作者コラム――女性にとって「男の女装」はどのくらい遠いのか?
本作を書いていると、男性の女装に対する女性側の距離感というものが、かなり人によって違うことを意識します。
たとえばグラーシャ。
彼女は完全にミーハーです。
普段は端正な若旦那様が、豪華なドレスを着せられ、化粧をされ、宮廷婦人のような姿になる。
そんな話を聞いたら、
見たい。
どんなドレスだったの。
何色だったの。
綺麗だったの。
と興味津々です。
現代でも、文化祭などで男子生徒が女装することになり、周囲の女子が大笑いしながら衣装を選んだり、妙に本気になってメイクをしたりする光景は、それほど想像しにくいものではないでしょう。
漫画やラブコメでも、男性キャラクターの女装というのは意外なほど昔から繰り返し使われてきた題材です。
もちろん。
だからといって、女性なら誰でも男性の女装が好きということではありません。
むしろ本作でも、かなり強く抵抗を示す女性が登場します。
夫や恋人には絶対にそんな格好をしてほしくない。
男は男らしい格好をしていてほしい。
そう感じる女性がいても不思議ではありません。
そして、その中間にいるのがタチアナです。
彼女は別に、
男の人を女装させるのが大好き!
という人物ではありません。
かといって、
男に化粧なんて気持ち悪い。
とも思っていません。
仕事だからです。
依頼を受けた。
お金をもらう。
ならば、その人をできる限り美しく仕上げる。
相手が女性なら女性を。
男性なら男性を。
必要なら男性を宮廷婦人に見えるように仕上げる。
そこに妙な思想はありません。
ただし職人ですから、変化そのものには興味があります。
最初はどう仕上げようか迷っていた男性の顔が、白粉、紅、髪型、衣装によって次第に別人のように変わっていく。
それがうまくいけば、
これはなかなか面白い仕事だった。
くらいには思うでしょう。
現代にも、いわゆる女装・変身サロンがあります。
調べてみると、女性スタッフがメイクや衣装選びを担当すると明記している店もかなり見つかります。
もちろん「女装サロンのスタッフは全員女性」などとまでは言えません。
ただ、初めて女性の服を着たり、本格的な女性メイクを受けたりする男性にとって、女性スタッフがごく普通のこととして対応してくれることが、心理的なハードルを下げる場合はありそうです。
これは完全に私個人の偏見ですが。
初めて女装サロンへ行って、屈強なお兄さんが腕を組みながら、
では、まず下地から始めます。
と現れるよりも。
にこやかな女性から、
大丈夫ですよ。ちゃんと綺麗になりますからね。
と言われた方が安心する男性は、それなりにいるような気がします。
もちろん。
逆の人だっているでしょう。
結局、それが今回の話です。
男性の女装を見て面白がる女性。
嫌悪感を示す女性。
特に何とも思わない女性。
職業として淡々と扱う女性。
そして、普段は何とも思っていなくても、目の前に妙に分かりやすく興味津々の若い男の子がいたら、ちょっとからかってみたくなる女性。
距離感は、人それぞれです。
タチアナは「女装好きな女性」なのではありません。
むしろ。
男性の女装を、必要以上に特別扱いしない女性です。
だからこそキリルに、
簡単なドレスくらいなら用意できるわよ。
お化粧もしてあげられるわよ。
と、あんなに軽く言えてしまう。
そして。
言われたキリルの方だけが、大慌てするわけです。




