005 おっさんの訓練が始まった
005 おっさんの訓練が始まった
他の召喚獣はなんか色々とやっている。
火を吹いたり、飛んだり、何か石つぶてを飛ばしたり。
石とか飛行とかは魔法だろうか。
火を吹くのは…… そういう生物なのか魔法なのか分からない。
それぞれ主人が付いていて、自分の召喚獣と共に訓練している。
おっさんは一人です。
正確には、他のおっさんと一緒です。
フェリ様は座学の勉強中です。
「がははは、じゃあいくぞ!」
筋骨隆々のおっさんが飛びかかってきた。
ごう、と嫌な音が聴こえて、おっさんは反射的に木剣を構えた。
その木剣ごとおっさんは吹っ飛んだ。
なんとか立ち上がると、自分の木剣で肩を叩きながら、
「…… ま、農民じゃこんなものか」
と、筋骨隆々のおっさん、もとい、この学園の常備兵が呟いた。
おっさんは人間なので、人間らしい訓練というものを受ける事になった。
火が吹けるわけではないし、空も飛べない。魔法だって使えない。
どうせ独り身なら、童貞を守り続けていればよかったと後悔している。
だが、人間らしい訓練でコノザマである。
この兵は、おっさんより1つ年上だった。
どう見てもおっさんより一回りガタイが良い。
おっさんは肉体こそ自分の財産と思っていた。
地球であんなに大事にしていたのに、ここじゃ役に立たなかった。
でも、一般人なら…… と、周りを見たけれど、魔法とか、超生物とか……
「ははは……」
乾いた笑いがこぼれた。
この肉体も、結局役に立たなかった。
いやしかし地球では結構いい感じだった…… とは思えない。
おっさんの肉体をバカにする人は結構いた。
筋肉をバカにして、食生活をバカにして、でも結局おっさんの方が健康だったから相手にしなかったけれど、でも、僅かな優越感はあった。
負け犬の遠吠えとか、そう思っていた。
そういう負い目がある以上、おっさんには乾いた笑いしか捻り出すモノがない。
今は自分がそうなっている。
昨夜「肉体労働なら……」とか言っていた自分をぶん殴ってやりたい。
若い女の子に「いい体」とか言われて、恥ずかしいながらも喜びを感じていた自分をぶん殴ってやりたい。
いや、その前に命の危険がある。
この木剣、当たりどころが悪ければ普通に死ぬ。
一応皮鎧を着させてもらってはいるが、衝撃で骨折、頭なら死ぬのでは?
「すみません、こう…… 竹で作った剣とかありませんかね?」
「ん? 竹? 確か裏に生えてるが、竹の剣は知らんな」
というわけで、
「えっと、じゃあ、今日は素手で訓練お願いします」
「ん? そうか、剣握った事が無いって言ってたもんな。よし、こい!」
ぽーん、と木剣を放り投げた兵士。
おっさんは憧れを感じた。
大雑把で、ガハハと笑って、スッパリスッキリしている。
ああいうおっさんになりたかった。
「いきます!」
おっさんは踏み出した。
おっさんは格闘技をやっていた。
月に三回程度だが、武術系の道場に。
歳をとってからの事を考えて、バランス感覚を鍛えようと思っていた。
でも、なんだか色々やらされた。
おっさんはやっぱり才能が無くて、飲み込みも遅く、下手くそだった。
それでも、武術を知らない人間には通じるはずだ。
まず組みついて……
兵士まで後一歩というところで、おっさんの視界がぐるりと回転した。
地面がせり上がってきて、押しつぶされた。
「あ? れ?」
兵士の右フックにより、おっさんは沈んだ。
幸い、顔面ではなく左肩を打たれた様だ。
体が回転するほどの威力だ。顔面に食らったら首がちぎれていたかもしれない。
遅れて襲ってきた痛みにのたうち周り、中庭で訓練中だった一人の生徒のお世話になった。
回復魔法まじすごい。
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「なるほど、確かに、組み技は上手いな。これは勝てん。
だが、まず近付くことができないとな……」
金髪碧眼の白人っぽい女の子にひたすら頭を下げてお礼を言った後、おっさんは訓練に戻った。
組んだ状態からスタートさせてもらったら、やっぱり普通に勝てる。
だが、
「身体強化が使えないとなると、まず近付く前に叩かれるぞ」
という事だ。
魔法が使える人間は10人に1人ぐらいの割合だが、魔力はすべての人間が持っているらしい。
程度によるが、その魔力の循環を利用して肉体を強化するのが、その名も肉体強化。そのまんま。
魔法が使えない者でもでき、かつ、兵士などの戦闘職は必須の技能である。
肉体強化すらできないものもいるが、その数は少ない。
おっさんはその少数派でした。
そもそもおっさんには魔力がありませんでした。
隠し球の武術経験も役に立たず、おっさんのアイデンティティは崩壊しました。
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