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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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第51話 魔王になった日

「その六つのうち」


 ミルスは。


 自分の胸へ。


 手を置いた。


「一つが、私の中にある」


「……」


 シルヴァは。


 すぐには。


 何も言えなかった。


 目の前にいる。


 ミルス。


 ピンクへ変わった髪。


 同じ色の瞳。


 クジャが見た。


 人間一人の中に収まるには。


 あまりにも巨大な力。


 全部。


 ようやく。


 一つに繋がる。


「じゃあ……」


 シルヴァの声が。


 少しだけ低くなる。


「ミルスが」


「魔王って呼ばれてるのは」


「それが理由?」


「ええ」


 ミルスは。


 あっさり頷いた。


「私は」


「魔王核を持っている」


「今のノクティスでは」


「それだけで」


「魔王と呼ばれるには十分よ」


 ティナが。


 ミルスを見る。


「でも」


「ゼノアの仲間ではないんですよね」


「違うわ」


「むしろ」


 一拍。


「向こうは」


「私の中のこれを欲しがってる」


 シルヴァ。


「核を?」


「ええ」


「どうして?」


 ミルスは。


 少しだけ。


 シルヴァを見る。


「それは」


「もう少し後」


「残りの核について話す時に説明する」


「……また後?」


「順番」


「多いね」


「あなたが聞きたいこと多すぎるのよ」


「二年分あるから」


「なら仕方ないわね」


 そこで。


 シルヴァは。


 口を閉じた。


 数秒。


 俯く。


 そして。


 今度は。


 さっきよりも。


 ずっと小さな声で。


「……レオンは?」


 ミルスの顔から。


 笑みが消えた。


 ティナも。


 何も言わない。


 クジャも。


 シルヴァを見る。


「核を」


「六つに分けたあと」


 一拍。


「レオンは」


「どうなった?」


 ミルスは。


 すぐには答えなかった。


 けれど。


 誤魔化しもしなかった。


「死んだわ」


 短い。


 言葉。


「……」


 シルヴァの指が。


 ゆっくり。


 握られる。


「確実に?」


「ええ」


「……」


「生きてる可能性は?」


 一瞬。


 ミルスの瞳が。


 揺れた。


 でも。


 答えは。


 変えなかった。


「ない」


 シルヴァが。


 目を閉じる。


「そっか」


 それだけ。


 ティナは。


 隣で。


 何も言わない。


 肩へ触れることもしない。


 今は。


 シルヴァが。


 自分で受け止める時間だと。


 分かっていた。


「レオンが」


 ミルスが。


 静かに続ける。


「魔王核を分けた直後」


「ゼノアの内部にあった」


「光の気配が」


「完全に消えた」


「それまで」


「ほんの僅かだけど」


「確かにあった」


「……」


「だから」


「最後まで」


「レオンだった」


 シルヴァが。


 少しだけ。


 顔を上げる。


「最後まで?」


「ええ」


「取り込まれても」


「自分が消える寸前まで」


「ゼノアを倒すために」


「できることを探してた」


 一拍。


「それで」


「魔王核を六つに分けた」


 シルヴァの口元が。


 僅かに。


 歪む。


「……らしいね」


「うん」


「ほんと」


「最後まで」


 小さく。


 息を吐く。


「勝手だな」


 ティナが。


 シルヴァを見る。


「俺だけ」


「勝手に飛ばして」


「自分は残って」


「最後まで何してるか」


「何も教えないで」


 ミルスは。


 何も言わない。


「俺」


「ずっと」


 一拍。


「もしかしたらって」


「思ってた」


 シルヴァが。


 自分でも。


 確かめるように言う。


「どっかで」


「生きてるかもしれないって」


「本人が」


「しぶとそうだったし」


 ティナの目が。


 少しだけ。


 伏せられる。


 シルヴァは。


 小さく笑った。


「でも」


「もう」


「ないんだ」


「……うん」


 ミルス。


「ごめん」


「なんでミルスが謝るの」


「私が」


「生きて帰れなかったから」


「違うでしょ」


 シルヴァが。


 すぐに言った。


「レオンが決めたことじゃん」


「……」


「多分」


「止めても」


「やったよ」


 ミルスが。


 ほんの少し。


 目を細める。


「そうね」


「絶対やった」


「そうね」


「馬鹿だから」


「そこは否定しないの?」


「できないもの」


 シルヴァが。


 少しだけ。


 笑った。


 寂しい。


 でも。


 ちゃんと。


 笑った。


「……そっか」


 今度の言葉は。


 さっきよりも。


 少しだけ。


 前へ進んでいた。


 ◇


「それで」


 しばらくして。


 シルヴァが。


 ミルスを見る。


「どうやって」


「その核」


「ミルスの中に入ったの?」


 ミルス。


「私が入れた」


 三人。


「……」


 シルヴァ。


「今」


「なんて?」


「自分で取り込んだ」


「なんで!?」


 さっきまでの静けさが。


 一瞬で飛んだ。


 ティナも。


「自分から!?」


 クジャ。


「危ない」


「ええ」


 ミルス。


「危なかったわ」


「過去形で済ませないでよ!」


 シルヴァが。


 思わず。


 机へ手をつく。


「魔王の核でしょ!?」


「そうね」


「ゼノアの一部でしょ!?」


「そう」


「なんで入れるの!?」


 ミルスは。


 少し考え。


「逃がしたくなかったから」


「もっと考えて!」


 ◇


 二年前。


 ノクティス。


 魔王核が。


 六つへ。


 裂けた瞬間。


 世界が。


 悲鳴を上げた。


 ゼノアの胸部。


 白金の亀裂。


 そこから。


 黒い光が。


 弾ける。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 六つ。


 夜空を。


 異なる方向へ。


 飛び散る。


『……何』


 ミルスは。


 地面へ倒れたまま。


 空を見上げていた。


 ゼノアの身体も。


 大きく崩れている。


 黒い皮膚。


 鎧。


 角。


 全てが。


 形を保てなくなるように。


 剥がれ。


 砕け。


 霧へ変わっていく。


『ミルス!』


 ディーンが。


 叫ぶ。


『立てるか!』


『……無理』


『即答すんな!』


『じゃあ聞かないで』


『こんな時までそれかよ!』


 その時。


 一つ。


 黒い光。


 魔王核。


 他の五つとは違い。


 不規則に揺れながら。


 二人の近くを。


 通過した。


 ミルスの目が。


 見開かれる。


『……待って』


『何だ』


『あれ』


 ディーンも。


 見る。


 小さな。


 黒い結晶。


 だが。


 周囲の空気が。


 歪む。


 ただ存在するだけで。


 大地へ。


 黒い亀裂が走っている。


『魔王の……』


 ミルス。


『核』


 その核が。


 遠ざかる。


『ディーン』


『何だ』


『止める』


『は?』


 ミルスが。


 動かない左腕を。


 無理やり。


 右手で支える。


 指先。


 紫の術式。


『おい』


『待て』


『今のお前が何できんだ』


『逃げたら』


『もう見つけられない』


『だからって――』


 術式。


 展開。


 紫色の輪が。


 魔王核を。


 取り囲む。


 ばちっ。


 瞬間。


 術式が。


 弾けた。


『っ……!』


 ミルスの腕から。


 血。


『ミルス!』


『強すぎる』


『見りゃ分かる!』


 核が。


 さらに。


 遠ざかろうとする。


 ミルス。


 次の術式。


 二重。


 三重。


 四重。


 拘束。


『止まれ……!』


 核が。


 一瞬。


 空中で止まる。


 大地。


 岩。


 周囲すべてが。


 軋む。


 ディーン。


『離せ!』


『無理』


『それ持って逃げられんのか!?』


『無理』


『じゃあ離せって言ってんだよ!』


『離したら』


『誰かが拾う』


『ゼノアが戻るかもしれない』


『それは――』


『レオンが』


 ミルスが。


 歯を食いしばる。


『命使って』


『六つにした』


 一拍。


『ここで一つ戻したら』


『何の意味もない』


 ディーンが。


 言葉を失う。


 術式。


 また。


 亀裂。


 限界。


 このままでは。


 数秒。


『……』


 ミルスの目が。


 動く。


 外側から。


 押さえられない。


 なら。


『ミルス』


 ディーンが。


 嫌な予感を覚える。


『お前』


『何考えてる』


『外に置けないなら』


『待て』


『中なら』


『待て』


『逃げない』


『やめろ!!』


 ミルスが。


 術式を。


 反転させる。


『馬鹿かお前!!』


『知ってる!』


 魔王核が。


 引かれる。


 ディーンが。


 腕を伸ばす。


『ミルス!!』


 黒い結晶が。


 ミルスの胸へ。


 突き刺さる。


『――っ!!』


 音が。


 消えた。


 そして。


 爆発した。


 ◇


 黒い力が。


 大地を吹き飛ばす。


 ディーンの身体も。


 弾かれる。


『ぐっ……!』


 数十メートル。


 地面を転がる。


『ミルス……!』


 顔を上げる。


 中心。


 黒い嵐。


 その中に。


 人影。


『……あ』


 ミルスの声。


 自分の身体が。


 自分のものではない。


 何かが。


 内側から。


 広がる。


 血管。


 骨。


 オーラ。


 思考。


 記憶。


 全部に。


 別の力が。


 入り込んでくる。


『……っ』


 頭を抱える。


 知らない。


 ものが。


 見える。


 形。


 構造。


 肉。


 骨。


 石。


 金属。


 生命。


 組み上げ方。


 壊し方。


 繋ぎ方。


『何……これ』


 足元。


 地面が。


 膨らむ。


 ぼこっ。


 岩が。


 形を変える。


 何もなかった場所に。


 一本の柱。


 生まれる。


『……?』


 次。


 柱から。


 枝。


 そこから。


 葉。


 だが。


 緑ではない。


 黒紫。


 異様な植物。


 さらに。


 地面。


 何かが。


 這い出る。


 四足。


 骨。


 皮膚。


 目。


 生き物。


 でも。


 世界のどこにも。


 存在しなかったもの。


『ミルス!』


 ディーンが。


 剣を抜く。


『動くな!』


『私』


 ミルスが。


 自分の手を見る。


『何も』


『作ってない』


 なのに。


 生まれる。


 次々。


 勝手に。


 頭の中を。


 一瞬通っただけのものが。


 形になる。


 剣。


 花。


 腕。


 壁。


 獣。


『止まって……!』


 止まらない。


『止まれ!!』


 力が。


 爆発する。


 ◇


「最初は」


 現在。


 ミルスが。


 自分の手を見る。


「《創造》なんて」


「呼べるようなものじゃなかった」


 シルヴァ。


「勝手に作られた?」


「ええ」


「頭に浮かんだもの」


「記憶の欠片」


「形を知っているもの」


「逆に」


「存在しないものまで」


「めちゃくちゃに」


「現実へ出てきた」


 ティナ。


「止められなかったんですか?」


「全然」


「……」


「私」


「元々」


「術式を組んでから使う人間だったでしょう」


 シルヴァ。


「うん」


「全部考えてからやるタイプ」


「そう」


「だから」


「考えた瞬間に物が出てくる能力なんて」


「最悪だった」


 クジャ。


「相性悪い」


「ものすごく」


 シルヴァ。


「今は?」


「二年かけて」


「何とか」


 ミルスが。


 窓の外。


 創都リメアを見る。


「ここまで」


 シルヴァも。


 街を見る。


「何とかの規模じゃないと思う」


「私もそう思う」


「自分で言うんだ」


 ◇


「髪と目も」


 ティナが。


 ミルスを見る。


「その頃から?」


「少しずつ」


 ミルスが。


 ピンクの髪を。


 軽く摘む。


「最初は」


「毛先だけだった」


「数日後には半分」


「そのうち全部」


「瞳も同じ」


 シルヴァ。


「鏡見てびっくりした?」


「したわ」


「何て思った?」


「似合わない」


「え」


「最初はね」


 ミルスが。


 少しだけ笑う。


「今は?」


 シルヴァ。


「慣れた」


「俺は」


「結構似合ってると思う」


 ミルスが。


 一瞬。


 止まる。


「……」


 シルヴァ。


「何?」


「あなた」


「そういうこと」


「普通に言うようになったのね」


「髪の話だけど?」


 ティナが。


 僅かに。


 シルヴァを見る。


「……」


 クジャも。


 ティナを見る。


「何」


「何でもない」


「クジャ」


「何」


「今何か言おうとした?」


「してない」


 ティナ。


「ならこっち見ないで!」


 シルヴァ。


「どうしたの?」


「あなたはいい!」


 ミルスが。


 少し。


 面白そうに。


 三人を見る。


「……なるほど」


 ティナ。


「何ですか」


「別に」


「その顔絶対何か思ってますよね!?」


 ◇


「ディーンは?」


 シルヴァが。


 話を戻した。


「その時」


「一緒だったんでしょ」


「途中までは」


 ミルスの表情が。


 また少し。


 静かになる。


「私の暴走が」


「想像以上だった」


「近くにいるだけで」


「何が生まれるか分からない」


「ディーンまで巻き込む可能性があった」


「それで」


「離れた?」


「正確には」


「離れるしかなかった」


 ◇


 二年前。


 荒野。


『ミルス!』


 ディーンが。


 黒い風の向こうへ叫ぶ。


 何本もの。


 異形の木。


 石壁。


 人工の獣。


 それらが。


 次々と。


 二人の間に。


 作られていく。


『来ないで!』


『ふざけんな!』


『来ないで!!』


 ミルスの声。


 今まで。


 聞いたことのない。


 必死な声。


『制御できない!』


『お前一人でどうすんだ!』


『分からない!』


『だったら――』


 その瞬間。


 巨大な。


 黒い腕。


 地面から。


 生まれる。


『っ!』


 ディーン。


 雷。


 剣。


 斬る。


 だが。


 次。


 次。


 次。


『ディーン!』


『先に行って!』


『行けるか!!』


『今の私の近くにいる方が危ない!』


『……!』


『お願い』


 一拍。


『生きて』


 ディーンの目が。


 見開かれる。


『……』


 ミルスは。


 笑えていなかった。


 ただ。


 必死に。


 自分自身を。


 押さえている。


『必ず』


 ディーンが。


 剣を握る。


『探す』


『うん』


『死ぬなよ』


『そっちも』


 そして。


 二人は。


 別れた。


 ◇


「それから」


 ミルス。


「しばらく」


「一人だった」


 シルヴァ。


「どれくらい?」


「正確には覚えてない」


「時間の感覚も」


「かなり曖昧だったから」


「……」


「歩いて」


「倒れて」


「起きて」


「また暴走して」


「力を押さえて」


「少しずつ」


「自分が何をできるのか」


「調べた」


 クジャ。


「その時」


「ギラルーンに会った?」


 ミルスが。


 扉を見る。


「ええ」


 ギラルーン。


「私の登場でございますね」


 シルヴァ。


「また聞いてた」


「護衛ですので」


「便利だな、その言葉」


 ミルス。


「入っていいわよ」


「失礼いたします」


 ギラルーンが。


 部屋へ入る。


 シルヴァ。


「どうやって会ったの?」


 ギラルーン。


「荒野で」


「行き倒れている女性を発見いたしました」


 ミルス。


「その言い方やめて」


「事実でございます」


「もう少しあるでしょう」


「では」


 ギラルーンが。


 少し考える。


「魔王核を内包し」


「周囲に得体の知れない生命体を生み続けながら」


「行き倒れている女性を」


「発見いたしました」


 ミルス。


「悪化した」


 シルヴァが。


 笑う。


「そっちの方がミルスっぽい」


「どういう意味?」


「強そうなのに倒れてる感じ」


「あとで覚えてなさい」


「怖」


 クジャ。


「それからずっと?」


 ギラルーンの表情が。


 僅かに変わる。


「概ね」


「二年ほど」


「ミルス様のお側に」


 シルヴァ。


「なんで?」


「それは」


 ギラルーンが。


 少しだけ笑う。


「また別の機会に」


「ギラルーンまで順番使い始めた」


「便利でございますので」


「絶対ミルスの影響だ」


 ◇


 ミルスが。


 窓の方を見る。


「リメアを作ったのは」


「その後」


「力を制御できるようになってから」


「最初は」


「小さな隠れ家だった」


「それが?」


 シルヴァが。


 窓の外の巨大都市を見る。


「こうなった?」


「……」


 ミルス。


「増えた」


「街って増えるんだ」


「作れば」


「増えるでしょう」


「そうだけど」


 ティナ。


「どうして」


「ここまで大きくしたんですか?」


「必要だったから」


「研究する場所」


「《創造》を試す場所」


「外へ出なくても」


「最低限生活できる環境」


「敵が来た時の防衛」


「力を隠すための設備」


「それを」


「一つずつ増やしていったら」


「こうなった」


 クジャ。


「作りすぎ」


「最近」


「少し思ってる」


「最近なんだ」


 ◇


 シルヴァが。


 再び。


 ミルスの胸を見る。


「その核」


「今は」


「ミルスの言うこと聞くの?」


「言うことを聞く」


「とは少し違う」


 ミルス。


「私の身体と」


「かなり深く結びついてる」


「完全に取り出せる?」


 一拍。


 ミルスの目が。


 僅かに細くなる。


「簡単には無理」


「取ったら?」


「分からない」


「……」


「だから」


「試してない」


 シルヴァ。


「試さなくていいよ」


「私もそう思う」


「そこは意見合うね」


 ティナ。


「当たり前でしょ」


 クジャは。


 左眼だけで。


 ミルスを見る。


「核」


「ミルスを乗っ取らない?」


「今のところ」


「その兆候はない」


「今のところ?」


「元々」


「ゼノア本人の意識が」


「この核に入っているわけではないみたい」


「……」


「ただ」


「力そのものは」


「明らかに人間のものじゃない」


「身体への影響もある」


 髪。


 瞳。


 そして。


 《創造》。


「だから」


 ミルスが。


 小さく肩をすくめる。


「私は今」


「人間です」


「と胸を張って言える状態でもないわね」


 シルヴァ。


「でもミルスでしょ」


「……」


 あまりにも。


 すぐ。


 返ってきた。


 ミルスが。


 一瞬。


 黙る。


「何?」


 シルヴァ。


「違うの?」


「……いいえ」


 ミルスが。


 少しだけ。


 笑う。


「そうね」


「私はミルス」


「なら」


「それでいいじゃん」


 シルヴァが。


 焼き菓子を。


 一つ取る。


「髪ピンクになっても」


「魔王って呼ばれてても」


「ミルスはミルスでしょ」


「あなた」


「本当に」


「そういうこと言うようになったのね」


「変?」


「少し」


「また?」


「でも」


 一拍。


「嫌いじゃない」


「ならいいや」


 ティナが。


 そのやり取りを見て。


 小さく笑った。


 クジャも。


 何も言わず。


 焼き菓子へ。


 手を伸ばす。


「それ」


「最後」


 シルヴァ。


「取らないで」


「早い者勝ち」


「俺ずっと狙ってた」


「狙ってるだけじゃ取れない」


「戦いみたいに言わないで」


 クジャが。


 最後の一個を。


 普通に食べた。


「……」


 シルヴァ。


「負けた」


 ミルス。


「剣だけじゃ完成しないわね」


「そこにつなげる!?」


 ◇


 少しして。


 窓の外は。


 完全な夜になっていた。


 リメアの灯りが。


 谷底いっぱいに。


 広がっている。


 シルヴァは。


 椅子へ。


 深く座り直した。


 今日。


 知った。


 レオンの最期。


 光の本質。


 六つに裂けた魔王核。


 ミルスの二年間。


 そして。


 今。


 目の前にいる。


 魔王と呼ばれる。


 昔の仲間。


「……ミルス」


「何?」


「一つ」


「確認していい?」


「どうぞ」


「魔王核って」


「全部で六つ」


「ええ」


「一つは」


「ミルス」


「そう」


「じゃあ」


 シルヴァの表情が。


 ゆっくり。


 真剣になる。


「残りは?」


 ミルスは。


 黙った。


 ティナも。


 クジャも。


 視線を向ける。


 ギラルーンの表情からも。


 さっきまでの。


 僅かな笑みが消える。


「それを説明するには」


 ミルスが。


 静かに。


 答える。


「まず」


「今のノクティスにいる」


 一拍。


「六人の“魔王”について話さないといけない」


 シルヴァが。


 ミルスを見る。


「六人?」


「ええ」


 ミルスのピンクの瞳に。


 リメアの灯りが映る。


「レオンが」


「六つに分けたあの日から」


「この世界には」


「ゼノア一人ではなく」


 一拍。


「六つの魔王が存在している」


 シルヴァ。


 ティナ。


 クジャ。


 三人は。


 言葉を失った。


 その夜。


 ようやく。


 二年前の物語が。


 終わる。


 そして。


 六つに裂けた魔王核を巡る。


 新しい戦いが。


 静かに。


 始まろうとしていた。

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