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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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11/78

第11話 同じ剣

 ドンッ!!


 風が爆ぜた。


「《風脚》!!」


 シルヴァ。


 選手席から。


 一気に舞台へ。


 白銀の髪。


 黒いマント。


 抜き放った剣。


 その先。


 黒衣の剣士が。


 ティナへ迫っていた。


「――っ!」


 ティナは。


 まだまともに動けない。


 光の恩寵が消えた直後。


 全身に。


 鉛でも詰め込まれたような重さ。


「避け――」


 間に合わない。


 黒衣。


 一閃。


 ティナの首へ。


 その直前。


 ガキィィィン!!


「――!」


 剣。


 剣。


 真正面からぶつかる。


 火花。


 シルヴァが。


 ティナの前に立っていた。


「……」


「……」


 二人の剣士。


 至近距離。


 鍔迫り合い。


「シル……ヴァ……?」


 ティナが呟く。


 シルヴァは。


 振り返らない。


「下がって」


「でも……」


「今は」


 黒衣の剣へ力を返す。


「お願い」


「……」


 ティナが。


 ほんの少し。


 目を見開いた。


 いつもの。


 軽い声ではなかった。


「……分かった」


     ◇


「何が起きている!?」


「乱入だ!」


「試合は終わったんじゃないのか!?」


 数万人の観客。


 騒然。


『ま、待ってください!』


『黒衣の選手が突然――』


 実況も。


 状況を理解できていない。


「衛兵!」


 大会係員が叫ぶ。


「舞台へ――!」


「来るな!」


 シルヴァの声。


 兵士たちの足が止まった。


「何!?」


「こいつ」


 黒衣から目を離さず。


「普通じゃない」


「しかし!」


「今入ったら」


 一呼吸。


「多分、死ぬ」


 兵士たち。


 黙る。


 それほど。


 シルヴァの声には。


 確信があった。


     ◇


「……」


 黒衣の男。


 何も言わない。


 ただ。


 剣へ。


 僅かに力を込める。


「――っ!」


 シルヴァの腕が。


 押される。


「シルヴァ!?」


 ティナ。


「大丈夫」


 剣。


 角度を変える。


 真正面で押し合わない。


 刀身を滑らせ。


 黒衣の力を。


 横へ。


「――!」


 受け流す。


 同時。


 シルヴァ。


 一歩。


 懐。


 斬り上げ。


 だが。


 カン。


「……」


 黒衣。


 同じように。


 刀身を滑らせた。


 シルヴァの剣が。


 横へ逸れる。


「……また」


 シルヴァの目が細くなる。


 自分が。


 今やったことを。


 そのまま。


 返された。


     ◇


 黒衣。


 踏み込む。


 右。


 斬撃。


 シルヴァ。


 半歩下がる。


 回避。


 二撃目。


 下。


 シルヴァ。


 剣で弾く。


 三撃目。


「……!」


 肩。


 シルヴァが身体を捻る。


 黒い上衣。


 浅く切れる。


 血。


「シルヴァ!」


「大丈夫!」


 そのまま。


 シルヴァ。


 前。


「はっ!」


 剣。


 首。


 黒衣。


 屈む。


 返し。


 腹。


 シルヴァが剣の柄で受ける。


 ガンッ!!


 距離。


 開く。


 二人。


 同時に。


 止まった。


「……」


「……」


 シルヴァの肩。


 一筋。


 血。


 黒衣。


 無傷。


     ◇


「何なの……」


 ティナが。


 剣を支えに立つ。


「全部……」


 シルヴァの攻撃。


 知っているかのように。


 避ける。


 返す。


 クジャが。


 いつの間にか舞台脇まで来ていた。


「同じ」


「クジャ?」


「二人」


 左目。


 細くなる。


「動く前のオーラ」


「何?」


「似てる」


 クジャが。


 シルヴァ。


 黒衣。


 交互に見る。


「足に流す量」


「剣へ移すタイミング」


「守る時の場所」


「ほとんど」


 一呼吸。


「同じ」


 ティナの表情が曇る。


「そんなこと……」


「でも」


 クジャ。


「変」


「何が?」


「黒い方」


 クジャの左目が。


 僅かに痛む。


「……」


「クジャ?」


「何でもない」


 片手。


 眼帯の近くへ。


 触れそうになり。


 やめる。


「まだ分からない」


     ◇


 シルヴァ。


 剣を構える。


「……なあ」


 黒衣。


 無言。


「さっきも聞いたけど」


 一歩。


「俺を知ってる?」


「……」


「ディーンは?」


「……」


「レオン」


 その名前。


 黒衣。


「……」


 何も。


 変わらない。


「ミルス」


「……」


 反応。


 なし。


「……そっか」


 シルヴァの声が。


 少し低くなる。


「喋る気ないんだ」


 黒衣。


 剣を構える。


「じゃあ」


 シルヴァも。


 腰を落とした。


「剣で聞く」


     ◇


 ドン!!


 二人。


 同時。


 踏み込む。


 ガキン!!


 一撃目。


 真正面。


 二撃。


 キン!


 三撃。


 ガン!!


 斬る。


 弾く。


 受け流す。


 避ける。


 また斬る。


 剣。


 剣。


 剣。


「速……!」


 ティナの目が。


 追いつかない。


 ガキン!


 キィン!


 ガン!


 火花が。


 舞台上を連続して走る。


『なんだこの剣速は!?』


『シルヴァ選手と黒衣の剣士!』


『互いに一歩も譲りません!!』


 だが。


 シルヴァには。


 分かっていた。


「……っ」


 違う。


 互角ではない。


     ◇


 シルヴァ。


 右。


 フェイント。


 左へ。


 黒衣。


 引っかからない。


「やっぱり」


 シルヴァ。


 さらに。


 風。


「《風脚》!」


 速度。


 一段。


 上げる。


 黒衣の視界から。


 消える。


 背後。


「取った!」


 斬撃。


 だが。


 黒衣。


 振り向かない。


 剣。


 後ろ。


 ガキン!!


「――!」


 受けられた。


「嘘」


 ティナ。


 黒衣。


 そのまま身体を回転。


 シルヴァの剣を押し流す。


 肘。


 シルヴァの腹。


「ぐっ!」


 さらに。


 剣。


 横薙ぎ。


「――!」


 シルヴァ。


 後方へ跳ぶ。


 ブンッ!!


 胸元。


 黒い上衣が。


 切れる。


 浅い。


 だが。


 また。


 黒衣だけが。


 一撃。


 先。


     ◇


 着地。


 シルヴァが。


 自分の胸を見る。


「……」


 傷。


 二つ。


「当たらない」


 呟く。


「こっちは」


 剣。


 握り直す。


「一回も」


 黒衣。


 何も言わない。


「……はは」


 シルヴァが。


 小さく笑った。


「シルヴァ?」


 ティナ。


「何笑ってるの!?」


「いや」


 額。


 汗。


 心臓。


 速い。


「強いなって」


「だからって!」


「俺の剣を知ってる」


 一呼吸。


「しかも」


 黒衣を見る。


「俺より上手い」


 口元。


 笑っている。


 だが。


 目は。


 全く笑っていなかった。


「こんなの」


 剣。


 構える。


「初めてだから」


     ◇


 黒衣。


 一歩。


 シルヴァ。


 同時。


 風。


 足。


 今度は。


 単純な速度ではない。


「……」


 シルヴァ。


 黒衣へ。


 正面。


 一撃。


 ガキン!


 受けられる。


 すぐ。


 右足。


 黒衣の足首。


 蹴り。


 黒衣。


 跳ぶ。


「そこ!」


 剣。


 空中。


 逃げ場。


 少ない。


 斬る。


 黒衣。


 自分の剣を。


 シルヴァの刀身へ。


 乗せる。


 そのまま。


 身体を。


 さらに上。


「――何!?」


 シルヴァの剣を足場のように使い。


 回転。


 黒衣。


 頭上。


 剣。


「シルヴァ!!」


 振り下ろし。


 シルヴァ。


 紙一重。


 横へ。


 ズバッ!!


 黒いマントの端が。


 大きく斬り裂かれる。


「……!」


 黒衣。


 着地。


 シルヴァも。


 距離。


「今の……」


 シルヴァ。


 目を見開く。


「俺なら」


 やる。


 あの状況なら。


 自分でも。


 同じ選択をする。


「やっぱり……」


     ◇


 王族席。


 国王。


「何なのだ……あの剣士は」


 怒り。


 疑念。


 そして。


 隣。


 ギラルーンを見る。


「ギラルーン殿」


「はい」


「説明してもらおう」


「何をでしょう」


「とぼけるな」


 国王の声が低くなる。


「あの者も特別招待」


「ええ」


「ティナ・ルクスを襲った」


「そうですね」


「大会どころではない!」


 近衛兵たち。


 既に。


 剣へ手を掛けている。


「今すぐ止める」


「おすすめはしません」


「何?」


 ギラルーン。


 穏やかなまま。


 舞台を見る。


「今の彼らの間へ」


 一呼吸。


「入れる者が」


 僅かに笑う。


「この場に何人いるでしょう」


「……」


「下手に兵を送れば」


 国王。


 歯を噛む。


「犠牲が増えます」


「では見ていろと?」


「少なくとも」


 ギラルーン。


 視線。


 シルヴァへ。


「彼が止めるまでは」


「……貴様」


「ご安心を」


 笑う。


「王都を壊すつもりはありません」


「それを信用しろと?」


「信用していただく必要はありません」


 国王の目が。


 鋭くなる。


     ◇


 舞台。


「シルヴァ!」


 ティナ。


「私も――」


 踏み出そうとする。


 ガクッ。


「っ……!」


 膝。


 落ちる。


「ティナ」


 クジャが支える。


「離して」


「無理」


「でもシルヴァが!」


「今行っても」


 クジャ。


 冷静。


「邪魔」


「……!」


 ティナが。


 悔しそうに唇を噛む。


「分かってる……」


 右手。


 震える。


 光。


 もう。


 出ない。


「分かってるけど……!」


 クジャは。


 舞台を見る。


「まだ」


「何?」


「シルヴァ」


 一呼吸。


「負けてない」


     ◇


 シルヴァ。


 呼吸。


 一度。


 深く。


「……」


 ディーン。


 レオン。


 旅。


 二年間。


 自分の剣。


 全部。


 読まれる。


「なら」


 剣術だけで。


 勝てないなら。


「崩す」


 黒衣。


 踏み込む。


 シルヴァ。


 待つ。


 黒衣。


 一閃。


 シルヴァ。


 避け――。


 ない。


「――!」


 左肩。


 刃。


 浅く入る。


 血。


「シルヴァ!?」


 その代わり。


 シルヴァの左手。


 黒衣の剣。


 手首。


 掴む。


「捕まえた」


「……」


 初めて。


 黒衣の動きが。


 完全に止まった。


「俺なら」


 シルヴァが笑う。


「斬られる前提では動かない」


 右手。


 剣。


「これなら!」


 至近距離。


 横薙ぎ。


 黒衣の顔。


 フードへ。


 ズバッ!!


 布。


 裂ける。


「――!」


 黒衣。


 シルヴァを蹴る。


 ドン!!


「ぐっ!」


 シルヴァ。


 吹き飛ぶ。


 だが。


 目的は。


 果たした。


 黒いフードが。


 ゆっくり。


 肩から落ちる。


     ◇


「……え」


 ティナの声。


 止まった。


 クジャ。


 左目。


 僅かに開く。


 観客。


 ざわめき。


 シルヴァ。


 地面へ手をつき。


 顔を上げる。


「……」


 そこに。


 立っていた。


 少年。


 年齢。


 同じ。


 輪郭。


 同じ。


 鼻。


 口。


 目元。


 白銀の髪。


 そして。


 シルヴァと。


 ほとんど同じ顔。


「……は?」


 シルヴァが。


 自分でも。


 間抜けな声を出した。


「……何だよ」


 黒衣の少年。


 何も答えない。


 ただ。


 シルヴァと同じ顔で。


 シルヴァとは違う。


 何の感情もない目を向けている。


 ティナ。


 息を呑む。


「シルヴァが……」


 一人。


 舞台。


 こちら。


 二人。


「……二人?」


 シルヴァ。


 立ち上がる。


 自分と同じ顔。


 自分と同じ剣。


 自分より。


 完成された技術。


「お前……」


 剣を。


 握る。


「誰だ」


 黒衣の少年は。


 初めて。


 口を開いた。


「――シルヴァ」


「……!」


 低い。


 平坦な声。


 そして。


 続ける。


「排除対象を確認」


 剣を構える。


「シルヴァ・ライズ」


 その構えも。


 やはり。


 鏡を見ているように。


 同じだった。

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