に、毎日のように来るようになった。

時にはアリスも一緒に、時にはアルバ一人で。


アルバは、ひたすら、朱里の身の安全を案じてくれた。

何度も、まだ無理をしない方がいい、休んでいてくれ、と言ってくれる。

朱里は、そんなアルバの優しさに、益々、想いを募らせていった。


美しいアルバ。優しく、思いやりのあるアルバ。


ある時、朱里はアルバに問い掛けてみた。

「アルバさん、何故、こんなに良くして下さるんですか?」

アルバは、朱里の瞳を真っ直ぐに見て言った。

「あなたは私の屋敷で倒れていて、今、この部屋にいる。

 一度、助けた者の世話を最後まで見るのは、助けた者の責任だからな」

朱里も、アルバを見つめ返す。

その様子はとても真摯で、心からそう思って言ってくれているようだった。

「私……実は、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないんですけど」

朱里は、覚悟を決めて、アルバの目を見て話す。

「私、ここではない、別の世界から召喚されて来ちゃったみたいなんです。

 だから、本当は、元の世界に戻りたくて……」

アルバは、少し驚いたようで、目を見開く。

「道理で……見たことのない姿をされている方だと思った」

朱里は、それを聞いて、逆にびっくりした。

「ええ、じゃあ、黒い髪とか黒い瞳とか……珍しいのですか」

アルバは首肯する。

「時々は、黒い髪の者は存在する。だが、瞳まで黒い者は珍しい。

 あくまで、この世界では、だが」

朱里は、急に恥ずかしくなって、俯く。

「私の姿、変ではありませんか?」

アルバは首を横に振って、否定する。

「確かに、髪色や瞳の色は珍しいが、あなたは美しい」

朱里は、微かに頬を赤く染める。

「お世辞が、お上手なのですね」

「いや、お世辞などではない。あなたは……似ているのだ」

アルバは、真っ直ぐに朱里の方を見つめる。

「似ている? 私が? 誰にですか?」

アルバは、急に、頬を少し赤く染めて、答える。

「私の初恋の人にだ」

「アルバさんの初恋の人……」

「いや、正確には、人ではないのかもしれない。

 天使のように美しかったが、もしかしたら、人を惑わす魔物だったのかもしれない」

「魔物……ですか」

「私は、最近、すっかり部屋に引き籠もることが多くなった。

 そんな時に、彼女は、いつも私の側にいたのだ」

朱里は、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。

「彼女は、美しかった。長い金の髪に、深い蒼色の目……。

 なんというか、見た目は、まるで天使のようだった」

そう言って、アルバは――朱里の目を見つめた。

「あなたは、その時の彼女に、とてもよく似ているのだ。

 なんというか――彼女の持つ雰囲気に、あなたの雰囲気が」

アルバは、朱里の頬に手をそっと触れる。

朱里の心臓は、とくん、とくんと高鳴っていた――。

「あなたも、彼女と同じように美しい」

朱里は、何も言えず、そのまま動けなかった。

朱里も、今、アルバと同じ気持ちだと思ったから。

アルバは、そっと朱里に口付けをした。

朱里は、目を瞑り、アルバの行動を受け止める。

時間が止まったかのようだった。

アルバは、そっと朱里から離れ、苦笑した。

「突然のことで、すまない。

 俺は、つい、あなたが……」

そこで、アルバは、少し間を置き、続ける。

「不謹慎だが、あなたが欲しいと思ってしまった」

朱里は、頬を赤く染めていたが、突然、我に返ったかのようにアルバに言う。

「私は、朱里と言います。

 すみません、自己紹介もまだで……」

アルバは、苦笑した。

「いや、私の方こそ、自己紹介もまだだったな。

 すまない。

 俺はフォルシュタイン家当主、アルバ・フォルシュタインという。

 最も、あなたは、俺の名前を知っていたようだが」

朱里は、本当のことを全て話したい欲求に駆られたが、【警告】を思い出し、ぐっと堪える。

「アルバさん、私は、実は、あなたのことが好きで、

 あなたの姿を見る度に、とても幸せで……」

朱里は、もう一度、アルバの方を見た。

「朱里、ありがとう」

アルバは、微笑しながら、朱里の手を取る。

そして、手の甲にそっと口付けをした。

「アルバでいい」

そう言うと、手を離して、窓際に歩いて行く。

「アルバ。私なんかでいいの?」

朱里は、不安そうに問い掛ける。

アルバは、振り向いて、微笑しながら、答える。

「その相手の全てが欲しいという想い以上に、重要なものがあるのか?」

朱里は、答えられなかった。

答える代わりに、朱里は、そっとアルバの隣へ立つ。

その美しい横顔を、もう少し眺めたかったから。


窓から差し込む月明かりが、二人を穏やかに優しく照らしていた。

ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

あともう少しで完結です。

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