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天使の戯れと束の間の恋

朱里は、恐る恐る、蒼の矢を手に取った。

その女性がアルバを想っているのかどうかは分からなかったが、

念の為、もしそんな感情があるなら、消し去っておくべきだと思った。


構えてから、狙いを定め、蒼の矢を放つ。

蒼の矢は、狙いの通り、女性の身体を貫いた。

そして、はっと気が付く。


――ああ、やってしまった。

勝手に矢を使ってしまった。


しかし、後悔よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

朱里は、女性に変化があったか確認する為、女性の方に目を向けた。


女性は、アルバの方を向いて、にこやかに言った。


「アルバ様も、こちらに来て、この仔たちと一緒に遊びませんか?」

「そうだな、俺も、混ざらせてもらうか」


そう言うが早いか、アルバは女性の方に――いや、犬たちの方に、歩いて行った。


ダメだ、全然、効果がないみたい。なんで?

そうだ、【世界の理】に聞いてみればいいんだ!

【世界の理】さん、蒼の矢の効果がないようなのですが?


『蒼の矢の効果は、紅の矢の効果を消し去る効果です。

 対象者が、元々、恋愛感情を持っている場合に、その感情を消し去ることは出来ません』


そうなのか……。

ということは、今回の場合は、蒼の矢を当てても、意味がないということになる。


ん、待てよ?

じゃあ、紅の矢だったら、どうだろう。

紅の矢で、無理やり、他の人とカップルにしてしまえば……。


そう思い付くが早いか、朱里は、紅の矢をつがえていた。

女性に向かって、紅の矢を放つ。

だが、手元が狂ったらしく、紅の矢は、アルバの方を射抜いてしまった。


ど、ど、どうしよう……。

あ、でも、待てよ?

試しに、女性にも赤の矢を当ててみて、運命の恋人同士以外でも紅の矢が有効なのか、

先に確認してみるか!!


早速、もう一回、紅の矢を構えて、今度は女性の方を射る。

女性に矢が当たると同時に、今度は、女性の動きがピタリと止まる。


庭の木々が、突然の疾風に吹かれて、大きく揺れた。

犬たちは、無邪気に、女性とアルバの周りを走り回っている。


女性は、すくっと立ち上がり、真っ直ぐにアルバの方を見つめた。

「アルバ様……」

アルバは、表情を変えず、女性の方を見つめ返す。

「どうした、アリス」

アリスは、アルバをうるうるした目で見つめている。

「私、私……どうしたことでしょう、胸の高鳴りがおさまりませんわ」

朱里は、急いでアルバの方に目をやるが、アルバの表情は変わらない。

「アリス、大丈夫か?心臓の病気かもしれない。

 急いで医者の手当てを……」

アリスは、慌てて、手を振って否定する。

「い、いえ、滅相もないことでございます。

 私が申し上げたいのは、私は、私は……前からアルバ様のことを……!!」

また大きな風が吹いた。

木々が大きく揺れ、庭に咲いている小さな花々も、大きく揺られている。

「これ以上は、申し上げることが出来ません、アルバ様」

アリスは、顔を俯ける。

「続きが気になるな。教えてくれないか?

 前から、俺のことを、なんだ?」

アルバは、真剣な顔で、アリスを見つめている。

アリスは答えない。


朱里は思っていた。

なんか、見ていて、ヤキモキするな……。

アリスの方はともかく、アルバの方は何を考えてるのか、よく分からない。

本当に、紅の矢の効果が、きちんと出てるんだろうか?

あと、アリスは「前から」って言ってたけど、やっぱり恋してたってことなんだろうか?


「答えろ、アリス。俺が、どうした」

アルバは、アリスの手を掴むと、強引に引き寄せた。

「続きを聞かせてくれ」

「お止めください、アルバ様。

 これ以上は……」

アリスが、力なく、アルバの手を振り払おうとする。

「続きが聞きたいんだ。

 続きを聞かせてくれたら、手を放そう」


こ、これ以上は、危ない!!


そう思った朱里は、急いで、蒼の矢をアリスに向かって放つ。

蒼の矢が当たった途端、アリスは我に返ったかのように、顔を上げた。

アリスは、呆けたように、アルバに向かって呟いた。


「アルバ様……これは一体?

 ア、ア、アルバ様が、こんな強引なことをなさるなんて」

アリスは、オロオロしている。

「アリス、答えてくれ。

 さっきは、何を言おうとしていた?」

アリスは、狼狽えながらも、必死に思い出そうとしているようだった。

「さ、さ、さきほど、私は、何か変なことを申し上げましたか?

 記憶にないのでございますが……」


これ以上は、ややこしいことになりそうなので、朱里は蒼の矢をアルバに放った。

アルバは、表情を変えなかったが、アリスの手をそっと放した。


「アリス、すまない」

そう言い放つアルバの表情からは、しかし、何の感情も感じられなかった。

「いえ……。アルバ様、私が何か変なことを申し上げたようで」

アリスは、心底、申し訳なさそうな顔をしている。

「俺が強引だった……ような気がする。

 許してくれ」

「許すだなんて、そんな」

アリスは、下を向いて、モジモジしている。

「では、私、そろそろ」

アリスは、そう言うが早いか、そそくさとその場を後にしたのだった。


犬たちが、アルバに群がっている。

懐いているらしく、アルバにすり寄ったり、アルバの手をペロペロと舐めたりしている。


うーーーん、なんだか、悪いことをしてしまったような。

まぁ、紅の矢の効果は確認できたし、いいか……。

でも、なんかちょっと、おかしかったな。

いつもだったら、もうちょっとスムーズな展開になるような気がするんだけど。


朱里は不思議に思いながら、手に持っている紅の矢を見つめるのだった。


そして、そんな朱里を、アルバはじっと見つめていたのだった――。

ここまで読んで下さって、本当に、ありがとうございます。

もう少し続きますので、よろしくお願いします。

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