第10話 光
静まり返った闘技場。
舞台の中央。
アルベルト・グレイが倒れていた。
「……」
誰も。
すぐには声を出せなかった。
西方最強。
優勝候補。
それほどの剣士が。
たった一撃。
「医療班!!」
最初に動いたのは大会係員だった。
「急げ!!」
複数の衛生兵が舞台へ駆け込む。
アルベルトの胸。
斜めに刻まれた深い斬撃。
大量の血。
「脈は!?」
「ある!」
「止血しろ!」
「担架を!」
そのすぐ横。
黒衣の剣士は。
何事もなかったように剣を振る。
付着した血を落とし。
静かに鞘へ収めた。
カチン。
「……」
その音に。
シルヴァの指が僅かに動いた。
「シルヴァ?」
ティナが横を見る。
シルヴァは。
黒衣の男から目を離せない。
「……違う」
「何が?」
「あいつ」
自分の剣の柄へ触れる。
「俺より綺麗だ」
「え?」
「今の剣」
アルベルトの初撃。
半歩だけで避けた。
二撃目。
必要最小限の力で逸らした。
そして。
崩れた一瞬。
最短距離で胸を斬った。
「俺なら」
シルヴァが小さく呟く。
「もう少し踏み込む」
「……」
「あいつは踏み込んでない」
「それが?」
「必要ないから」
ティナの表情が変わる。
「最初から」
シルヴァの額。
薄く汗。
「自分の剣がどこまで届くか、全部分かってた」
「……」
「俺の剣なのに」
一呼吸。
「俺より上手い」
ティナは。
初めて。
何も返せなかった。
◇
アルベルトが担架で運ばれていく。
黒衣の男も舞台を去ろうとする。
「待て!」
シルヴァが一歩出た。
黒衣。
止まる。
「……」
「お前」
ゆっくり振り返る。
深いフード。
顔は見えない。
「その剣」
シルヴァが問いかける。
「どこで覚えた」
「……」
「俺を知ってる?」
返事はない。
「ディーンを知ってるのか?」
ほんの一瞬。
黒衣の男の右手が。
剣の柄へ触れた。
「――!」
シルヴァの目が開く。
「お前……!」
「シルヴァ」
ティナが腕を掴んだ。
「待って」
「でも」
「今は大会中」
「……」
「それに」
ティナも黒衣を見る。
「向こうに話す気がないなら、ここで斬りかかっても何も分からない」
「……」
シルヴァは納得していない。
それでも。
剣から手を離した。
黒衣の男は。
何も言わず。
暗い選手通路へ消えていった。
「変」
クジャが呟く。
「クジャも?」
シルヴァ。
「うん」
「何が?」
「全部」
クジャの左目が細くなる。
「剣も」
「……」
「オーラも」
一呼吸。
「気持ち悪い」
「昨日より?」
「もっと」
◇
ゴォォォン――!!
再び鐘。
『衝撃的な第三試合となりましたが――!』
『大会はまだ終わりません!!』
ティナの表情が変わった。
『第一回戦!』
『第四試合!!』
「……私ね」
腰の剣へ手を置く。
シルヴァが振り返った。
「ティナ」
「うん」
「気をつけて」
「……」
「相手」
シルヴァが真面目な顔で言う。
「経歴不明だったから」
「……うん」
「嫌な感じする」
ティナが少しだけ笑う。
「珍しい」
「何が?」
「あなたが普通に心配するの」
「いつもしてるよ」
「え?」
「してるけど」
「……」
「何?」
「何でもない!」
ティナが前を向いた。
妙に。
頬が熱い。
「絶対勝つから」
「うん」
ティナが一歩進む。
だが。
途中で振り返った。
「だから」
「何?」
「ちゃんと見てなさいよ」
「見るよ」
「絶対ね」
「うん」
少しだけ。
満足したように。
ティナが舞台へ向かう。
クジャがシルヴァを見る。
「鈍い」
「何が?」
「別に」
「最近そればっかりだね」
◇
『東方防衛軍が誇る若き隊長!!』
『十六歳にして東部防衛の最前線に立つ剣士!』
『ティナ・ルクス!!』
大歓声。
ティナが舞台へ出る。
茶色の髪を後ろで束ね。
白を基調とした戦装束。
銀の部分鎧。
腰から。
細身の剣を抜く。
「……」
右腕。
僅かな痛み。
ガルゼムの《震撃》による傷は。
まだ完全には治っていない。
「セラに知られたら……」
想像する。
『剣禁止って言ったでしょうが!!』
「……帰ったら怒られるわね」
反対側。
ズン。
重い足音。
ズン。
大柄な男が現れた。
灰色がかった皮膚。
巨大な盾。
幅広の戦斧。
頭には。
二本の短い角。
『対するは――!』
『こちらも特別招待枠!!』
『所属、経歴ともに不明!』
『鉄斧のヴァレス!!』
「また魔族……」
観客席がざわつく。
ティナの目が鋭くなる。
「ティナ・ルクス」
ヴァレスが言った。
「私を知ってるの?」
「東部防衛隊長」
「……」
「そして」
盾を構える。
「ガルゼムを殺した男の同行者」
ティナの剣先が上がる。
「あなたも魔王軍?」
「答える必要はない」
「あるわよ」
「ここで死ぬ女には」
「……」
ティナ。
少し笑う。
「昨日も似たようなこと言ってる奴いたわよ」
「何?」
「そいつ」
剣を構える。
「シルヴァに斬られて死んだけど」
◇
「……ティナ」
選手席。
シルヴァが呟く。
「煽るようになった」
「誰の影響?」
クジャ。
「知らない」
「シルヴァ」
「何で俺」
◇
『第四試合――』
『開始!!』
「《構装》!」
開始直後。
ティナの足元へ。
半透明の板。
足場。
ダンッ!!
一気に加速。
ヴァレス。
盾。
ティナは。
真正面へ行かない。
「《構装》!」
空中。
二枚目の足場。
踏む。
軌道。
急変。
「そこ!」
左側面。
刺突。
ガキン!!
盾。
「……!」
「遅い」
ヴァレス。
斧。
横薙ぎ。
ブォン!!
ティナ。
身体を反らす。
鼻先を。
巨大な刃が通過。
そのままヴァレスが回転。
二撃目。
「《構装――盾》!」
左腕。
小型のオーラ盾。
ガァァン!!
「くっ!」
ティナの身体が押し戻される。
着地。
靴底が石を擦る。
「重っ……!」
「それがお前の力か」
「まだよ!」
◇
ティナ。
踏み込む。
細身の剣。
高速。
肩。
脇。
脚。
盾の死角を狙う。
だが。
ガキン!
ガン!
キィン!
ヴァレス。
盾と斧で受け続ける。
「だったら!」
ティナの剣。
オーラ。
刃先が伸びる。
「《構装――延刃》!」
間合い。
一瞬で変化。
「――!」
ヴァレスの反応が。
僅かに遅れる。
ズバッ!!
脇腹。
血。
「入った!」
ティナがすぐ距離を取る。
だが。
ヴァレスは。
笑っていた。
「悪くない」
「余裕ね」
「お前の攻撃は」
盾に。
黒いオーラ。
「こちらの力になる」
「……?」
「《蓄圧》」
ティナの表情が変わる。
盾。
先ほど。
剣。
構装。
衝突するたび。
僅かずつ。
何かが蓄えられていた。
「まさか……」
「受けた衝撃を」
盾を前へ。
「蓄積する」
「……!」
「そして」
ヴァレスが笑う。
「返す」
黒いオーラ。
爆発。
「《圧壊》!!」
ドォン!!
「《構装――壁》!!」
ティナ。
正面。
巨大なオーラ障壁。
直後。
バァァァン!!
「きゃああっ!!」
壁。
一撃で粉砕。
ティナの身体が。
吹き飛ぶ。
ドンッ!
石床へ。
「か……はっ……!」
◇
「ティナ!」
シルヴァが身を乗り出す。
クジャ。
舞台を見る。
「相性悪い」
「うん」
ティナの《構装》。
手数。
速度。
戦況に合わせて形を変える。
それが強み。
だが。
「攻撃すればするほど」
シルヴァ。
「盾に溜まる」
◇
「……厄介ね」
ティナが立ち上がる。
口元の血を拭う。
「理解したか」
「ええ」
「なら降参しろ」
「嫌」
「死ぬぞ」
「それも嫌」
「我儘な女だ」
「よく言われる!」
ティナ。
再び走る。
「同じところに攻撃しなきゃいい!」
「何?」
「《構装――連階》!」
空中。
一枚。
二枚。
三枚。
オーラの足場が次々と現れる。
ティナ。
駆け上がる。
右。
左。
上。
ヴァレスの視線が。
追いつかない。
「どこ見てるの!」
真上。
ヴァレス。
盾を上げる。
だが。
ティナ。
空中の足場を蹴り。
急降下。
背後へ。
ズバッ!!
「ぐっ!」
背中。
さらに。
地面へ着地する前に。
構装。
横。
足場。
蹴る。
脚。
ズバッ!
「ぬっ……!」
「盾で受けなきゃ!」
肩。
一閃。
「溜められない!」
「小賢しい!」
「褒め言葉!」
◇
観客席。
歓声。
「ティナ押してる!」
「やるぞ!」
シルヴァ。
しかし。
笑っていない。
「……まずい」
「うん」
クジャ。
「何?」
「ティナのオーラ」
「減ってる」
構装。
足場。
延刃。
小盾。
連続して使うほど。
消耗する。
一方。
ヴァレスは傷を負っているが。
まだ立っている。
「このままだと」
シルヴァの目が細くなる。
「ティナが先に切れる」
◇
「はぁっ!」
ティナ。
また。
斬撃。
ヴァレス。
背中。
血。
「ぐっ……!」
「これで!」
ティナ。
さらに踏み込む。
その瞬間。
「捕まえた」
「――!」
ヴァレス。
盾を捨てた。
左手。
ティナの剣を。
素手で掴む。
「なっ!?」
掌から。
血。
それでも。
離さない。
「盾だけだと思ったか」
「離して!」
ティナ。
剣を引く。
抜けない。
「《構装》!」
空いた左手。
短剣。
形成。
ズバッ!!
ヴァレスの腕。
「ぐっ!」
握力。
緩む。
「今!」
ティナが退く。
だが。
「遅い」
ヴァレス。
足。
捨てた盾を。
踏む。
そこには。
まだ。
大量の衝撃が残されていた。
「まさか――」
「《圧壊》」
ドォォォン!!
「――っ!!」
至近距離。
直撃。
ティナの身体が。
折れ曲がる。
「がっ……!」
吹き飛ぶ。
一度。
二度。
三度。
石床を転がった。
「ティナ!!」
シルヴァが立ち上がる。
◇
「……っ」
ティナ。
腕が震える。
起きようとする。
右肩。
激痛。
古傷。
開いた。
「……最悪」
ヴァレスが盾を拾う。
「まだ生きているか」
「悪かったわね……」
「大した耐久力だ」
「褒められて……嬉しくない……」
ティナが剣を支えに。
立ち上がる。
「まだやるのか」
「当たり前……」
「勝てん」
「勝つ」
「何故」
「言ったから」
「何?」
ティナの視線。
一瞬。
選手席。
シルヴァ。
「……負けないって」
◇
シルヴァの手。
剣の柄を。
強く握っている。
「入る?」
クジャが聞く。
「……」
「助けるなら今」
「まだ」
「……」
「ティナが」
シルヴァは。
舞台から目を離さない。
「やめてない」
「うん」
「だから」
震える手を。
押さえる。
「まだ待つ」
◇
「《構装》……!」
ティナ。
剣。
オーラの刃。
だが。
形が不安定。
揺れる。
「……っ」
「もう限界だ」
ヴァレスが盾を構える。
「これで終わらせる」
ティナ。
走る。
一撃。
ガキン!!
弾かれる。
斧。
「――!」
小盾。
構装。
ガァン!!
砕ける。
ヴァレス。
蹴り。
腹。
「かはっ!」
ティナ。
浮く。
さらに。
盾。
ドガッ!!
地面へ。
「ティナ!!」
シルヴァ。
一歩。
「まだ!!」
ティナの声。
シルヴァが止まる。
◇
「……来ないで」
倒れたまま。
ティナが言った。
「ティナ」
「これは……」
震える手で。
剣を掴む。
「私の試合……!」
「もう終われ」
ヴァレス。
「無意味だ」
「……嫌」
膝。
立てる。
「ここで……」
もう片方。
足。
「助けてもらったら……」
ティナ。
立ち上がる。
「二年前と……」
一呼吸。
「同じだから……!」
◇
二年前。
選抜大会。
決勝。
十四歳。
地面へ倒れる。
ティナ。
剣。
飛ばされ。
目の前。
シルヴァ。
『終わり?』
『……まだ!』
立つ。
倒される。
また立つ。
それでも。
届かなかった。
シルヴァが。
レオンたちと旅立った。
自分は。
残った。
◇
「ずっと……」
ティナ。
一歩。
「悔しかった……!」
剣を構える。
「なら」
ヴァレス。
盾に。
溜め込んだ衝撃。
「その悔しさごと」
黒いオーラ。
膨れ上がる。
「消えろ」
ティナ。
呼吸。
荒い。
オーラ。
ほとんどない。
構装も。
もう。
まともに作れない。
「……どうすれば」
勝てない。
攻撃しても。
返される。
「どうすれば……」
指。
震える。
「もっと……」
強く。
「……」
その時。
胸の奥。
何か。
温かい。
オーラとは。
違う。
「……何?」
ずっと。
自分の中にあった。
でも。
一度も。
触れたことのない。
何か。
◇
「《圧壊》!!」
ヴァレス。
最大。
解放。
ドォォォォォン!!
ティナへ。
巨大な衝撃。
「ティナ!!」
シルヴァが叫んだ。
「《構装――壁》!!」
ティナ。
残されたオーラ。
全て。
正面。
壁。
ドォォォォン!!
「――っ!!」
押される。
「持って……!」
障壁。
ひび。
「お願い……!」
パキッ。
「まだ……!」
パキ。
パキパキパキ。
「まだ!!」
パァァァン!!
壁。
粉砕。
「――!」
圧壊。
ティナを飲み込んだ。
◇
音が。
遠くなる。
「……」
身体。
動かない。
剣が。
指から。
落ちていく。
「……また」
ティナの意識。
沈む。
「……負ける」
二年前。
同じ。
「……届かない」
レオン。
『剣、やめんなよ』
「……」
『まだやれる』
「レオン……」
続けた。
二年間。
毎日。
剣。
オーラ。
守りたかった。
東方の人たち。
レイヴン。
セラ。
カイル。
キャラバンのみんな。
「……私も」
そして。
シルヴァ。
もう。
置いていかれたくない。
今度は。
同じ場所に。
「……行きたい」
もっと。
強く。
「一緒に……」
胸の奥。
何かが。
応えた。
◇
――白金の光。
◇
「……え?」
シルヴァが。
固まった。
舞台。
煙。
その奥。
光。
白。
金。
眩しいほど。
なのに。
目を逸らせない。
「……嘘」
「シルヴァ?」
クジャが見る。
シルヴァには。
聞こえていない。
知っている。
あの光。
あの色。
あの温かさ。
二年前。
『生きろ、シルヴァ』
「……レオン」
◇
ドン――!!
煙が。
一気に吹き飛んだ。
ティナ。
立っている。
「……」
全身。
白金の光。
髪。
服。
剣。
すべての周囲を。
光の粒子が漂っている。
「何……」
ティナが自分の手を見る。
「これ……」
傷は。
治っていない。
右肩。
痛い。
血。
残っている。
オーラも。
回復したわけではない。
なのに。
「身体が……」
軽い。
呼吸。
視界。
音。
全部。
鮮明。
ヴァレスの動き。
さっきまでは。
巨大な斧が。
速かった。
今は。
「……見える」
ヴァレスの顔が歪んだ。
「その光……!」
「私に聞かないで」
ティナが剣を拾う。
「私だって」
構える。
「分かってない!」
◇
「ふざけるなァ!!」
ヴァレス。
斧。
全力。
横薙ぎ。
ブォォン!!
覚醒前。
避けるだけでも。
精一杯だった。
今。
「……遅い」
「な――」
ティナ。
一歩。
斧の内側へ。
通り抜ける。
「消え――」
ヴァレスが振り向く。
もう。
いない。
「どこだ!?」
「後ろ」
「――!」
ティナ。
背後。
「《構装――延刃》!」
細身の剣へ。
オーラの延長刃。
さらに。
その全体を。
白金の光が包む。
「はぁっ!!」
ズバァン!!
「ぐあっ!!」
ヴァレスの背中。
深い斬撃。
今までとは。
威力が違う。
「何だ……!」
ヴァレスが振り返る。
「何だその力は!!」
「知らないって!」
◇
「速さが……」
ティナ自身も。
驚いている。
身体。
思っただけで動く。
いや。
思うより。
先。
ヴァレスの肩が動く。
次。
斧。
来る。
「分かる……」
避ける。
「見える!」
ティナ。
足元。
「《構装》!」
オーラの足場。
ダンッ!!
だが。
今度は。
蹴った瞬間。
白金の光。
爆発。
ドンッ!!
「――!」
シルヴァの目が開く。
「速い」
クジャ。
「さっきと別人」
ティナ。
残像。
右。
左。
上。
連続した構装の足場。
白金の光が。
軌跡として残る。
「くっ!」
ヴァレス。
盾。
どこを向けばいいか。
分からない。
「ここ!」
ティナ。
右。
刺突。
ガァン!!
盾。
「止めた!」
ヴァレスが笑う。
「いくら速くなろうが――!」
「……」
ティナ。
押し負けない。
「え?」
細い腕。
細身の剣。
なのに。
ヴァレスの盾が。
押される。
「何だ……この力……!」
「私だって」
ティナの目。
白金。
「驚いてるわよ!」
踏み込み。
「はぁぁぁっ!!」
ガァァァァン!!
盾ごと。
ヴァレスを吹き飛ばす。
「ぐおっ!?」
数メートル。
巨体。
滑る。
◇
観客席。
騒然。
「何だあの光!?」
「ティナのオーラじゃないのか!?」
「急に強くなったぞ!」
シルヴァだけが。
何も言わない。
「……」
拳。
震える。
嬉しい。
はずなのに。
胸。
苦しい。
あの光を。
ティナが持っている。
「……なんで」
レオンの光。
その力が。
別の人間に。
「レオン……」
◇
「舐めるなァ!!」
ヴァレス。
盾。
地面。
「《蓄圧》!!」
これまで溜めていた。
全て。
最後。
「貴様ごと!」
盾の表面。
黒いオーラ。
「粉々にしてやる!!」
ティナ。
正面。
「《圧壊――最大解放》!!」
ドォォォォォォン!!!
巨大。
衝撃。
舞台そのものが。
割れる。
「ティナ!」
シルヴァ。
だが。
ティナは。
逃げない。
「……」
細身の剣。
両手。
握る。
オーラ。
残り。
僅か。
「《構装》……!」
刀身。
延長。
補強。
白金の光。
その全てを包み込む。
光の大剣。
ではない。
あくまで。
ティナの細身の剣。
ただ。
圧倒的に。
密度の高い光を纏っている。
「行く!!」
構装。
足場。
蹴る。
ドンッ!!
正面。
巨大な衝撃へ。
「ティナ!?」
シルヴァが叫ぶ。
「真正面!?」
クジャ。
ティナ。
剣を。
振り抜いた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ズガァァァァン!!!
光。
衝撃。
正面衝突。
「――っ!!」
ティナの足元。
石床。
砕ける。
腕。
震える。
「まだ……!」
押される。
「まだぁぁぁ!!」
白金。
さらに。
強く。
ヴァレスの顔が。
引きつる。
「何故だ……!」
衝撃。
少しずつ。
押し返される。
「何故……人間一人に!!」
「私は!」
ティナ。
一歩。
「ずっと!!」
もう一歩。
「ここまで来るために!」
白金の光。
爆発。
「剣振ってきたのよ!!」
ズドォォォォン!!
「な――」
《圧壊》。
正面から。
打ち破られた。
◇
「――っ!」
ヴァレス。
一瞬。
動きが止まる。
「今!」
ティナ。
加速。
ヴァレス。
盾を構える。
「無駄だ!!」
今まで。
何度も。
ティナの剣を止めた盾。
「止め――」
ガキィィィィン!!
「……な」
ひび。
盾。
「嘘だ……」
白金の光を纏った。
《構装》の延刃。
もう一撃。
「はぁっ!!」
ガァァン!!
ひび。
広がる。
三撃。
「おおおおっ!!」
ヴァレス。
全力。
受ける。
だが。
「――《構装・重刃》!!」
ティナの剣。
オーラ。
今度は。
細長くではなく。
厚く。
重く。
刃の周囲へ構築。
そして。
光。
重なる。
「これで!!」
振り抜く。
バァァァァン!!
盾。
粉砕。
「ぐっ!?」
ヴァレスの腕。
弾かれる。
無防備。
「終わり!!」
ティナ。
剣を反転。
構装した厚い刃の腹。
ヴァレスの胴へ。
渾身。
「はぁぁぁぁっ!!」
ドガァァァン!!
「がっ――!!」
ヴァレス。
巨体。
完全に浮く。
十数メートル。
吹き飛ぶ。
ドンッ!
一度。
転がる。
舞台端。
止まった。
「……」
動かない。
◇
ティナ。
「はぁ……」
肩。
上下。
「はぁ……はぁ……」
白金の光。
徐々に。
薄くなっていく。
「……勝った?」
一瞬。
静寂。
そして。
『――勝者!!』
『ティナ・ルクス!!』
「うおおおおおおおおおおお!!」
大歓声。
ティナ。
笑う。
「……よかった」
次の瞬間。
光。
消えた。
「え?」
全身。
力。
抜ける。
「……あ」
ガクッ。
膝。
「ティナ!」
シルヴァが駆け出そうとする。
ティナは。
剣を地面へ突き。
どうにか倒れるのを防ぐ。
「だ、大丈夫……」
全然。
大丈夫ではない。
「身体……重……」
◇
シルヴァ。
舞台を見る。
ティナ。
そして。
消えた光。
「……」
間違えるはずがない。
あれは。
オーラではない。
「レオンの……」
クジャがシルヴァを見る。
「知ってる?」
「……うん」
「何?」
シルヴァの声。
小さい。
「レオンの」
一呼吸。
「光だ」
クジャ。
黙る。
「……なんで」
シルヴァの顔から。
少しずつ。
血の気が引いていく。
「なんでティナが……」
あの力を。
持っている。
頭の中。
一つの可能性。
考えたくないもの。
恩寵は。
もし。
持ち主が――。
「……」
シルヴァが。
拳を握る。
◇
王族席。
国王も。
立ち上がっていた。
「今の光……」
周囲の高官。
ざわつく。
「まさか……」
「だが、レオン殿は……」
その中。
ギラルーンだけが。
微笑んでいた。
「……やはり」
◇
そして。
別の場所。
選手席。
「……」
黒衣の剣士。
今まで。
何が起きても。
ほとんど動かなかった男。
その男が。
初めて。
明確に。
立ち上がった。
カツ。
「……?」
係員。
「おい」
黒衣。
歩く。
向かう先。
通路ではない。
舞台。
「待て!」
係員が前へ。
「試合は終了した! 次の――」
黒衣。
無視。
カツ。
カツ。
ティナ。
息を切らしながら。
気づく。
「……何?」
黒衣の男。
舞台へ。
「あなた……」
剣。
抜く。
「……」
構え。
シルヴァ。
目が見開く。
「ティナ!!」
「え?」
次の瞬間。
黒衣。
消えた。
狙い。
ティナ。
正確には。
その身体に。
たった今。
現れた。
白金の光。
「――っ!!」
シルヴァが。
剣を抜いた。
「《風脚》!!」
ドンッ!!
舞台へ。
飛び込む。




