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幕間 舞踏会は、誰にも見られずには成立しない



はい、どうも。作者です。

このところ、第1巻の解説以来、作者本人がやたらと前へ出てくるようになりまして。

せっかくアントンやアンドレイといった新しい人物を出しているのに、その合間から作者までひょこひょこ顔を出すものですから、


「せっかくの新キャラが霞むじゃないか」


と言われましたら、その点については申し訳ございません。

ただですね。

今回の第4.5巻を考えるにあたって、どうしても書いておきたいことがありました。

私が最初に、エリザヴェータ女帝のメタモルフォーゼ舞踏会について知った時には、正直なところ、ここまで具体的な光景は想像していませんでした。

男性が女性の服を着る。

女性が男性の服を着る。

男女逆転の舞踏会が行われた。

最初に知ったのは、だいたいその程度の情報だったからです。

ですから頭の中にあったのも、


「へえ。そんな変わった舞踏会があったんだ」


くらいのものでした。

ところが今回、この話を改めて調べながら、


「実際には、どうやって開催したんだろう?」


ということを一つずつ考えていったんですね。

そこで気づきました。

これ、参加者だけでは絶対に成立しない。

当たり前と言えば、当たり前です。

何十人、場合によってはもっと大勢の宮廷人が集まる催しです。

しかも普通の舞踏会ではありません。

男性参加者には女性用の宮廷服を着せる。

大きなスカートを用意する。

髪を整える。

化粧をする。

馬車で宮殿まで運ぶ。

宮殿へ到着したら降ろす。

入口から中へ案内する。

参加資格を確認する。

衣装に問題があれば直す。

舞踏会が終わったら、また馬車へ乗せる。

こういうことを全部、人間がやる時代です。

自動扉もありません。

自動車もありません。

照明も空調も機械化された受付もありません。

何をするにも、人の手が必要になる。

つまり。

メタモルフォーゼ舞踏会というのは、考えてみればものすごく人手のかかる催しだったはずなんです。

そして、ここでもう一つ重要なことに気づきます。

参加者たちが、


「こんな姿、できれば誰にも見られたくない」


と思ったとしても。

誰にも見られずに参加するのは、ほとんど不可能なんですよね。

自宅で支度をするなら、そこには使用人がいる。

馬車へ乗るなら、御者や従僕がいる。

宮殿へ着けば、乗り降りを手伝うフットマンがいる。

入口には警備の兵や宮廷係官がいる。

廊下には宮廷使用人がいる。

衣装に問題が起これば、それを直す人間も必要になる。

もちろん、


「サンクトペテルブルク中の庶民に晒される」


という意味ではありません。

でも、


「誰にも見られず、ひっそりと大広間までたどり着く」


というのも、現実にはかなり難しかったのではないでしょうか。

むしろ参加者本人が思っていた以上に、大勢の人間がこの奇妙な催しを裏側から見ていた可能性があります。

そこで今回、私は参加者ではなく、

その人たちを見ていた側

を考えてみることにしました。

たとえば、前に登場したフットマンのアントン。

馬車から降りるご婦人へ手を差し出すのが仕事です。

ところが、いつものように手を差し出した相手が、実は女性用宮廷服を着た男性だった。

しかも参加者本人は、大きなスカートを扱うことに慣れていない。

乗り降りを手伝わなければならない。

これは、実際にそういう人物がいたという記録があるわけではありません。

アントンは完全な架空人物です。

でも。

宮廷へ馬車で来る以上、誰かが似た仕事をしていたはずです。

そして今回のアンドレイ。

こちらも完全な架空人物です。

しかし宮廷の入口を守り、来場者を確認する人間そのものは当然必要です。

しかも仮面舞踏会では、入口で本人確認をする仕組みがあったことも記録に残っています。

では、その人たちがメタモルフォーゼ舞踏会の日に、

普段知っている伯爵や公爵が、

髪を女性風に整え、

化粧をし、

豪華なドレスを着て、

まるで別人のような姿で現れるのを見たら、どうなったのか。

残念ながら、


「その時の衛兵はこう思いました」


なんて記録は残っていません。

残っていたら、私はぜひ読みたいです。

ものすごく読みたいです。

ですが。

記録が残っていないからといって、

そういう人々が存在しなかったわけではありません。

誰かが馬車を受けた。

誰かが扉を開けた。

誰かが参加者を案内した。

誰かが入口を守った。

誰かが名前や身分を確認した。

誰かが舞踏会のあとに壊れた衣装を片づけた。

そういう名も残らなかった人々が、大勢いたはずです。

そして彼らから見れば、

歴史書にほんの数行だけ残っている、


「男女が服装を入れ替えて踊った奇妙な舞踏会」


という出来事も。

実際には、


「今日のあの伯爵、誰だか分からなかったぞ」

「またスカートを馬車の扉に挟んでた」

「今夜もあの催しか」


といった、

もっと生々しい日常だったのかもしれません。

もちろん。

アントンもアンドレイも、作者の創作です。

彼らの身に起きた出来事も、史料に書かれているわけではありません。

ですが、

メタモルフォーゼ舞踏会を本当に開催しようとすれば、必ずその周囲には働く人間が必要になる。

そして、その人たちは必ず参加者たちの姿を目にすることになる。

そこについては、作者としてかなり自信を持っています。

だからこの第4.5巻では、もう少しだけ。

華やかな大広間の外側を歩いてみようと思います。

歴史には名前を残さなかったけれど。

あの奇妙な舞踏会を、

確かにすぐそばで見ていたはずの人たちの側から。


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