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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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12/82

第12話 模造

「シルヴァ・ライズ」


 黒衣の少年が。


 平坦な声で名を呼んだ。


「排除する」


「……」


 シルヴァは。


 すぐには剣を構えなかった。


 目の前の少年を見る。


 似ている。


 確かに。


 輪郭。


 体格。


 髪型。


 剣を持つ姿。


 だが。


 同じではない。


 シルヴァの白銀よりも。


 さらに色の抜けた。


 青白い銀髪。


 蒼ではなく。


 灰色に紫を落としたような瞳。


 肌は白く。


 妙に血色が薄い。


 そして何より。


「……気持ち悪いな」


 シルヴァが呟いた。


 その顔には。


 何もない。


 怒りも。


 戸惑いも。


 緊張も。


 自分と似た顔なのに。


 まるで。


 生きていない。


「シルヴァ……」


 ティナも。


 息を呑んでいた。


「似てるけど……」


「うん」


 シルヴァ。


「俺じゃない」


 黒衣の少年。


 黒銀の剣を構える。


 シルヴァより。


 ほんの僅かに。


 細く。


 長い刀身。


「当たり前だけど」


 シルヴァも。


 剣を上げた。


「俺の方が格好いい」


「今それ言う!?」


 ティナ。


 思わず声。


「少し安心した」


「何が!?」


「ティナがいつも通りだから」


「あなたが戻っただけでしょ!」


 クジャ。


 小さく。


「……似てる」


「どっちに?」


 ティナ。


「顔じゃなくて」


 クジャは。


 二人の剣を見る。


「馬鹿なところ」


「こいつまだ何も喋ってないよ!?」


     ◇


 黒衣。


 動く。


 ドンッ!!


「――!」


 シルヴァ。


 剣。


 ガキィン!!


 衝撃。


「重っ……!」


 見た目は。


 細身。


 だが。


 一撃が重い。


 黒衣。


 二撃。


 シルヴァ。


 受ける。


 三撃。


 流す。


「っ!」


 四撃目。


 すでに。


 次の角度。


「速い!」


 ティナ。


 シルヴァ。


 剣。


 弾く。


 黒衣。


 半歩。


 踏み込む。


 突き。


 シルヴァ。


 首を傾ける。


 頬。


 浅く切れる。


「シルヴァ!」


「大丈夫!」


 シルヴァ。


 左拳。


 黒衣の腹へ。


 だが。


 黒衣。


 肘。


 落とす。


 ガッ!


「――!」


 拳。


 潰される。


 返し。


 膝。


「ぐっ!」


 シルヴァの脇腹。


 そのまま。


 剣。


 首。


「《風脚》!」


 ドン!!


 シルヴァ。


 後退。


 刃。


 鼻先。


 通過。


     ◇


「……」


 着地。


 シルヴァが。


 息を吐く。


「剣だけじゃない」


「何が?」


 ティナ。


「体術も」


 シルヴァ。


 黒衣を見る。


「俺の癖を知ってる」


「……」


「拳を出すタイミングまで」


 黒衣。


 無言。


「本当に」


 シルヴァの顔から。


 少し笑みが消える。


「何なんだ」


     ◇


 黒衣。


 足。


 沈む。


「……!」


 シルヴァが。


 反応。


 次の瞬間。


 バンッ!!


 空気が。


 後方へ弾けた。


 黒衣。


 一気に加速。


「風!?」


 ティナ。


 シルヴァ。


 受ける。


 ガァァン!!


 身体。


 数メートル押される。


「……違う」


 シルヴァ。


「え?」


「風じゃない」


 黒衣。


 再び。


 足元。


 空気。


 圧縮。


 バンッ!!


 加速。


 シルヴァも。


「《風脚》!」


 風。


 足元へ。


 流れる。


 二人。


 正面。


 衝突。


 ガキィィン!!


     ◇


 ティナが。


 目を凝らす。


「同じに見えるけど……」


「違う」


 クジャ。


「分かるの?」


「うん」


 クジャの左目。


 二人を追う。


「シルヴァの方」


 一呼吸。


「周りの空気まで流れてる」


 ティナ。


「黒い方は?」


「押してるだけ」


「押してる?」


「空気を」


 クジャ。


「無理やり」


     ◇


 シルヴァ。


 同じことを感じていた。


 自分の風。


 流れる。


 曲がる。


 周囲へ広がる。


 自然に。


 身体を運ぶ。


 だが。


 こいつのものは違う。


「……雑」


 シルヴァが呟く。


 黒衣の少年。


「……」


「いや」


 一撃。


 ガキン!


「精密だけど」


 二撃。


「風としては」


 三撃。


 シルヴァ。


 受け流す。


「雑!」


 足元。


 風。


 巻く。


 シルヴァ。


 身体を捻り。


 斬撃。


 黒衣。


 剣。


 受ける。


「《風刃》!」


 至近。


 剣から。


 風。


 ズバッ!!


「――!」


 初めて。


 黒衣が。


 大きく距離を取る。


 黒い長外套。


 胸元。


 切れる。


「入った!」


 ティナ。


 だが。


 浅い。


 血。


 ほんの少し。


 黒衣。


 自分の胸を見る。


「損傷」


「……」


「戦闘継続に支障なし」


 シルヴァ。


「その喋り方」


 眉を寄せる。


「やっぱり嫌い」


     ◇


 黒衣。


 黒銀の剣。


 構える。


 刀身。


 周囲。


 空気。


 歪む。


「……来る」


 シルヴァ。


 風。


 黒衣。


 一閃。


 シュン――!!


 圧縮された空気の刃。


 飛ぶ。


「《風刃》!?」


 ティナ。


「違う!」


 シルヴァ。


 自分の剣。


 振る。


「《風刃》!」


 二つ。


 衝突。


 ドォン!!


 空気。


 爆発。


 シルヴァ。


 目を細める。


「似せてる」


「……」


「俺の技を」


 黒衣。


 返答。


「再現率、八十七」


「は?」


「戦闘データ更新」


「……何言ってるか分かんないけど」


 シルヴァ。


 剣を肩へ。


「腹立つ」


     ◇


 王族席。


 国王が。


 ギラルーンを見る。


「あれは何者だ」


「さて」


「貴殿が連れてきたのであろう」


「私が?」


 ギラルーン。


 微笑む。


「私は招待状をお渡ししただけですよ」


「戯言を」


「ですが」


 ギラルーンの目。


 舞台。


「面白いでしょう?」


「……」


「本物が」


 一呼吸。


「自分の模造品と戦う」


 国王。


「模造品?」


 ギラルーン。


 笑み。


「おっと」


「何だ」


「独り言です」


     ◇


 舞台。


 シルヴァ。


 黒衣。


 再び。


 激突。


 ガキン!


 キィン!


 ガン!


 剣。


 体術。


 足運び。


 ほぼ。


 同じ。


 だが。


 少しずつ。


 シルヴァが押される。


「……っ!」


 肩。


 ズバッ!


「シルヴァ!」


 脇腹。


 浅く。


 血。


 腿。


 刃。


「くっ!」


 シルヴァ。


 後退。


 黒衣。


 追う。


「《風脚》!」


 シルヴァ。


 加速。


 右。


 黒衣。


 もう。


 剣がある。


 ガキン!


「読まれてる……!」


 今度。


 左。


 また。


 受けられる。


 上。


 同じ。


「全部……」


 ティナの顔。


 青ざめる。


「分かってるみたい」


「……」


 クジャ。


 静かに見ている。


「でも」


「何?」


「変」


「また?」


「うん」


     ◇


 シルヴァ。


 大きく。


 息を吐く。


「はぁ……」


 血。


 傷。


 増えていく。


 対して。


 黒衣。


 最初の一傷のみ。


「……参ったな」


 シルヴァが。


 笑う。


「何で笑えるのよ!」


 ティナ。


「いや」


「強すぎて」


「そこ喜ぶところじゃない!」


「でも」


 シルヴァの目。


 鋭くなる。


「分かってきた」


「何が?」


「こいつ」


 黒衣。


 見る。


「俺がすることは」


「全部知ってる」


「それ最悪じゃない!」


「うん」


「じゃあ何が分かったのよ!」


 シルヴァ。


 口元。


 僅かに上がる。


「俺がしないこと」


「……え?」


「それは」


 一呼吸。


「知らない」


     ◇


 黒衣。


 踏み込む。


 シルヴァ。


 剣。


 下げる。


「……!」


 ティナ。


「何してるの!?」


 黒衣。


 斬撃。


 左肩。


 シルヴァ。


 避けない。


 ズバッ!!


「っ!」


 深く。


 血。


「シルヴァ!!」


 だが。


 シルヴァ。


 黒衣の腕。


 掴む。


「俺なら」


 顔を歪めながら。


「そこまで斬らせない」


 黒衣。


 初めて。


 僅かに。


 動きが止まる。


「だから」


 シルヴァ。


 頭。


 ゴンッ!!


 頭突き。


「――」


 黒衣。


 一歩。


 下がる。


「おおっ!?」


 観客。


 どよめく。


「頭突き!?」


「剣士だろ!?」


 シルヴァ。


「俺もそう思う!」


 ティナ。


「自分で言うな!!」


     ◇


 シルヴァ。


 そのまま。


 蹴り。


 黒衣。


 腕。


 防ぐ。


 砂。


 シルヴァ。


 足。


 舞台の砂埃を。


 蹴り上げる。


「……!」


 黒衣の視界。


 一瞬。


 塞ぐ。


「今!」


 シルヴァ。


 剣。


 横薙ぎ。


 ガキン!!


 黒衣。


 それでも。


 受けた。


「嘘だろ」


 黒衣。


 膝。


 シルヴァ腹。


「ぐっ!」


 さらに。


 剣。


 斬り上げ。


 シルヴァ。


 辛うじて。


 後ろ。


 胸。


 また。


 浅い血。


「……駄目か」


     ◇


 クジャ。


 右手。


 眼帯へ。


「……」


 ティナが気づく。


「クジャ?」


「見る」


「何を?」


「中」


「中?」


 クジャ。


 黒衣の少年を見る。


「ずっと」


 一呼吸。


「おかしい」


 指。


 眼帯。


 外す。


     ◇


 右眼。


 露わになる。


「……!」


 ティナが息を呑む。


 普段。


 隠されている。


 クジャの右眼。


 その瞳。


 左とは。


 違う。


 静かに。


 異質な光。


「クジャ……その目」


「後で」


 クジャ。


 右眼。


 黒衣。


 見る。


「……っ」


 瞬間。


 頭。


 鈍い痛み。


「クジャ?」


「平気」


 視界。


 変わる。


     ◇


 黒衣の身体。


 表面ではない。


 内側。


 力。


 線。


 流れ。


「……何、これ」


 クジャの右眼。


 僅かに見開く。


 人間。


 オーラ。


 通常なら。


 心臓。


 全身。


 呼吸するように。


 不規則で。


 自然な循環。


 だが。


 黒衣。


 違う。


「……組まれてる」


「何?」


 ティナ。


「オーラ」


「……」


「流れてるんじゃない」


 クジャの額。


 汗。


「道が」


 右眼。


 痛む。


「最初から作られてる」


「作られてる……?」


「うん」


 胸。


 中心。


 そこに。


 複数の力が。


 集中。


「……」


「クジャ?」


「人間じゃない」


 ティナの顔。


 変わる。


「魔族?」


「違う」


「じゃあ何?」


「分からない」


 クジャ。


 正直。


「でも」


 右眼。


 黒衣の胸奥。


「普通に」


 一呼吸。


「生まれたものじゃない」


     ◇


「シルヴァ!」


 クジャが叫ぶ。


 剣。


 ぶつかり合う中。


「何!?」


「あれ!」


「どれ!?」


「黒い方!」


「分かるよ!」


「人じゃない!」


「……は?」


 シルヴァ。


 一瞬。


 黒衣の顔を見る。


「いや」


 剣。


 ガキン!


「それは何となく!」


「違う!」


 クジャ。


 右眼を押さえながら。


「身体の中」


「……!」


「力の流れが」


 一呼吸。


「作られてる!」


 シルヴァの顔。


 変わる。


「作られてる……?」


「胸の奥」


「何かある」


「弱点?」


「分からない!」


「そこ大事!」


「見えるだけ!」


「便利そうなのに!」


「痛い!」


「ごめん!」


 ティナ。


「戦闘中に何やってるの二人とも!!」


     ◇


 黒衣。


 クジャ。


 見る。


「解析能力」


「……」


「排除優先度を変更」


 クジャ。


「……来る」


 黒衣。


 シルヴァを。


 無視。


「っ!」


 クジャへ。


 突進。


「クジャ!」


 シルヴァ。


 追う。


 だが。


 黒衣の加速。


 速い。


 クジャ。


 眼帯。


 まだ外したまま。


 手札。


 五枚。


 瞬時に確認。


♦3。

♣6。

♠8。

♥4。

♦Q。


「《♦Q》」


 ダイヤ。


 クイーン。


 巨大な障壁。


 ドォン!!


 黒衣の剣。


 衝突。


「……っ!」


 クジャ。


 歯を食いしばる。


 障壁。


 ひび。


「一撃で!?」


 ティナ。


 クジャ。


 カードを使った分。


 一枚。


 ドロー。


♣2。


 黒衣。


 二撃。


 ガァン!!


 ♦Q。


 さらに。


 ひび。


「クジャ!!」


 シルヴァ。


 背後から。


 斬る。


 黒衣。


 振り返らず。


 剣。


 後方。


 ガキン!!


「また……!」


 シルヴァ。


「背中にも目あるのかよ!」


 クジャ。


「ない」


「分かってる!」


     ◇


「《♣6》」


 クラブ。


 六。


 黒衣の右腕。


 拘束。


 シュルルルッ!!


「止まって」


 だが。


 黒衣。


 腕。


 引く。


 ブチッ!!


「……強い」


 クジャ。


 ドロー。


♠J。


 シルヴァ。


 気づく。


「クジャ!」


「何」


「一瞬でいい!」


「……」


「止められる?」


 クジャ。


 手札を見る。


♦3。

♠8。

♥4。

♣2。

♠J。


「クラブ」


「二しかない」


「……駄目?」


 シルヴァ。


「二でもいい!」


「弱い」


「一瞬でいい!」


 クジャ。


 黒衣を見る。


「分かった」


     ◇


 黒衣。


 シルヴァへ。


 斬撃。


 シルヴァ。


 受ける。


「今!」


 クジャ。


「《♣2》!」


 低位。


 クラブ。


 黒衣。


 左足。


 絡む。


「……」


 拘束。


 弱い。


 ほんの。


 一瞬。


 だが。


「十分!」


 シルヴァ。


 剣。


 黒衣の胸。


 真っ直ぐ。


「はぁっ!!」


 刺突。


 黒衣。


 足。


 クラブ。


 引きちぎる。


 身体。


 捻る。


 剣先。


 胸。


 掠る。


 黒い服。


 裂ける。


 そして。


「……!」


 シルヴァが。


 見た。


 胸。


 皮膚。


 その下。


 ほんの一瞬。


 黒紫。


 細い。


 不自然な線。


「何だ……これ」


 黒衣。


 シルヴァ。


 蹴る。


「ぐっ!」


 シルヴァ。


 後ろへ。


     ◇


 クジャ。


 右眼。


 痛み。


「……っ」


 視界。


 揺れる。


「クジャ!」


 ティナ。


 支える。


「もう閉じて!」


「まだ」


「目、赤くなってる!」


「まだ見える」


「でも!」


「まだ」


 クジャの声。


 珍しく。


 強い。


「シルヴァが戦ってる」


 ティナ。


 一瞬。


 黙る。


「……分かった」


「でも無理は駄目」


「うん」


「絶対よ」


「多分」


「絶対!」


「……絶対」


     ◇


 シルヴァ。


 呼吸。


 荒い。


「はぁ……」


 黒衣。


 変わらない。


「戦闘能力」


 一呼吸。


「想定範囲内」


「……」


「排除継続」


「そう」


 シルヴァ。


 剣。


 構える。


「なら」


 少し。


 笑う。


「想定外」


「見せるしかないな」


 黒衣。


 踏み込む。


 シルヴァ。


 同時。


     ◇


 ガキン!!


 一撃。


 シルヴァ。


 剣。


 上。


 黒衣。


 防ぐ。


 シルヴァ。


 突然。


 剣から。


 左手を離す。


 マント。


 掴む。


「――!」


 黒いマント。


 黒衣の顔へ。


 投げる。


「何!?」


 ティナ。


 視界。


 一瞬。


 塞ぐ。


 黒衣。


 剣。


 マントを斬る。


 ズバッ!


 その下。


 シルヴァ。


 低い。


 姿勢。


「はっ!」


 足払い。


 黒衣。


 跳ぶ。


「そこ!」


 シルヴァ。


 風。


 上。


 吹かせる。


 身体。


 さらに。


 上昇。


 黒衣の予測。


 僅かに。


 外れる。


「――」


「初めて」


 シルヴァ。


 笑う。


「遅れた!」


 剣。


 黒衣。


 肩。


 ズバッ!!


 血。


「入った!!」


 ティナ。


 初めて。


 まともな。


 一撃。


 黒衣。


 空中。


 シルヴァ。


 追う。


 だが。


 黒衣。


 剣。


 逆手。


「――!」


 シルヴァ。


 嫌な予感。


 それでも。


 遅い。


 黒衣。


 空中から。


 斬撃。


 狙い。


 シルヴァ。


 ではない。


「……!」


 その先。


 ティナ。


     ◇


「ティナ!!」


 黒衣。


 着地。


 シルヴァを。


 蹴り飛ばす。


「ぐっ!」


 そして。


 一直線。


 ティナへ。


「来る!」


 クジャ。


 前。


「《♦3》!」


 障壁。


 小さい。


 ガン!!


 黒衣。


 一撃。


 砕く。


「くっ!」


 クジャ。


 ドロー。


 だが。


「間に合わない……!」


 ティナ。


 剣。


 握る。


「《構装》……!」


 オーラ。


 ほとんど。


 残っていない。


 小盾。


 形。


 揺れる。


「ティナ!」


 シルヴァ。


 走る。


「動いて!!」


 ティナ。


 自分へ。


 言い聞かせる。


「動け……!」


 黒衣。


 目前。


 剣。


 振る。


「――っ!」


 ティナ。


 小盾。


 構える。


 ガァァン!!


 構装。


 粉砕。


 ティナの剣。


 辛うじて。


 黒衣の刃へ。


 だが。


 力。


 違いすぎる。


「く……っ!」


 押される。


「ティナ!!」


 シルヴァ。


 あと。


 数歩。


 黒衣。


 剣。


 弾く。


 ティナの細身の剣。


 空へ。


「――!」


 無防備。


 黒衣。


 もう一度。


 剣。


 振り上げる。


「やめろ!!」


 シルヴァの声。


 闘技場。


 響く。


 黒衣。


 振り下ろす。


 ティナ。


 避けようとする。


 身体。


 動かない。


「――シルヴァ」


 一瞬。


 ティナが。


 彼を見る。


 そして。


 ズバッ――!!


     ◇


「……」


 時間。


 止まる。


 ティナの身体。


 胸から。


 脇腹へ。


 深い。


 斬撃。


 白い戦装束。


 一瞬で。


 赤く染まる。


「……あ」


 ティナ。


 膝。


 崩れる。


「ティナ……?」


 シルヴァの声。


 小さい。


 ティナ。


 倒れる。


 ドサッ。


「……」


 血。


 石床。


 広がる。


「ティナ?」


 もう一度。


 呼ぶ。


 返事。


 ない。


     ◇


「シルヴァ!」


 クジャが叫ぶ。


 だが。


 シルヴァ。


 聞こえない。


「……」


 目。


 ティナ。


 血。


 黒衣。


 それだけ。


 胸。


 何か。


 切れる。


     ◇


 二年前。


『生きろ、シルヴァ』


 レオン。


 光。


 手。


 届かなかった。


     ◇


「……また?」


 シルヴァ。


 拳。


 震える。


「また俺の前で……」


 空気。


 変わる。


 クジャ。


 右眼。


 見開く。


「……何」


 シルヴァの中。


 今まで。


 静かに。


 流れていた。


 風。


 突然。


 膨張。


「シルヴァ……?」


     ◇


 ゴォ――。


 小さな風。


 ゴォォォ――!!


 闘技場。


 全体。


 空気。


 動く。


「何だ!?」


「風が……!」


 観客席。


 髪。


 服。


 旗。


 一斉。


 揺れる。


 シルヴァ。


 白銀の髪。


 逆立つ。


 足元。


 風。


 渦。


「ティナに……」


 顔。


 上げる。


 蒼い瞳。


 今までとは。


 違う。


「触るな」


     ◇


 ドォォォォォォン!!!


 風。


 爆発。


 舞台。


 石床。


 ひび。


 黒衣の少年。


 初めて。


 大きく後退。


「――」


 その灰紫の瞳が。


 ほんの僅か。


 見開かれた。


 クジャ。


 右眼。


 シルヴァを見る。


 あまりに。


 眩しい。


 あまりに。


 巨大。


「……これ」


 オーラ。


 ではない。


 黒衣の人工的な力とも。


 違う。


 もっと。


 深い。


 もっと。


 古い。


 シルヴァ自身ですら。


 まだ知らない。


 何か。


「……風が」


 クジャが。


 呟いた。


 シルヴァの周囲。


 風。


 荒れ狂う。


 そして。


 黒衣の少年の。


 擬似的な風圧。


 乱れる。


「制御……」


 黒衣が。


 初めて。


 言葉を詰まらせる。


「不能――」


 シルヴァ。


 剣。


 構える。


「お前が」


 声。


 低い。


「俺の剣を知ってても」


 風。


 刀身。


 集まる。


「これは」


 一呼吸。


 風が。


 闘技場の天井へ届くほど。


 巻き上がる。


「知らないだろ」

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