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006 おっさんとフェリ様

006 おっさんとフェリ様



「ねぇ、それ、何作ってるの?」


フェリ様に問われた。


「これは竹刀というのを作っています」


貴族様という事で、敬語が張り付いているおっさんだった。

異世界転生小説とかも読んでたけど、おっさんは強気の主人公にはなれません。


「ふーん」


フェリ様はとりあえず聞いてみたというかんじで、興味はなさそうだった。


おっさんは、切ってきた竹を割ったり削ったりして竹ひごを作っている。

貴族のお嬢様の部屋に、刃物を持ったおっさんが同居しているというのはどうなんだろうと思うが、多分彼女の方がおっさんより強いだろうし、仮に何かあったとして、おっさんは確実に処刑されるだろう。命大事に。


おっさんになると、何もできない派と、なんでもやる派とに分かれるが、このおっさんは何でもやる派だった。

料理裁縫図画工作なんでも来いである。


昨晩ほとんどコミニュケーションが無かったのを気にしていたのかもしれない。

おっさんは気にしています。

一応、召喚獣と主人の絆を深めるための10日間である。

学園のカリキュラムだし、内申にも響くのだろう。


「オッサンってさ、農民だったのよね? 何育ててたの?」


「農民…… というか、市民でした。母方の実家は農家で、父方は漁師でした。

母方の実家は結構何でも作ってましたよ。

大根、小松菜、菜っ葉、ケール……」


思い出そうとするが、全部はでてこない。

色々作っていたからというのもあるが、母方の実家に顔を出したのはもう何年も前だ。

そして、もう行けない。


「ふーん、聞いたことないものばかりね。遠くから召喚されたのかしら?」


固有名詞の翻訳はどうなっているんだろうか。


「父方の実家は近くだったので、よく遊びにいっていました。

新鮮な刺身は本当に美味しいくて…… 」


思い出すと少し涙が出そうになってしまった。

故郷が懐かしいというわけでもない。一人暮らしが長すぎる。

しかし、思い出はいつも綺麗だ。

そして、ふんどし一丁の自分。

その対比がおっさんの涙を誘う。


「サシミ? ってどんな料理なの? お魚よね?」


「ああ、生の魚の切り身です。私は白身の方が好きでした」


「え? …… 生? 市民なんて嘘でしょ。蛮族ではないの?

責めたりはしないから、正直になりなさい」


苦い顔でフェリ様が言う。

そういえば、海外でも生で魚を食べるって、漁村とかそういう場所ぐらいなもので一般的ではなかったらしいし。

でも蛮族って……


とはいえ、結構話ははずんだ。


おっさんはすべて真実を話しているのだが、それをフェリ様は戯言と受け取って、笑っていた。


「空を人が? 乗り物で? 騎獣や魔法じゃ無くて? なにそれ。あはははは」


物凄く美人で、少し怖かったが、こうして笑っているのを見るとやはりティーンエイジャーだ。かわいい。


いや、これまでの表情が硬すぎたのか。

やっぱりおっさんだし…… 警戒されていたのかもしれない。


「市民でも蛮族でもなく道化ね。ま、面白い話をしてくれるのは、良いわね。これから一生の付き合いになるわけだし」


そう。召喚獣は、あの召喚の儀から、一生を主人に尽くす事になる。

おっさんもそうである。


一通り笑い終えたフェリ様は、ふっと黙って、一瞬泣きそうな顔になった。

おっさんはそういうのを見逃さない。


「じゃ、私寝るわね」


そう言って、フェリ様はベッドに潜った。


やっぱり、こんなおっさんと一生一緒なんて辛いよな……



フェリ様の寝息と、竹を削る音だけが部屋に響いていた。



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