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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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第62話 瞬間を纏う

 創都リメア。


 《創成庭》。


 シルヴァとの模擬戦を終えたギラルーンは、胸元についた浅い傷を布で拭った。


 深くはない。


 だが。


 《遊歩・八景》まで使った上で受けた一撃だった。


「治療しなくていいの?」


 ティナが聞く。


「この程度でしたら問題ございません」


「なら、遠慮しないから」


「もちろん」


 ギラルーンは細身の剣を構え直した。


 その正面。


 ティナも剣を抜く。


 シルヴァは少し離れた場所まで戻り、クジャの隣に座った。


「ティナ、どう戦うと思う?」


 シルヴァが聞く。


「真正面」


「やっぱり?」


「でも」


 クジャはティナを見る。


「三か月前とは違う」


「うん」


 それはシルヴァにも分かる。


 ティナの身体を覆う《構装》は。


 以前より。


 ずっと薄い。


 腕。


 脚。


 胴。


 剣。


 どこか一か所を強く守っているわけではない。


 最低限の白いオーラが、身体全体へ静かに沿っている。


 ミルスが二人を見る。


「ティナ」


「はい」


「白金の光は狙わない」


 ティナが頷いた。


「分かってる」


「出ても、それに頼らない」


「うん」


 この三か月。


 白金の光が現れたのは、わずかだった。


 しかも。


 自分の意思で出せたことは一度もない。


 だから。


 今日見せるべきなのは。


 あの光ではない。


 ティナ自身が磨いた。


 《構装》。


「準備は?」


 ミルスが聞く。


「大丈夫」


 ギラルーンも頷く。


「いつでも」


「始め」


     ◇


 先に動いたのは。


 ティナだった。


 一直線。


 真正面。


「やっぱり」


 シルヴァが笑う。


 クジャが横目で見る。


「嬉しそう」


「いや、ティナっぽいなって」


 だが。


 その踏み込みは。


 三か月前とは明らかに違った。


 右脚。


 《構装》が強くなる。


 ほんの一瞬。


 地面を蹴った直後には。


 消える。


 ティナの身体が一気に前へ出た。


 剣。


 ギラルーンが受ける。


 甲高い音。


 次の瞬間。


 ティナの剣を覆っていた白い構装が消えた。


「……?」


 ギラルーンの目が動く。


 ティナはそのまま。


 左足。


 強化。


 軸足。


 身体を回す。


 二撃目。


 刃がぶつかる直前。


 剣へ。


 再び。


 白。


「なるほど」


 ギラルーンが受け流す。


 ティナは止まらない。


 三撃目。


 四撃目。


 五撃目。


 《構装》が。


 身体の中を移動する。


 脚。


 腕。


 肩。


 剣。


 防御が必要な瞬間だけ。


 その場所へ。


「速くなったな」


 シルヴァが呟く。


「速さだけじゃない」


 ミルスが言う。


「前より無駄がない」


 以前のティナは。


 戦闘が始まれば。


 身体全体へ《構装》を纏っていた。


 どこから攻撃されても耐えられるように。


 間違いではない。


 だが。


 その分。


 常にオーラを消費していた。


 今は違う。


 守る必要のない場所には。


 ほとんど使わない。


 攻撃する瞬間。


 受ける瞬間。


 踏み込む瞬間。


 必要な場所へ。


 必要なだけ。


「では」


 ギラルーンが。


 突然。


 ティナの剣を強く弾いた。


「こちらからも」


 消える。


 《遊歩》。


 ティナは。


 シルヴァのように。


 風で出現場所を読むことはできない。


 クジャのように。


 右眼でアンカーを見ることもできない。


 なら。


 どうする。


 左後方。


 ギラルーンが現れた。


 剣。


「っ!」


 ティナは振り返る。


 間に合わない。


 だが。


 左肩。


 《構装》。


 瞬間的に。


 厚くなる。


 刃が直撃する。


 白い光が弾けた。


 衝撃でティナの身体が前へ押される。


 だが。


 斬られていない。


「受けましたか」


「全部避ける必要ないから!」


 振り返る。


 右脚。


 《構装》。


 踏み込む。


 反撃。


 ギラルーンが下がる。


「それ」


 シルヴァが驚く。


「前と全然違う」


 ミルスが頷く。


「ティナの強みは、元々ああいうところ」


「全部避けるシルヴァとは逆?」


「そう」


 シルヴァが少しだけ不満そうにする。


「俺も受ける時あるけど」


「受けるより避けるでしょう?」


「まあ」


「ティナは違う」


 ミルスは戦場を見る。


「受けてもいい攻撃なら受ける」


「その代わり」


「次の自分の一撃を早くする」


     ◇


 ギラルーンが。


 再び消える。


 右。


 ティナ。


 剣を受ける。


 腕へ構装。


 消える。


 次。


 正面。


 受け流す。


 脚。


 踏み込む。


 反撃。


 ギラルーンはまた《遊歩》。


 今度は背後。


 ティナは振り返らない。


 左腕。


 構装。


 身体の後ろへ回す。


 剣を。


 腕で受けた。


「っ……!」


 痛い。


 だが。


 耐えられる。


 同時に。


 右足。


 後方へ。


 蹴る。


 ギラルーンが僅かに身体を引く。


「体術まで」


「シルヴァが使ってるの見てたから!」


 ティナが振り返る。


「真似?」


 外からシルヴァ。


「参考!」


「ほぼ同じじゃない?」


「うるさい!」


 ティナの剣がギラルーンへ飛ぶ。


「戦ってる途中で喧嘩なさらない方がよろしいかと」


 ギラルーンが受ける。


「シルヴァが話しかけるから!」


「俺のせい!?」


 クジャが小さく笑っていた。


     ◇


 数分。


 戦いは続いた。


 シルヴァとの戦いとは。


 まったく違う。


 シルヴァは。


 ギラルーンの《遊歩》そのものを読み。


 追う。


 ティナは。


 追わない。


 来た攻撃を処理して。


 自分の間合いへ引き戻す。


 ギラルーンが消える。


 ティナは周囲を見回さない。


 剣を身体へ寄せる。


 右。


 出現。


 斬撃。


 右腕。


 構装。


 受ける。


 ギラルーンが離れる前に。


 ティナの左手が。


 その袖を掴んだ。


「……!」


「捕まえた!」


 《遊歩》で消えるには。


 一度。


 自分が残した地点へ意識を繋ぐ。


 ほんの僅か。


 ギラルーンの動きが止まる。


 ティナは。


 離さない。


 剣を引く。


 至近距離。


「はっ!」


 突き。


 ギラルーンが首を逸らす。


 頬。


 刃が掠める。


 一筋。


 血。


「入った!」


 シルヴァが立ち上がる。


 ティナの顔が少し明るくなる。


 しかし。


 ギラルーンは。


 そのままティナの手首を捻った。


「痛っ!」


 袖から手が離れる。


 身体を入れ替え。


 ティナの背後へ。


 剣先。


 首元。


 だが。


 ティナは。


 無理に振り返らなかった。


 右肘。


 構装。


 後ろへ。


 ギラルーンの腹へ。


「っ」


 一歩。


 ギラルーンが下がる。


 首元から剣が離れた。


 ティナも前へ出る。


 距離。


 作る。


「今ので終わったと思った?」


 ティナが聞く。


 ギラルーンが。


 少しだけ笑った。


「いえ」


 頬の血を指で拭う。


「むしろ」


「ここからでございますね」


     ◇


 ギラルーンが歩く。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 ティナは。


 その足を見る。


「《遊歩・八景》?」


「いえ」


 ギラルーンは歩きながら答えた。


「そこまで使うつもりはございません」


「シルヴァには使ったのに?」


 シルヴァ。


「そこ気にする?」


「ちょっと」


「何で?」


「別に!」


 ギラルーンの笑みが僅かに深くなる。


「では」


 さらに一歩。


「使わせていただきましょうか?」


「望むところ!」


 シルヴァが頭を抱えた。


「煽られてる……」


 クジャ。


「ティナ負けず嫌いだから」


「知ってる」


「聞こえてる!」


 八歩目。


 ギラルーンが止まる。


「では」


 消えた。


「《遊歩・八景》」


     ◇


 最初。


 右。


 ティナは受ける。


 腕。


 構装。


 二つ目。


 左。


 剣。


 防ぐ。


 三つ目。


 背後。


 肩。


 受ける。


 四つ目。


 正面。


 ティナの剣。


 間に合う。


 だが。


 五つ目。


 右後方。


「っ!」


 遅れる。


 脇腹。


 剣の峰が入る。


「ぐっ……!」


 身体が傾く。


 六つ目。


 上。


 ギラルーンの剣。


 振り下ろされる。


 ティナは。


 逃げない。


 両腕。


 剣。


 《構装》。


 集中。


 受ける。


 轟音。


 膝が沈む。


 七つ目。


 消える。


 どこ。


 ティナが探す。


 遅い。


 左。


 ギラルーン。


 剣。


 ティナの肩へ。


 その瞬間。


 白い《構装》の奥で。


 ほんの一筋。


 金色が。


 走った。


「――!」


 ティナの瞳が開く。


 世界が。


 一瞬だけ。


 鮮明になった。


 ギラルーンの剣。


 見える。


 速い。


 でも。


 見える。


 ティナの身体が。


 反応した。


 首を傾ける。


 刃が。


 髪を数本切る。


 同時。


 右脚。


 踏み込む。


 ギラルーンの目が。


 僅かに開く。


「これは――」


 ティナの剣。


 八つ目へ移ろうとしていた。


 ギラルーンの胸元へ。


 突き込まれる。


 ギラルーンが。


 《遊歩》を中断。


 剣で受ける。


 激突。


 白。


 そして。


 ほんの僅かな金。


 ギラルーンの身体が。


 後ろへ弾かれた。


 ティナ自身が。


 一番驚いていた。


「今……」


 だが。


 金色は。


 すぐに消える。


 身体が。


 突然。


 重くなった。


「っ……」


 足が止まる。


 ギラルーンは。


 それを見逃さなかった。


 距離を詰める。


 ティナが剣を上げる。


 遅い。


 剣先が。


 ティナの胸元で。


 止まった。


 静寂。


「そこまで」


 ミルスの声。


     ◇


 ティナが。


 ゆっくり息を吐いた。


「……負けた」


「はい」


 ギラルーンが剣を下ろす。


 ティナが少しだけ頬を膨らませる。


「シルヴァと同じこと言うんだ」


「勝敗は正確に、でございます」


「ギラルーンそこ厳しいな」


 シルヴァが近づいてくる。


「でもティナ」


「何?」


「すごかった」


「……本当?」


「うん」


 シルヴァはギラルーンの頬を見る。


「ちゃんと当ててたし」


 細い。


 傷。


 先ほどの剣先が。


 確かに触れている。


「俺より先に普通の《遊歩》で当てたよね」


「……」


 ティナが少しだけ嬉しそうになる。


「まあ」


「私も三か月やったから」


「うん」


「何でシルヴァが嬉しそうなの?」


 クジャが聞く。


「え?」


「ティナが褒められたのに」


「仲間だし」


「ふーん」


「何その反応」


 ティナも。


 僅かに頬が赤くなる。


「クジャ、変なこと言わないで」


「まだ何も言ってない」


「その“まだ”が嫌なの!」


     ◇


 ミルスは。


 ティナのそばへ来る。


「手」


「うん」


 ティナが差し出す。


 ミルスは腕。


 脈。


 オーラの流れ。


 身体の状態を確認する。


「やっぱり」


「何?」


「オーラはかなり残ってる」


 ティナも自分で確認する。


「……本当だ」


「でも身体は重いでしょう?」


「うん」


 腕を上げる。


 普段より。


 明らかに重い。


「今の白金」


 ティナが聞く。


「出たよね」


「出た」


「少しだけ」


「ええ」


 ティナは自分の手を見る。


「また勝手に」


「それでいい」


「でも」


「今は追わない」


 ミルスが静かに言う。


「今日見せたかったのは、そっちじゃないでしょう?」


 ティナが顔を上げる。


 《構装》。


 三か月。


 何度も。


 繰り返した。


「……うん」


「なら」


 ミルスが少し笑う。


「十分よ」


 ギラルーンも言う。


「三か月前でしたら」


 ティナが見る。


「私は、貴女が《構装》を厚くした場所を避けて攻撃すればよかった」


「……」


「今日は違いました」


「私が攻撃してから」


 ギラルーンがティナの腕を見る。


「そこへ防御が現れる」


 次に。


 ティナの剣。


「そして、私が守った場所とは別のところへ」


「次の瞬間には攻撃が来る」


 ギラルーンが。


 小さく息を吐く。


「正面から戦う方ほど」


「こういう変化は厄介でございます」


「それ褒めてる?」


「非常に」


 ティナが笑った。


「じゃあ」


 少しだけ。


 胸を張る。


「よかった」


     ◇


「次」


 クジャが立ち上がった。


 カードケースを。


 腰から外す。


 ギラルーンが見る。


「お休みをいただいても?」


「疲れた?」


「多少は」


「じゃあ待つ」


「ありがとうございます」


 シルヴァが驚く。


「クジャ、優しい」


「その方が言い訳できないから」


「怖い」


「万全のギラルーンとやりたい」


 ギラルーンが苦笑する。


「なかなか厳しいことを仰いますね」


 クジャは。


 カードケースから。


 五枚を引いた。


 一枚ずつ。


 確認する。


 《♠4》。


 《♣8》。


 《♦6》。


 《♥3》。


 そして。


 《♠Q》。


 シルヴァが。


 その手札を見る。


「攻撃二枚」


「うん」


「♠Qあるじゃん」


「まだ使うか分からない」


 ティナも横から覗く。


「♣8はかなり使えそう」


「ギラルーン相手ならね」


 クジャは五枚を扇状に広げた。


 今まで。


 戦闘では。


 スートだけが重要だったわけではない。


 同じ♠でも。


 数字が違えば。


 出力が違う。


 同じ♣でも。


 拘束力が違う。


 強い札は。


 当然。


 消耗も大きい。


 そして。


 使えば。


 次に何を引くかは。


 自分にも分からない。


 クジャの戦いは。


 最初から最後まで。


 配られた札で。


 勝ち方を作る戦いだった。


「準備できた?」


 ミルスが聞く。


 クジャは。


 五枚の手札を見る。


 それから。


 ギラルーンへ視線を移した。


「うん」


 眼帯。


 カード。


 右手と左手。


 それぞれへ。


「今度は」


 静かに言った。


「私の番」

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