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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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9/78

第9話 手札

『第二試合――』


『開始!!』


 ゴォン――!!


 鐘が鳴った。


「オラァァァァ!!」


 開始と同時。


 ロガン・ベイルが右腕を振り抜く。


 ブォォォン!!


 巨大な鉄球。


 太い鎖を引きずりながら、一直線にクジャへ飛んだ。


「速い!」


 ティナが身を乗り出す。


 クジャの小柄な身体ほどもある鉄球。


 直撃すれば。


 一撃で終わる。


 だが。


「……」


 クジャは動かない。


 右手。


 五枚のカード。


 戦闘開始時。


 デッキから引いた手札。


♠2。

♣3。

♦4。

♥5。

♠6。


「《♦4》」


 一枚が指から離れた。


 ダイヤの四。


 カードがクジャの正面で停止する。


 オーラ。


 展開。


 半透明の障壁。


 ドォン!!


「……っ」


 障壁が大きく歪む。


 クジャの靴が石床を滑る。


 それでも。


 鉄球を止めた。


「カード一枚で!?」


「何だあれ!」


 観客席が沸く。


「ほう!」


 ロガンが笑う。


「面白ぇ!」


 その瞬間。


 クジャの腰。


 小さなカードケースから。


 シュッ。


 一枚。


 新たなカードが飛び出す。


 クジャの左手へ。


「……?」


 シルヴァが気づいた。


「今、一枚増えた」


「え?」


 ティナが見る。


 クジャの手。


 再び。


 五枚。


 新たに引いた札。


♣8。


「使った分を引いてる?」


「多分」


 シルヴァが目を細めた。


     ◇


「なら――!」


 ロガン。


 左腕。


 もう一つの鉄球。


「二つならどうだァ!!」


 ブォン!!


 右。


 ブォォン!!


 左。


 二つの鉄球が。


 時間差でクジャへ迫る。


 クジャ。


 一つ目。


 身体を沈める。


 頭上。


 巨大な鉄球が通過。


 そして。


 二つ目。


「《♠2》」


 スペードの二。


 カードが刃へ変わる。


 ヒュッ!


 狙ったのは。


 鉄球ではない。


 鎖。


 キンッ!!


 金属音。


 鎖の一箇所に。


 小さな傷。


「浅い!」


 ティナ。


 切断には程遠い。


 そして。


 《♠2》そのものも弾かれた。


 クルクルと回り。


 石床へ。


 カッ!


 突き刺さる。


「ガハハハ!」


「そんな紙切れで俺の鎖が切れるか!」


 クジャは答えない。


 腰のデッキ。


 また。


 一枚。


 シュッ。


 手札へ。


♦J。


 再び五枚。


「やっぱり」


 シルヴァが言う。


「一枚使ったら、一枚引く」


「じゃあ」


 ティナも気づく。


「好きなカードを好きなだけ出してるわけじゃない?」


「多分ね」


     ◇


「行くぞォ!!」


 ロガンの両腕へ。


 大量のオーラ。


 そこから。


 鎖。


 鉄球。


 すべてへ流れ込む。


 ブォン!


 ブォン!


 ブォォォォン!!


 二つの鉄球が。


 高速回転。


「《双轟輪》!!」


 ドンッ!!


 そのまま。


 クジャへ突進。


 ロガンの周囲を。


 二つの鉄球と鎖が覆い尽くす。


「これ……!」


 ティナの表情が変わる。


「近づけない!」


 正面。


 左右。


 上。


 どこから攻撃しても。


 回転する鎖に弾かれる。


 クジャ。


 一枚。


「《♠6》」


 ヒュン!!


 スペードの六。


 先ほどの《♠2》より。


 明らかに速い。


 鋭い。


 だが。


 キィィン!!


 回転する鎖に弾かれた。


 舞台の反対側へ。


 カッ!


 石床に刺さる。


 デッキ。


 一枚。


 ドロー。


♣K。


「今度はK」


 ティナ。


「でも使わないね」


 シルヴァが言った。


「……うん」


 クジャは。


 キングを手札に残した。


     ◇


「どうしたァ!」


 ロガンが迫る。


「逃げるだけか!!」


 クジャ。


 一歩。


 後退。


「《♣3》」


 クラブの三。


 ロガンの足元へ。


 ヒュッ!


 だが。


 鉄球の風圧に弾かれる。


 カッ!


 少し離れた石床へ刺さった。


 ドロー。


♠4。


 クジャは。


 一瞬だけ手札を見る。


♥5。

♣8。

♦J。

♣K。

♠4。


「……」


 そして。


 《♠4》。


 即座に投げる。


 キィン!!


 また鎖。


 また。


 弾かれる。


 今度は。


 舞台の右側。


 石床へ突き刺さった。


 ドロー。


♥Q。


「また防がれた!」


「カードが全然通ってないぞ!」


 観客が騒ぐ。


「ガハハハハ!!」


 ロガンも笑う。


「何枚投げても同じだァ!!」


 だが。


 シルヴァは。


 笑っていなかった。


 舞台。


 あちこちに刺さっている。


 《♠2》。


 《♠6》。


 《♣3》。


 《♠4》。


「……ティナ」


「何?」


「クジャ」


 シルヴァが指差す。


「一枚も回収してない」


「え?」


「なのに」


 クジャの手には。


 常に五枚ある。


「……場に残してる?」


「多分」


     ◇


 舞台端。


 クジャの背後。


 もう。


 下がれない。


「終わりだァ!!」


 ロガン。


 高速回転。


 鉄球を振り抜く。


 その瞬間。


「……ここ」


 クジャの右手。


 指先が。


 僅かに曲がった。


 ピクッ。


「……?」


 ロガンの右足。


 そのすぐ後ろ。


 先ほど。


 弾かれたはずの。


 《♣3》。


 カードが。


 石床から浮いた。


「《♣3》」


 シュルルルッ!!


 カードから。


 黒いオーラの帯。


「なっ!?」


 ロガンの右足首へ。


 絡みつく。


「何だ!?」


 ほんの一瞬。


 足が止まる。


 回転軸が。


 崩れた。


「さっきのカード!」


 ティナが叫ぶ。


「再利用した!」


「うん」


 シルヴァの口元が。


 上がった。


「まだ繋がってたんだ」


     ◇


「この程度でェ!!」


 ロガンが力を込める。


 ブチッ!!


 《♣3》の拘束。


 引きちぎる。


「弱ぇ!!」


「うん」


 クジャが答えた。


「三だから」


「あ?」


 次。


 左手。


 指。


「でも」


 舞台の後方。


 《♠2》。


 浮く。


「止める必要はない」


 ヒュン!


 ロガンの背後。


 鎖へ。


 キンッ!


 最初に傷つけた。


 同じ箇所。


「な――」


 続いて。


 別方向。


 《♠4》。


 石床から抜ける。


「同じところ」


 キィン!!


 傷。


 深くなる。


「この……!」


 さらに。


 《♠6》。


 浮上。


「もう一回」


 ヒュン!!


 キィィィン!!


 ブチッ――!!


「なっ!?」


 鎖が。


 切れた。


 片方の巨大な鉄球が。


 回転の勢いのまま。


 空へ。


 ドガァァァン!!


 舞台の壁へ激突。


 石片が飛び散った。


「俺の……鉄球が……!?」


 観客席。


 ティナが息を呑む。


「全部……」


「新しいカードじゃない」


 シルヴァが言う。


「最初に弾かれたやつ」


「《♠2》も」


「《♠4》も」


「《♠6》も……」


「一回使って終わりじゃないんだ」


 シルヴァの目が輝く。


「場に残ったカードまで手札みたいに使ってる」


     ◇


「ふざけるなァァァ!!」


 ロガンの顔が歪む。


「小細工ばかりしやがって!!」


 残った。


 左の鉄球。


 頭上へ。


 全力。


「これならどうだァ!!」


 クジャ。


 現在の手札。


♥5。

♣8。

♦J。

♣K。

♥Q。


 一瞬。


 見る。


 そして。


「《♦J》」


 ジャック。


 ダイヤ。


 ドォン!!


 巨大な障壁。


「なっ……!」


 これまでの《♦4》とは。


 厚さ。


 密度。


 何もかもが違う。


 鉄球が。


 真正面で止まった。


「強さが全然違う!」


 ティナ。


「4とJだから?」


「多分」


 シルヴァがクジャを見る。


 額。


 僅かな汗。


「でも」


「……」


「クジャの消耗も大きい」


 ♦J。


 使用。


 デッキから。


 一枚。


 ドロー。


♠K。


「またK……」


 ティナ。


 だが。


 クジャは。


 やはり。


 すぐには使わない。


     ◇


「オラァァ!!」


 ロガン。


 二撃目。


 ドォン!!


 ♦Jの障壁。


 大きく揺れる。


「まだだァ!!」


 三撃目。


 ドガァァン!!


 ひび。


 クジャの呼吸が。


 少し深くなる。


「砕けろォォォ!!」


 四撃目。


 ドォォォォン!!


 パリン――!!


 ♦J。


 障壁が砕け散った。


「――!」


 鉄球。


 クジャ。


 身体を捻る。


 だが。


 避け切れない。


 ドッ!!


「……っ!」


 左肩。


 直撃ではない。


 掠っただけ。


 それでも。


 小柄な身体が吹き飛ぶ。


 ゴロゴロと。


 石床を転がった。


「クジャ!」


 ティナが立ち上がる。


「入った!」


「ロガンだ!」


「さすがに効いただろ!」


 ロガン。


「ガハハハハ!!」


 大笑い。


     ◇


 クジャが。


 ゆっくり起き上がる。


「……」


 左肩。


 服が裂け。


 皮膚。


 血。


「やっぱり」


 クジャが呟く。


「痛い」


「当たり前だァ!」


 ロガンが鉄球を持ち上げる。


「終わりだ!!」


 クジャは。


 ロガンを見ない。


 自分の手札。


♥5。

♣8。

♣K。

♥Q。

♠K。


 その中。


 一枚。


「《♥5》」


 ハート。


 五。


 カードを。


 左肩へ当てる。


 淡いオーラ。


「……え?」


 ティナ。


 血が。


 止まる。


 浅く裂けた傷口。


 ゆっくりと。


 塞がっていく。


「治してる……?」


 完全ではない。


 赤み。


 腫れ。


 鉄球で打たれた内部の痛みまでは消えない。


 それでも。


 出血。


 裂傷。


 戦闘続行に支障が出る傷を。


 その場で処置した。


 クジャが肩を回す。


「……動く」


 シルヴァが目を細める。


「ハートは回復?」


「それだけじゃないかも」


 ティナ。


「どうして?」


「Qも残してる」


 ♥5。


 使用。


 ドロー。


 新たな札。


♦7。


 再び。


 五枚。


     ◇


 ロガンが。


 苛立った顔で叫ぶ。


「だったら最初から強ぇ札使え!!」


「KだのJだの持ってんだろうが!!」


 クジャがロガンを見る。


「嫌」


「ああ!?」


「強い札は」


 一呼吸。


「重い」


 右手に。


 ♣K。


「数字と階級が上がるほど」


 次。


 ♠K。


「出力が上がる」


 クジャのオーラ。


 静かに揺れる。


「その分」


 カードを戻す。


「オーラも使う」


「……」


「それに」


 クジャが。


 五枚を見る。


「欲しい札を」


 一呼吸。


「選んで引けるわけじゃない」


 シルヴァの目が。


 僅かに開く。


「やっぱりランダム」


「一枚使う」


 クジャ。


「一枚引く」


「手札は五枚」


 ロガンが鼻で笑う。


「博打じゃねえか!」


「少し」


「なら運が悪けりゃ終わりだろ!」


「だから」


 クジャが。


 舞台を見る。


 散らばっている。


 既に使ったカード。


「場に残す」


 シルヴァが笑った。


「なるほど」


「何?」


 ティナ。


「引きが悪くても」


 シルヴァが言う。


「前に使った札が残ってれば戦える」


 手札。


 場札。


 ドロー。


 そして。


 オーラ残量。


「全部込みで考えてるんだ」


     ◇


「知るかァァァ!!」


 ロガンが突進する。


「全部引きちぎってやる!!」


 クジャ。


「《♣8》」


 一枚。


 クラブの八。


 地面へ。


 バッ!


 黒いオーラの帯が。


 ロガンの両脚と胴へ巻きつく。


「ぬぅっ!?」


 先ほどの《♣3》とは。


 明らかに違う。


「重っ……!」


 動きが止まる。


「3より強い……」


 ティナ。


「八だからね」


 シルヴァ。


 ♣8。


 使用。


 ドロー。


♥2。


「……」


 クジャが一瞬だけ見る。


 望んだ札ではない。


 それでも。


 表情は変わらない。


「こんなもん――!!」


 ロガン。


 筋肉が膨張。


 オーラ。


 爆発。


 ミシッ。


 ♣8の拘束が軋む。


「引きちぎってやる!!」


 一本。


 切れる。


 さらに。


 帯が裂けていく。


「八でも……!」


 ティナ。


「なら」


 クジャ。


 一枚。


「《♣K》」


 キング。


 たった。


 一枚。


 だが。


 カードから伸びた黒い拘束は。


 先ほどまでとは比較にならない。


 太い。


 濃い。


 ロガンの胴へ。


 ギギギギギ……!!


「ぐ……っ!?」


 巨体が。


 完全に止まった。


「一枚なのに……!」


「Kだから」


 シルヴァ。


「出力が違う」


 その一方。


 クジャ。


「……」


 呼吸。


 明らかに。


 さっきより深い。


「でも」


 ティナが気づく。


「オーラの消耗も……」


「大きい」


 ♣K。


 使用。


 ドロー。


♠9。


     ◇


「このォォォォ!!」


 ロガンが。


 全身へオーラ。


 ♣K。


 少しずつ。


 軋む。


「まだ動くんだ」


 クジャ。


「なら」


 手札。


♥Q。

♠K。

♦7。

♥2。

♠9。


 ♥Q。


「《♥Q》」


 クイーン。


 自分へ。


 淡い赤色のオーラが。


 全身を巡る。


「またハート」


 ティナ。


「でも傷じゃない」


 シルヴァが見る。


 クジャ。


 脚。


 腕。


 呼吸。


 身体能力。


 全て。


 一段上がる。


「強化」


「ハートは」


 ティナ。


「治癒を含めた支援系……?」


「そうみたい」


 ♥Q。


 使用。


 ドロー。


♦6。


     ◇


 ドンッ!!


 クジャが。


 消えた。


「速っ!」


 次の瞬間。


 ロガンの懐。


「小娘ァ!!」


 ロガン。


 ♣Kの拘束を。


 力任せに引き裂く。


 拳。


 真正面。


 クジャ。


 身体を沈める。


 避ける。


「……遅い」


 だが。


 新しいスペードは。


 使わない。


「え?」


 ティナが気づく。


 クジャの指が。


 手札ではなく。


 舞台の外側へ向いた。


「戻って」


 ヒュッ!


 《♠2》。


 再び浮く。


「また!」


 ロガン。


 右手首。


 浅く。


 ズバッ!


「ぐっ!」


 次。


 《♠4》。


 左脚。


 ズバッ!


「この!」


 そして。


 《♠6》。


 肩。


 ズバッ!!


「ぐおっ!?」


 手札を使っていない。


 だから。


 新しいカードも引かない。


 場に残した。


 既存の三枚。


 それだけで。


 ロガンの動きを削っていく。


「すご……」


 ティナ。


「でも」


 シルヴァが見る。


「タダじゃない」


「え?」


「場のカードにも」


 クジャの額。


 汗。


「オーラ流してる」


 何枚も。


 維持するほど。


 操作するほど。


 当然。


 消耗する。


「だから無限には残せない」


「……」


「ほんとに全部考えてるんだな」


     ◇


「小細工がァァァ!!」


 ロガンが吠える。


 クジャへ。


 拳。


 右。


 左。


 身体全体。


 クジャ。


 避ける。


 ♥Qの強化。


 一歩。


 内側。


 ロガンの拳。


 頬すれすれ。


 クジャが。


 背後へ。


「なっ!?」


 ロガンが振り向く。


 そこで。


 クジャの手。


 五枚。


♠K。

♦7。

♥2。

♠9。

♦6。


 視線。


 ♠K。


「……」


 シルヴァが気づく。


「切る」


「え?」


「多分」


 ロガン。


 全オーラ。


 右拳へ。


「これで終わりだァァァァ!!」


 真正面。


 クジャへ。


 だが。


 まず。


 《♠2》。


 再利用。


 右足。


 浅く斬る。


「っ!」


 重心。


 僅かに崩れる。


 《♠4》。


 左肩。


 ズバッ!


「ぐっ!」


 拳の軌道。


 ずれる。


 《♠6》。


 手首。


 キンッ!


「邪魔だァァァ!!」


「十分」


 クジャ。


 ロガンの拳。


 顔の横を通過。


 風圧で。


 紫色の髪が揺れる。


 すれ違う。


 右手。


「《♠K》」


 ヒュッ――。


 カードが。


 視界から消えた。


「……!」


 ロガンの頬。


 一筋。


 血。


「何……を……」


 次の瞬間。


 胸。


 斜め。


 ズバッ――!!


「ぐ……!」


 深い斬撃。


 遅れて。


 鮮血。


 ロガンの膝が落ちる。


 ドン。


 ♠K。


 その先。


 石床へ。


 深く突き刺さっていた。


 そして。


 クジャの腰のデッキから。


 新しいカードが。


 一枚。


 手札へ滑り込む。


 だが。


 もう。


 何を引いたかを見る必要すらなかった。


「俺が……」


 ロガンが。


 クジャを見る。


「カード……ごときに……」


「違う」


 クジャ。


 舞台へ散らばったカードを見る。


「強い札だけなら」


 一呼吸。


「警戒される」


 《♠2》。


 《♠4》。


 《♠6》。


 《♣3》。


 低位札。


「弱い札も」


 クジャの左目が。


 静かにロガンを捉える。


「捨てなければ」


「……」


「使い道はある」


 ロガンの巨体が。


 前へ倒れた。


 ドォン――!!


 静寂。


 一瞬。


 そして。


『勝者ァァァァァ!!』


『クジャ・ローズ!!』


「うおおおおおおおお!!」


 闘技場。


 大歓声。


     ◇


「……強っ」


 シルヴァが。


 素直に呟いた。


「かなりね……」


 ティナも。


 少し呆然としていた。


「スペードが攻撃」


「クラブが拘束」


「ダイヤが防御」


「ハートは強化と簡易的な治療」


 シルヴァが続ける。


「数字が高いほど強い」


「でも」


 ティナ。


「消費するオーラも増える」


「それだけじゃない」


「え?」


「手札」


 シルヴァが自分の指を五本広げる。


「最初からずっと五枚だった」


「一枚使ったら」


「一枚引く」


「しかも」


 ティナも気づく。


「引くカードは選べない」


「うん」


「だから強い札を好きな時に出せるわけじゃない……」


「その代わり」


 シルヴァが舞台を見る。


「使ったカードを残して」


「あとで再利用する」


 低位札。


 何度も。


 ロガンの動きを狂わせたカード。


「手札五枚だけで戦ってるように見えて」


 一呼吸。


「実際は、戦えば戦うほど舞台そのものを自分の手札にしていく」


 ティナがシルヴァを見る。


「……随分気に入ったわね」


「うん」


「即答」


「戦ってみたい」


「やっぱり!」


     ◇


 選手通路。


 クジャが戻ってくる。


「お疲れ」


 シルヴァ。


「うん」


 ティナは。


 すぐに左肩を見る。


「あれ」


 傷。


 ほとんど塞がっている。


「さっき自分で治したのね」


「♥5」


 クジャが肩を回す。


 そして。


 僅かに眉を寄せた。


「痛っ」


「治ってないじゃない!」


「傷は治った」


「じゃあ何が」


「打ったところ」


 鉄球。


 肩への衝撃。


「中まで治せない」


「なるほど……」


「軽い裂傷」


「出血」


「そのくらい」


「骨とかは?」


「無理」


「大きな傷も?」


「無理」


 クジャは淡々と答える。


「ハートがあれば何でも治せるわけじゃないのね」


「うん」


「でも十分すごい」


 ティナが感心する。


 シルヴァも。


「便利」


「便利」


「俺も欲しい」


「無理」


「早い」


     ◇


 シルヴァが。


 クジャのカードケースを見る。


「一つ聞いていい?」


「何」


「最初」


「うん」


「五枚持ってた」


「うん」


「ずっと五枚だった」


「うん」


「ルール?」


 クジャが少し黙る。


 別に。


 隠すほどでもないと判断したのか。


「戦闘開始時」


 五本。


 指を出す。


「五枚引く」


「それが手札」


「うん」


「一枚使ったら?」


「一枚ドロー」


「選べる?」


「選べない」


「じゃあ」


 ティナが聞く。


「手札が全部低い数字になることもある?」


「ある」


「全部攻撃札とか」


「ある」


「ハートが一枚もない時も?」


「普通にある」


「それ結構怖くない?」


「怖い」


 クジャ。


 平然。


「でも」


 カードケースを見る。


「だから考える」


「……」


「今ある五枚で」


 一呼吸。


「勝つ方法」


 シルヴァが。


 嬉しそうに笑った。


「やっぱり面白い」


「何が」


「クジャの戦い方」


「そう」


「高い札を連発した方が強そうだけど」


「できない」


「引かないとないから?」


「それも」


 クジャが続ける。


「引いても」


 指。


「使いすぎたらオーラがなくなる」


「なるほど」


「場にカードを残すのも?」


「少し使う」


「操作する時は?」


「もっと使う」


「じゃあ」


 シルヴァ。


「さっき結構ギリギリ?」


「……」


 クジャが。


 少しだけ視線を逸らす。


「そこそこ」


「やっぱり!」


 ティナが言う。


「全然そんな顔してなかった!」


「顔に出ない」


「羨ましい……」


「ティナ出るもんね」


「何が!?」


 シルヴァ。


「全部」


「あなたに言われたくない!」


     ◇


「あと」


 シルヴァが聞く。


「強さ」


「何」


「2より3」


「うん」


「10よりJ」


「うん」


「JよりQ」


「うん」


「QよりK」


「うん」


「じゃあ」


 少し笑う。


「Aが一番?」


 クジャの左目が。


 僅かに細くなる。


「普通なら」


「……またそれ」


「何」


「普通ならって」


「普通ならだから」


「Aより上ある?」


「……」


 クジャは。


 カードケースを閉じる。


「秘密」


「やっぱり」


「手札は」


 クジャ。


「隠すもの」


「なるほど」


 シルヴァが笑う。


 クジャも。


 ほんの僅かに笑う。


 ティナが。


 二人を見る。


「……」


「何?」


 シルヴァ。


「別に」


「ティナまでクジャみたいになってきた」


「誰のせいよ!」


     ◇


 その時。


 観客席が。


 再び大きく沸いた。


『さあ――!!』


『続いて第一回戦!』


『第三試合!!』


 シルヴァの表情が変わる。


 ティナも。


 クジャも。


 舞台を見る。


     ◇


 一人目。


 西方最強と呼ばれる剣士。


 アルベルト・グレイ。


 大歓声の中。


 舞台へ。


「アルベルトォォ!!」


「優勝しろ!」


「今年も頼むぞ!」


 剣。


 抜く。


 構える。


 オーラ。


 派手ではない。


 ただ。


 極端に無駄がない。


「……強い」


 シルヴァが呟いた。


「ゼグラムより?」


 ティナ。


「かなり」


「そんなに?」


「うん」


 クジャも。


 アルベルトを見る。


「上手い」


「分かる?」


「オーラ」


 左目。


「流れが綺麗」


 ティナも集中する。


「ほんとだ……」


 必要な部分へ。


 必要な瞬間だけ。


 オーラが巡る。


「無駄が少ない」


 シルヴァが言った。


「多分」


「普通に戦ったら」


 一呼吸。


「かなり面倒」


 クジャ。


「でも負ける」


 ティナが振り返る。


「黒い人に?」


「うん」


「なんでそんな自信あるの」


「昨日見た」


「立ってただけで?」


「うん」


 シルヴァも。


 反対側の通路を見る。


「……俺も」


「シルヴァまで?」


「多分」


 そして。


『対するは――!!』


 暗い通路。


 カツ。


 カツ。


 カツ。


 黒い外套。


 深いフード。


 一本の剣。


『詳細不明!』


『名前すら明かされていない特別招待選手!!』


『謎の黒衣剣士!!』


 男が。


 舞台へ出る。


     ◇


「……」


 ティナが。


 横を見る。


「シルヴァ?」


 シルヴァの表情が。


 消えていた。


 黒衣の男。


 右手。


 剣の柄。


 親指。


 鍔を僅かに押す。


 左足。


 半歩。


 肩。


 力を抜く。


 腰。


 低すぎない。


「……」


 シルヴァも。


 無意識に。


 同じ構えになった。


「シルヴァ?」


「何で」


「何?」


「何であいつ……」


 黒衣の男。


 剣を抜く。


 角度。


 手首。


 呼吸。


 視線。


「……俺と」


 一呼吸。


「同じなんだ」


 ティナの顔が変わる。


「え……?」


 クジャも。


 黒衣の男を見る。


     ◇


 舞台。


 アルベルト。


「名を聞かせてもらおう」


「……」


 返事はない。


「聞こえているか?」


「……」


「まあいい」


 アルベルトが笑う。


「剣を合わせれば」


 刀身へ。


 オーラ。


「お前が何者かくらいは分かる」


 黒衣。


 構える。


 シルヴァの指が。


 僅かに震えた。


「……違う」


 ティナ。


「何が?」


「似てるだけじゃない」


 重心。


 剣の角度。


 呼吸。


 足運び。


 すべて。


 ディーンから学んだ。


 その上で。


 シルヴァが二年間。


 自分の身体へ叩き込んだ剣。


「何なんだよ……」


 シルヴァの声に。


 不安が混じる。


     ◇


 王族席。


 ギラルーン。


 静かに微笑んでいる。


 視線。


 黒衣の男ではない。


 シルヴァ。


「さて」


 誰にも聞こえないほど。


 小さな声。


「ご覧ください」


 一呼吸。


「あなたの剣を」


     ◇


『第三試合――』


『開始!!』


 鐘。


 アルベルト。


 一瞬。


 消えた。


「速い!」


 ティナ。


 踏み込み。


 斬撃。


 黒衣へ。


 だが。


 半歩。


 黒衣の男。


 それだけ。


 避ける。


「――!」


 シルヴァの目が見開く。


 自分が。


 よく使う。


 避け方。


 アルベルト。


 二撃目。


 横薙ぎ。


 黒衣。


 剣。


 カン。


 軽い音。


 アルベルトの刃が。


 最小限の接触で弾かれた。


「な――」


 黒衣の男。


 踏み込む。


 その瞬間。


 シルヴァには。


 分かった。


 次に。


 何をするのか。


「避けろ!!」


 シルヴァが叫ぶ。


 アルベルトが反応。


 だが。


 遅い。


 黒い外套。


 揺れる。


 一閃。


 ズバッ――!!


 鮮血。


 舞台へ。


「……え?」


 ティナが。


 息を呑む。


 観客席。


 静まり返った。


 アルベルトが。


 自分の胸を見る。


「……見え……な……」


 膝。


 落ちる。


 ドサッ。


 西方最強。


 優勝候補。


 開始から。


 わずか。


 一撃。


 黒衣の男は。


 血の付いた剣を。


 一度。


 振る。


 そして。


 ゆっくり。


 シルヴァを見る。


 フードの奥。


 顔は。


 まだ見えない。


 それでも。


 シルヴァには。


 分かってしまった。


 今の斬撃。


 相手の剣を。


 最小限のオーラで弾き。


 崩れた一瞬へ。


 最短距離で刃を通す。


 それは。


 何千回も。


 自分が繰り返してきた。


 自分の剣。


「……俺の」


 シルヴァの額を。


 一筋の汗が流れる。


「剣だ」

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