きれい、や…
とぷん、と音がしたような気がした。
驚いた瞬間、傾いた重心。顔面にくるはずの衝撃に覚悟を決めようと目をつぶったら、感じたのは痛さではなく柔らかさ。
うちの味は最高だぜ、窯焼きだから
手を粉だらけにしながら笑う男
絶対忘れないで
帽子 手紙
なんだよこの課題の量…え、オマエできんの
分厚い資料とノート、万年筆、時計
会いたかった すごく 会いたかった
泣きながら抱きつく少女
女の子ですよ
顔を真っ赤にして泣く赤ん坊
かーわいいっ さすが花嫁さん
真っ白なレース、シフォン、真珠の髪留め
二度と来るもんか
閉じられた玄関
この景色 あの人に見せたい
眼前に広がる橙の山々
お腹すいたぁ
しかたない子ねと笑う母親
じゃあ明日 仕事終わりに
杯を振る仕草をする同僚
知らない声と景色と感情がコタの目の前で展開する。
それは日常と非日常の美しく哀しく愛おしくて逃げ出したくなると同時に惹きつけられる記憶の奔流。
しかし間違いなく鮮やかに色付く世界の切れ端たち。
「きれい、や…」
ここはひどく落ち着く。
身をゆだねて漂い続けたい。
冷たくも温かくもない、そもそも温度など発生しているのだろうか。
これは…あぁ、これは自分の体温なのだと感じる。
自分と同じものなのだ、変化など感じるわけがない。
包まれているが締め付けはなく、たゆたう感覚。
いつまでもここにいれる。
同化して…
「コタッ」
だから何かに引っ張られた時、混乱して拒絶してしまったのは当然だったと思う。




