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風葬のシルヴァ  作者: 桜
PR
13/79

第13話 本物

「お前が」


 シルヴァ。


 剣を構える。


「俺の剣を知ってても」


 白銀の髪。


 黒いマント。


 そのすべてを。


 激しい風が巻き上げる。


「これは」


 刀身へ。


 今までとは比較にならないほどの風。


「知らないだろ」


     ◇


 ゴォォォォォォォ!!


 闘技場全体。


 空気が。


 シルヴァへ集まっていく。


「……」


 黒衣の少年。


 初めて。


 一歩。


 後ろへ。


 足元。


 擬似的な風圧。


 乱れる。


「推進制御――」


 バシュッ!


 一瞬。


 空気が弾ける。


 だが。


 今までのように。


 綺麗に加速できない。


「誤差、拡大」


「……」


 シルヴァ。


 聞いていない。


 視線。


 倒れているティナ。


 白い戦装束。


 赤い。


「……」


 胸。


 脇腹。


 深い斬撃。


 血。


「ティナ」


 返事はない。


 その瞬間。


 風。


 さらに。


 膨れ上がった。


「シルヴァ!」


 クジャが叫ぶ。


「ティナは私が見る!」


「……」


「聞いて!」


 シルヴァ。


 僅かに。


 振り返る。


 クジャ。


 右眼を開いたまま。


 ティナへ駆け寄る。


「だから」


 一呼吸。


「そっちは任せる」


 シルヴァの目が。


 クジャを見る。


「……お願い」


「うん」


     ◇


 黒衣。


 動いた。


 バンッ!!


 強引な加速。


 正面。


 シルヴァへ。


「排除継続」


「……来い」


 黒銀の剣。


 斬撃。


 ガキィィィン!!


「――!」


 今まで。


 押されていた。


 シルヴァの剣。


 今回は。


 動かない。


 黒衣の灰紫の瞳。


 僅かに揺れる。


「出力――」


「遅い」


 シルヴァ。


 剣を押し返す。


 ガァン!!


 黒衣の腕が。


 弾かれる。


「――!」


「《風脚》」


 ドンッ!!


 シルヴァ。


 消える。


 黒衣。


 振り向く。


 だが。


 遅い。


 左。


「こっち」


 ズバッ!!


 黒い長外套。


 脇腹。


 斬れる。


 黒衣。


 即座に。


 剣。


 返す。


 シルヴァ。


 もういない。


「……」


 右。


「遅いって」


 ガキン!!


 剣。


 黒衣が。


 辛うじて受ける。


 衝撃。


 身体ごと。


 吹き飛ぶ。


 ドン!!


 石床。


 滑る。


     ◇


「速さが……」


 観客席。


 誰かが呟く。


「さっきと全然違う……!」


「風葬……」


「これが……!」


     ◇


 黒衣。


 止まる。


「戦闘能力」


 一呼吸。


「再計測」


「勝手にしろ」


 シルヴァ。


「俺は」


 一歩。


「今」


 風。


 足元。


「すごく」


 ドン!!


「腹立ってる!!」


 真正面。


 黒衣。


 剣。


 受ける。


 ガキィィィィン!!


 火花。


 風圧。


 爆発。


「――!」


 黒衣の足元。


 石床。


 砕ける。


 シルヴァ。


 さらに。


 二撃。


 三撃。


 四撃。


 ガン!


 キィン!


 ガァン!!


 黒衣。


 受ける。


 流す。


 避ける。


 技術。


 まだ。


 上。


「……っ」


 シルヴァの剣。


 黒衣が。


 最小限の角度で逸らす。


 そのまま。


 胸。


 突き。


「――!」


 シルヴァ。


 風。


 身体を横へ。


 刃。


 脇腹を浅く斬る。


「くっ!」


 黒衣。


 追撃。


「……!」


 シルヴァ。


 剣。


 受ける。


 ガキン!!


 風で。


 圧倒している。


 それでも。


「やっぱり……」


 シルヴァ。


 歯を食いしばる。


「剣は」


 黒衣。


 次。


 すでに。


 最適な角度。


「お前の方が上か!」


     ◇


 舞台脇。


「ティナ」


 クジャ。


 膝をつく。


「聞こえる?」


「……」


 返事。


 なし。


 呼吸。


 浅い。


 血。


 止まらない。


「……まずい」


 クジャの右眼。


 ティナを見る。


 オーラ。


 弱い。


 だが。


 そのさらに奥。


 先ほど目覚めた。


 白金の光。


 消えてはいない。


 ほんの僅か。


 灯っている。


「……」


 クジャ。


 自分の手札を見る。


 先ほど。


 《♦3》を使った直後に引いた。


 一枚。


 それを見て。


 ほんの少し。


 息を吐いた。


♥K。


「……よかった」


 ティナの胸元。


 カード。


 重ねる。


「《♥K》」


 淡い。


 赤いオーラ。


 ティナの身体を包む。


 だが。


 傷は。


 塞がらない。


 深すぎる。


「治せない」


 クジャ。


 分かっている。


 自分の肩とは。


 違う。


 これは。


 簡単な傷じゃない。


「だから」


 ♥K。


 出力。


 上げる。


「止まって」


 ティナの血流。


 オーラ。


 生命の循環。


 崩れようとするものを。


 無理やり。


 支える。


「死ぬのだけ」


 一呼吸。


「止まって」


     ◇


「……っ」


 ティナの指。


 僅かに。


 動いた。


「ティナ」


「……ク……ジャ……?」


「うん」


「シル……ヴァ……」


「戦ってる」


「……」


 ティナ。


 目を開ける。


 霞む視界。


 その先。


 風。


 白銀。


 黒。


 二人。


 戦っている。


「……また……」


 起きようとする。


「駄目」


 クジャが押さえる。


「でも……!」


「動いたら」


 クジャ。


 真顔。


「死ぬ」


「……」


「今の♥は」


 ティナの胸元。


 カード。


「治してない」


「……?」


「身体が止まらないようにしてるだけ」


「……」


「だから」


「寝て」


 ティナ。


 悔しそうに。


 歯を食いしばる。


「でも……」


 シルヴァ。


 剣。


 黒衣。


「……一人で」


「一人じゃない」


 クジャ。


 ティナを見る。


「私いる」


「……」


「ティナも」


 一呼吸。


「まだいる」


     ◇


 ガキィィィン!!


 舞台。


 黒衣。


 シルヴァ。


 激突。


「《風刃》!」


 シルヴァ。


 一閃。


 巨大な風刃。


 黒衣。


 剣へ。


 圧縮。


「――」


 擬似風刃。


 放つ。


 ドォン!!


 二つ。


 衝突。


 だが。


「――!」


 黒衣の風。


 崩れる。


 本物の風に。


 飲み込まれる。


 ズバァン!!


 黒衣。


 肩。


 斬撃。


 血。


「損傷増加」


「まだそんな喋り方してるのか」


 シルヴァ。


 踏み込む。


「痛くないの?」


「戦闘行動に不要」


「……そっか」


 シルヴァの目。


 一瞬。


 冷える。


「じゃあ」


 拳。


 黒衣の顔。


 ドガッ!!


「――」


「俺とは違うな」


     ◇


 黒衣。


 よろめく。


 シルヴァ。


 追撃。


 だが。


「戦闘パターン更新」


「……!」


 黒衣。


 突然。


 シルヴァの剣を。


 受けない。


 左肩。


 ズバッ!!


 自ら。


 斬らせる。


「なっ――」


 そのまま。


 距離。


 詰める。


 黒銀の剣。


 シルヴァの腹。


「――!」


 ズバッ!!


「ぐっ!」


 シルヴァ。


 後退。


「こいつ……!」


 黒衣。


 血。


 左肩から。


 流れている。


 だが。


 顔。


 変わらない。


「対象の非合理行動を学習」


「……」


「損傷許容」


 シルヴァ。


 眉を寄せる。


「真似すんなよ」


「有効」


「そういう意味じゃない!」


     ◇


 再び。


 剣。


 激突。


 ガン!


 キィン!


 ガキン!!


 黒衣。


 変わっている。


 さっきまで。


 しなかった。


 無茶な踏み込み。


 受けながら。


 斬る。


 傷を許容して。


 最短。


 シルヴァへ。


「……!」


 シルヴァ。


 頬。


 肩。


 腕。


 浅い傷。


 増える。


「学習してる……」


 ティナが。


 横になったまま呟く。


 クジャ。


「うん」


「シルヴァの……」


「変なところまで」


「変なって……」


「変」


「……否定できない」


     ◇


 シルヴァ。


 息。


「はぁ……」


 風。


 まだ。


 強い。


 だが。


 身体。


 違う。


「……っ」


 右腕。


 震える。


 風が。


 強すぎる。


 自分でも。


 制御しきれていない。


「何だこれ……」


 足。


 軽い。


 剣。


 速い。


 視界。


 広い。


 でも。


 身体の内側。


 焼けるような。


 負荷。


「使い方……」


 一呼吸。


「全然分かんないな」


 黒衣。


「出力低下を確認」


「いちいち言わなくていい!」


 黒衣。


 加速。


 シルヴァ。


 受ける。


 ガキン!!


「っ!」


 今度。


 押される。


「シルヴァ!」


     ◇


 クジャの右眼。


 シルヴァを見る。


「……」


 風。


 巨大。


 でも。


 荒い。


 力が。


 シルヴァの身体から溢れている。


 というより。


 周囲の風すべてが。


 彼へ引かれている。


「……変」


 クジャが呟く。


「また?」


 ティナ。


「うん」


「今度はシルヴァ?」


「うん」


「どう変なの?」


「分からない」


 クジャ。


 右眼。


 痛み。


「でも」


 シルヴァ。


 黒衣。


 見る。


「黒い方は」


 綺麗。


 整然。


 作られた道。


 決められた流れ。


「完成してる」


 ティナの顔が曇る。


「……シルヴァは?」


「ぐちゃぐちゃ」


「言い方!」


「でも」


 クジャ。


 ほんの少し。


 笑う。


「増えてる」


「え?」


「ずっと」


「戦いながら」


「変わってる」


     ◇


 黒衣。


 剣。


 シルヴァ。


 右肩。


「――!」


 ズバッ!!


「ぐっ!」


 シルヴァ。


 片膝。


 黒衣。


 即座。


 首。


「シルヴァ!!」


 ティナ。


 叫ぶ。


 その声。


 シルヴァ。


 目。


 動く。


「……」


 剣。


 来る。


 自分。


 避ける。


 普通なら。


 右。


 いつもの。


 癖。


 黒衣も。


 もう。


 そこへ刃を置いている。


「……やっぱり」


 シルヴァ。


 逆。


 左へ。


「――!」


 黒衣。


 僅か。


 遅れる。


 刃。


 空振り。


「俺なら右」


 シルヴァ。


 左から。


 蹴り。


 ドガッ!!


 黒衣。


 体勢。


 崩れる。


「だから」


 シルヴァ。


「今は左!」


 剣。


 振る。


 黒衣。


 辛うじて。


 受ける。


 ガァン!!


「……」


 シルヴァの目。


 少しずつ。


 変わる。


「分かった」


     ◇


 黒衣。


 再度。


 構える。


「何が?」


 ティナ。


 クジャ。


「多分」


 舞台。


 シルヴァ。


 笑う。


「こいつ」


 黒衣へ。


「俺のこと知りすぎてる」


「……」


「二年前の俺」


 一呼吸。


「剣」


「風」


「癖」


「全部」


 黒衣。


 無言。


「でも」


 シルヴァ。


 目。


 ティナ。


 クジャ。


 一瞬。


 向ける。


「二年間」


 キャラバン。


 ロイド。


 エマ。


 ドラン。


 ルカ。


 ミア。


 東の砦。


 ティナ。


 旅。


 魚。


 焚き火。


 王都。


 クジャ。


「俺が」


 一呼吸。


「何してきたかは」


 黒衣を見る。


「知らない」


     ◇


 黒衣。


「不要」


「何?」


「戦闘能力に」


 一呼吸。


「不要」


「……」


 シルヴァ。


 ほんの少し。


 目を伏せる。


「そうか」


 そして。


 笑った。


「やっぱり」


「お前」


 一歩。


「俺じゃない」


     ◇


 王族席。


 ギラルーン。


 その言葉を聞いて。


 目を細める。


「……」


 ほんの僅か。


 笑みが深くなる。


「そこまで」


 小さく。


「届きましたか」


     ◇


 黒衣。


 足元。


 擬似風圧。


 最大。


「排除」


 バンッ!!


 加速。


「シルヴァ!」


 クジャ。


 右眼。


 胸。


 見る。


 黒衣の中心。


 あの。


 不自然な集中点。


「胸!」


「分かってる!」


「でも!」


 クジャ。


 さらに。


 目を凝らす。


「そのままじゃ届かない!」


 黒衣。


 胸。


 すべての流れが。


 そこを守るように。


 動いている。


 剣。


 オーラ。


 擬似風。


「……!」


「守ってる!」


「何を!?」


「分からない!」


「また!?」


「でも大事!」


「それは分かる!」


     ◇


 黒衣。


 斬撃。


 シルヴァ。


 受ける。


 ガキン!!


 黒衣。


 二撃。


 三撃。


 シルヴァ。


 後退。


「……っ」


 胸。


 届かない。


 真正面。


 最も。


 守りが硬い。


「なら」


 シルヴァ。


 周囲。


 見る。


 クジャ。


 ティナ。


「クジャ!」


「何!」


「カード!」


「どれ!」


「拘束!」


「手札次第!」


「今ある!?」


 クジャ。


 ♥Kを。


 ティナへ維持したまま。


 残る手札を見る。


「……」


♠8。

♥4。

♠J。

♣5。

♦9。


「ある!」


「何番!」


「五!」


「十分!」


「またそれ!」


     ◇


 クジャ。


 右手。


 ♣5。


 だが。


 すぐには投げない。


 黒衣。


 速い。


 普通に投げれば。


 斬られる。


「シルヴァ」


「うん!」


「こっち向かせて」


「了解!」


 シルヴァ。


 風。


 一気に。


 正面。


「《風刃》!!」


 巨大。


 黒衣。


 剣。


 擬似風。


 迎撃。


 ドォン!!


 視界。


 風。


 塵。


 遮る。


「今!」


「《♣5》!」


 カード。


 低く。


 地面。


 滑る。


 黒衣の死角。


 足元。


「縛って!」


 シュルルルッ!!


 黒い帯。


 右足。


 左足。


「――!」


 黒衣。


 即座。


 力。


 入れる。


 ミシッ。


「持たない!」


「一秒!」


「無理!」


「半秒!」


「それなら!」


     ◇


 ティナ。


 横になったまま。


 そのやり取り。


 聞く。


「……」


 右手。


 動かす。


「ティナ?」


 クジャ。


「何してる」


「半秒……」


「動くなって」


「半秒なら……」


 指。


 オーラ。


 僅か。


「作れる……!」


「駄目!」


「《構装》……!」


 ティナの残り。


 ほんの僅かなオーラ。


 シルヴァの足元。


 半透明。


 小さな。


 足場。


「ティナ!」


 シルヴァが気づく。


「使って!」


「でも!」


「早く!!」


 クジャ。


「本当に死ぬよ!」


「勝ったら……寝る!」


「順番逆!」


     ◇


 ♣5。


 黒衣。


 引きちぎる。


「――!」


 その直前。


 シルヴァ。


 ティナの《構装》。


 踏む。


「行けぇぇぇ!!」


 ダンッ!!


 同時。


 風。


 爆発。


 構装の足場。


 通常の《風脚》。


 そして。


 今。


 暴れ狂う。


 風の恩寵。


 三つ。


 重なる。


 ドォォォン!!!


「――!」


 黒衣の灰紫の瞳。


 初めて。


 完全に。


 シルヴァを見失った。


     ◇


「上」


 クジャ。


 右眼。


 追う。


 黒衣。


 顔。


 上。


「違う!」


 シルヴァの声。


 下。


「――!」


 風。


 一度。


 上へ抜け。


 途中。


 流れ。


 変えた。


 落下。


 黒衣の懐。


「そういうの」


 シルヴァ。


 笑う。


「俺」


「旅で覚えた!」


 剣。


 胸。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 突き。


 黒衣。


 剣。


 間に入れる。


 ガキィィィン!!


「――!」


 止めた。


「まだ!」


 クジャ。


 場。


 先ほど使った。


 ♣5。


 まだ。


 破壊されていない。


 石床。


 転がっている。


「戻って!」


 カード。


 浮く。


 黒衣の。


 剣を持つ右手。


「《♣5》!」


 シュルッ!!


「――!」


 一瞬。


 手首。


 拘束。


 黒衣の剣。


 角度。


 僅か。


 ズレる。


「シルヴァ!!」


「ありがとう!」


 シルヴァ。


 剣。


 滑らせる。


 黒衣の防御。


 突破。


 切っ先。


 胸。


 突き刺さる。


 ズッ――!!


「――」


 初めて。


 黒衣の身体が。


 大きく。


 震えた。


     ◇


 クジャの右眼。


 見開く。


「入った!」


 胸。


 あの。


 力の集中点。


 切っ先。


 届いている。


 だが。


「……っ」


 黒衣。


 シルヴァの剣を。


 左手。


 掴む。


 血。


「なっ!?」


「中枢」


 一呼吸。


「損傷」


 灰紫の目。


 シルヴァ。


 見る。


「戦闘継続」


「……まだ動くのかよ」


 黒衣。


 黒銀の剣。


 振り上げる。


 シルヴァ。


 剣。


 胸へ刺さったまま。


 抜けない。


「シルヴァ!!」


 ティナ。


 叫ぶ。


 黒衣。


 振り下ろす。


 クジャ。


「まずい!」


 その瞬間。


 シルヴァの周囲。


 風。


 再び。


 爆発。


「――!」


 黒衣の擬似風圧。


 完全に。


 消し飛ぶ。


 シルヴァ。


 剣。


 さらに。


 押し込む。


「お前が」


 一歩。


「俺の剣を」


 風。


 刀身へ。


 渦巻く。


「俺より上手く使えても」


 黒衣。


 剣。


 止まる。


「俺より」


 一呼吸。


「俺にはなれない!!」


 ドォォォォォォン!!!


 風。


 胸。


 内部。


 一気に。


 吹き荒れた。


「――――」


 黒衣の身体。


 硬直。


 胸の奥。


 クジャにしか見えていなかった。


 人工的な力の集中点。


 そこへ。


 ひび。


 ピシッ。


「……!」


 クジャ。


「壊れる!」


 シルヴァ。


 さらに。


 剣。


 握り込む。


「《風葬》――!!」


 ズバァァァァン!!


     ◇


 風。


 天へ。


 突き抜けた。


 闘技場。


 静寂。


     ◇


 黒衣の少年。


 立っている。


 胸。


 シルヴァの剣。


 深く。


 刺さっている。


「……」


 灰紫の瞳。


 シルヴァを見る。


「戦闘……」


 声。


 初めて。


 僅かに乱れる。


「継続……」


 右手。


 剣。


 上げようとする。


 だが。


 動かない。


「……不能」


 シルヴァ。


 息。


 荒い。


「……」


 黒衣。


 自分の手を見る。


 初めて。


 不思議そうに。


「これが……」


 シルヴァが顔を上げる。


「何?」


 黒衣。


 灰紫の瞳。


 ほんの僅か。


 今までになかった。


 何か。


「……本物」


 シルヴァの目。


 揺れる。


 次の瞬間。


 胸。


 中枢。


 パキン――。


 乾いた音。


 黒衣の身体から。


 力が抜けた。


     ◇


「……」


 シルヴァ。


 剣を抜く。


 黒衣の少年。


 膝。


 落ちる。


 そのまま。


 前へ。


 シルヴァ。


 咄嗟に。


 身体を支えた。


「……」


 軽い。


 同じくらいの体格。


 なのに。


 妙に。


 軽く感じた。


「お前……」


 黒衣。


 もう。


 目を開けない。


 シルヴァが。


 少しだけ。


 眉を寄せる。


「結局」


 一呼吸。


「何だったんだよ」


     ◇


「シルヴァ……!」


 ティナ。


 小さな声。


「――!」


 シルヴァが。


 振り返る。


 そこで。


 ようやく。


 思い出した。


「ティナ!!」


 黒衣の身体を。


 そっと地面へ。


 走る。


「ティナ!」


「……うるさい」


「生きてる!?」


「今のところ……」


「今のところって何!?」


「シルヴァ」


 クジャ。


 真剣。


「揺らさないで」


「はい!」


 即答。


 シルヴァ。


 ティナの横。


 膝。


「傷……」


「深い」


 クジャ。


 ♥K。


 まだ。


 ティナへ。


「私じゃ治せない」


「……」


「今は」


「生きるのを」


 一呼吸。


「手伝ってるだけ」


 シルヴァの顔。


 青ざめる。


「医療班!!」


 叫ぶ。


「早く!!」


     ◇


 ティナ。


 薄く。


 目を開ける。


 シルヴァ。


 血だらけ。


「……勝った?」


「勝った」


「……ほんと?」


「うん」


「よかった……」


 ティナ。


 少し。


 笑う。


「ちゃんと……見てた?」


「え?」


「私の試合……」


「見てたよ」


「全部?」


「全部」


「……そっか」


 ティナの目。


 ゆっくり閉じる。


「ティナ?」


「……」


「ティナ!」


 シルヴァの声。


 震える。


「寝ただけ」


 クジャ。


「ほんと!?」


「多分」


「多分!?」


「脈ある」


「それ先に言って!」


「うるさい」


     ◇


 医療班。


 ようやく。


 舞台へ駆け込む。


「負傷者を!」


「こちらへ!」


「傷が深い!」


「担架!」


 クジャ。


 ♥Kを維持したまま。


「これ」


 衛生兵。


「何をしている?」


「循環を保ってる」


「続けられるか?」


「少し」


「そのまま頼む!」


「うん」


     ◇


 ティナ。


 担架へ。


 運ばれる。


 クジャも。


 横。


 付いていく。


 シルヴァ。


 立ち上がろうとする。


「……っ」


 膝。


 崩れる。


「シルヴァさん!」


 兵士。


 支える。


「俺も」


「あなたも重傷です!」


「ティナのところ」


「先に止血を!」


「俺は平気!」


「平気な人はそんなに血を出しません!」


「それ」


 シルヴァ。


 少し。


 笑う。


「ティナにも言われたな」


     ◇


 そして。


 王族席。


 国王。


 舞台。


 血。


 壊れた石床。


 倒れた謎の少年。


 ギラルーンへ。


「……説明してもらうぞ」


「ええ」


 ギラルーンは。


 珍しく。


 笑っていなかった。


 舞台。


 シルヴァ。


 その背中を見る。


「ただ」


 一呼吸。


「今は」


 ほんの僅か。


 満足したように。


 目を細める。


「届いたようですので」


「何がだ」


「……」


 ギラルーン。


 再び。


 微笑む。


「いずれ」


     ◇


 担架で運ばれる途中。


 シルヴァは。


 一度だけ。


 振り返った。


 舞台中央。


 自分に似た。


 青白い銀髪の少年。


「……」


 剣だけなら。


 あいつの方が。


 上だった。


 自分の風も。


 技も。


 癖も。


 知っていた。


 それでも。


 最後に。


 違いがあった。


「……本物」


 シルヴァが。


 小さく呟く。


 何が本物なのか。


 まだ。


 自分にも。


 分からない。


 ただ。


 今までより。


 少しだけ。


 自分の剣が。


 違って見えた。

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