第8話 集中
翌朝。
王都レグナ。
大闘技大会当日。
夜明け前から街は騒がしかった。
宿の外を。
何人もの観客が闘技場へ向かって歩いている。
露店の準備をする声。
馬車の音。
遠くから響く鐘。
そして。
「……シルヴァ」
「……」
「起きて」
「……」
「今日、大会よ」
「……知ってる」
「起きてないでしょ!」
ティナが毛布を引っ張った。
「寒い」
「朝!」
「まだ早い」
「選手集合は一刻後!」
「間に合う」
「あなたの『間に合う』は信用できないの!」
シルヴァがようやく目を開ける。
寝癖。
昨日よりひどい。
ティナがそれを見る。
「……」
「何」
「何でもない」
「髪?」
「そう」
シルヴァが手で押さえる。
「直った?」
「もっと酷くなった」
「じゃあティナやって」
「え」
あまりにも自然に言われ。
ティナが止まる。
「昨日やってくれたじゃん」
「そ、それは……」
「嫌ならいいけど」
「嫌とは言ってない!」
「じゃあお願い」
「……」
シルヴァがベッドの端へ座る。
ティナは。
少し迷ってから。
その後ろへ。
「動かないでよ」
「うん」
白銀の髪へ触れる。
「……」
近い。
朝だからか。
昨日より。
妙に意識してしまう。
「ティナ」
「な、何!?」
「強い」
「え?」
「引っ張ってる」
「あ、ごめん!」
慌てて手を離す。
「痛かった?」
「少し」
「ご、ごめん……」
「緊張してる?」
ティナの手が止まる。
「……何で」
「今日試合だから」
「あ」
そっち。
「そ、そうね」
「俺も少し楽しみ」
「緊張じゃなくて?」
「楽しみ」
「……あなたに聞いた私が馬鹿だった」
「何で」
「いいから前向いて!」
「はい」
ティナは小さく息を吐き。
もう一度。
シルヴァの髪を整え始めた。
◇
朝食。
「今日は食べ過ぎないでよ」
「なんで」
「試合中にお腹痛くなったらどうするの」
「ならない」
「分からないでしょ」
「今までなったことない」
「どれくらい食べて戦ってたのよ……」
シルヴァの前。
皿が四枚。
ティナが一枚を取り上げる。
「これは私」
「俺の肉」
「共有!」
「昨日ティナがそう言った」
「食事の話じゃない!」
シルヴァがティナの皿を見る。
「ティナあんまり食べてないね」
「ちょっと緊張してるだけ」
「食べた方がいいよ」
「分かってる」
「肉いる?」
「……」
差し出された肉。
ティナが少し驚く。
「いいの?」
「うん」
「あなたが?」
「俺が」
「肉を?」
「肉を」
ティナがじっとシルヴァを見る。
「何」
「……熱でもある?」
「失礼だな」
「だってあなたが肉を譲るなんて」
「試合前に倒れられたら困るし」
「……」
「食べなよ」
ティナが肉を受け取る。
「……ありがと」
「うん」
シルヴァは普通に次のパンへ手を伸ばす。
ティナは。
自分の皿へ置かれた肉を見る。
「……」
少しだけ。
口元が緩む。
「何笑ってるの?」
「笑ってない!」
「笑ってた」
「食べなさい!」
◇
大闘技場。
開場前から。
巨大な歓声が王都中へ響いていた。
観客席。
満員。
数万人。
「すごい……」
選手通路から覗いたティナが呟く。
「昨日より人増えてない?」
「昨日はまだ開会前だったからね」
「全員こっち見る?」
「試合中はね」
「嫌だな」
ティナが驚く。
「あなたでもそういうの嫌なの?」
「戦うのはいいけど」
シルヴァが観客席を見る。
「見られるのは別」
「意外」
「ティナは?」
「……かなり嫌」
「隊長なのに」
「またそれ言った!」
その後ろ。
「邪魔」
「え?」
クジャ。
紫髪。
右目の眼帯。
暗いマント。
「通れない」
「あ、ごめん」
ティナが横へずれる。
クジャが二人の間を通る。
そして。
シルヴァを見た。
「寝癖」
「直してもらった」
「誰に」
クジャの視線。
ティナへ。
「……私だけど」
「ふーん」
「何?」
「別に」
「その『別に』絶対何かあるでしょ!」
「ない」
クジャはそのまま歩いていった。
シルヴァがティナを見る。
「何だったんだろ」
「知らない!」
「なんで怒ってるの」
「怒ってない!」
◇
鐘。
ゴォォォォン――!!
同時。
観客席の歓声が膨れ上がった。
『さあ――!!』
拡声用のオーラ器具を通した声が闘技場へ響く。
『今年も始まりました! 王都大闘技大会!!』
「うおおおおおおおお!!」
地面が揺れるほどの歓声。
選手通路。
シルヴァが少し耳を塞ぐ。
「うるさ」
「聞こえるよ」
ティナが笑う。
『各地から集った八名の戦士!』
『剣! オーラ! 技!』
『全てをぶつけ――』
『この舞台で最後まで立っていた者こそが、今年の覇者となります!』
王族席。
国王が座る。
その左右。
王国高官。
近衛兵。
そして。
「……」
ギラルーン。
昨日と変わらぬ穏やかな笑み。
ティナが睨む。
「いるわね」
「うん」
「しかも王様の近く」
「偉い人なのかな」
「人を脅して大会に出しておいて?」
「悪い偉い人」
「雑!」
ギラルーンが。
こちらへ視線を向けた。
笑う。
ティナの眉間に皺が寄る。
「腹立つ……」
「気にしない方がいいよ」
「あなたは腹立たないの?」
「腹立つ」
「見えない」
「でも今は」
シルヴァが中央の舞台を見る。
「こっち」
ティナも。
その横顔を見る。
シルヴァの目。
いつもの眠そうなものではない。
戦いを見る目。
「……ほんとに好きね」
「何が?」
「戦うの」
「だから戦闘狂じゃないって」
「まだ何も言ってない!」
◇
『それでは!』
『第一回戦――第一試合!』
観客席がざわめく。
『東方より現れた謎多き白銀の剣士!』
『先日、東方防衛拠点を襲撃した魔王軍部隊長を討ったとの噂は本当なのか!』
シルヴァの顔が嫌そうになる。
「もう広まってる」
「昨日聞いたでしょ」
『シルヴァ・ライズ!!』
「うおおおおおお!」
「風葬って奴か!?」
「本当に十六なのか!?」
「細いぞ!」
「部隊長を倒したって嘘じゃねえのか!?」
シルヴァが。
ため息。
「行ってくる」
「シルヴァ」
「何?」
ティナが一瞬迷う。
「……」
頑張って。
普通に言えばいい。
なのに。
なぜか。
少し照れる。
「負けないでよ」
結局。
そんな言い方になった。
「うん」
シルヴァが笑う。
「ティナの分まで先に勝っとく」
「自分の分でいいの!」
「じゃあ行く」
「……行ってらっしゃい」
シルヴァが舞台へ歩いていく。
その背中を見送り。
ティナが小さく呟く。
「……頑張って」
「聞こえてるよ」
シルヴァが振り向く。
「――っ!?」
「ありがとう」
「前向いて歩きなさい!」
◇
舞台。
巨大な円形。
地面は硬い石。
逃げ場はない。
シルヴァが中央へ。
反対側。
『対するは――!』
重い足音。
ドン。
ドン。
全身。
黒鉄の鎧。
二メートル近い巨体。
顔すら兜に隠れている。
背中には。
人間の身長ほどもある大剣。
『経歴不明!』
『所属不明!』
『しかし予選免除の特別推薦選手!』
『鉄壁の重剣士――ゼグラム!!』
男が大剣を抜く。
ズンッ!!
刃先が石床へ触れただけで。
小さくひびが入る。
「……重そう」
シルヴァが呟いた。
「……」
ゼグラムは答えない。
「喋らない?」
「……人間」
低い声。
「喋った」
「風葬」
「……」
シルヴァの目が僅かに細くなる。
「それ知ってるんだ」
「貴様の首」
ゼグラムが大剣を持ち上げる。
「頂く」
「やっぱり魔王軍?」
返事はない。
シルヴァが剣を抜く。
「まあいいか」
構える。
王族席。
ギラルーンが。
静かに笑った。
◇
『第一試合――』
『開始!!』
ドォン!!
「――!」
開始と同時。
ゼグラムが踏み込んだ。
「速っ」
巨体に似合わない。
一瞬で距離を詰め。
大剣。
横薙ぎ。
シルヴァが身体を沈める。
ブォンッ!!
頭上を。
巨大な刃が通過。
風圧だけで白銀の髪が大きく揺れる。
「……」
シルヴァが懐へ。
一閃。
ガキン!!
「硬」
剣が。
鎧に弾かれた。
「――!」
ゼグラムの膝。
シルヴァが腕で受ける。
ドンッ!
「っ……!」
身体が浮く。
そのまま。
大剣が振り下ろされた。
シルヴァ。
風。
「《風脚》!」
横へ。
ドガァァァン!!
大剣が舞台へ叩き込まれる。
石床が砕け。
破片が飛ぶ。
「派手だな……」
着地。
直後。
ゼグラムが大剣を引き抜く。
「逃がさん」
振り上げ。
斜め。
横。
連続。
「……!」
シルヴァが避け続ける。
重い。
速い。
一発受ければ。
ただでは済まない。
ガン!
シルヴァの剣。
肩。
弾かれる。
ガキン!
脇腹。
弾かれる。
首元。
鎧の継ぎ目。
キィン!
「ここも?」
細い金属板。
内部まで守られている。
『シルヴァ選手! 攻める! 攻める!』
『しかし通らない!!』
『ゼグラム選手の鎧には傷一つつきません!』
観客席。
ティナが身を乗り出す。
「全部防いでる……」
クジャは静か。
「違う」
「え?」
「防いでない」
ティナがクジャを見る。
「鎧?」
「うん」
クジャの左目。
シルヴァたちを追っている。
「オーラ」
「……!」
「全部に流してる」
ティナも集中する。
確かに。
ゼグラムの全身。
薄く。
オーラが張り巡らされている。
「鎧そのものを強化してる……」
「多分」
◇
舞台。
「なるほど」
シルヴァも気づいていた。
「鎧だけじゃないんだ」
ゼグラムが迫る。
「《重断》!」
大剣。
オーラ。
刃の周囲に高密度の力が集まる。
シルヴァ。
正面から剣を合わせる。
ガァァァン!!
「くっ……!」
足元。
石が割れる。
押される。
「軽い!」
ゼグラムが叫ぶ。
さらに力。
「――っ」
シルヴァが剣を滑らせる。
受け流し。
身体を回転。
大剣が地面へ。
その瞬間。
ゼグラムの首。
斬撃。
キィン!
やはり通らない。
「無駄だ」
「そうみたい」
ゼグラムの裏拳。
ドンッ!
シルヴァが吹き飛ぶ。
「シルヴァ!」
ティナが立ち上がる。
数メートル。
転がり。
シルヴァが剣を地面へ突き立て止まる。
「……痛」
口元。
僅かな血。
ゼグラムが大剣を肩へ担ぐ。
「風を使え」
「何?」
「貴様の力は風だろう」
「まあ」
「この鎧ごと斬ってみろ」
「……」
「それとも」
兜の奥。
赤い光。
「噂だけか」
シルヴァの目が細くなる。
そして。
「やだ」
「何?」
「風使うの」
観客席。
ティナ。
「え?」
ギラルーンも。
僅かに眉を上げる。
「貴様……」
「だって」
シルヴァが立ち上がる。
「今、風で無理やり斬ったら」
剣を軽く振る。
「俺の負けみたいじゃん」
「……何を言っている」
「この二年」
一歩。
「剣も」
もう一歩。
「オーラも」
構える。
「ちゃんと練習したから」
ゼグラム。
「戯言を!」
踏み込む。
◇
大剣。
振り下ろし。
シルヴァは。
避けない。
「シルヴァ!?」
ティナが叫ぶ。
剣を。
大剣へ。
当てる。
ガキィィィン!!
ただし。
受けない。
ほんの一点。
刃の側面。
オーラ。
「……!」
ゼグラムの大剣が。
僅かに軌道を逸らした。
ドン!!
シルヴァの横。
石床へ。
「何……?」
ゼグラム。
シルヴァは懐。
鎧へ。
剣先。
軽く。
当てる。
カン。
「……」
傷はない。
「無駄――」
「違う」
シルヴァが距離を取る。
「今の感じ」
「何?」
「もう一回」
ゼグラムが怒る。
「舐めるな!」
突進。
横薙ぎ。
シルヴァ。
刀身の一部。
わずか。
指一本分ほどの範囲。
そこだけへ。
オーラを集める。
ガン!
大剣の軌道。
ずれる。
「――!」
シルヴァ。
肩へ。
カン!
また軽く打つ。
離れる。
「何をしている!」
「探してる」
「何を!」
「薄いところ」
ゼグラムの動きが止まる。
「……」
「全身にオーラ回してるでしょ」
シルヴァが剣を向ける。
「でも」
一歩。
「全部同じじゃない」
観客席。
ティナの目が開く。
「……そうか」
クジャが見る。
「分かった?」
「ゼグラムは全身を守ってる」
「うん」
「でも大剣を振る瞬間」
ティナが続ける。
「腕と剣にオーラを寄せる」
「その分」
「別の場所が薄くなる……!」
◇
ゼグラムが吠える。
「ならば!」
全身。
オーラ。
さらに強く。
「全てを強化すればいい!!」
黒い鎧が。
鈍い光を放つ。
シルヴァが目を細める。
「……それ」
「何?」
「効率悪いよ」
「黙れ!」
大剣。
シルヴァへ。
シルヴァは。
剣を握る手へ。
オーラ。
ではない。
刀身全体でもない。
先端。
ほんの一点。
そこだけへ。
極端に集中。
「……」
ディーンの声が。
記憶の中で蘇る。
『シルヴァ』
『オーラってのはな』
『多けりゃ強いってもんじゃねえ』
二年前。
焚き火。
ディーンが。
石を一つ持っていた。
『同じ力でも』
指。
『広げりゃ薄くなる』
手のひら。
『一点に集めりゃ――』
石。
指で弾く。
パキッ。
『――穴を開ける』
『地味』
『お前は本当に可愛げねえな』
『風使った方が早い』
『いつか風が使えねえ時が来る』
『その時、剣一本で死にたくなきゃ覚えろ』
現在。
シルヴァの目が。
鋭くなる。
「……覚えてるよ」
「何?」
「こっちの話」
ゼグラムが。
全力で大剣を振り下ろす。
「潰れろ!!」
シルヴァ。
半歩。
横。
巨大な刃。
頬すれすれ。
かわす。
そして。
大剣を振り切った瞬間。
ゼグラムの身体。
オーラの流れ。
右肩。
胸。
腰。
脚。
そして――。
「そこ」
脇腹。
ほんの一瞬。
薄くなる。
シルヴァの剣。
突き。
「――!」
ガッ!!
刀身が。
鎧へ。
止まる。
「無駄だ!!」
「まだ」
剣先。
一点。
さらに。
オーラを圧縮。
「――《点穿》」
キィィィィン――!!
高い音。
次の瞬間。
パキッ。
「……」
ゼグラムの動きが止まった。
鎧。
小さな。
穴。
「な……」
シルヴァが。
さらに踏み込む。
同じ一点。
二撃目。
ガンッ!!
ひび。
三撃目。
「おおおっ!!」
ゼグラムが大剣を振ろうとする。
だが。
遅い。
「四」
ガンッ!
ひびが広がる。
「五」
ガァン!!
黒鉄の鎧が。
砕けた。
「な――」
その下。
初めて。
ゼグラムの身体が露出する。
黒褐色の皮膚。
そして。
胸元。
人間ではない。
禍々しい紋様。
「……やっぱり」
シルヴァが呟く。
「魔族」
観客席。
ざわめき。
「魔族!?」
「何で魔族が大会に!?」
「どういうことだ!」
ティナが王族席を見る。
「ギラルーン……!」
だが。
ギラルーンは。
微笑んだまま。
◇
「貴様ァァァ!!」
正体を晒されたゼグラム。
オーラが爆発する。
「殺す!!」
大剣。
頭上。
全力。
シルヴァが剣を構える。
「もう分かった」
「死ね!!」
振り下ろし。
シルヴァ。
踏み込む。
風。
使わない。
大剣の軌道。
刃の腹へ。
オーラを集中した剣を当てる。
キンッ!
最小限。
逸らす。
懐。
砕けた鎧。
胸。
「《点穿》」
一閃。
ズバッ!!
「――!」
ゼグラムの身体が。
止まった。
大剣が。
手から落ちる。
ドンッ。
「……何故」
ゼグラムが。
膝をつく。
「風を……」
「使わなかったか?」
「……」
シルヴァは剣の血を振る。
「剣士だから」
ゼグラムの巨体が。
前へ倒れた。
ドォン――。
静寂。
一瞬。
そして。
『――勝者!!』
『シルヴァ・ライズ!!』
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
闘技場が。
爆発した。
◇
「シルヴァ!」
選手通路へ戻った瞬間。
ティナが走ってきた。
「怪我は!?」
「頬」
「見せて」
「大丈夫」
「いいから!」
顔を掴まれる。
「……近い」
「今それ言う!?」
頬。
浅い切り傷。
「これくらいなら……」
ティナがほっとする。
そこで。
気づく。
両手で。
シルヴァの顔を挟んでいる。
「……」
「ティナ?」
「――っ!」
勢いよく離れる。
「な、何でもない!」
「急だな」
「自分で拭いて!」
「何を」
「血!」
「ああ」
シルヴァが袖で拭こうとする。
「待って!」
「何?」
「服で拭くな!」
ティナが布を取り出す。
「ほら」
「ありがとう」
「……もう」
頬を拭く。
その時。
「うまかった」
後ろから。
クジャ。
「え?」
シルヴァが振り返る。
「見てた?」
「言った」
「そうだった」
「最後の」
クジャが指で。
小さな点を作る。
「一点だけに集めた」
「うん」
「風じゃない」
「普通のオーラ」
「面白い」
「でしょ」
ティナが布を持ったまま言う。
「得意げね」
「ちょっと」
「最初ボコボコにされてたのに」
「そこ言う?」
「言う」
クジャがティナを見る。
次に。
ティナがシルヴァの頬へ当てている布。
「……」
「何?」
「やっぱり夫婦」
「違う!!」
ティナが飛び退いた。
「傷拭いてただけ!」
「聞いてない」
「今言ったでしょ!」
「もういい」
「何であなたが会話終わらせるの!?」
クジャが舞台へ向かう。
「次、私」
シルヴァの表情が変わる。
「見てる」
「うん」
「全部見せてよ」
「嫌」
「なんで」
「手札は隠すもの」
指の間。
カード。
スペードの三。
「それに」
クジャが僅かに笑う。
「あなたと当たるかもしれない」
「……」
シルヴァも笑った。
「そっか」
ティナが二人を見る。
「なんで二人とも嬉しそうなのよ……」
◇
王族席。
ギラルーンは。
静かに拍手していた。
「見事ですね」
隣。
国王が険しい顔をしている。
「ギラルーン殿」
「はい」
「今の男」
「ゼグラムですか」
「魔族だった」
「そのようですね」
「そのようですね、ではない」
国王の声が低くなる。
「なぜ魔族が王都の大会へ紛れ込んでいる」
「陛下」
ギラルーンは。
微笑みを崩さない。
「大会とは」
一呼吸。
「強者が集う場所でしょう?」
「……」
「種族など」
視線。
舞台から戻るシルヴァへ。
「些細なことですよ」
国王の横。
近衛兵が剣へ手を掛ける。
だが。
国王が片手で制した。
「……貴殿の保証がなければ、今すぐ拘束しているところだ」
「光栄です」
「褒めてはいない」
「存じています」
ギラルーンは笑う。
その目。
次。
舞台へ向かう少女。
クジャ・ローズ。
「さて」
僅かに身を乗り出す。
「次も」
「……」
「面白くなりそうですね」
◇
『続きまして――!!』
歓声。
『第一回戦! 第二試合!!』
舞台の一方。
巨漢。
両腕には。
鎖。
その先。
二つの巨大な鉄球。
『数々の戦場を渡り歩いた傭兵!』
『豪腕ロガン・ベイル!!』
「うおおおおお!!」
ロガンが鉄球を振り上げる。
「ガハハハハ!!」
「ガキが相手か!」
反対。
小柄な少女。
紫の髪。
右目の眼帯。
クジャ。
静かに。
舞台へ歩いてくる。
『対するは――』
『経歴不明!』
『武器――カード!?』
『十六歳の謎の少女!』
『クジャ・ローズ!!』
クジャが。
右手を上げる。
指の間。
四枚のカード。
スペード。
クラブ。
ダイヤ。
ハート。
ロガンが大笑いする。
「カードォ!?」
「おいおい!」
「遊びじゃねえんだぞ!!」
クジャ。
「……」
無言。
選手通路。
シルヴァが壁へ寄りかかる。
「始まる」
ティナが隣。
「カードで鉄球に勝てると思う?」
「勝つって言ってた」
「それはそうだけど」
「多分」
シルヴァが。
クジャを見る。
「俺より」
「え?」
「戦い方、変だと思う」
「あなたに言われたら終わりね」
「酷」
舞台。
ロガンが鎖を回し始める。
ブォン。
ブォン。
ブォォォン――!!
「小娘!!」
「開始と同時に潰してやる!!」
クジャの指。
カードが。
一枚。
消えた。
シルヴァの目が。
僅かに開く。
「……速い」
『第二試合――』
『開始!!』




