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風葬のシルヴァ  作者: 桜
PR
10/79

第10話 光

 静まり返った闘技場。


 舞台の中央。


 アルベルト・グレイが倒れていた。


「……」


 誰も。


 すぐには声を出せなかった。


 西方最強。


 優勝候補。


 それほどの剣士が。


 たった一撃。


「医療班!!」


 最初に動いたのは大会係員だった。


「急げ!!」


 複数の衛生兵が舞台へ駆け込む。


 アルベルトの胸。


 斜めに刻まれた深い斬撃。


 大量の血。


「脈は!?」


「ある!」


「止血しろ!」


「担架を!」


 そのすぐ横。


 黒衣の剣士は。


 何事もなかったように剣を振る。


 付着した血を落とし。


 静かに鞘へ収めた。


 カチン。


「……」


 その音に。


 シルヴァの指が僅かに動いた。


「シルヴァ?」


 ティナが横を見る。


 シルヴァは。


 黒衣の男から目を離せない。


「……違う」


「何が?」


「あいつ」


 自分の剣の柄へ触れる。


「俺より綺麗だ」


「え?」


「今の剣」


 アルベルトの初撃。


 半歩だけで避けた。


 二撃目。


 必要最小限の力で逸らした。


 そして。


 崩れた一瞬。


 最短距離で胸を斬った。


「俺なら」


 シルヴァが小さく呟く。


「もう少し踏み込む」


「……」


「あいつは踏み込んでない」


「それが?」


「必要ないから」


 ティナの表情が変わる。


「最初から」


 シルヴァの額。


 薄く汗。


「自分の剣がどこまで届くか、全部分かってた」


「……」


「俺の剣なのに」


 一呼吸。


「俺より上手い」


 ティナは。


 初めて。


 何も返せなかった。


     ◇


 アルベルトが担架で運ばれていく。


 黒衣の男も舞台を去ろうとする。


「待て!」


 シルヴァが一歩出た。


 黒衣。


 止まる。


「……」


「お前」


 ゆっくり振り返る。


 深いフード。


 顔は見えない。


「その剣」


 シルヴァが問いかける。


「どこで覚えた」


「……」


「俺を知ってる?」


 返事はない。


「ディーンを知ってるのか?」


 ほんの一瞬。


 黒衣の男の右手が。


 剣の柄へ触れた。


「――!」


 シルヴァの目が開く。


「お前……!」


「シルヴァ」


 ティナが腕を掴んだ。


「待って」


「でも」


「今は大会中」


「……」


「それに」


 ティナも黒衣を見る。


「向こうに話す気がないなら、ここで斬りかかっても何も分からない」


「……」


 シルヴァは納得していない。


 それでも。


 剣から手を離した。


 黒衣の男は。


 何も言わず。


 暗い選手通路へ消えていった。


「変」


 クジャが呟く。


「クジャも?」


 シルヴァ。


「うん」


「何が?」


「全部」


 クジャの左目が細くなる。


「剣も」


「……」


「オーラも」


 一呼吸。


「気持ち悪い」


「昨日より?」


「もっと」


     ◇


 ゴォォォン――!!


 再び鐘。


『衝撃的な第三試合となりましたが――!』


『大会はまだ終わりません!!』


 ティナの表情が変わった。


『第一回戦!』


『第四試合!!』


「……私ね」


 腰の剣へ手を置く。


 シルヴァが振り返った。


「ティナ」


「うん」


「気をつけて」


「……」


「相手」


 シルヴァが真面目な顔で言う。


「経歴不明だったから」


「……うん」


「嫌な感じする」


 ティナが少しだけ笑う。


「珍しい」


「何が?」


「あなたが普通に心配するの」


「いつもしてるよ」


「え?」


「してるけど」


「……」


「何?」


「何でもない!」


 ティナが前を向いた。


 妙に。


 頬が熱い。


「絶対勝つから」


「うん」


 ティナが一歩進む。


 だが。


 途中で振り返った。


「だから」


「何?」


「ちゃんと見てなさいよ」


「見るよ」


「絶対ね」


「うん」


 少しだけ。


 満足したように。


 ティナが舞台へ向かう。


 クジャがシルヴァを見る。


「鈍い」


「何が?」


「別に」


「最近そればっかりだね」


     ◇


『東方防衛軍が誇る若き隊長!!』


『十六歳にして東部防衛の最前線に立つ剣士!』


『ティナ・ルクス!!』


 大歓声。


 ティナが舞台へ出る。


 茶色の髪を後ろで束ね。


 白を基調とした戦装束。


 銀の部分鎧。


 腰から。


 細身の剣を抜く。


「……」


 右腕。


 僅かな痛み。


 ガルゼムの《震撃》による傷は。


 まだ完全には治っていない。


「セラに知られたら……」


 想像する。


『剣禁止って言ったでしょうが!!』


「……帰ったら怒られるわね」


 反対側。


 ズン。


 重い足音。


 ズン。


 大柄な男が現れた。


 灰色がかった皮膚。


 巨大な盾。


 幅広の戦斧。


 頭には。


 二本の短い角。


『対するは――!』


『こちらも特別招待枠!!』


『所属、経歴ともに不明!』


『鉄斧のヴァレス!!』


「また魔族……」


 観客席がざわつく。


 ティナの目が鋭くなる。


「ティナ・ルクス」


 ヴァレスが言った。


「私を知ってるの?」


「東部防衛隊長」


「……」


「そして」


 盾を構える。


「ガルゼムを殺した男の同行者」


 ティナの剣先が上がる。


「あなたも魔王軍?」


「答える必要はない」


「あるわよ」


「ここで死ぬ女には」


「……」


 ティナ。


 少し笑う。


「昨日も似たようなこと言ってる奴いたわよ」


「何?」


「そいつ」


 剣を構える。


「シルヴァに斬られて死んだけど」


     ◇


「……ティナ」


 選手席。


 シルヴァが呟く。


「煽るようになった」


「誰の影響?」


 クジャ。


「知らない」


「シルヴァ」


「何で俺」


     ◇


『第四試合――』


『開始!!』


「《構装》!」


 開始直後。


 ティナの足元へ。


 半透明の板。


 足場。


 ダンッ!!


 一気に加速。


 ヴァレス。


 盾。


 ティナは。


 真正面へ行かない。


「《構装》!」


 空中。


 二枚目の足場。


 踏む。


 軌道。


 急変。


「そこ!」


 左側面。


 刺突。


 ガキン!!


 盾。


「……!」


「遅い」


 ヴァレス。


 斧。


 横薙ぎ。


 ブォン!!


 ティナ。


 身体を反らす。


 鼻先を。


 巨大な刃が通過。


 そのままヴァレスが回転。


 二撃目。


「《構装――盾》!」


 左腕。


 小型のオーラ盾。


 ガァァン!!


「くっ!」


 ティナの身体が押し戻される。


 着地。


 靴底が石を擦る。


「重っ……!」


「それがお前の力か」


「まだよ!」


     ◇


 ティナ。


 踏み込む。


 細身の剣。


 高速。


 肩。


 脇。


 脚。


 盾の死角を狙う。


 だが。


 ガキン!


 ガン!


 キィン!


 ヴァレス。


 盾と斧で受け続ける。


「だったら!」


 ティナの剣。


 オーラ。


 刃先が伸びる。


「《構装――延刃》!」


 間合い。


 一瞬で変化。


「――!」


 ヴァレスの反応が。


 僅かに遅れる。


 ズバッ!!


 脇腹。


 血。


「入った!」


 ティナがすぐ距離を取る。


 だが。


 ヴァレスは。


 笑っていた。


「悪くない」


「余裕ね」


「お前の攻撃は」


 盾に。


 黒いオーラ。


「こちらの力になる」


「……?」


「《蓄圧》」


 ティナの表情が変わる。


 盾。


 先ほど。


 剣。


 構装。


 衝突するたび。


 僅かずつ。


 何かが蓄えられていた。


「まさか……」


「受けた衝撃を」


 盾を前へ。


「蓄積する」


「……!」


「そして」


 ヴァレスが笑う。


「返す」


 黒いオーラ。


 爆発。


「《圧壊》!!」


 ドォン!!


「《構装――壁》!!」


 ティナ。


 正面。


 巨大なオーラ障壁。


 直後。


 バァァァン!!


「きゃああっ!!」


 壁。


 一撃で粉砕。


 ティナの身体が。


 吹き飛ぶ。


 ドンッ!


 石床へ。


「か……はっ……!」


     ◇


「ティナ!」


 シルヴァが身を乗り出す。


 クジャ。


 舞台を見る。


「相性悪い」


「うん」


 ティナの《構装》。


 手数。


 速度。


 戦況に合わせて形を変える。


 それが強み。


 だが。


「攻撃すればするほど」


 シルヴァ。


「盾に溜まる」


     ◇


「……厄介ね」


 ティナが立ち上がる。


 口元の血を拭う。


「理解したか」


「ええ」


「なら降参しろ」


「嫌」


「死ぬぞ」


「それも嫌」


「我儘な女だ」


「よく言われる!」


 ティナ。


 再び走る。


「同じところに攻撃しなきゃいい!」


「何?」


「《構装――連階》!」


 空中。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 オーラの足場が次々と現れる。


 ティナ。


 駆け上がる。


 右。


 左。


 上。


 ヴァレスの視線が。


 追いつかない。


「どこ見てるの!」


 真上。


 ヴァレス。


 盾を上げる。


 だが。


 ティナ。


 空中の足場を蹴り。


 急降下。


 背後へ。


 ズバッ!!


「ぐっ!」


 背中。


 さらに。


 地面へ着地する前に。


 構装。


 横。


 足場。


 蹴る。


 脚。


 ズバッ!


「ぬっ……!」


「盾で受けなきゃ!」


 肩。


 一閃。


「溜められない!」


「小賢しい!」


「褒め言葉!」


     ◇


 観客席。


 歓声。


「ティナ押してる!」


「やるぞ!」


 シルヴァ。


 しかし。


 笑っていない。


「……まずい」


「うん」


 クジャ。


「何?」


「ティナのオーラ」


「減ってる」


 構装。


 足場。


 延刃。


 小盾。


 連続して使うほど。


 消耗する。


 一方。


 ヴァレスは傷を負っているが。


 まだ立っている。


「このままだと」


 シルヴァの目が細くなる。


「ティナが先に切れる」


     ◇


「はぁっ!」


 ティナ。


 また。


 斬撃。


 ヴァレス。


 背中。


 血。


「ぐっ……!」


「これで!」


 ティナ。


 さらに踏み込む。


 その瞬間。


「捕まえた」


「――!」


 ヴァレス。


 盾を捨てた。


 左手。


 ティナの剣を。


 素手で掴む。


「なっ!?」


 掌から。


 血。


 それでも。


 離さない。


「盾だけだと思ったか」


「離して!」


 ティナ。


 剣を引く。


 抜けない。


「《構装》!」


 空いた左手。


 短剣。


 形成。


 ズバッ!!


 ヴァレスの腕。


「ぐっ!」


 握力。


 緩む。


「今!」


 ティナが退く。


 だが。


「遅い」


 ヴァレス。


 足。


 捨てた盾を。


 踏む。


 そこには。


 まだ。


 大量の衝撃が残されていた。


「まさか――」


「《圧壊》」


 ドォォォン!!


「――っ!!」


 至近距離。


 直撃。


 ティナの身体が。


 折れ曲がる。


「がっ……!」


 吹き飛ぶ。


 一度。


 二度。


 三度。


 石床を転がった。


「ティナ!!」


 シルヴァが立ち上がる。


     ◇


「……っ」


 ティナ。


 腕が震える。


 起きようとする。


 右肩。


 激痛。


 古傷。


 開いた。


「……最悪」


 ヴァレスが盾を拾う。


「まだ生きているか」


「悪かったわね……」


「大した耐久力だ」


「褒められて……嬉しくない……」


 ティナが剣を支えに。


 立ち上がる。


「まだやるのか」


「当たり前……」


「勝てん」


「勝つ」


「何故」


「言ったから」


「何?」


 ティナの視線。


 一瞬。


 選手席。


 シルヴァ。


「……負けないって」


     ◇


 シルヴァの手。


 剣の柄を。


 強く握っている。


「入る?」


 クジャが聞く。


「……」


「助けるなら今」


「まだ」


「……」


「ティナが」


 シルヴァは。


 舞台から目を離さない。


「やめてない」


「うん」


「だから」


 震える手を。


 押さえる。


「まだ待つ」


     ◇


「《構装》……!」


 ティナ。


 剣。


 オーラの刃。


 だが。


 形が不安定。


 揺れる。


「……っ」


「もう限界だ」


 ヴァレスが盾を構える。


「これで終わらせる」


 ティナ。


 走る。


 一撃。


 ガキン!!


 弾かれる。


 斧。


「――!」


 小盾。


 構装。


 ガァン!!


 砕ける。


 ヴァレス。


 蹴り。


 腹。


「かはっ!」


 ティナ。


 浮く。


 さらに。


 盾。


 ドガッ!!


 地面へ。


「ティナ!!」


 シルヴァ。


 一歩。


「まだ!!」


 ティナの声。


 シルヴァが止まる。


     ◇


「……来ないで」


 倒れたまま。


 ティナが言った。


「ティナ」


「これは……」


 震える手で。


 剣を掴む。


「私の試合……!」


「もう終われ」


 ヴァレス。


「無意味だ」


「……嫌」


 膝。


 立てる。


「ここで……」


 もう片方。


 足。


「助けてもらったら……」


 ティナ。


 立ち上がる。


「二年前と……」


 一呼吸。


「同じだから……!」


     ◇


 二年前。


 選抜大会。


 決勝。


 十四歳。


 地面へ倒れる。


 ティナ。


 剣。


 飛ばされ。


 目の前。


 シルヴァ。


『終わり?』


『……まだ!』


 立つ。


 倒される。


 また立つ。


 それでも。


 届かなかった。


 シルヴァが。


 レオンたちと旅立った。


 自分は。


 残った。


     ◇


「ずっと……」


 ティナ。


 一歩。


「悔しかった……!」


 剣を構える。


「なら」


 ヴァレス。


 盾に。


 溜め込んだ衝撃。


「その悔しさごと」


 黒いオーラ。


 膨れ上がる。


「消えろ」


 ティナ。


 呼吸。


 荒い。


 オーラ。


 ほとんどない。


 構装も。


 もう。


 まともに作れない。


「……どうすれば」


 勝てない。


 攻撃しても。


 返される。


「どうすれば……」


 指。


 震える。


「もっと……」


 強く。


「……」


 その時。


 胸の奥。


 何か。


 温かい。


 オーラとは。


 違う。


「……何?」


 ずっと。


 自分の中にあった。


 でも。


 一度も。


 触れたことのない。


 何か。


     ◇


「《圧壊》!!」


 ヴァレス。


 最大。


 解放。


 ドォォォォォン!!


 ティナへ。


 巨大な衝撃。


「ティナ!!」


 シルヴァが叫んだ。


「《構装――壁》!!」


 ティナ。


 残されたオーラ。


 全て。


 正面。


 壁。


 ドォォォォン!!


「――っ!!」


 押される。


「持って……!」


 障壁。


 ひび。


「お願い……!」


 パキッ。


「まだ……!」


 パキ。


 パキパキパキ。


「まだ!!」


 パァァァン!!


 壁。


 粉砕。


「――!」


 圧壊。


 ティナを飲み込んだ。


     ◇


 音が。


 遠くなる。


「……」


 身体。


 動かない。


 剣が。


 指から。


 落ちていく。


「……また」


 ティナの意識。


 沈む。


「……負ける」


 二年前。


 同じ。


「……届かない」


 レオン。


『剣、やめんなよ』


「……」


『まだやれる』


「レオン……」


 続けた。


 二年間。


 毎日。


 剣。


 オーラ。


 守りたかった。


 東方の人たち。


 レイヴン。


 セラ。


 カイル。


 キャラバンのみんな。


「……私も」


 そして。


 シルヴァ。


 もう。


 置いていかれたくない。


 今度は。


 同じ場所に。


「……行きたい」


 もっと。


 強く。


「一緒に……」


 胸の奥。


 何かが。


 応えた。


     ◇


 ――白金の光。


     ◇


「……え?」


 シルヴァが。


 固まった。


 舞台。


 煙。


 その奥。


 光。


 白。


 金。


 眩しいほど。


 なのに。


 目を逸らせない。


「……嘘」


「シルヴァ?」


 クジャが見る。


 シルヴァには。


 聞こえていない。


 知っている。


 あの光。


 あの色。


 あの温かさ。


 二年前。


『生きろ、シルヴァ』


「……レオン」


     ◇


 ドン――!!


 煙が。


 一気に吹き飛んだ。


 ティナ。


 立っている。


「……」


 全身。


 白金の光。


 髪。


 服。


 剣。


 すべての周囲を。


 光の粒子が漂っている。


「何……」


 ティナが自分の手を見る。


「これ……」


 傷は。


 治っていない。


 右肩。


 痛い。


 血。


 残っている。


 オーラも。


 回復したわけではない。


 なのに。


「身体が……」


 軽い。


 呼吸。


 視界。


 音。


 全部。


 鮮明。


 ヴァレスの動き。


 さっきまでは。


 巨大な斧が。


 速かった。


 今は。


「……見える」


 ヴァレスの顔が歪んだ。


「その光……!」


「私に聞かないで」


 ティナが剣を拾う。


「私だって」


 構える。


「分かってない!」


     ◇


「ふざけるなァ!!」


 ヴァレス。


 斧。


 全力。


 横薙ぎ。


 ブォォン!!


 覚醒前。


 避けるだけでも。


 精一杯だった。


 今。


「……遅い」


「な――」


 ティナ。


 一歩。


 斧の内側へ。


 通り抜ける。


「消え――」


 ヴァレスが振り向く。


 もう。


 いない。


「どこだ!?」


「後ろ」


「――!」


 ティナ。


 背後。


「《構装――延刃》!」


 細身の剣へ。


 オーラの延長刃。


 さらに。


 その全体を。


 白金の光が包む。


「はぁっ!!」


 ズバァン!!


「ぐあっ!!」


 ヴァレスの背中。


 深い斬撃。


 今までとは。


 威力が違う。


「何だ……!」


 ヴァレスが振り返る。


「何だその力は!!」


「知らないって!」


     ◇


「速さが……」


 ティナ自身も。


 驚いている。


 身体。


 思っただけで動く。


 いや。


 思うより。


 先。


 ヴァレスの肩が動く。


 次。


 斧。


 来る。


「分かる……」


 避ける。


「見える!」


 ティナ。


 足元。


「《構装》!」


 オーラの足場。


 ダンッ!!


 だが。


 今度は。


 蹴った瞬間。


 白金の光。


 爆発。


 ドンッ!!


「――!」


 シルヴァの目が開く。


「速い」


 クジャ。


「さっきと別人」


 ティナ。


 残像。


 右。


 左。


 上。


 連続した構装の足場。


 白金の光が。


 軌跡として残る。


「くっ!」


 ヴァレス。


 盾。


 どこを向けばいいか。


 分からない。


「ここ!」


 ティナ。


 右。


 刺突。


 ガァン!!


 盾。


「止めた!」


 ヴァレスが笑う。


「いくら速くなろうが――!」


「……」


 ティナ。


 押し負けない。


「え?」


 細い腕。


 細身の剣。


 なのに。


 ヴァレスの盾が。


 押される。


「何だ……この力……!」


「私だって」


 ティナの目。


 白金。


「驚いてるわよ!」


 踏み込み。


「はぁぁぁっ!!」


 ガァァァァン!!


 盾ごと。


 ヴァレスを吹き飛ばす。


「ぐおっ!?」


 数メートル。


 巨体。


 滑る。


     ◇


 観客席。


 騒然。


「何だあの光!?」


「ティナのオーラじゃないのか!?」


「急に強くなったぞ!」


 シルヴァだけが。


 何も言わない。


「……」


 拳。


 震える。


 嬉しい。


 はずなのに。


 胸。


 苦しい。


 あの光を。


 ティナが持っている。


「……なんで」


 レオンの光。


 その力が。


 別の人間に。


「レオン……」


     ◇


「舐めるなァ!!」


 ヴァレス。


 盾。


 地面。


「《蓄圧》!!」


 これまで溜めていた。


 全て。


 最後。


「貴様ごと!」


 盾の表面。


 黒いオーラ。


「粉々にしてやる!!」


 ティナ。


 正面。


「《圧壊――最大解放》!!」


 ドォォォォォォン!!!


 巨大。


 衝撃。


 舞台そのものが。


 割れる。


「ティナ!」


 シルヴァ。


 だが。


 ティナは。


 逃げない。


「……」


 細身の剣。


 両手。


 握る。


 オーラ。


 残り。


 僅か。


「《構装》……!」


 刀身。


 延長。


 補強。


 白金の光。


 その全てを包み込む。


 光の大剣。


 ではない。


 あくまで。


 ティナの細身の剣。


 ただ。


 圧倒的に。


 密度の高い光を纏っている。


「行く!!」


 構装。


 足場。


 蹴る。


 ドンッ!!


 正面。


 巨大な衝撃へ。


「ティナ!?」


 シルヴァが叫ぶ。


「真正面!?」


 クジャ。


 ティナ。


 剣を。


 振り抜いた。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ズガァァァァン!!!


 光。


 衝撃。


 正面衝突。


「――っ!!」


 ティナの足元。


 石床。


 砕ける。


 腕。


 震える。


「まだ……!」


 押される。


「まだぁぁぁ!!」


 白金。


 さらに。


 強く。


 ヴァレスの顔が。


 引きつる。


「何故だ……!」


 衝撃。


 少しずつ。


 押し返される。


「何故……人間一人に!!」


「私は!」


 ティナ。


 一歩。


「ずっと!!」


 もう一歩。


「ここまで来るために!」


 白金の光。


 爆発。


「剣振ってきたのよ!!」


 ズドォォォォン!!


「な――」


 《圧壊》。


 正面から。


 打ち破られた。


     ◇


「――っ!」


 ヴァレス。


 一瞬。


 動きが止まる。


「今!」


 ティナ。


 加速。


 ヴァレス。


 盾を構える。


「無駄だ!!」


 今まで。


 何度も。


 ティナの剣を止めた盾。


「止め――」


 ガキィィィィン!!


「……な」


 ひび。


 盾。


「嘘だ……」


 白金の光を纏った。


 《構装》の延刃。


 もう一撃。


「はぁっ!!」


 ガァァン!!


 ひび。


 広がる。


 三撃。


「おおおおっ!!」


 ヴァレス。


 全力。


 受ける。


 だが。


「――《構装・重刃》!!」


 ティナの剣。


 オーラ。


 今度は。


 細長くではなく。


 厚く。


 重く。


 刃の周囲へ構築。


 そして。


 光。


 重なる。


「これで!!」


 振り抜く。


 バァァァァン!!


 盾。


 粉砕。


「ぐっ!?」


 ヴァレスの腕。


 弾かれる。


 無防備。


「終わり!!」


 ティナ。


 剣を反転。


 構装した厚い刃の腹。


 ヴァレスの胴へ。


 渾身。


「はぁぁぁぁっ!!」


 ドガァァァン!!


「がっ――!!」


 ヴァレス。


 巨体。


 完全に浮く。


 十数メートル。


 吹き飛ぶ。


 ドンッ!


 一度。


 転がる。


 舞台端。


 止まった。


「……」


 動かない。


     ◇


 ティナ。


「はぁ……」


 肩。


 上下。


「はぁ……はぁ……」


 白金の光。


 徐々に。


 薄くなっていく。


「……勝った?」


 一瞬。


 静寂。


 そして。


『――勝者!!』


『ティナ・ルクス!!』


「うおおおおおおおおおおお!!」


 大歓声。


 ティナ。


 笑う。


「……よかった」


 次の瞬間。


 光。


 消えた。


「え?」


 全身。


 力。


 抜ける。


「……あ」


 ガクッ。


 膝。


「ティナ!」


 シルヴァが駆け出そうとする。


 ティナは。


 剣を地面へ突き。


 どうにか倒れるのを防ぐ。


「だ、大丈夫……」


 全然。


 大丈夫ではない。


「身体……重……」


     ◇


 シルヴァ。


 舞台を見る。


 ティナ。


 そして。


 消えた光。


「……」


 間違えるはずがない。


 あれは。


 オーラではない。


「レオンの……」


 クジャがシルヴァを見る。


「知ってる?」


「……うん」


「何?」


 シルヴァの声。


 小さい。


「レオンの」


 一呼吸。


「光だ」


 クジャ。


 黙る。


「……なんで」


 シルヴァの顔から。


 少しずつ。


 血の気が引いていく。


「なんでティナが……」


 あの力を。


 持っている。


 頭の中。


 一つの可能性。


 考えたくないもの。


 恩寵は。


 もし。


 持ち主が――。


「……」


 シルヴァが。


 拳を握る。


     ◇


 王族席。


 国王も。


 立ち上がっていた。


「今の光……」


 周囲の高官。


 ざわつく。


「まさか……」


「だが、レオン殿は……」


 その中。


 ギラルーンだけが。


 微笑んでいた。


「……やはり」


     ◇


 そして。


 別の場所。


 選手席。


「……」


 黒衣の剣士。


 今まで。


 何が起きても。


 ほとんど動かなかった男。


 その男が。


 初めて。


 明確に。


 立ち上がった。


 カツ。


「……?」


 係員。


「おい」


 黒衣。


 歩く。


 向かう先。


 通路ではない。


 舞台。


「待て!」


 係員が前へ。


「試合は終了した! 次の――」


 黒衣。


 無視。


 カツ。


 カツ。


 ティナ。


 息を切らしながら。


 気づく。


「……何?」


 黒衣の男。


 舞台へ。


「あなた……」


 剣。


 抜く。


「……」


 構え。


 シルヴァ。


 目が見開く。


「ティナ!!」


「え?」


 次の瞬間。


 黒衣。


 消えた。


 狙い。


 ティナ。


 正確には。


 その身体に。


 たった今。


 現れた。


 白金の光。


「――っ!!」


 シルヴァが。


 剣を抜いた。


「《風脚》!!」


 ドンッ!!


 舞台へ。


 飛び込む。

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