第13話 本物
「お前が」
シルヴァ。
剣を構える。
「俺の剣を知ってても」
白銀の髪。
黒いマント。
そのすべてを。
激しい風が巻き上げる。
「これは」
刀身へ。
今までとは比較にならないほどの風。
「知らないだろ」
◇
ゴォォォォォォォ!!
闘技場全体。
空気が。
シルヴァへ集まっていく。
「……」
黒衣の少年。
初めて。
一歩。
後ろへ。
足元。
擬似的な風圧。
乱れる。
「推進制御――」
バシュッ!
一瞬。
空気が弾ける。
だが。
今までのように。
綺麗に加速できない。
「誤差、拡大」
「……」
シルヴァ。
聞いていない。
視線。
倒れているティナ。
白い戦装束。
赤い。
「……」
胸。
脇腹。
深い斬撃。
血。
「ティナ」
返事はない。
その瞬間。
風。
さらに。
膨れ上がった。
「シルヴァ!」
クジャが叫ぶ。
「ティナは私が見る!」
「……」
「聞いて!」
シルヴァ。
僅かに。
振り返る。
クジャ。
右眼を開いたまま。
ティナへ駆け寄る。
「だから」
一呼吸。
「そっちは任せる」
シルヴァの目が。
クジャを見る。
「……お願い」
「うん」
◇
黒衣。
動いた。
バンッ!!
強引な加速。
正面。
シルヴァへ。
「排除継続」
「……来い」
黒銀の剣。
斬撃。
ガキィィィン!!
「――!」
今まで。
押されていた。
シルヴァの剣。
今回は。
動かない。
黒衣の灰紫の瞳。
僅かに揺れる。
「出力――」
「遅い」
シルヴァ。
剣を押し返す。
ガァン!!
黒衣の腕が。
弾かれる。
「――!」
「《風脚》」
ドンッ!!
シルヴァ。
消える。
黒衣。
振り向く。
だが。
遅い。
左。
「こっち」
ズバッ!!
黒い長外套。
脇腹。
斬れる。
黒衣。
即座に。
剣。
返す。
シルヴァ。
もういない。
「……」
右。
「遅いって」
ガキン!!
剣。
黒衣が。
辛うじて受ける。
衝撃。
身体ごと。
吹き飛ぶ。
ドン!!
石床。
滑る。
◇
「速さが……」
観客席。
誰かが呟く。
「さっきと全然違う……!」
「風葬……」
「これが……!」
◇
黒衣。
止まる。
「戦闘能力」
一呼吸。
「再計測」
「勝手にしろ」
シルヴァ。
「俺は」
一歩。
「今」
風。
足元。
「すごく」
ドン!!
「腹立ってる!!」
真正面。
黒衣。
剣。
受ける。
ガキィィィィン!!
火花。
風圧。
爆発。
「――!」
黒衣の足元。
石床。
砕ける。
シルヴァ。
さらに。
二撃。
三撃。
四撃。
ガン!
キィン!
ガァン!!
黒衣。
受ける。
流す。
避ける。
技術。
まだ。
上。
「……っ」
シルヴァの剣。
黒衣が。
最小限の角度で逸らす。
そのまま。
胸。
突き。
「――!」
シルヴァ。
風。
身体を横へ。
刃。
脇腹を浅く斬る。
「くっ!」
黒衣。
追撃。
「……!」
シルヴァ。
剣。
受ける。
ガキン!!
風で。
圧倒している。
それでも。
「やっぱり……」
シルヴァ。
歯を食いしばる。
「剣は」
黒衣。
次。
すでに。
最適な角度。
「お前の方が上か!」
◇
舞台脇。
「ティナ」
クジャ。
膝をつく。
「聞こえる?」
「……」
返事。
なし。
呼吸。
浅い。
血。
止まらない。
「……まずい」
クジャの右眼。
ティナを見る。
オーラ。
弱い。
だが。
そのさらに奥。
先ほど目覚めた。
白金の光。
消えてはいない。
ほんの僅か。
灯っている。
「……」
クジャ。
自分の手札を見る。
先ほど。
《♦3》を使った直後に引いた。
一枚。
それを見て。
ほんの少し。
息を吐いた。
♥K。
「……よかった」
ティナの胸元。
カード。
重ねる。
「《♥K》」
淡い。
赤いオーラ。
ティナの身体を包む。
だが。
傷は。
塞がらない。
深すぎる。
「治せない」
クジャ。
分かっている。
自分の肩とは。
違う。
これは。
簡単な傷じゃない。
「だから」
♥K。
出力。
上げる。
「止まって」
ティナの血流。
オーラ。
生命の循環。
崩れようとするものを。
無理やり。
支える。
「死ぬのだけ」
一呼吸。
「止まって」
◇
「……っ」
ティナの指。
僅かに。
動いた。
「ティナ」
「……ク……ジャ……?」
「うん」
「シル……ヴァ……」
「戦ってる」
「……」
ティナ。
目を開ける。
霞む視界。
その先。
風。
白銀。
黒。
二人。
戦っている。
「……また……」
起きようとする。
「駄目」
クジャが押さえる。
「でも……!」
「動いたら」
クジャ。
真顔。
「死ぬ」
「……」
「今の♥は」
ティナの胸元。
カード。
「治してない」
「……?」
「身体が止まらないようにしてるだけ」
「……」
「だから」
「寝て」
ティナ。
悔しそうに。
歯を食いしばる。
「でも……」
シルヴァ。
剣。
黒衣。
「……一人で」
「一人じゃない」
クジャ。
ティナを見る。
「私いる」
「……」
「ティナも」
一呼吸。
「まだいる」
◇
ガキィィィン!!
舞台。
黒衣。
シルヴァ。
激突。
「《風刃》!」
シルヴァ。
一閃。
巨大な風刃。
黒衣。
剣へ。
圧縮。
「――」
擬似風刃。
放つ。
ドォン!!
二つ。
衝突。
だが。
「――!」
黒衣の風。
崩れる。
本物の風に。
飲み込まれる。
ズバァン!!
黒衣。
肩。
斬撃。
血。
「損傷増加」
「まだそんな喋り方してるのか」
シルヴァ。
踏み込む。
「痛くないの?」
「戦闘行動に不要」
「……そっか」
シルヴァの目。
一瞬。
冷える。
「じゃあ」
拳。
黒衣の顔。
ドガッ!!
「――」
「俺とは違うな」
◇
黒衣。
よろめく。
シルヴァ。
追撃。
だが。
「戦闘パターン更新」
「……!」
黒衣。
突然。
シルヴァの剣を。
受けない。
左肩。
ズバッ!!
自ら。
斬らせる。
「なっ――」
そのまま。
距離。
詰める。
黒銀の剣。
シルヴァの腹。
「――!」
ズバッ!!
「ぐっ!」
シルヴァ。
後退。
「こいつ……!」
黒衣。
血。
左肩から。
流れている。
だが。
顔。
変わらない。
「対象の非合理行動を学習」
「……」
「損傷許容」
シルヴァ。
眉を寄せる。
「真似すんなよ」
「有効」
「そういう意味じゃない!」
◇
再び。
剣。
激突。
ガン!
キィン!
ガキン!!
黒衣。
変わっている。
さっきまで。
しなかった。
無茶な踏み込み。
受けながら。
斬る。
傷を許容して。
最短。
シルヴァへ。
「……!」
シルヴァ。
頬。
肩。
腕。
浅い傷。
増える。
「学習してる……」
ティナが。
横になったまま呟く。
クジャ。
「うん」
「シルヴァの……」
「変なところまで」
「変なって……」
「変」
「……否定できない」
◇
シルヴァ。
息。
「はぁ……」
風。
まだ。
強い。
だが。
身体。
違う。
「……っ」
右腕。
震える。
風が。
強すぎる。
自分でも。
制御しきれていない。
「何だこれ……」
足。
軽い。
剣。
速い。
視界。
広い。
でも。
身体の内側。
焼けるような。
負荷。
「使い方……」
一呼吸。
「全然分かんないな」
黒衣。
「出力低下を確認」
「いちいち言わなくていい!」
黒衣。
加速。
シルヴァ。
受ける。
ガキン!!
「っ!」
今度。
押される。
「シルヴァ!」
◇
クジャの右眼。
シルヴァを見る。
「……」
風。
巨大。
でも。
荒い。
力が。
シルヴァの身体から溢れている。
というより。
周囲の風すべてが。
彼へ引かれている。
「……変」
クジャが呟く。
「また?」
ティナ。
「うん」
「今度はシルヴァ?」
「うん」
「どう変なの?」
「分からない」
クジャ。
右眼。
痛み。
「でも」
シルヴァ。
黒衣。
見る。
「黒い方は」
綺麗。
整然。
作られた道。
決められた流れ。
「完成してる」
ティナの顔が曇る。
「……シルヴァは?」
「ぐちゃぐちゃ」
「言い方!」
「でも」
クジャ。
ほんの少し。
笑う。
「増えてる」
「え?」
「ずっと」
「戦いながら」
「変わってる」
◇
黒衣。
剣。
シルヴァ。
右肩。
「――!」
ズバッ!!
「ぐっ!」
シルヴァ。
片膝。
黒衣。
即座。
首。
「シルヴァ!!」
ティナ。
叫ぶ。
その声。
シルヴァ。
目。
動く。
「……」
剣。
来る。
自分。
避ける。
普通なら。
右。
いつもの。
癖。
黒衣も。
もう。
そこへ刃を置いている。
「……やっぱり」
シルヴァ。
逆。
左へ。
「――!」
黒衣。
僅か。
遅れる。
刃。
空振り。
「俺なら右」
シルヴァ。
左から。
蹴り。
ドガッ!!
黒衣。
体勢。
崩れる。
「だから」
シルヴァ。
「今は左!」
剣。
振る。
黒衣。
辛うじて。
受ける。
ガァン!!
「……」
シルヴァの目。
少しずつ。
変わる。
「分かった」
◇
黒衣。
再度。
構える。
「何が?」
ティナ。
クジャ。
「多分」
舞台。
シルヴァ。
笑う。
「こいつ」
黒衣へ。
「俺のこと知りすぎてる」
「……」
「二年前の俺」
一呼吸。
「剣」
「風」
「癖」
「全部」
黒衣。
無言。
「でも」
シルヴァ。
目。
ティナ。
クジャ。
一瞬。
向ける。
「二年間」
キャラバン。
ロイド。
エマ。
ドラン。
ルカ。
ミア。
東の砦。
ティナ。
旅。
魚。
焚き火。
王都。
クジャ。
「俺が」
一呼吸。
「何してきたかは」
黒衣を見る。
「知らない」
◇
黒衣。
「不要」
「何?」
「戦闘能力に」
一呼吸。
「不要」
「……」
シルヴァ。
ほんの少し。
目を伏せる。
「そうか」
そして。
笑った。
「やっぱり」
「お前」
一歩。
「俺じゃない」
◇
王族席。
ギラルーン。
その言葉を聞いて。
目を細める。
「……」
ほんの僅か。
笑みが深くなる。
「そこまで」
小さく。
「届きましたか」
◇
黒衣。
足元。
擬似風圧。
最大。
「排除」
バンッ!!
加速。
「シルヴァ!」
クジャ。
右眼。
胸。
見る。
黒衣の中心。
あの。
不自然な集中点。
「胸!」
「分かってる!」
「でも!」
クジャ。
さらに。
目を凝らす。
「そのままじゃ届かない!」
黒衣。
胸。
すべての流れが。
そこを守るように。
動いている。
剣。
オーラ。
擬似風。
「……!」
「守ってる!」
「何を!?」
「分からない!」
「また!?」
「でも大事!」
「それは分かる!」
◇
黒衣。
斬撃。
シルヴァ。
受ける。
ガキン!!
黒衣。
二撃。
三撃。
シルヴァ。
後退。
「……っ」
胸。
届かない。
真正面。
最も。
守りが硬い。
「なら」
シルヴァ。
周囲。
見る。
クジャ。
ティナ。
「クジャ!」
「何!」
「カード!」
「どれ!」
「拘束!」
「手札次第!」
「今ある!?」
クジャ。
♥Kを。
ティナへ維持したまま。
残る手札を見る。
「……」
♠8。
♥4。
♠J。
♣5。
♦9。
「ある!」
「何番!」
「五!」
「十分!」
「またそれ!」
◇
クジャ。
右手。
♣5。
だが。
すぐには投げない。
黒衣。
速い。
普通に投げれば。
斬られる。
「シルヴァ」
「うん!」
「こっち向かせて」
「了解!」
シルヴァ。
風。
一気に。
正面。
「《風刃》!!」
巨大。
黒衣。
剣。
擬似風。
迎撃。
ドォン!!
視界。
風。
塵。
遮る。
「今!」
「《♣5》!」
カード。
低く。
地面。
滑る。
黒衣の死角。
足元。
「縛って!」
シュルルルッ!!
黒い帯。
右足。
左足。
「――!」
黒衣。
即座。
力。
入れる。
ミシッ。
「持たない!」
「一秒!」
「無理!」
「半秒!」
「それなら!」
◇
ティナ。
横になったまま。
そのやり取り。
聞く。
「……」
右手。
動かす。
「ティナ?」
クジャ。
「何してる」
「半秒……」
「動くなって」
「半秒なら……」
指。
オーラ。
僅か。
「作れる……!」
「駄目!」
「《構装》……!」
ティナの残り。
ほんの僅かなオーラ。
シルヴァの足元。
半透明。
小さな。
足場。
「ティナ!」
シルヴァが気づく。
「使って!」
「でも!」
「早く!!」
クジャ。
「本当に死ぬよ!」
「勝ったら……寝る!」
「順番逆!」
◇
♣5。
黒衣。
引きちぎる。
「――!」
その直前。
シルヴァ。
ティナの《構装》。
踏む。
「行けぇぇぇ!!」
ダンッ!!
同時。
風。
爆発。
構装の足場。
通常の《風脚》。
そして。
今。
暴れ狂う。
風の恩寵。
三つ。
重なる。
ドォォォン!!!
「――!」
黒衣の灰紫の瞳。
初めて。
完全に。
シルヴァを見失った。
◇
「上」
クジャ。
右眼。
追う。
黒衣。
顔。
上。
「違う!」
シルヴァの声。
下。
「――!」
風。
一度。
上へ抜け。
途中。
流れ。
変えた。
落下。
黒衣の懐。
「そういうの」
シルヴァ。
笑う。
「俺」
「旅で覚えた!」
剣。
胸。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突き。
黒衣。
剣。
間に入れる。
ガキィィィン!!
「――!」
止めた。
「まだ!」
クジャ。
場。
先ほど使った。
♣5。
まだ。
破壊されていない。
石床。
転がっている。
「戻って!」
カード。
浮く。
黒衣の。
剣を持つ右手。
「《♣5》!」
シュルッ!!
「――!」
一瞬。
手首。
拘束。
黒衣の剣。
角度。
僅か。
ズレる。
「シルヴァ!!」
「ありがとう!」
シルヴァ。
剣。
滑らせる。
黒衣の防御。
突破。
切っ先。
胸。
突き刺さる。
ズッ――!!
「――」
初めて。
黒衣の身体が。
大きく。
震えた。
◇
クジャの右眼。
見開く。
「入った!」
胸。
あの。
力の集中点。
切っ先。
届いている。
だが。
「……っ」
黒衣。
シルヴァの剣を。
左手。
掴む。
血。
「なっ!?」
「中枢」
一呼吸。
「損傷」
灰紫の目。
シルヴァ。
見る。
「戦闘継続」
「……まだ動くのかよ」
黒衣。
黒銀の剣。
振り上げる。
シルヴァ。
剣。
胸へ刺さったまま。
抜けない。
「シルヴァ!!」
ティナ。
叫ぶ。
黒衣。
振り下ろす。
クジャ。
「まずい!」
その瞬間。
シルヴァの周囲。
風。
再び。
爆発。
「――!」
黒衣の擬似風圧。
完全に。
消し飛ぶ。
シルヴァ。
剣。
さらに。
押し込む。
「お前が」
一歩。
「俺の剣を」
風。
刀身へ。
渦巻く。
「俺より上手く使えても」
黒衣。
剣。
止まる。
「俺より」
一呼吸。
「俺にはなれない!!」
ドォォォォォォン!!!
風。
胸。
内部。
一気に。
吹き荒れた。
「――――」
黒衣の身体。
硬直。
胸の奥。
クジャにしか見えていなかった。
人工的な力の集中点。
そこへ。
ひび。
ピシッ。
「……!」
クジャ。
「壊れる!」
シルヴァ。
さらに。
剣。
握り込む。
「《風葬》――!!」
ズバァァァァン!!
◇
風。
天へ。
突き抜けた。
闘技場。
静寂。
◇
黒衣の少年。
立っている。
胸。
シルヴァの剣。
深く。
刺さっている。
「……」
灰紫の瞳。
シルヴァを見る。
「戦闘……」
声。
初めて。
僅かに乱れる。
「継続……」
右手。
剣。
上げようとする。
だが。
動かない。
「……不能」
シルヴァ。
息。
荒い。
「……」
黒衣。
自分の手を見る。
初めて。
不思議そうに。
「これが……」
シルヴァが顔を上げる。
「何?」
黒衣。
灰紫の瞳。
ほんの僅か。
今までになかった。
何か。
「……本物」
シルヴァの目。
揺れる。
次の瞬間。
胸。
中枢。
パキン――。
乾いた音。
黒衣の身体から。
力が抜けた。
◇
「……」
シルヴァ。
剣を抜く。
黒衣の少年。
膝。
落ちる。
そのまま。
前へ。
シルヴァ。
咄嗟に。
身体を支えた。
「……」
軽い。
同じくらいの体格。
なのに。
妙に。
軽く感じた。
「お前……」
黒衣。
もう。
目を開けない。
シルヴァが。
少しだけ。
眉を寄せる。
「結局」
一呼吸。
「何だったんだよ」
◇
「シルヴァ……!」
ティナ。
小さな声。
「――!」
シルヴァが。
振り返る。
そこで。
ようやく。
思い出した。
「ティナ!!」
黒衣の身体を。
そっと地面へ。
走る。
「ティナ!」
「……うるさい」
「生きてる!?」
「今のところ……」
「今のところって何!?」
「シルヴァ」
クジャ。
真剣。
「揺らさないで」
「はい!」
即答。
シルヴァ。
ティナの横。
膝。
「傷……」
「深い」
クジャ。
♥K。
まだ。
ティナへ。
「私じゃ治せない」
「……」
「今は」
「生きるのを」
一呼吸。
「手伝ってるだけ」
シルヴァの顔。
青ざめる。
「医療班!!」
叫ぶ。
「早く!!」
◇
ティナ。
薄く。
目を開ける。
シルヴァ。
血だらけ。
「……勝った?」
「勝った」
「……ほんと?」
「うん」
「よかった……」
ティナ。
少し。
笑う。
「ちゃんと……見てた?」
「え?」
「私の試合……」
「見てたよ」
「全部?」
「全部」
「……そっか」
ティナの目。
ゆっくり閉じる。
「ティナ?」
「……」
「ティナ!」
シルヴァの声。
震える。
「寝ただけ」
クジャ。
「ほんと!?」
「多分」
「多分!?」
「脈ある」
「それ先に言って!」
「うるさい」
◇
医療班。
ようやく。
舞台へ駆け込む。
「負傷者を!」
「こちらへ!」
「傷が深い!」
「担架!」
クジャ。
♥Kを維持したまま。
「これ」
衛生兵。
「何をしている?」
「循環を保ってる」
「続けられるか?」
「少し」
「そのまま頼む!」
「うん」
◇
ティナ。
担架へ。
運ばれる。
クジャも。
横。
付いていく。
シルヴァ。
立ち上がろうとする。
「……っ」
膝。
崩れる。
「シルヴァさん!」
兵士。
支える。
「俺も」
「あなたも重傷です!」
「ティナのところ」
「先に止血を!」
「俺は平気!」
「平気な人はそんなに血を出しません!」
「それ」
シルヴァ。
少し。
笑う。
「ティナにも言われたな」
◇
そして。
王族席。
国王。
舞台。
血。
壊れた石床。
倒れた謎の少年。
ギラルーンへ。
「……説明してもらうぞ」
「ええ」
ギラルーンは。
珍しく。
笑っていなかった。
舞台。
シルヴァ。
その背中を見る。
「ただ」
一呼吸。
「今は」
ほんの僅か。
満足したように。
目を細める。
「届いたようですので」
「何がだ」
「……」
ギラルーン。
再び。
微笑む。
「いずれ」
◇
担架で運ばれる途中。
シルヴァは。
一度だけ。
振り返った。
舞台中央。
自分に似た。
青白い銀髪の少年。
「……」
剣だけなら。
あいつの方が。
上だった。
自分の風も。
技も。
癖も。
知っていた。
それでも。
最後に。
違いがあった。
「……本物」
シルヴァが。
小さく呟く。
何が本物なのか。
まだ。
自分にも。
分からない。
ただ。
今までより。
少しだけ。
自分の剣が。
違って見えた。




