第9話 手札
『第二試合――』
『開始!!』
ゴォン――!!
鐘が鳴った。
「オラァァァァ!!」
開始と同時。
ロガン・ベイルが右腕を振り抜く。
ブォォォン!!
巨大な鉄球。
太い鎖を引きずりながら、一直線にクジャへ飛んだ。
「速い!」
ティナが身を乗り出す。
クジャの小柄な身体ほどもある鉄球。
直撃すれば。
一撃で終わる。
だが。
「……」
クジャは動かない。
右手。
五枚のカード。
戦闘開始時。
デッキから引いた手札。
♠2。
♣3。
♦4。
♥5。
♠6。
「《♦4》」
一枚が指から離れた。
ダイヤの四。
カードがクジャの正面で停止する。
オーラ。
展開。
半透明の障壁。
ドォン!!
「……っ」
障壁が大きく歪む。
クジャの靴が石床を滑る。
それでも。
鉄球を止めた。
「カード一枚で!?」
「何だあれ!」
観客席が沸く。
「ほう!」
ロガンが笑う。
「面白ぇ!」
その瞬間。
クジャの腰。
小さなカードケースから。
シュッ。
一枚。
新たなカードが飛び出す。
クジャの左手へ。
「……?」
シルヴァが気づいた。
「今、一枚増えた」
「え?」
ティナが見る。
クジャの手。
再び。
五枚。
新たに引いた札。
♣8。
「使った分を引いてる?」
「多分」
シルヴァが目を細めた。
◇
「なら――!」
ロガン。
左腕。
もう一つの鉄球。
「二つならどうだァ!!」
ブォン!!
右。
ブォォン!!
左。
二つの鉄球が。
時間差でクジャへ迫る。
クジャ。
一つ目。
身体を沈める。
頭上。
巨大な鉄球が通過。
そして。
二つ目。
「《♠2》」
スペードの二。
カードが刃へ変わる。
ヒュッ!
狙ったのは。
鉄球ではない。
鎖。
キンッ!!
金属音。
鎖の一箇所に。
小さな傷。
「浅い!」
ティナ。
切断には程遠い。
そして。
《♠2》そのものも弾かれた。
クルクルと回り。
石床へ。
カッ!
突き刺さる。
「ガハハハ!」
「そんな紙切れで俺の鎖が切れるか!」
クジャは答えない。
腰のデッキ。
また。
一枚。
シュッ。
手札へ。
♦J。
再び五枚。
「やっぱり」
シルヴァが言う。
「一枚使ったら、一枚引く」
「じゃあ」
ティナも気づく。
「好きなカードを好きなだけ出してるわけじゃない?」
「多分ね」
◇
「行くぞォ!!」
ロガンの両腕へ。
大量のオーラ。
そこから。
鎖。
鉄球。
すべてへ流れ込む。
ブォン!
ブォン!
ブォォォォン!!
二つの鉄球が。
高速回転。
「《双轟輪》!!」
ドンッ!!
そのまま。
クジャへ突進。
ロガンの周囲を。
二つの鉄球と鎖が覆い尽くす。
「これ……!」
ティナの表情が変わる。
「近づけない!」
正面。
左右。
上。
どこから攻撃しても。
回転する鎖に弾かれる。
クジャ。
一枚。
「《♠6》」
ヒュン!!
スペードの六。
先ほどの《♠2》より。
明らかに速い。
鋭い。
だが。
キィィン!!
回転する鎖に弾かれた。
舞台の反対側へ。
カッ!
石床に刺さる。
デッキ。
一枚。
ドロー。
♣K。
「今度はK」
ティナ。
「でも使わないね」
シルヴァが言った。
「……うん」
クジャは。
キングを手札に残した。
◇
「どうしたァ!」
ロガンが迫る。
「逃げるだけか!!」
クジャ。
一歩。
後退。
「《♣3》」
クラブの三。
ロガンの足元へ。
ヒュッ!
だが。
鉄球の風圧に弾かれる。
カッ!
少し離れた石床へ刺さった。
ドロー。
♠4。
クジャは。
一瞬だけ手札を見る。
♥5。
♣8。
♦J。
♣K。
♠4。
「……」
そして。
《♠4》。
即座に投げる。
キィン!!
また鎖。
また。
弾かれる。
今度は。
舞台の右側。
石床へ突き刺さった。
ドロー。
♥Q。
「また防がれた!」
「カードが全然通ってないぞ!」
観客が騒ぐ。
「ガハハハハ!!」
ロガンも笑う。
「何枚投げても同じだァ!!」
だが。
シルヴァは。
笑っていなかった。
舞台。
あちこちに刺さっている。
《♠2》。
《♠6》。
《♣3》。
《♠4》。
「……ティナ」
「何?」
「クジャ」
シルヴァが指差す。
「一枚も回収してない」
「え?」
「なのに」
クジャの手には。
常に五枚ある。
「……場に残してる?」
「多分」
◇
舞台端。
クジャの背後。
もう。
下がれない。
「終わりだァ!!」
ロガン。
高速回転。
鉄球を振り抜く。
その瞬間。
「……ここ」
クジャの右手。
指先が。
僅かに曲がった。
ピクッ。
「……?」
ロガンの右足。
そのすぐ後ろ。
先ほど。
弾かれたはずの。
《♣3》。
カードが。
石床から浮いた。
「《♣3》」
シュルルルッ!!
カードから。
黒いオーラの帯。
「なっ!?」
ロガンの右足首へ。
絡みつく。
「何だ!?」
ほんの一瞬。
足が止まる。
回転軸が。
崩れた。
「さっきのカード!」
ティナが叫ぶ。
「再利用した!」
「うん」
シルヴァの口元が。
上がった。
「まだ繋がってたんだ」
◇
「この程度でェ!!」
ロガンが力を込める。
ブチッ!!
《♣3》の拘束。
引きちぎる。
「弱ぇ!!」
「うん」
クジャが答えた。
「三だから」
「あ?」
次。
左手。
指。
「でも」
舞台の後方。
《♠2》。
浮く。
「止める必要はない」
ヒュン!
ロガンの背後。
鎖へ。
キンッ!
最初に傷つけた。
同じ箇所。
「な――」
続いて。
別方向。
《♠4》。
石床から抜ける。
「同じところ」
キィン!!
傷。
深くなる。
「この……!」
さらに。
《♠6》。
浮上。
「もう一回」
ヒュン!!
キィィィン!!
ブチッ――!!
「なっ!?」
鎖が。
切れた。
片方の巨大な鉄球が。
回転の勢いのまま。
空へ。
ドガァァァン!!
舞台の壁へ激突。
石片が飛び散った。
「俺の……鉄球が……!?」
観客席。
ティナが息を呑む。
「全部……」
「新しいカードじゃない」
シルヴァが言う。
「最初に弾かれたやつ」
「《♠2》も」
「《♠4》も」
「《♠6》も……」
「一回使って終わりじゃないんだ」
シルヴァの目が輝く。
「場に残ったカードまで手札みたいに使ってる」
◇
「ふざけるなァァァ!!」
ロガンの顔が歪む。
「小細工ばかりしやがって!!」
残った。
左の鉄球。
頭上へ。
全力。
「これならどうだァ!!」
クジャ。
現在の手札。
♥5。
♣8。
♦J。
♣K。
♥Q。
一瞬。
見る。
そして。
「《♦J》」
ジャック。
ダイヤ。
ドォン!!
巨大な障壁。
「なっ……!」
これまでの《♦4》とは。
厚さ。
密度。
何もかもが違う。
鉄球が。
真正面で止まった。
「強さが全然違う!」
ティナ。
「4とJだから?」
「多分」
シルヴァがクジャを見る。
額。
僅かな汗。
「でも」
「……」
「クジャの消耗も大きい」
♦J。
使用。
デッキから。
一枚。
ドロー。
♠K。
「またK……」
ティナ。
だが。
クジャは。
やはり。
すぐには使わない。
◇
「オラァァ!!」
ロガン。
二撃目。
ドォン!!
♦Jの障壁。
大きく揺れる。
「まだだァ!!」
三撃目。
ドガァァン!!
ひび。
クジャの呼吸が。
少し深くなる。
「砕けろォォォ!!」
四撃目。
ドォォォォン!!
パリン――!!
♦J。
障壁が砕け散った。
「――!」
鉄球。
クジャ。
身体を捻る。
だが。
避け切れない。
ドッ!!
「……っ!」
左肩。
直撃ではない。
掠っただけ。
それでも。
小柄な身体が吹き飛ぶ。
ゴロゴロと。
石床を転がった。
「クジャ!」
ティナが立ち上がる。
「入った!」
「ロガンだ!」
「さすがに効いただろ!」
ロガン。
「ガハハハハ!!」
大笑い。
◇
クジャが。
ゆっくり起き上がる。
「……」
左肩。
服が裂け。
皮膚。
血。
「やっぱり」
クジャが呟く。
「痛い」
「当たり前だァ!」
ロガンが鉄球を持ち上げる。
「終わりだ!!」
クジャは。
ロガンを見ない。
自分の手札。
♥5。
♣8。
♣K。
♥Q。
♠K。
その中。
一枚。
「《♥5》」
ハート。
五。
カードを。
左肩へ当てる。
淡いオーラ。
「……え?」
ティナ。
血が。
止まる。
浅く裂けた傷口。
ゆっくりと。
塞がっていく。
「治してる……?」
完全ではない。
赤み。
腫れ。
鉄球で打たれた内部の痛みまでは消えない。
それでも。
出血。
裂傷。
戦闘続行に支障が出る傷を。
その場で処置した。
クジャが肩を回す。
「……動く」
シルヴァが目を細める。
「ハートは回復?」
「それだけじゃないかも」
ティナ。
「どうして?」
「Qも残してる」
♥5。
使用。
ドロー。
新たな札。
♦7。
再び。
五枚。
◇
ロガンが。
苛立った顔で叫ぶ。
「だったら最初から強ぇ札使え!!」
「KだのJだの持ってんだろうが!!」
クジャがロガンを見る。
「嫌」
「ああ!?」
「強い札は」
一呼吸。
「重い」
右手に。
♣K。
「数字と階級が上がるほど」
次。
♠K。
「出力が上がる」
クジャのオーラ。
静かに揺れる。
「その分」
カードを戻す。
「オーラも使う」
「……」
「それに」
クジャが。
五枚を見る。
「欲しい札を」
一呼吸。
「選んで引けるわけじゃない」
シルヴァの目が。
僅かに開く。
「やっぱりランダム」
「一枚使う」
クジャ。
「一枚引く」
「手札は五枚」
ロガンが鼻で笑う。
「博打じゃねえか!」
「少し」
「なら運が悪けりゃ終わりだろ!」
「だから」
クジャが。
舞台を見る。
散らばっている。
既に使ったカード。
「場に残す」
シルヴァが笑った。
「なるほど」
「何?」
ティナ。
「引きが悪くても」
シルヴァが言う。
「前に使った札が残ってれば戦える」
手札。
場札。
ドロー。
そして。
オーラ残量。
「全部込みで考えてるんだ」
◇
「知るかァァァ!!」
ロガンが突進する。
「全部引きちぎってやる!!」
クジャ。
「《♣8》」
一枚。
クラブの八。
地面へ。
バッ!
黒いオーラの帯が。
ロガンの両脚と胴へ巻きつく。
「ぬぅっ!?」
先ほどの《♣3》とは。
明らかに違う。
「重っ……!」
動きが止まる。
「3より強い……」
ティナ。
「八だからね」
シルヴァ。
♣8。
使用。
ドロー。
♥2。
「……」
クジャが一瞬だけ見る。
望んだ札ではない。
それでも。
表情は変わらない。
「こんなもん――!!」
ロガン。
筋肉が膨張。
オーラ。
爆発。
ミシッ。
♣8の拘束が軋む。
「引きちぎってやる!!」
一本。
切れる。
さらに。
帯が裂けていく。
「八でも……!」
ティナ。
「なら」
クジャ。
一枚。
「《♣K》」
キング。
たった。
一枚。
だが。
カードから伸びた黒い拘束は。
先ほどまでとは比較にならない。
太い。
濃い。
ロガンの胴へ。
ギギギギギ……!!
「ぐ……っ!?」
巨体が。
完全に止まった。
「一枚なのに……!」
「Kだから」
シルヴァ。
「出力が違う」
その一方。
クジャ。
「……」
呼吸。
明らかに。
さっきより深い。
「でも」
ティナが気づく。
「オーラの消耗も……」
「大きい」
♣K。
使用。
ドロー。
♠9。
◇
「このォォォォ!!」
ロガンが。
全身へオーラ。
♣K。
少しずつ。
軋む。
「まだ動くんだ」
クジャ。
「なら」
手札。
♥Q。
♠K。
♦7。
♥2。
♠9。
♥Q。
「《♥Q》」
クイーン。
自分へ。
淡い赤色のオーラが。
全身を巡る。
「またハート」
ティナ。
「でも傷じゃない」
シルヴァが見る。
クジャ。
脚。
腕。
呼吸。
身体能力。
全て。
一段上がる。
「強化」
「ハートは」
ティナ。
「治癒を含めた支援系……?」
「そうみたい」
♥Q。
使用。
ドロー。
♦6。
◇
ドンッ!!
クジャが。
消えた。
「速っ!」
次の瞬間。
ロガンの懐。
「小娘ァ!!」
ロガン。
♣Kの拘束を。
力任せに引き裂く。
拳。
真正面。
クジャ。
身体を沈める。
避ける。
「……遅い」
だが。
新しいスペードは。
使わない。
「え?」
ティナが気づく。
クジャの指が。
手札ではなく。
舞台の外側へ向いた。
「戻って」
ヒュッ!
《♠2》。
再び浮く。
「また!」
ロガン。
右手首。
浅く。
ズバッ!
「ぐっ!」
次。
《♠4》。
左脚。
ズバッ!
「この!」
そして。
《♠6》。
肩。
ズバッ!!
「ぐおっ!?」
手札を使っていない。
だから。
新しいカードも引かない。
場に残した。
既存の三枚。
それだけで。
ロガンの動きを削っていく。
「すご……」
ティナ。
「でも」
シルヴァが見る。
「タダじゃない」
「え?」
「場のカードにも」
クジャの額。
汗。
「オーラ流してる」
何枚も。
維持するほど。
操作するほど。
当然。
消耗する。
「だから無限には残せない」
「……」
「ほんとに全部考えてるんだな」
◇
「小細工がァァァ!!」
ロガンが吠える。
クジャへ。
拳。
右。
左。
身体全体。
クジャ。
避ける。
♥Qの強化。
一歩。
内側。
ロガンの拳。
頬すれすれ。
クジャが。
背後へ。
「なっ!?」
ロガンが振り向く。
そこで。
クジャの手。
五枚。
♠K。
♦7。
♥2。
♠9。
♦6。
視線。
♠K。
「……」
シルヴァが気づく。
「切る」
「え?」
「多分」
ロガン。
全オーラ。
右拳へ。
「これで終わりだァァァァ!!」
真正面。
クジャへ。
だが。
まず。
《♠2》。
再利用。
右足。
浅く斬る。
「っ!」
重心。
僅かに崩れる。
《♠4》。
左肩。
ズバッ!
「ぐっ!」
拳の軌道。
ずれる。
《♠6》。
手首。
キンッ!
「邪魔だァァァ!!」
「十分」
クジャ。
ロガンの拳。
顔の横を通過。
風圧で。
紫色の髪が揺れる。
すれ違う。
右手。
「《♠K》」
ヒュッ――。
カードが。
視界から消えた。
「……!」
ロガンの頬。
一筋。
血。
「何……を……」
次の瞬間。
胸。
斜め。
ズバッ――!!
「ぐ……!」
深い斬撃。
遅れて。
鮮血。
ロガンの膝が落ちる。
ドン。
♠K。
その先。
石床へ。
深く突き刺さっていた。
そして。
クジャの腰のデッキから。
新しいカードが。
一枚。
手札へ滑り込む。
だが。
もう。
何を引いたかを見る必要すらなかった。
「俺が……」
ロガンが。
クジャを見る。
「カード……ごときに……」
「違う」
クジャ。
舞台へ散らばったカードを見る。
「強い札だけなら」
一呼吸。
「警戒される」
《♠2》。
《♠4》。
《♠6》。
《♣3》。
低位札。
「弱い札も」
クジャの左目が。
静かにロガンを捉える。
「捨てなければ」
「……」
「使い道はある」
ロガンの巨体が。
前へ倒れた。
ドォン――!!
静寂。
一瞬。
そして。
『勝者ァァァァァ!!』
『クジャ・ローズ!!』
「うおおおおおおおお!!」
闘技場。
大歓声。
◇
「……強っ」
シルヴァが。
素直に呟いた。
「かなりね……」
ティナも。
少し呆然としていた。
「スペードが攻撃」
「クラブが拘束」
「ダイヤが防御」
「ハートは強化と簡易的な治療」
シルヴァが続ける。
「数字が高いほど強い」
「でも」
ティナ。
「消費するオーラも増える」
「それだけじゃない」
「え?」
「手札」
シルヴァが自分の指を五本広げる。
「最初からずっと五枚だった」
「一枚使ったら」
「一枚引く」
「しかも」
ティナも気づく。
「引くカードは選べない」
「うん」
「だから強い札を好きな時に出せるわけじゃない……」
「その代わり」
シルヴァが舞台を見る。
「使ったカードを残して」
「あとで再利用する」
低位札。
何度も。
ロガンの動きを狂わせたカード。
「手札五枚だけで戦ってるように見えて」
一呼吸。
「実際は、戦えば戦うほど舞台そのものを自分の手札にしていく」
ティナがシルヴァを見る。
「……随分気に入ったわね」
「うん」
「即答」
「戦ってみたい」
「やっぱり!」
◇
選手通路。
クジャが戻ってくる。
「お疲れ」
シルヴァ。
「うん」
ティナは。
すぐに左肩を見る。
「あれ」
傷。
ほとんど塞がっている。
「さっき自分で治したのね」
「♥5」
クジャが肩を回す。
そして。
僅かに眉を寄せた。
「痛っ」
「治ってないじゃない!」
「傷は治った」
「じゃあ何が」
「打ったところ」
鉄球。
肩への衝撃。
「中まで治せない」
「なるほど……」
「軽い裂傷」
「出血」
「そのくらい」
「骨とかは?」
「無理」
「大きな傷も?」
「無理」
クジャは淡々と答える。
「ハートがあれば何でも治せるわけじゃないのね」
「うん」
「でも十分すごい」
ティナが感心する。
シルヴァも。
「便利」
「便利」
「俺も欲しい」
「無理」
「早い」
◇
シルヴァが。
クジャのカードケースを見る。
「一つ聞いていい?」
「何」
「最初」
「うん」
「五枚持ってた」
「うん」
「ずっと五枚だった」
「うん」
「ルール?」
クジャが少し黙る。
別に。
隠すほどでもないと判断したのか。
「戦闘開始時」
五本。
指を出す。
「五枚引く」
「それが手札」
「うん」
「一枚使ったら?」
「一枚ドロー」
「選べる?」
「選べない」
「じゃあ」
ティナが聞く。
「手札が全部低い数字になることもある?」
「ある」
「全部攻撃札とか」
「ある」
「ハートが一枚もない時も?」
「普通にある」
「それ結構怖くない?」
「怖い」
クジャ。
平然。
「でも」
カードケースを見る。
「だから考える」
「……」
「今ある五枚で」
一呼吸。
「勝つ方法」
シルヴァが。
嬉しそうに笑った。
「やっぱり面白い」
「何が」
「クジャの戦い方」
「そう」
「高い札を連発した方が強そうだけど」
「できない」
「引かないとないから?」
「それも」
クジャが続ける。
「引いても」
指。
「使いすぎたらオーラがなくなる」
「なるほど」
「場にカードを残すのも?」
「少し使う」
「操作する時は?」
「もっと使う」
「じゃあ」
シルヴァ。
「さっき結構ギリギリ?」
「……」
クジャが。
少しだけ視線を逸らす。
「そこそこ」
「やっぱり!」
ティナが言う。
「全然そんな顔してなかった!」
「顔に出ない」
「羨ましい……」
「ティナ出るもんね」
「何が!?」
シルヴァ。
「全部」
「あなたに言われたくない!」
◇
「あと」
シルヴァが聞く。
「強さ」
「何」
「2より3」
「うん」
「10よりJ」
「うん」
「JよりQ」
「うん」
「QよりK」
「うん」
「じゃあ」
少し笑う。
「Aが一番?」
クジャの左目が。
僅かに細くなる。
「普通なら」
「……またそれ」
「何」
「普通ならって」
「普通ならだから」
「Aより上ある?」
「……」
クジャは。
カードケースを閉じる。
「秘密」
「やっぱり」
「手札は」
クジャ。
「隠すもの」
「なるほど」
シルヴァが笑う。
クジャも。
ほんの僅かに笑う。
ティナが。
二人を見る。
「……」
「何?」
シルヴァ。
「別に」
「ティナまでクジャみたいになってきた」
「誰のせいよ!」
◇
その時。
観客席が。
再び大きく沸いた。
『さあ――!!』
『続いて第一回戦!』
『第三試合!!』
シルヴァの表情が変わる。
ティナも。
クジャも。
舞台を見る。
◇
一人目。
西方最強と呼ばれる剣士。
アルベルト・グレイ。
大歓声の中。
舞台へ。
「アルベルトォォ!!」
「優勝しろ!」
「今年も頼むぞ!」
剣。
抜く。
構える。
オーラ。
派手ではない。
ただ。
極端に無駄がない。
「……強い」
シルヴァが呟いた。
「ゼグラムより?」
ティナ。
「かなり」
「そんなに?」
「うん」
クジャも。
アルベルトを見る。
「上手い」
「分かる?」
「オーラ」
左目。
「流れが綺麗」
ティナも集中する。
「ほんとだ……」
必要な部分へ。
必要な瞬間だけ。
オーラが巡る。
「無駄が少ない」
シルヴァが言った。
「多分」
「普通に戦ったら」
一呼吸。
「かなり面倒」
クジャ。
「でも負ける」
ティナが振り返る。
「黒い人に?」
「うん」
「なんでそんな自信あるの」
「昨日見た」
「立ってただけで?」
「うん」
シルヴァも。
反対側の通路を見る。
「……俺も」
「シルヴァまで?」
「多分」
そして。
『対するは――!!』
暗い通路。
カツ。
カツ。
カツ。
黒い外套。
深いフード。
一本の剣。
『詳細不明!』
『名前すら明かされていない特別招待選手!!』
『謎の黒衣剣士!!』
男が。
舞台へ出る。
◇
「……」
ティナが。
横を見る。
「シルヴァ?」
シルヴァの表情が。
消えていた。
黒衣の男。
右手。
剣の柄。
親指。
鍔を僅かに押す。
左足。
半歩。
肩。
力を抜く。
腰。
低すぎない。
「……」
シルヴァも。
無意識に。
同じ構えになった。
「シルヴァ?」
「何で」
「何?」
「何であいつ……」
黒衣の男。
剣を抜く。
角度。
手首。
呼吸。
視線。
「……俺と」
一呼吸。
「同じなんだ」
ティナの顔が変わる。
「え……?」
クジャも。
黒衣の男を見る。
◇
舞台。
アルベルト。
「名を聞かせてもらおう」
「……」
返事はない。
「聞こえているか?」
「……」
「まあいい」
アルベルトが笑う。
「剣を合わせれば」
刀身へ。
オーラ。
「お前が何者かくらいは分かる」
黒衣。
構える。
シルヴァの指が。
僅かに震えた。
「……違う」
ティナ。
「何が?」
「似てるだけじゃない」
重心。
剣の角度。
呼吸。
足運び。
すべて。
ディーンから学んだ。
その上で。
シルヴァが二年間。
自分の身体へ叩き込んだ剣。
「何なんだよ……」
シルヴァの声に。
不安が混じる。
◇
王族席。
ギラルーン。
静かに微笑んでいる。
視線。
黒衣の男ではない。
シルヴァ。
「さて」
誰にも聞こえないほど。
小さな声。
「ご覧ください」
一呼吸。
「あなたの剣を」
◇
『第三試合――』
『開始!!』
鐘。
アルベルト。
一瞬。
消えた。
「速い!」
ティナ。
踏み込み。
斬撃。
黒衣へ。
だが。
半歩。
黒衣の男。
それだけ。
避ける。
「――!」
シルヴァの目が見開く。
自分が。
よく使う。
避け方。
アルベルト。
二撃目。
横薙ぎ。
黒衣。
剣。
カン。
軽い音。
アルベルトの刃が。
最小限の接触で弾かれた。
「な――」
黒衣の男。
踏み込む。
その瞬間。
シルヴァには。
分かった。
次に。
何をするのか。
「避けろ!!」
シルヴァが叫ぶ。
アルベルトが反応。
だが。
遅い。
黒い外套。
揺れる。
一閃。
ズバッ――!!
鮮血。
舞台へ。
「……え?」
ティナが。
息を呑む。
観客席。
静まり返った。
アルベルトが。
自分の胸を見る。
「……見え……な……」
膝。
落ちる。
ドサッ。
西方最強。
優勝候補。
開始から。
わずか。
一撃。
黒衣の男は。
血の付いた剣を。
一度。
振る。
そして。
ゆっくり。
シルヴァを見る。
フードの奥。
顔は。
まだ見えない。
それでも。
シルヴァには。
分かってしまった。
今の斬撃。
相手の剣を。
最小限のオーラで弾き。
崩れた一瞬へ。
最短距離で刃を通す。
それは。
何千回も。
自分が繰り返してきた。
自分の剣。
「……俺の」
シルヴァの額を。
一筋の汗が流れる。
「剣だ」




